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最弱にして不運のモブがモビッチになるまで

最弱にして不運のモブ

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僕は目立たない。


いつも目立たない。


役割としてはモブだと自信を持って言える。


最初に『僕ってモブだなぁ』と思ったのは1度目の人生で天才と賞賛される兄が作り出して大量発生したゾンビ食い殺される瞬間だった。


平凡な僕は兄にこき使われて、よく分からない研究の手伝いをさせられて、最後にはゾンビに食われた人間がどうなるのか知りたいのと、僕が食べられている間に逃げる囮にされた。



犠牲者第1号だった。


きっと誰も僕が最初の犠牲者だと知らないだろうし、知られる事も無いかも知れない存在だった。


次の人生では幼い時に名前も知らない初対面の令嬢に暴行されて死亡した。


数年後に僕の名前等は出てこないけど令嬢の断罪理由の一つになったと知った。


もう人間は嫌だなぁと思っていたら、仔犬になっていて生まれた瞬間に保健所に捕まり殺処分された。


次は鳥の卵だったけど托卵の餌食になり産まれる前に地面に落とされ終わった。


動物も過酷なんだなぁと思っていたら、芋虫になってて蝶になる前に鳥に食われた。


亀になっても、魚になっても長生きは出来なかった。


今度は大きい生き物がいいなぁと思っていたらドラゴンの赤ちゃんになっていたけど、生まれて直ぐに人間に捕まり、自分の両親や兄弟、もしくは同族のドラゴンを誘き寄せる為の生き餌とし半殺し状態で木に吊るされて朽ち果てた。


正直………もう疲れた。


僕はずっとモブだった。


とても弱く、目立たない存在で、運もないから長生きすらできない底辺のモブ。


ずーっと誰かに覚えて貰えず、死んでも悲しんでくれる存在すらいるか怪しいカスのモブだ。


もう生まれ変わりたくないと思っても、神様は止めてくれなかった。


中絶手術で人間になる前に親に殺され、産まれてくることすらできない事もあった。


沢山の命の中に埋もれて浮き上がれず、隠れて押されて潰される。


もう生き物は嫌だと涙を流す僕は神様に捧げる神聖な儀式の生け贄として、大勢の視線に晒されながら生きたまま腹をかっさ捌かれて、痛さと出血多量でショック死したのが最後の記憶だった。





そして今回も人間になっていた。


どうやら黒髪で顔がハッキリせず目元がぼやけており、背景に紛れていまう普通の人間のモブになっていた。


鏡を見ても自分と目が合わない。


しばらく不貞腐れながら生活していると、僕の周りの人間は全て顔がぼやけてると気が付いた。


髪の色や年齢は違うけど悪いヤツは居ない。


久しぶりに平穏な日々を楽しんでいた。


妙に顔が整った奴や可愛い顔してゲスい奴も居たけど、なぜか顔がぼやけてる僕たちに彼等は興味を持たなかった。


だから今まで出来なかった事を試してみることにした。


好きな髪型に変えるも手入れが大変だから伸ばして前髪だけ自分で切るようになった。


服を買ってもなんでも似合い「これも顔がぼやけてる特典?」と色々試したけど着にくい服とか窮屈なのは好きじゃないから、肌触りと暖かさ重視で黒猫耳の付いたフードのパーカーに落ち着いた。


黒って落ち着くし、自分は可愛い服が好きなのだと知った。


バイトもしてみたけど、勝手に休んでもバレなかった。


雇ってもらってないのに勝手に制服を着て一流ホテルで仕事をしてみたけど、関係ない一般人とはバレず、新人として普通に1日を終えた時には、なぜか無性に寂しくなった。


このまま誰にも気が付かれず、誰にも覚えて貰えず、誰にも触れて貰えないのかと不安が込み上げてきた。


周りのモブに聞いても「そんな事、考えた事もなかった」とか「このままでも幸せだし」と言われて気にかけてくれる人は一人もいなかった。


そんなある日の事でした。


「ネコ耳も気いつけなよ」


なんとなく一緒に居ることが多かった茶髪のモブに声を掛けられた。


名前もハッキリしない僕は、顔がぼやけてる仲間の中で、いつも黒いネコ耳の付いたフードのパーカーを着ているからネコ耳と呼ばれ始めていた。


「何が?」


「最近、どうも顔無しばかりに声を掛ける大男がいて、そいつに捕まると二度と戻ってこないらしいよ」


「なに?その3流の都市伝説みたいなの」


「嘘みたいな噂だけど、確実に人が減り始めているんだよ。存在感がある人達には見向きもしないのに、パッとしない顔の人間ばかりに声を掛けて連れ去っているのかも知れないから気をつけろよ。こういう事はたまにあるんだよ。この地は顔無しが産まれる場所として有名だからね」


そうか、僕は顔無しっていうのか。


確かに顔が………無いのと一緒だもんな。


「顔無しを集める理由なんてロクなもんじゃないからね。人体実験とか生け贄とか人数さえ集まれば良いってイカれた奴が大半だからね」


もしかしたら、また僕は長生き出来ずに死ぬよかな?と思って聞いていた。


そんなある日の事、冬用にふわもこのパーカーが欲しくて繁華街を歩いていると、前方から顔無し達に声を掛けては小さな白い紙を渡す、かなり高身長のスーツを着た男性の姿がありました。


黒い髪はきちんとオールバックに固めるられていて、袖やウエストにダブ付きが無い紺色のスーツは仕立てが良さそうだからフルオーダーかも知れない。優しそうな顔立ちにスクエアタイプの銀縁眼鏡を掛けた男性が顔無し達に名刺を渡している様でした。


悪人は善人の顔で近付いてくる。


少し警戒して観察していたけど、ガチでヤバイ奴……………には見えなかった。


丁寧な言葉遣いで仕事の勧誘をしているのは聞こえてきていたし、逆に顔無しから声を掛けられていたし、少なくとも今すぐ殺される事は無いと分かった僕は目的の店に入った。


大きいサイズやトールサイズ専門の女性用の洋服屋で、可愛い感じが好きだと気が付いた僕は時々通っている。


少し毛が長い黒のパーカーにはネコ耳が付いていて、背中には長いシッポも付いてて緑色のリボンが目を引くデザインで試着したら柔らかい肌触りが気に入って値段も手頃だしレジに持って行く。


「6980円です」


「このカードで、一括で頼むよ」


手に持っていた青い財布から出しかけた現金を大きな手で止められると、背後から伸びてきた もう一方の手が光沢が無い黒いカードをレジのトレーの上に置いた。


びっくりして振り返ると紺色スーツに青いネクタイしか見えず、そっと見上げると外で見た高身長の男性が立っていた。


「あの」


「あぁこの黒猫の服はシリーズか何か?」


「えっ?」


「はい。お色は白とピンクと黒がありまして、ワンピースやホットパンツにリュックも可愛いですよ」


戸惑う僕を無視して店員さんが他の黒猫の服や小物を勧めていた。


「君はネコが好きなの?」


「あ……可愛いから。犬は…従順過ぎるし………猫の方が自由っぽくて」


「なるほど。君に似合ってるからプレゼントするよ」


「いや…ちょ!ワンピースは要らないから!!」


「似合うのに」


「僕は男だよ!」


「じゃ~着ぐるみパジャマは?きっと似合うよ」


「パ………パジャマ?」


魚の形をしたボタンが付いた黒いチェックのシャツに、猫の頭の形をした後ろポケットが付いたホットパンツに、黒いニーハイには緑のリボンが付いていて、黒いふわもこの着ぐるみパジャマはポケットが青い魚の形をしているヤツと緑のリボンが首に付いた物が有り両方似合うからと追加され、ネコ耳リュックも購入して大きな紙袋を2つも渡される。


よく見たらクレジットカードは、ICチップが銀色をしていて、表面がマットな感じだったからプラチナカードなんだと思う。


そりゃ~店員さんもノリノリで勧めるよね。


「あの……どうして?」


「ん?」


店を出ると両手いっぱいに持っていた紙袋を男性が持ってくれた。


「こんなに買ってもらって」


「あぁ可愛い黒猫が見えたから気になってね。居るんだよね、たまに。モブなのに綺麗な子」


「綺麗?僕は男だって」


「そうなんだけどね。どこかキラキラして目を引くモブって居るんだよ。そういう子は決まって我が強いんだけど、君は違うみたいで気になってね。長い髪も手入れしてるのか艶々してるし、見えてる足も白くて長いし、手も白くて長い指の爪は天然のピンク色だし、唇も赤くてプルっとしている。顔無しなのが不思議なほど可愛らしい」


「は?…え?……プルっ?」


戸惑い首を傾げていると、フードを外され頭を撫でられた。


「おい」


「はい」


男性の後ろに少し背が低いグレーのスーツの顔無しの男性が現れると僕の荷物を受け取り、あっという間に居なくなった。


「僕の荷物」


「大丈夫。ちゃんと届けておくから」


「でも………え?…住所」


僕が持っていた鞄も無くなっている。


「もっと君の事を教えてくれないかな」


もしかして僕は、面倒臭い人に目を付けられてしまったのかも知れない。
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