黒虎の番

月夜の庭

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勇者とパパンの相性が悪いらしい

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いつものテラス付きの食堂に来ると、人の良さそうなオバチャンが何も言ってないのに外の席に案内してくれました。


そこでは、お通夜?と突っ込みたくなる雰囲気の勇者達とパパンとアンちゃんが料理を前にして黙り込んでいました。


『なんか雰囲気が悪いね』


「食も進んでないようですね」


『どうする?止めとく?』


「帰りますか」


そのまま回れ右して帰ろうとしたら、ガタッと席を立って駆け寄ってきた勇者エヴァンスに、ラファエルの肩に身体を預けていた あたしを強奪された。


「ビアンカ様!」


無言でエヴァンスにムニムニ揉まれる。


『何々何々何々何何々何々何々何々?!』


まさに揉みくちゃです。


「白虎が最悪」


『ほぇ?パパン?』


「聖剣の軌道に飛び出してくるし、威力が強い魔法を自分本位で使っから、前衛の僕やジェラルドはモロに余波をくらって………やりずらかった」


かなり、今回の戦闘でストレスが溜まった模様です。


「白虎は基本ソロ向きなんだよ。パーティには向いてない。ビアンカとは大違いだ!」


『それで、にゃんで揉まれるのが あたしなのぉ~っ?』


「癒して」


『おい!ビアンカに当たるな!!』


擬人化したパパンが、凄い勢いで あたしを奪い取る。


「協調性のないワンマンは迷惑だ」


『お前らが弱いからだ。強い我に合わせろ!』


「そんなの強さじゃない!自分勝手なけだ!!」


『「………」』


あたしを挟んで睨み合わないで欲しいです。


オロオロしながら2人を見ていると、アンちゃんがパパンから保護してくれる。


「いい加減になさい!ビアンカを巻き込んで大人気ない!!」


女王の一喝は効きますなぁ。


なぜか2人とも、条件反射なのか背筋を伸ばしています。


『パパンは調子が悪いの?あたしやラファエルと一緒に戦闘しても上手くいってるのに』


『………分からん』


「あーのーね!ビアンカやラファエルは、元々が支援が得意なんだよ。自分勝手に動いても、合わせて対応してくれるし、2人共が少し下がってくれてんだよ!前衛潰しが!!」


感情を剥き出しに大声で怒るエヴァンスは、初めて見ました。


「おかしいと思っていたんだよ。昨日のビアンカの結界魔法。外側と内側の二重構造な上に、本来なら聖騎士のラファエルが武器も持たずに、サポートに徹しているなんて。この中で剣技に最も優れているはずのラファエルを無駄遣いして、ビアンカの結界だって、好き勝手暴れる父親の影響を必要最低限に抑えるための配慮じゃないか。何が最強だよ」


それは仕方がないのだけど、勇者パーティのリーダーとしては指摘せざるおえないのでしょう。


元々、虎は群れをなさない。


そして協調性や足並みを揃えるという事からは無縁の生き物です。


でも、戦闘を………しかも共闘となれば、話は別です。


1人の乱れは依頼の失敗や戦闘での敗戦………その先は、最悪の場合は死を招く。


あたしは虎だし知識もあるし、アンちゃんやラファエルはパパンを尊重しているから、あえて好きにさせてあげている。


それを勇者達にも求めるのは酷な話です。


『アンちゃん、とりあえず2人で先に帰った方がいいと思う』


「そうね。後は、お願いね」


『うん』


アンちゃんからラファエルの腕に移り、そのままパパン達は店を出て行きました。


『ごめんね。パパンは、やっぱり聖獣だけど、本質は虎なんだよね。群れや馴れ合いを嫌う生き物なの。本能だから許してあげてね』


ラファエルの肩越しにエヴァンス達に、パパンのフォローをしておきます。


「ビアンカが謝る事じゃないから。分かっているんだ………白虎も悪気が無いことは。だけどリーダーとしては無視する訳にはいかないんだよ」


『分かってるよ。パーティのメンバーを危険に晒さないためには必要なんだよね。でも、あたしはパパンの娘だから』


「うん。そんだよね………うん。ごめんね。ビアンカに気を使わせて」


大きな手が頭を撫でる。


「とりあえず食事にしよう」


気を取り直して、いつも通りの賑やかな夕食を開始するのでした。



『筋肉兄弟はパパンの後頭部に攻撃しなかった?』


「その場合、私が兄ですよね」


真剣な顔で返してくるジュブナイル。


「………ツッコミどころが違うだろ。なんで草野郎とセット扱いなんだよ!」


真面目なジェラルドは、つまらないツッコミをする。


『「捻りがないツッコミだな」』


なんだかんだ言って、ジュブナイルも あたしに染まってきているのです。


ワイワイ喋りながは、テーブルの上の大量の料理が、野郎共の胃袋の中に消えていく。


どっかの部活の合宿みたいな食事風景だなって思って見ていました。
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