黒虎の番

月夜の庭

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自由貿易都市

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しばらくモンスターを狩りながら、旅を続けていると、泊まる集落で黒虎の噂を耳にした。


青白い地獄の炎を身にまとっているとか、いつも苦しそうな雄叫びを上げるとか、黒髪の女性が好きらしいとか聞くけど、今だに居場所に繋がる情報は無く、その姿を目にしてはいなかった。


それでも確実に、黒虎の噂を耳にする事が増えている。


少しずつ近付いている気がします。


旅の途中でアンちゃんはシンプルな白いシャツと黒いパンツ姿に変り、腰には細長いレピアを携帯している。


長かった金髪も肩の長さまで切りそろえられた。


「わたくしの可愛いビアンカ♡」


アンちゃんの、あたしに対する溺愛っぷりは相変わらずで、好きな白虎の唯一の子供だからなのか、それとも自分の子供みたいに思っているのかは分からないけど、抱き寄せ背中を撫でる手は優しい。


そして今は、活動拠点を自由貿易都市として有名な”エスクァイア”に滞在していました。


大きな白虎と小さな小虎の聖獣を従えた女剣士兼テイマーとして受け入れられたアンちゃんは、冒険者ギルドのアイドルになっていました。


あたし達はエスクァイアで腰を据え、勇者達が外の集落や国外に行っては黒虎の情報を集めてくる生活に落ち着いていた。


アンちゃんとラファエルだけの、美女コンビ(あたしが勝手に呼んでます♡)は、Aランクの冒険者パーティになっていました。


あたしとパパンが居れば、楽勝だからね。


それにエスクァイアは人間だけでなく獣人や、長寿で歳を取らない代名詞のエルフやドワーフといった多種多様の人達が多く、歳を取らないアンちゃんは悪目立ちしなくて済むので過ごしやすい場所でした。


アンちゃんとパパンのイチャイチャTIMEを邪魔しないように、あたしとラファエルだけで依頼をこなす事も増えていました。


今日もラファエルと一緒に、冒険者ギルドに来ています!


『面白そうな依頼があるといいネ』


「そうですね」


2人きりだとラファエルの機嫌も良く、今もニコニコしている。


縦抱きされながら掲示板を見上げる。


『………あたし成長が止まった気がする』


「そうかも知れませんね。額の石も生え変わっていませんし、もふもふの愛らしいままですからね」


『ママンみたいに、カッコイイ美虎のメスに成長するの楽しみだったのに………BOO』


「大きくても小さくてもビアンカ様ですよ」


『だって~っちょっと大きな猫感が抜けないんだもん。パパンみたいに威風堂々の貫禄とか憧れなんだもん』


「ふふふっ、こんなに美しい猫は、そうそう居ませんよ」


『そうかな~?意外と、その辺の屋根の上に居るかもよ?』


「ありませんね」


『断言?!しかも即答!』


「私は動物は嫌いです」


『…………マジで?』


「えぇ。私がモフりたいのはビアンカ様だけです。猫も特に撫でたいとは思いません」


『そうなの?初耳だよ』


「そうですか?」


まぁ~確かにラファエルが、他の動物達と戯れる姿は見た事が無いけど………野良猫も撫でている姿は見ないか?


「ビアンカ様は特別ですよ」


『そう?』


「えぇ。可愛らしいと思えるのは、ビアンカ様だけです」


なんか甘々な空気に背中がムズムズする。


『………そっか』


「もしかして照れてます?」


『うっさい』


「ふふふっ可愛らしい」


『お黙り』


「ビアンカ様は本当に美しい」


『…………バーカ』


「はい。私はビアンカ様バカなのです」


しばらく黙ってラファエルに撫でられていました。
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