黒虎の番

月夜の庭

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王妃がブチ切れて家出する

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『部屋の人口密度が高くなったね』


アンちゃんに抱っこされながら、周りを見るとガタイの良い勇者御一行の5人に加えて、パパンにラファエルが一部屋に集まっています。


可憐なアンちゃんがいなかったら、むさ苦しさがエグいね。


『王妃が夜更けに、こんな所に居て大丈夫なのか?』


「そうです。王妃様がお供の神官1人だけで外出など危険です」


おや?ジェラルドがパパンの声を聞き取れる様になったみたいです。


『ジェラルドが普通に会話が出来るようになった違和感がハンパないね』


「ビアンカ様は手厳しいですね」


『ん?あちしの声も聞こえるの?』


「そうですね。先程まで聞こえなかった事が嘘のようにハッキリ聞き取れますよ」


コイツ………女神様<王妃様って価値観の奴だな。


まぁ~国家に忠義を捧げる騎士としては、仕方ないのかもしれない。


今まで神官であるジュブナイルとラファエルが近くに居たから、騎士との交流は少なかったもんね。


そもそも護衛らしい騎士達は、あちしと会話ができる程の魔力を持ってない人達が大半だった。


かくいう あちし………あちしって子供っぽいというより、不躾な気がする………………あたしは女神様=アンちゃんで対等だと思っているから、人の事は言えない気がしてきた。


『アンちゃんは、もしかして家出?』


あたしとの時間を削られるくらいなら、王家なんか放り投げて家出するって、いつも言っていたからね。


王妃様が、簡単に出歩けるもんなのかな?


「今回は我慢できませんでしたの。陛下が白虎の妻や子供を人質にして、配下にしようと言い出してブチ切れましたの。でも心配しないで、白虎の家族は野生の時に暮らしていた場所に逃がしてあるから」


『あのジジイ』


「ビアンカを差し出せと命令されましたので拒否したら”国と聖獣、どちらが大事なのだ?!”と怒鳴りつけてきたので”ビアンカの一択ですわ!仕事もせず愛人や側室とばかり遊び歩いている、くたばり掛けのジジイの面倒など見切れませんわ!!”と三行半を突き付けて自由を勝ち取りましたのよ。ふふふっ」


いい笑顔で事の経緯を話すアンちゃんの手に頭をすり寄せる。


『アンちゃんは、それで良いの?』


「もちろんよ。そもそも陛下が崩御されたら、城を出て隠居するか、国を出て自由を謳歌するつもりだったのよ。それが少し早まっただけの話なの。可愛いビアンカを犠牲にしてまで王妃を続けるつもりは、一切ございませんわ。もっと言うなら、わたくしはもっと早く引退するはずでしたのに、魔力が多い影響で歳を取らないから、ズルズルと引き留められていたの。もう限界ですのに」


歳を取らない美しい王妃は、憧れでもあるけど、一歩間違えたら恐怖の対象になりかねない。


「わたくしの役目は終わりましたわ」


『あたしは王妃じゃなくても、アンちゃんに付いていくよ』


「ビアンカ♡わたくしの天使♡」


『そういう事なら、我も協力しよう。アレと子供が世話になったからな。もっと早く野生に解放してやるべきであった』


少し前から城で飼われるママンを不憫に感じていたらしいパパンは、檻から逃がしてあげるか迷っていたそうです。


時々、気になっていたけど、パパンはママンを”アレ”って呼ぶことがあるんだよね。


おしどり夫婦では無いのです。


『草原を駆け抜ける美しい虎を、檻に入れ拘束する事に罪悪感があったのだ。あれは青空と竹林が良く似合うからな』


でも美しい虎として褒めんるだよね。


「白虎とビアンカにラファエルが居れば、冒険者として第二の人生を送るのも悪くないわね」


『アンちゃんとパパンと一緒なら、あたしも頑張る♡魔法なら任せて』


「私も腐敗しきった教会に嫌気がさしていたところです。ビアンカ様に付いて行きます」


アンちゃんでなく、あたしに付いてくるとな?


「ちょ………狡いです!仲間外れは!!」


慌てて立ち上がったジュブナイル。


『ジュブナイル………汗臭い』


「な!ビアンカ様?!」


『ムサイのぉ』


「白虎様まで!」


「熱苦しいわね」


「アンダルシア様?」


「………ノーコメントです」


「ラファエルが1番酷くないか?!!」


この状況に混乱していたのは、もちろんジェラルドでした。


「王妃様が………離縁?………いや……聖獣と冒険者??……………魔王討伐では無く黒虎を…………」


ブツブツ独り言が止まらない。


「国の騎士として困惑するのは当然ですけど、あまり深く考えなくてもよろしくてよ。わたくし達は、明日にでも国を出ますもの」


『うむ。長居は無用だな。黒虎を追うにしても、この国に留まる理由が無いからな』


『ハッ!もしかしなくても白虎のパパンの背中ににアンちゃんとラファエルを乗せたら、余裕で国外に出れるんじゃないの?』


あたしとパパンに国境だとか、関所なんて関係ありません。


聖獣なんだから出入りは自由です。


そんな訳で悠々と国外逃亡した あたし達は、正規のルートで出て来る勇者達を近くの森で待っていました。
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