黒虎の番

月夜の庭

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勇者様御一行の夜事情

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『こんばんは、リポーターのビアンカです♡(小声)』


一仕事終えて街に帰って来た勇者御一行様を、屋根の上からストーキング中です。


ギルドや教会に寄って、夕飯を食べて、宿へと帰って来て解散した。


そして解散して各々の部屋に入って行った。


『真面目か!?』


野郎ばかりの勇者御一行様の中で”夜の歓楽街へGO♡”って奴が1人もいない。


飲みに行く奴も居ないとか………詰まらなすぎる!


20代前半の野郎、勇者に至っては10代なのに!健全だ男子の集団のばすなのに!遊び人とまではいかなくても、羽目を外す奴すら居ないって大丈夫なの?!


部屋を外から覗き込むと、騎士は装備や剣の手入れ、魔道士はブツブツ言いながら魔導書を読み、ジュブナイルはひたすら筋トレ、勇者は風呂に入った後はボーッとしてます。


『真面目か?!(本日2回目)』


最後の部屋は顔を隠した黒ずくめの自称元盗賊なんだけど………おや?誰もいない?


グイッと屋根から身を乗り出して窓を覗き込むけど、誰もいない。


いつの間にか外出したのか?


『やっぱり自称とはいえ、元盗賊なんだから夜の街は好きなのかな?』


しまった!ストーキング失敗か?!


顔を隠しているから、今から追い掛けても誰が元盗賊なのか判断しにくい。


ちょっと悔しい。


なんて思っていると、額がムズムズしてきた。


モフモフの前足でカリカリ擦ると、石がポロッと落ちた。


『やっべ!』


ハシッ!と両前足でキャッチしたのはいいけど、バランスを崩して屋根から身を乗り出し過ぎて身体が宙に浮いてしまう。


『あっ』


胃が逆流する様な浮遊感が襲う。


お~ち~る~っ………って飛べんじゃん!


羽を動かそうとする前に、黒い服の2本の腕に抱き寄せられた。


恐る恐る見上げると、黒い布で顔を隠した自称元盗賊が、あちしを助けてくれたようです。


「…………」


勇者御一行様って、基本的に無口だよね。


『あの………ありがと』


コクリと首を縦に振ってくれた。


コイツ………言葉が通じた?!


でも会話が続かない!!


とりあえず前足で挟んだ石を額の石の中に仕舞い見上げると、屋根で胡座をかいて座った自称元盗賊の膝の上に座らされる。


これは………膝抱っこか?


そろっと振り返りながら見上げると、少し長い爪をした手に頭を撫でられる。


『あちし………一応……虎なんだけど』


コテっと首を傾げられた。


『恐くない?』


うーんと考える振りをしてから、片手を顔の前で左右に振った。


コイツは喋らないと決めているのか?


でもコミカルな動きで、何を言いたいのか伝えてくる感じが可愛いらしく思えてしまった。


パントマイムみたいです。


これって、いつまでナデナデされてれば良いのかぬん?


『あのね………あちし……お家に帰りたいの』


黒い覆面の顔がコテッと小首を傾げた。


『ご主人様が心配してるかも』


無言で長い指が身体を優しく擽る。


やべぇ………人じゃなくて…………トラをダメにする気持ち良さ………………至福。


背中を滑る手が尻尾を掴むように撫でると、尻尾の付け根をもむ様に撫でられると、背中をゾクゾクと快感が走り抜ける。


『うにゃ…………尻尾はダメ!』


必殺猫パンチ。


ペシッと手を叩くと、しばらく固まっていた自称元盗賊が、あちしを抱き上げて屋根から飛び降りる。


気分はジェットコースターだね♡………って馬鹿か!恐いわ!!


毛が逆立つわ!


そして素早く部屋に入ると鍵を掛けて、あちしをベッドにコロンと転がす。


何事?!


「はぁ~っ可愛らしい」


喋った?!!


あれ?でも聞き覚えがある声??


スルスルと黒い布を顔から外すと、金色の勇者にそっくりな銀髪に赤い瞳の青年の顔から現れた。


それに、この特徴は魔王とも一致する。


『魔王は勇者の兄弟?』


「よく分かったね。あれは弟なんだ」


そう言うと、あちしのモフモフのお腹に顔をうずめてきた。


『いーーーーやーーーーーーっ!乙女のお腹に!!』


「ふわふわだね」


『ちょ………やぁん』


羽根と尻尾の付け根をもむ様に撫でられる。


ピリピリと何かが体を駆け抜ける。



「あぁ………聖獣のカーバンクルは、羽と尻尾が感じんるだな」


『ウッサイ!虎にセクハラすんな!!』


「額の石にキスしていい?」


『ダメ!』


「ちょっとだけ」


『NO!』


「かじるだけ」


『アホか!』


「ねっとり舐めないから」


『嫌!』


ジタバタ抵抗するけど、猫より大きいとはいえ所詮は子供の虎なので力では適わず押さえ付けられ、頭の石をヌルりと柔らかく生暖かいモノが擽った。


しないって言った”ねっとり舐める”を実行中の様です。


あれ?でも人の姿に変わらないぞ??


アンちゃんのチューで、幼女化するのに………他の人ではダメなのかも知れません。


考え込んでいる最中でも、執拗に額の石を舐められている。


「チュクッ………魔族や魔人なんか目じゃないくらい好みだ」


マジか?!魔王のストライクゾーン恐ろしいな!!


「大きくなったら…………ドロッドロに甘やかしてやりたい」



まさか、魔王の美的感覚にモフモフの小虎がクリーンヒット?!



『いやいや!おかしいから!?モフモフのお子様相手に、何言ってんの?!!』


「カーバンクルは獣っぽくないな。なんだか本能とか野生とは無縁な感じが…………余計にそそる」


前足を押さえ付けながらプニプニと肉球を揉みしだかれる。


アンちゃんやジュブナイル達よりも、少し荒い気がするけと痛くはない。


「魔王の俺には種族とは年齢とか外見の違いは無意味だよ。魔力の質や魂の色だけで充分だ。そなたは我妻に相応しい。額の石から漏れる魔力は美味だった」


ガッフッ!急にちょっと魔王らしい口調になったけど、意味が分からないから!!



まさに開いた口が塞がらないです!


『……………妻とな?』


「大事にするぞ?」



ニヤリと笑った魔王がモフモフの毛皮を舐めまわし始める。



『ぎゃ~っ!舐めるな!!口の中が毛玉だらけになってしまえ!!!』


「口の中が毛玉だらけになる程、舐めまわしていいんだね?」


『いーーーーーーやーーーーーーっ!』


ジタバタ抵抗しても短い足では威力も低く、逆に魔王を興奮させている気がしてきたので、手が緩みがちになり始めていた。


ジュブナイルよりも執拗く、ラファエルよりも濃厚にモフられている。


モフモフの動物との戯れとは違う気がするけど、何が・どう違うのが分からないので的確に拒否れていないみたいです。


『なんかモフられ方が違う!ちょっと恐い』


「なんだ………メスとしてのスキンシップは初めてか?」


なんですと?!


「早く大人になって白虎の様に擬人化しろ。そうすれば天国に連れて行ってやる」


『あちし殺されるの?』


「う~ん?殺しはしないが、狂うぐらい逝かせてあげるよ」


『いく?どこに??』


「『……………』」


コテッと小首を傾げながら見上げる魔王の顔が時が止まった様にジーッと、あちしを見下ろしている。


「擬人化した大人の身体を『それ以上は許さん!』」


何かを言いかけた魔王の言葉をパパンの声が遮った。


『パパン♡』


『我の娘にセクハラは許さん!』


空間が歪んだかと思えば、部屋にパパンが魔法で転移してきた。


『ビアンカを返せ』


「ふぅ~ん、ビアンカって言うんだ。ピッタリで可愛らしい名前だな」


『ワシを無視してビアンカにセクハラするな!』


牙をむいたパパンが大声で怒鳴りつける。


『いやらしい手つきでビアンカに触るな!』


凄い勢いで近づくパパンがボフンと音を立て、黒髪に金色の目をした人間の姿に変り魔王を力づくでベッドから引き剥がすと、あちしを抱き上げてくれた。


『小さいビアンカに体格差を利用して一方的に辱めるなど言語道断だ』


転がる魔王を睨み付けながら、大きな肩に あちしを抱き上げながら優しく背中を撫でている。


『パパン♡助けてくれて、ありがと』


『なぜ野郎に捕まった?』


『う~んと………屋根から落ちそうになったところを助けて貰った』


『な!?いくら飛べるからといって屋根の上は危ないではないか』


『ごめんちゃい』


白虎なのに白髪や銀髪じゃなくて不思議に思っているとドンドンと扉を叩く音が響き渡る。


「ドウェイン!ここを開けろ!!」


騒ぎを聞き付けた勇者達が駆け付けた様です。
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