モブっと異世界転生

月夜の庭

文字の大きさ
上 下
2 / 38
感謝の印と言うなの番外編

ノエル5歳

しおりを挟む
第二弾は、5歳のノエルを書きました。


なんで子供のノエルがサクラにベッタリだったのか、その理由も一緒に童話風に書きました。

お楽しみ頂ければ幸いです。

********************


「サクラ?あれ?!サクラがいない!!」


ここは猫族の王国にある騎士団が所有する建物の様です。大きな石造りの建物に闘技場がある。


5歳になって魔力の属性も分かり、サクラとカメリアと一緒に、父親の職場見学に来ているようです。


誰も居ない闘技場の前で、小さなシルバーグレーの虎柄の猫耳は後ろに寝てしまい、尻尾も地面につきそうなくらい真っ直ぐ落ち、青い目は涙をいっぱい貯めてウルウルしているのノエルは、サクラとはぐれたと知り不安な気持ちでいっぱいです。


「どうしよう……グスッ…………父様の 剣……………ふぇっ……………サクラぁ………ヒクッ」


どうやら子供達のために模擬戦が行われる事になっていましたが、父親のレオが置いていった剣を届けに来たようですが、誰もいません。


それもその筈、闘技場が3つ存在しており、魔法も使った派手な模擬戦を行う為に、1番大きな闘技場(ノエルの目の前)ではなく、一回り小さな魔法専用の闘技場で行われるのですが、人見知り発動していたノエルはサクラの後ろで震えていた時に、ちゃんと聞いていませんでした。


ノエルは1人で無事に剣を父親に届けられるのでしょうか?


自分の身長とさほど変わらない長さの剣を両手で抱きしめていたので、今日に限ってサクラと手を繋いでいませんでした。


ノエルの中は、大きな剣を忘れた父親への憤りと、サクラとはぐれた悲しみでグルグルしています。


「恐いよ~っ」


不安定な気持ちを表すように、ノエルの目が赤くなったり青くなったりしていますが、まだ本人は知りません。


「もしかしてサクラが迷子?」


どうやらノエルは、場所を間違えたとは思っていないようです。


サクラが近くにいるだけ安心するノエルは、他の人に興味がありません。カメリアはサクラとセットなので、なんとなく いつも一緒に居るな くらいにしか思ってません。年上のお兄ちゃんジャスパーの近くは、不安な気持ちが増幅するので近寄りたくありません。


「もしかしたら、1人で寂しいってサクラが泣いてるかも」


剣を届けるよりも、まずはサクラを探す事にしたようです。


来た道を逆に辿って行こうと振り返ると、頭に三角巾を被った茶色と白のシマシマ尻尾を揺らした おばさんが箒を片手に掃除をしていました。


「あ」


もしかしたら、おばさんならサクラの居場所を知っているかも知れません。


「おやおやおやおや。これは可愛い騎士様だね」


声を掛ける前に、おばさんの方がノエルに気がついて声を掛けてくれました。少し大きなお腹を揺らして近寄って来たのはアライグマのおばさんです。


「あ………あの」


「僕ちゃんは火と水が使えるんだね。相反する魔力の持ち主は、その影響で子供の時は性格や思考が不安定になるって聞くけど、大丈夫かい?」


火の魔力が使える強く逞しい父親のレオと、水の魔力が使える優しく穏やかな母親のリリアンの性格は魔力の性質が作用しているのです。


真逆の性質だからこそ、気になり惹かれ合う場合もあるのです。それが個別の個体であれば。ところが真逆の性質魔力を一緒に持っているノエルは、常に強さを求める火と、冷静で知性を大事にする水が戦っているのです。


大きくなれば自分で制御でき、安定するのですが、小さなノエルには まだ難しい様です。


「サ……ササ……サクラ…………グスッ」


「おや、その剣はレオ騎士団長のじゃないか」


「レオ……パパ」


ガタガタ震えるノエルの口からは、途切れ途切れに言葉が出てくるけど、嫌な顔をせずに おばさんは付き合ってくれています。


「あぁ、団長の息子さんだね。模擬戦なら隣の闘技場だよ」


ここでは初めて、ノエルは目的地を間違えた事を知りました。


慌てて見回しても隣の闘技場を見回して、ハッとノエルが息を飲みました。


「サクラが迷子になってる。きっと闘技場が違うって知らない」


自分が知らなかったのだから、一緒にいたサクラも知らないはずだと思っているみたいです。


「きっと、迷子になったサクラも寂しいって泣いてるかも」


「サクラって誰だい?」


おばさんが首を傾げながら聞いてきました。


「可愛い僕の妹だよ。無属性があるんだ」


「おやおや、なるほどねぇ。無属性は属性の特性に左右されず、バランス感覚に優れていると聞くからね。近くにいると安定するだろうさ」


「安定?」


「あぁ、火の攻撃性を抑え、水の冷たさを和らげ、不安定な魔力を安定させてくれるだろうね」


「おばさん、よく知ってるね?」


「あたしゃ騎士団の掃除をして長いからね」


「凄~い」


「それより、妹ちゃんを迎えに行かんのかい?」


「僕が?」


「お兄ちゃんだろう?」


「うん。そうだ、僕はサクラのお兄ちゃんだ」


「そこの左の扉から行けば、レオ騎士団長の執務室を通って魔法専用の闘技場まで真っ直ぐだよ」



「ありがとう、おばさん」


大好きな妹のサクラを探しに、左の扉を開けて進みます。


ちゃんと剣も忘れずに。


すぐ隣だと言っていた、おばさんがなぜ左の扉から騎士団の執務室経由の道を教えたのか疑問に感じることなく、ノエルは廊下を進みます。


不安でいっぱいだけど、きっとサクラも一緒だと自分を奮い立たせて歩きます。


しばらく進むと扉の隣で壁に背を預けて立っているサクラがいました。


「サクラ!」


ノエルの姿を見て、サクラが微笑みました。


「ノエル」


「あっちに行くと闘技場だって」


「え?誰かに聞いたの?」


「うん。掃除のおばさんに聞いたんだ」


「人見知りのノエルが?」


「そうだよ。行こう!」


不思議そうな顔のサクラの手を取り、教えて貰った通りに真っ直ぐ進みます。


「僕は、お兄ちゃんだもん」


「…………うん♡」


サクラと手を繋いでいると、先程までの不安が嘘のように消えていました。


(そっか。これが無属性の効果だったのか)


サクラと一緒なら、薄暗い廊下も見知らぬ騎士達も怖くありませんでした。


辿り着いた闘技場には、剣を受け取ってくれた父親と、さっき道を教えてくれた 掃除のおばさんがいました。


「紹介しよう。騎士団の中でも魔術師達の講師をしてくれているアライグマのサマンサさんだ。この中で最強の魔術師は間違いなくサマンサさんだ」


ビックリしすぎて、開いた口が塞がらないノエルは、ポッカーンと口を半開きのまましばらく固まっておりました。


イタズラが成功したように楽しそうに笑う おばさんの笑い声が闘技場に響いていました。


「それにしても、不参加だって言っていたのに、急にサマンサさんが模擬戦に参加させろって言ってきたから驚きましたぞ」


「なぁに、小さな友達が勇気を振り絞ったからね。あたしも本気を見せてやりたくなってね」


サマンサさんがウインクした先には、もちろんノエルがいました。


その後は火と水を中心に魔法を繰り出す、おばさんの姿に、また目玉が落ちそうなほど目を見開いたノエルが、キラキラした眼差しで見詰めていました。


この日から、ノエルは少しだけ、人見知りが和らいだそうです。


あくまで少しだけ………ね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが! 第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。    *** 黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。

エーリュシオンでお取りよせ?

ミスター愛妻
ファンタジー
 ある男が寿命を迎え死んだ。  と、輪廻のまえに信心していた聖天様に呼び出された。    話とは、解脱できないので六道輪廻に入ることになるが、『名をはばかる方』の御指図で、異世界に転移できるというのだ。    TSと引き換えに不老不死、絶対不可侵の加護の上に、『お取り寄せ能力』という変な能力までいただいた主人公。  納得して転移した異世界は……    のんびりと憧れの『心静かな日々』を送るはずが……    気が付けば異世界で通販生活、まんざらでもない日々だが……『心静かな日々』はどうなるのか……こんなことでは聖天様に怒られそう……  本作は作者が別の表題で公開していた物を、追加修正させていただいたものです。その為に作品名もそぐわなくなり、今回『エーリュシオンでお取りよせ?』といたしました。    作者の前作である『惑星エラムシリーズ』を踏まえておりますので、かなり似たようなところがあります。  前作はストーリーを重視しておりますが、これについては単なる異世界漫遊記、主人公はのほほんと日々を送る予定? です。    なにも考えず、筆に任せて書いております上に、作者は文章力も皆無です、句読点さえ定かではありません、作者、とてもメンタルが弱いのでそのあたりのご批判はご勘弁くださいね。    本作は随所に意味の無い蘊蓄や説明があります。かなりのヒンシュクを受けましたが、そのあたりの部分は読み飛ばしていただければ幸いです。  表紙はゲルダ・ヴィークナー 手で刺繍したフリル付のカーバディーンドレス   パブリックドメインの物です。   

異世界の叔父のところに就職します

まはぷる
ファンタジー
白木秋人は21歳。成績も運動もいたって平凡、就職浪人一歩手前の大学4年生だ。 実家の仕送りに釣られ、夏休暇を利用して、無人の祖父母宅の後片付けを請け負うことになった。 そんなとき、15年前に失踪したはずの叔父の征司が、押入れから鎧姿でいきなり帰ってきた! 異世界に行っていたという叔父に連れられ、秋人もまた異世界に行ってみることに。 ごく普通な主人公の、普通でない人たちとの異世界暮らしを綴っています。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 以前にアルファポリス様で投稿していた処女作です。 物語の大筋は変わっていませんが、文体を完全な一人称に、誤字脱字と文章修正を行なっています。 小説家になろう様とカクヨム様でも投稿している物の逆輸入版となります。 それなりに書き溜め量があるので、さくさく更新していきます。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

転生悪役令嬢、物語の動きに逆らっていたら運命の番発見!?

下菊みこと
恋愛
世界でも獣人族と人族が手を取り合って暮らす国、アルヴィア王国。その筆頭公爵家に生まれたのが主人公、エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌだった。わがまま放題に育っていた彼女は、しかしある日突然原因不明の頭痛に見舞われ数日間寝込み、ようやく落ち着いた時には別人のように良い子になっていた。 エリアーヌは、前世の記憶を思い出したのである。その記憶が正しければ、この世界はエリアーヌのやり込んでいた乙女ゲームの世界。そして、エリアーヌは人族の平民出身である聖女…つまりヒロインを虐めて、規律の厳しい問題児だらけの修道院に送られる悪役令嬢だった! なんとか方向を変えようと、あれやこれやと動いている間に獣人族である彼女は、運命の番を発見!?そして、孤児だった人族の番を連れて帰りなんやかんやとお世話することに。 果たしてエリアーヌは運命の番を幸せに出来るのか。 そしてエリアーヌ自身の明日はどっちだ!? 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

乙女ゲームのヒロインなんてやりませんよ?

メカ喜楽直人
ファンタジー
 一年前の春、高校の入学式が終わり、期待に胸を膨らませ教室に移動していたはずだった。皆と一緒に廊下を曲がったところで景色が一変したのだ。  真新しい制服に上履き。そしてポケットに入っていたハンカチとチリ紙。  それだけを持って、私、友木りんは月が二つある世界、このラノーラ王国にやってきてしまったのだった。

処理中です...