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第七十九話 茜の覚悟
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茜side
「んんっ!酸っぱい!!!!」
「酸っぱいけどこれが食べたくて仕方なかったの。無理しないで、茜」
「むむむ。」
みんなで縁側に腰掛けて、酔っ払いさん達は涼んでる。私たちはあったかい電気毛布をかけてもらって、蒼は土間さんの膝の上。蒼の横の争奪戦はたくさんお酒を飲んだのにちっとも変わらない宗介が居る。
蒼はタッパーに入った蜂蜜漬けのレモンを齧ってるんだけど、すごく酸っぱい。お口がキューってなる。
妊婦さんだからこういうのが食べたくなるみたい。あんなに酸っぱいのにもしゃもしゃ食べてる。
「しかしよく食うな…大丈夫なのか?」
「食い物で赤ん坊がへこむんじゃねえのか?」
「大丈夫だよ。二人分食べないとだからね」
「そういやそうか。また倒れても困るしな」
「そう…あの時ご飯食べてれば…はぁ。」
「俺は蒼にキスしてもらえて得したがな」
「お前さんは人間なのか?おかしいよな?」
「土間に言われたくねぇ。戦車でドリフトしてたじゃねぇか」
「何ですって!?」
「ありゃ車と大して変わんねーだろ?四駆のドリフトと同じだよ。軽トラ見てぇなもんだ」
「戦車が軽トラかよ…やべーな」
「ドリフト?よんく?」
「ドリフトはね、車のタイヤを滑らせて曲がる技術の事。四駆は四輪駆動。車のタイヤを四つとも動かすの」
「普通は違うの?」
「うん、前二つか、後ろ二つ動かすんだよ」
「へえぇ…」
「ここから見えるでしょ、私の車。あれは後ろ二つが動くの。車が眺められるなんて、素晴らしいお庭だなぁ!」
「お前は知らない間に車オタクになりやがったな」
「戦車が好きなら元々素質があっただろ?」
「確かにな…」
「面白いなぁ。今日はたくさん教えてもらって、知恵熱が出そう」
「ふふ…茜ももっと車に乗せてあげたいな、サーキットで」
「やめとけ。心臓が止まる」
「蒼はうまいぞ?なぁ、F4やろう。俺はまだ諦めてねぇ」
「土間さんがいうならやってみようかな…?」
「えふふぉー?」
「車で追いかけっこするの。それの種類だよ。レースっていうの。あとでアニメ見せてあげる!」
「アニメ!それは知ってる。テレビで動く絵だよね」
「そうそう。私の車も出てくるよ!」
「えっ!?見る!」
ワクワクしながら蒼がスマートフォンをいじってるのを見守る。
そこで見られるのね?
「あぁ、蒼の運転動画もあるぞ?」
「なんだと!?見せろ!」
「えっ、それも見たいな」
「土間さんいつの間に?」
宗介が興奮してる。珍しいなぁ。
今度は土間さんがスマートフォンをいじってる。
「チーム立ち上げのスポンサーを見つけるのに撮影してあったやつを使ったんだ。どでかいスポンサーが山ほど承諾してくれてるよ。今は別のドライバーがいるが、まだ動いてねぇ」
土間さんが画像を見せてくれる。
真ん中の三角を押すと、蒼が運転する様子が映る。
ガタガタ揺れて…すごい。
「わぁ…すごい。手も足も忙しいのね」
キーキーすごい音がして、いろんな角度からの映像が流れていく。
「何の音だ?あっ!蒼の運転じゃねーか!?」
「銀は酔い覚めたの?」
「おう。俺にも見せてくれ」
銀が後ろに回って、顔を寄せてくる。
サラサラの白い髪の毛がくすぐったい。
「んふふ。髪の毛がくすぐったい」
「悪ィ。俺も髪の毛切るかな」
「銀は長いほうがかっこいいよ」
「そ、そうか?蒼が言うならやめる」
「おめぇも凝りねぇな…」
「ウルセェ。」
「何の音…?」
「蒼~私もみたいぞぉ~」
「スキール音ですね」
「まーた蒼の車オタクか?アタシにも見せろ」
みんながやってきて、スマートフォンを覗き込む。
「あはは!お酒の匂いがする!せまーい!楽しい!」
「茜は何でも楽しんでくれるから、私も嬉しいな…」
「みなさん、集まって何してらっしゃるの?あっ!私も、私も見たいですわ!」
みんなでぎゅうぎゅうになって、面白くて仕方ない。
からら、と窓が開いて千尋が顔を出す。
「黒山になって何してんだ?…なるほど。土間さん、テレビに繋げて見ますか。」
「お、そうするかぁ」
「なんか恥ずかしいんだけど…」
蒼が照れながら立ち上がって、みんなで縁側からリビングに戻る。
ソファーがどかされて、床がお布団で埋め尽くされてる。
「こんなにお布団あったの?」
「あぁ、古い布団だけど今日ちゃんと干したから。男どもは全員雑魚寝」
「えっ!?私も一緒に寝たい」
「蒼がいるなら私もー」
「女子だけ除外すんなし」
「そうですわね。修学旅行みたいでいいですわ」
「「修学旅行?」」
蒼と一緒になって雪乃に尋ねる。
「わぁ…双子ちゃんみたいですわ…学生の時にする、お泊まり旅行です。夜はみんなで一緒に寝るんですよ。」
言いながらみんなでお布団の海に寝っ転がる。
「なるほど、これが修学旅行」
「ふふ、楽しい」
ゴロゴロしてると、千尋と昴が蒼を囲み込む。
あれ…蒼を見てる男の人たちがみんなギラギラしてるね?
「うん、女子は別」
「そうだ。危険だからな」
「えぇ…?」
「オオカミだらけか…仕方ない」
「私たちは問題ないですが、蒼は危険ですわねぇ」
蒼が危険なら仕方ないね。…何が危険なのかな?
「繋がったよ!」
ニコニコ微笑んだ慧がテレビのそばに腰を下ろす。
みんなでテレビを見つめる。
蒼の真剣な目と、くるくる曲がる車。すごいはやいなぁ…。
「うわ…エグっ…蒼これカーブで70キロ出てるよな」
「麻衣ちゃんよくわかるね?さっきのは75くらい。後半なら90まで行けたよ。」
「90!?嘘だろ…警察はスピードを見る訓練するからわかるぞっ!じっくり見てやる…!」
「ふふ。峠の下りなら100行きますよねぇ、土間さん」
「そうだな。群馬のあそこなら100~90が普通か。蒼ならもうちっといける」
「でもブレーキがヘタレそう」
「そこはお前、タイヤマネジメントだろ?」
「うーん、ミシュランだと削れるかな…でも石橋さんは硬いし」
「ミシュランでもスポーツタイプなら往復でパァだな」
「ですよねぇ。ねぇ土間さん、c4のコーナーのブレーキポイント私遅くないですか」
「ツッコミすぎと言えばそうだが、グリップの回復が早いんだから問題ねぇ。手前で加速し切れてんだからいいだろ?みんな同じタイミングで踏んでたら抜けねぇぜ」
「あっ、そうか…それならコーナー手前のブレーキングは遅くして、脱出角度を鋭くしたら直角でいけませんか?」
「そりゃ危ねぇだろ。下手くそな奴がいたら巻き込まれる。プロと言っても上手い奴ばかりじゃねぇ」
「あっ、そうか…なら、ここの溝に嵌めたらどうですかね?」
「アニメで見たな。ありゃできなくはねぇが、時速300行ったらタイヤが歪む。F4は跳ねるぞ」
「くっ、なかなか難しい…」
「蒼ならここでブレーキポイントを固定して…」
すごい。みんなびっくりした顔で蒼と土間さんを見てる。
テレビと蒼を目線が行き来してはよくわからない話を聞いて、みんなが唸る。
オタクってそういう事なのかな?
「なるほど…やってみないとわかんないなぁ…」
「お前さんはしばらくお預けだ」
「はうぅ…」
「俺もスポーツカーに変えようかな…」
「慧、俺も見に行きてぇから連れてけ」
「ボクも車に変えようかな…」
「銀はいいが桃も車にすると組織ビルの駐車場が足りなくなるから、ちゃんと事前に言ってくれ。慧はファミリーカーにするんだからダメだろ。」
「そうだな。俺たちの車でもいいが、スポーツタイプに赤ちゃん乗せるのはな…」
「蒼の車は無理だしね」
「そうだねぇ。そういえば宗介車持ってないけど買わないの?」
「あ?あ…おれがファミリーカー買ってもいいぞ。運転手してやる」
「「「却下」」」
「クソっ」
「そう言う意味じゃないのに…もう。」
みんなに笑いが落ちて、蒼も微笑んで。
幸せって、こういうことね…私には手に入らなかった、憧れていたもの。
じわじわと寂しい気持ちが浮き上がって来る。幸せに気づいたら、寂しい気持ちが鋭くなっている気がするの。胸が…痛い。
「茜…?どうしたの?」
「えっ?」
気づいたら、蒼の顔が間近にあって、心配そうな顔で見つめられてる。
柔らかく光る太陽みたいな目が揺れて、優しい気持ちが伝わって来る。
「何でもないの。大丈夫」
「横になる?千尋、お布団どうしたらいい?」
「女の子達は蒼の部屋に布団敷いてあるよ」
「準備万端だね…ありがとう!」
「ガールズトークして来るといい」
「そうそう。俺たちはもうちょい起きてるから」
みんながニコニコして手を振って、私たちは蒼の部屋にお邪魔する。
「わぁ!かわいいお部屋ね!」
「帰ってきたら、知らないお部屋になっていた…」
「えっ!?蒼の部屋なんだろ?」
「旦那様達が色々したんですわね?」
「そうみたい。すごい…びっくり…」
蒼のお部屋は天井からふんわりした布が垂れて、お布団が敷かれてる。
床もふわふわもこもこしてるし、棚には可愛いぬいぐるみや本、小さな電気がホワホワ光ってる。
「やべー、女子の部屋」
「キキだって女の子じゃないの」
「こんな可愛くないよ…分厚い医学書とデスク、長椅子しかない」
「それは病院ですわね」
「ふふ、みんなそれぞれなのね」
床に敷かれたお布団からは、りんごの匂いがする。あれ?これ蒼の匂いだ。
「茜、それ私が使ってるやつだから、こっちの…」
「ここがいいな」
「そうなの?こっちは新品だよ?」
「ううん。蒼の匂いがするからこっちがいい」
「えぇー?」
「私もそこがいいですわ」
「えっ!アタシも!」
雪乃とキキが入ってきて、大きめのお布団に三人で横になる。
お布団に人と一緒に入るなんてはじめて!
「うーん、複雑…まあいいか」
蒼もごろんと横になった。
「お腹張ってないか?」
「内容物で膨れてる~」
「食べたからな…沢山。茜は?体調どうだ?」
「平気」
「ならよし」
「男子達が何してるか気になりますわ」
「どうせエロい話しかしてないだろ」
「おぉ…エロい…えっちなお話ね?」
「何でそれを知ってるんだ茜は」
「うふふ」
ふと気づくと、蒼がスヤスヤ眠ってる。
かわいい。無防備な顔初めて見たかも。
「妊婦は良く眠くなるんだ。夕飯時もうとうとしてたな」
「可愛いですわぁ…これはキスしたくなりますわねぇ」
「そうでしょ?蒼の唇柔らかかった」
「「むむぅ…」」
二人とも寝顔をしばらく眺めて、電気を消してくっついて来る。
「で、何落ち込んでたんだ」
「そうですわね、ガールズトークしましょう」
「えっ?」
二人が闇の中でくすくす笑う。
「女の子同士で秘密の話をするんだよ」
「はー、なるほど…あれ?麻衣ちゃんは?」
「あの方は…蒼の動画を見てから来るって言ってましたわ…」
「あいつは男みたいなもんだ。気にすんな」
「あららぁ…」
沈黙が落ちる。このお部屋からは外の音が何にも聞こえない。私が寝てた北の塔と同じなのかな。
「私、あと何日生きていられるのかな?」
「それでか…あと…少しだよ」
「そうなんですの?…言葉が…出ませんわ…」
「元々、限界が来ている体を無理に覚醒させていたから…それでも、茜は気力で動いてたんだ。疲れただろ?」
「うん、とっても。でも、アドレナリンかな?すごく元気なの」
「そうか。初めて尽くしだったもんな」
「うん。蒼の周りはいつも優しくて、綺麗で…あったかい。蒼だからそう感じるんだと思う」
「そうだな」
「私はいつ死んでもいいと思ってた。でも、蒼があんまり可愛くて…そばにいると幸せで、死にたくないなって…思っちゃった」
「「……」」
涙がポロポロ、溢れて来る。
「蒼は、どうやって死にゆく覚悟をしたのかな。あんなにたくさんの愛を抱えて、優しいままで、どうやって…」
「そうだな…難しいな。日記、書いてるよ。まだ蒼の覚悟は変わってない」
「そうですわね…毎日、毎日…旦那様方のために書いていらして…どんなに眠たくても、絶対書いているんです」
「日記…何のために?」
キキが頭を撫でてくれる。小さい手が、優しくてあたたかい。
「旦那達のために。他にも残された人のための事を考えて色んなことしてる。あそこまで愛されちゃうとな、死んだ後のことが心配なんだ」
「蒼は…命をどこまでも他の人のために燃やしているのですわ。私はその心を尊敬します」
「そうだな。死ぬ恐怖や寂しさを抱えたまま、人のために生きてる…。それが自分のためだって言うんだ。
前を向いて、振り向かない。痛みや苦しみを覚えたりする人じゃないんだ。ずっと前進し続けて周りの奴らを奮い立たせてる。
生き様を見せつけて、救い上げて、まるでそのために生まれたみたいにさ」
そうか。死ぬからってそこに囚われてはいけないんだ。
私も、そうしたら…蒼みたいになれるかな。
残された時間を悔いなく生きたい。
蒼みたいに、ずっと戦い続けたい。
「私にできる事、考えてみる…蒼みたいになりたい。私は私の心に負けない」
二人がギュッと体を抱きしめてくる。
「ホントに、そっくりだな…。そういうところ。すごくかっこいいよ」
「えぇ。茜も…私は尊敬しています」
「嬉しい…ありがとう。ファクトリーに戻ったら、最後まで楽しく過ごしたいな。応援してね」
「うん」
「お手伝いしますわ…」
二人のつぶやきが優しい室内灯に消えていく。
蒼の香りに包まれて、蒼の寝息に耳を澄ませて、目を閉じた。
━━━━━━
宗介side
「茜、大丈夫か?アレ」
「何とも言えんな。蒼と同じ性格だと考えると、ちゃんと自分で答えが出そうだが」
蒼たちが部屋に消えたあと、男どもで静かに雑談が始まった。
茜は蒼の横で泣きそうな顔してたな。
組織の中で見ていた茜は、いつもほのかに微笑んでいた。喋る時は蒼みてぇなことばっかり言ってたが…あいつも人の子だ。
もう、おそらくあと数日の命のはずだ。
蒼に会いたいと言った茜を誰も止められはしなかった。
気持ちがわかっちまうからな。
「大丈夫だろ、蒼がいりゃ。キキも雪乃も大人だしな」
「そうだな」
「なぁ。茜はあと何日生きられる?私は死の気配を感じた」
相良が腕を組みながら、蒼の運転をじっと見てる。
お前どっちかにしろよ…。
「あと数日だ。キキが言ってたから間違いねぇ。…だから来たんだよ」
「そうか。気持ちはわかる。私も死ぬ時は蒼といたい」
「てかおめー女だろ?何でこっちに残ってんだ」
「私は蒼の動画が見たいんだ。気持ち的にはお前達と変わらんだろ?…蒼の延命だって、まだ確定していない。すぐそばで愛おしい人が眠っていたら、その人が短い命だとしたら、いたたまれないんだよ。
私はまだ、覚悟しきれていないんだ」
男どもに沈黙が降りる。
まぁ、そうだな。茜と違って数年の猶予はあるが…まだ未確定だ。
「蒼は覚悟を変えていない。立ち居振る舞いを見ればわかる。
旦那達は知ってるのか?蒼が毎日書いてる物を」
「はっ。あのハードカバーのやつか?」
「相良は何書いてるのか知ってるの?」
「……日記だ」
昴が低くつぶやいて、旦那二人が振り返る。
「何で知ってるの…」
「昴がヤンデレだからだろ…」
ふん、と鼻で笑って、昴がテーブルに頬杖をつく。
「監視カメラを蒼の病室につけてた。毎晩書いてるのは、俺たちに遺す日記だ」
「お前ヤバいやつだな」
「宗介ほどじゃない。蒼は俺たちが残されたあとどうなるかをずっと考えてる。寝言でもそればっかりだ。気に入らない…」
「でも、それは蒼の優しさでしょ?」
「桃、優しさが気に食わないんじゃねぇ。蒼が自分のことを考えてないのが気にくわねぇんだろ」
「そうだ。俺たちの事なんかどうでもいい。どうせ蒼をなくしたら心を病むか、本当に病になるか…早死にする運命だ。
生きていく意味がなくなるんだからな。
蒼が延命されて長生きすると言ってもどの程度かわかっていないんだ。俺たちだって覚悟はしてる。
だから、蒼がやりたい事をやって欲しい」
「そうだね。子供は諦めてもいいし」
「ん、俺もそう思ってる。土間さんが言うレーサーやってもいいし。昴の血が入っていたって蒼の子が一人いるならそれでいい」
ほーん。三人とも同じ気持ちってか。
でもなぁ、難しいよなぁ。
「アイツ頑固だからな…」
「「「ホントにな」」」
「くっくっ…面白いな。狂ってるのがいい。お前達はそうあって欲しいよ。旦那にふさわしい。」
「銀が言う通り狂ってんな。俺は心配だよ。蒼の事自由にしてやってくれよな?」
「土間、そりゃ無茶な注文だ。蒼が自分を蔑ろにしてるうちは監禁されるぞ」
「…怖ぇな」
「俺は蒼が逃げてぇって言ったら連れ出す」
「ボクも。蒼の気持ちに従うから」
「二人とも、そこは黙っておくんですよ。なぜ言ってしまうんですか。隠密で動くんですよ?私もそうしようと思っていたのに」
うぐ、と二人が詰まる。あーあー。揃いも揃って蒼のことが好きだから困ったもんだ。
「すべてはアイツ次第だ。どう転んでも勝手に幸せになる。旦那どももそこはちゃんとわかってるだろ。誰も心配することなんざねぇよ。
蒼が白といえば白になるし黒といえば黒になる。俺が心配してんのは茜が亡くなった後だ。あそこまで仲良くなるのは想定していなかった」
それぞれが頷いて、微妙に暗くなる。
「そっくりだよな。見た目に違いがあっても、中身が本当に似てるんだ…」
「口に出て来る言葉も似てるし、考え方もそうだよね…」
「クローンってなそう言うもんなのか?」
「土間さんも聞いたんですか?」
「あぁ、爺さん婆さんが毎日話しかけて来るからな…大体は知ってるよ」
「DNAってな命の形だ。人の根源であり、始まりでもある。親に子が似るのもそうだし、元々インプットされたものがあるんだろ?蒼の同期は細かくばらけてはいるがほとんど同じ性格だ。
ただなぁ蒼だけがちっと違うんだよ。
クソ頑固でじゃじゃ馬で、奇想天外すぎる。
それに、人たらしすぎるだろ?
茜は本来恨んでもいい対象だ。自分が欲しかったものを全て持ってる。先が短いかもしれねぇが、動いて、戦って…旦那もいるしみんなに愛されて、腹に子供までいる。
俺が茜だったら恨んで殺すかもしれん」
「確かに。あの穏やかさは茜の性格によるものか?」
「いや…アイツはファクトリーで動いている時は、蒼のDNA複製に興味を持ってたぜ。根っこでは恨んでいたこともあるだろう…蒼がそうさせねぇんだよ。毎晩話をしに来て、あんなに仲良くなって。
何もかもが、蒼が理由なんだ。」
「蒼が長生きしてくれることを祈るしかないし、茜は…変わってくれたなら…何か始めるかもしれないな」
「蒼にくっついてる時幸せそうな顔してたな。飯食ってうとうとしてる蒼をみて笑ってたぜ」
「蒼を傍にいさせてやったほうがいいのかな」
「いや、そこは本人が決めることだ。俺たちが手出しをするところじゃねぇ。
それこそ旦那どもは茜が亡くなったあと、落ち込む蒼を心配してろ」
三人して大真面目に頷いてる。
俺もそこに入りてぇな。
「よし、見終わった!じゃっ!ムサイ男部屋とはおさらばだ!蒼にくっついて寝ちゃおっと!」
相良がさっさと部屋を出ていく。
女が消えて本当に男だけのムサイ部屋になった。
「「「クソっ」」」
「お前らは明日から当番だろ。俺だってクソだ」
「俺もだ」
笑ってる旦那どもを見つめて、銀と二人でしかめ面になる。
「ボクはいいよ。純愛だし」
「私もいいです。蒼が幸せなら」
「お前らはファクトリーのやつに惚れられてただろ?」
銀と桃、スネークがギクリとする。
全員振られたのは知ってるんだぞ。アイツらすぐ報告して来るんだからな。
「絡まってんなぁ…困ったもんだ」
「ふっ…仕方ないだろ。電気消すぞ」
全員布団にくるまって、昴が電気を消す。
雪乃が言ってた修学旅行ってのは知ってるぜ。俺は途中まで学校行ってたからな。
軍でもこんなふうに雑魚寝はしてたし。何だか懐かしいな。
「宗介…家の指紋認証登録していいぞ」
「あ?いいのかよ」
「仕方ない。蒼は旦那にはしないと言ってたが、一生そばにいろと言ったのは俺たち以外で宗介だけだ」
「何だよそれ…腹立つな!宗介もクソだ」
「ぐすん」
「蒼が幸せなら…イイんです…」
銀達がへこんでるぞ。俺はまぁ、アレだ。我慢もしてるしそのくらいいいだろ?
いつでも来ていいって言われてんのと同じだし、正直嬉しいがな。
「手を出したら今度こそボッコボコにしてやる」
「はっは、やってみろ」
千尋の低い声を受けて、思わず笑う。
俺は、手をださねぇよ。蒼がいいと言うまでな。待つのは得意なんだ。
「お前らほどほどにしておけよ。蒼が困るんだからな。せめてそう言う頭のおかしい考えは隠せ。蒼はレースやるんだ」
「お前もライバルだろ。占有させねぇぞ」
「フッ。蒼の車オタク具合を知っても言えるのか?」
「くっ…」
とんでもねぇダークホークにぐうの音もでねぇ。もう寝てやる。くそっ。
無理やり目を閉じて、枕に頭を押し付けた。
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