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★第七十話 脱出 R18

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 宗介side


「それで…蒼さんはこちらの組織に寝返ると言うことでしたか?」

 東条は以前の白衣姿から衣服を変えて、似合ってねぇ高いスーツに白いマフラー。

 マフィアのボス気取りかよ。服に着られてるぞ。口に咥えた葉巻は吸い口のカットがされてねぇまま燻された跡がある。
 ダッセェ……。プレミアムシガーが泣いてるぞ。吸い方知らないんならやめとけ。


「そうさな。俺があの手この手で虜にしてやったんだ。」
「おお、私と同じですか?」
「…そうだな。」

 顔が引き攣りそうになる。お前が絆したと思ってるキキは今ファクトリーで薬を作ってるがな。お前を滅ぼすために。


「私の方はキキが見つからないんですよ…でもあなたが来ればご両親達も励まされるでしょうね!こちらとしても歓迎します。よくやってくれました!」

 ウッキウキの東条。大丈夫そうだ。通じてる。


「あぁ、その蒼の両親は?」

「あれは小さなラボの中に監禁しています。当分は丁重に扱いますよ。あれは元々こちらの組織の人間ですし、大変有能ですから。
 人質にはできませんね。二人とも揃っていないと意味がないようです。
 延命試薬を飲んだ組織の人間が赤子に戻ってしまいましてね…」

 まさかとは思ったが、やりやがったな…。


「あれではダメだと金を出してきたクライアント達がお怒りなんです。私も医者の端くれですから分かりますが。複雑な式を必要としていますし…調整が難しいようです」

 ヤブだろ、お前。アイツら意図して研究進めてねぇのに気づいてないとは。


「はーん、なるほどな。カネの種は大切にしておけよ。これから先も使わなきゃならん。
 それより先にあっちをぶっ潰すんだろ?捕虜はどうした?」

「中々しぶとくてねぇ。逃げようとするので多少痛い目を見ていますよ。足の腱を切ろうとしたら大人しくなったので、今は様子見です。情報を吐かせなければならないですし…そろそろクスリが必要かなと」

「ああ。あれか。アイツ結構使えるぜ?薬を使う前に俺が説得してやろうか?」

「難しいのでは?仮にもナンバースリーだった男が説得に応じるでしょうか」

「コイツがいるだろ?」


 蒼の顎を掴んで、引き寄せる。
 静かに瞬いた蒼が微笑む。
 すまん。他意はない。いやあるが。一回だけだ。

 瞬きで是非を問う。蒼が了承を返して、唇を重ねる。


「…っ」

 深く重ねて、わざと音を出す。雫を掬い取って口の端から垂らした。
 ファーストキスなんだけどな。俺は。


「承諾か、絶望か。ってなどうだ?」
「す、素晴らしい…なるほど…」


 蒼の顎をから手を外し、抱きしめて背中を叩く。

 《すまん》
 《へいき》

 俺のすまんは、本気の謝罪も含む。役得だ。マジですまん。にやけてしまう。
 アイツら怒るだろうな…。


「ではどのように?」
「拷問部屋に連れてってくれりゃいいだろ」
「いや、あそこは汚れていますしここが一番いいでしょう。蒼さんは血に塗れても美しくないですから。
 大きなソファーもあるし、そして目的としては最高の部屋ですよ。おい!連れてこい!」


 チッ。一番奥に連れてこられたら桃に任せられねぇじゃねぇか…参ったな。



「それに、蒼さんがこちらに入るというなら証明してもらいます」
「あ?俺の女を疑うのか?」
「ほ、保険ですよ…ここで関係性を見
ていただきましょう。そうすれば信用できます。私も愉しみたいんですよねぇ」

「…チッ」

 めんどくせぇことになっちまった…。

 《すまん》
 《ばか》

 背中を叩くと、瞬きで返事が返ってきて手のひらをつねられる。
 俺のせいじゃねぇ!こいつが変態なんだよ!



「あ、来ましたよ!」

 両手を繋がれて上下真っ黒の隠密姿だった慧が連れられてくる。
 傷だらけで殴られたり蹴られたりして真っ白になっちまってんな…。血だらけで顔も腫れてる。
 足は無傷だ。拷問するやつも素人だな。
 これなら歩ける。

 慧の姿を見た蒼が体を硬くする。
 蒼の手を握りしめて、目を合わせる。
 落ち着け…落ち着け。今暴れたら全てがパァだ。


「……」
 気丈に引き締められた目がわずかにゆらめき、そしてそれが止まる。

「蒼…どうして…」


 蒼の姿を見た慧が明らかに動揺してる。まさか来るとは思ってなかったんだろうな。
 でも、蒼だぜ?止められるわけねぇだろ。

「悪いな、蒼は俺のモンだ。東条のボスにお呼びだてされたんだお前は」
「……チッ」

 おい。演技じゃねえだろ、その舌打ち。
 顔が怖ぇよ。


「では、頼みますよ。私たちは音だけでも楽しませていただきます。カメラはハッキングされてしまいますからね。あちらには有能なハッカーが複数いるようだ」

 おい、バレてんぞー。雪乃か?千尋か?
 監視カメラがないのは都合がいいが。

「お前達、銃を出せ」


 東条達が出ていくが、最後に残ったSATが手を差し出す。仕方ねぇ…。蒼と二人、ハンドガンを手渡す。
 ボスよりこっちの方が優秀だな。
 ハンドガンを取り上げたやつも出て行き、扉に鍵が閉められる。


 《なぜ連れてきた》
 《わかるだろ。怪我は?》
 《問題なし》

 あー、目がしぱしぱするぜ。年取ってからアイコンタクトはきつい。
 どーしたもんかなぁ。


『どうしたんですかぁ~?色っぽい声がしませんよ』
「そんなすぐやれって言われてヤレるかよ…て言うか説得をだな」

「先にヤッてからにして下さい」
「はぁ?な、何でそうなる??」

 いてぇ。蒼が散々つねってくる。
 仕方ねーだろ…。


『なるほど、ではお手伝いしましょう。私も早く聴きたいのでねっ!』
「は?」

 壁の穴から妙な匂いが漂い始めた。
 まずい!ガスか?殺す気か?!
 ………いや、違う。

『即効性の媚薬ですよ。蒼さんは良くご存知でしょう』

 蒼がげんなりしてる。 

「またこのパターンなの…?」


 いや、ぼーっとしてる場合じゃねぇ。
 呼吸を落とし、息を浅くする。
 蒼も同じようにするが…俺も知ってるぞこれ。かなり強いやつだろ。
 独特の…シナモンみたいな匂いが鼻の奥にツンと広がる。ホルモンに作用するブツだなこりゃ。
 液体ならまだいいが、気化されたものは効果が強すぎて子供によくねぇ。ドンパチ覚悟で逃げるしかなくなったな。

 インカムを3回叩く。
 緊急避難の合図。

 《了解。準備しておく》

 昴の声が耳に響く。
 あーあ。蒼の声を聞かなきゃならんのか。
 おい、大人しくしてろよ。お前一生使われねぇんだからな。
 自分の下半身を見て、ため息を落とす。

 慧が丸まって、手首のロープを足に通して縮こまる。
 ほーん、それもいいな。肺を圧迫してるから時間はかけられねぇが…。


 しかし、参ったな。ガラス扉を確認する。
 蒼が手のひらを濡らして、唇で音を立てる。
 あー。耳がやべえ…。

 色っぽい水温が響く中、上から下まで確認するが、蹴り破るのは不可能。
 防弾じゃないのが救いだが。鞭だけでもダメだな。少しずつ削って傷つけてから突破するしかねぇ。10分はかかるな。

 インカムを叩く。
 《10M》
 《了解。》


 桃の返事を聞いて、胸元からナイフを取り出して、刃を立ててみた。結構音がするな…。思ったよりガラスが硬いから音がでかい。

 慧の背中を叩く。…見上げた顔が真っ赤だ。結構吸っちまったか…。
 手首のロープを切って、蒼を指差す。



 《腰が抜けた…》

 マジかよ…。参ったな…。音を立てるにも喘ぎ声じゃダメだ。蒼に触らなきゃ音がでねぇ…。

 慧がナイフをひったくり、じっと見つめてくる。怒りに満ちて、震える体で。
 …俺がやるのか…マジか。

 
 慧が太ももの筋肉を使って器用にドアにじり寄る。
 ため息しかでねぇ。俺だってガスを少しずつ吸っちまってんだ…。


「……宗介…」
「おう…」

 ソファーに蒼を横たえて、袖の布を割いて音を出す。
 慧が動き始めた。

「ん…宗介…きゃっ!やだっ!」
「良い声で鳴けよ」
「やめろ!蒼に触るな!」

 散々服を破いている中で、蒼がショーツをを脱ぎ捨てる。パサッ、と床に落ちる音、上着を脱いで、下着姿になる。

 ソファーの上の蒼に覆い被さって、ギシギシと音を立てる。
 ガチの反応が一人いるからやりにくいな…。目つきがどんどん鋭くなってやがる。



「んっ、やぁ…恥ずかしい…やめてよぉ」
「何だよ、見られて興奮してんのか…?」

「やめろ!ちくしょう…蒼…っ」

 本当にやりづらいんだが。慧のやつが泣き出しちまった…。



『何か変な音がしてないか?』
『別に聞こえませんけどねぇ?いい声です。最高だな』
『…悪趣味…』


 あーっ!くそ!!!音が足りねえ。慧が冷や汗をかいて手を止めてる。
 蒼が俺の手をとって、頷く。
 クソッタレ…。

 胸元から下着を引き裂き、蒼の胸が顕になる。俺は完全に試されてる。媚薬が回って、頭がくらくらして来た。
 蒼の声が耳の奥に染み込んで、生理現象が起きる。

「…若いねぇ。元気だねぇ」
 《素になるのやめろ》
「宗介…噛んで…」
「マジかよ」
 《バカ!》

 くそぉ…。
「ひゃっ!痛い…もっとぉ…」


 蒼の肌に唇を押し当てながら、局所を外して滑らせて、なるべく音を立てて、ひたすら蒼が喘ぐ。椅子をしならせたりするしかない。もう布がねぇ。流石に下を剥ぐのは俺がまずい。
 蒼の肌の温度が上がって来てる。
 まだか…。お互い汗をかいて、顎から滴り落ちた。

「くそ…クソっ!!」


『いつまでちんたらやってるんですか?さっさと挿れてください』
「ウルセェな…」

 腰のベルトを緩めて、ジッパーを下ろす。
 蒼を抱きしめて、そのまま押し付ける。
 セーフだよな?下着があるからな!?


「ひゃん!やめ、まだダメ…んぁ!」
「クソ…」

 蒼を膝立ちにして抱えて、腰を下ろす。
 局部が触れて、蒼の蜜が染み込んで来る。
 参ったな。ほんとにギリギリだ。
 蒼が腰の上で跳ねる。

「はぁ…っ、あんっ…気持ちいい…ん…」



 擦れ合ったそこから水音が上がって、本当の快感が伝わってくる。
吐息が早く、熱くなっていく。
椅子が勝手に音を立ててくれる。二人分の体重だからな…。
 蒼が眉を顰めて、必死に快感に耐えようとしている。


 ちくしょう。何だよこれ。拷問より辛いじゃねーか。俺は蒼に本気でこういう事をしてえと思ってるんだぞ。
 理性の糸が焼き切れそうだ。それを必死に繋いで、熱くなっていく蒼が落ちないように背中を支える。


「はぁっ、は…んんっ!もっと、そこぉっ!」
「く…うっ」

 蒼が目を閉じて、涙をこぼす。
 これは悲しくて泣いてんだ。
 蒼が体を許したくない男に、それを許している好きな男の目の前で触られて、泣いてる。

 それでも俺が衰えないのは薬のせいなのか、それとも蒼への想いがあるからなのか。
 俺も泣きそうだ。



 俺の手が勝手に蒼の胸を掴む。その手を反対の手で押さえて、唇を噛み締める。
 噛み締めたそこから血が滴り落ちて、鉄の味が口の中に広がった。


 涙をこぼした蒼がそっと頬に触れてくる。
 心配なんかしてんじゃねぇ…。お前は本当にいつでもどこでもそうなんだな…。
 じわり、と胸の中の古傷が痛む。
 風化したはずの傷が蒼の心に触れて、鮮血が滲み出す。



 すきだ。好きなんだ。
 ずっとお前のことが好きだった。

 長年会いたかったお前が、やっと会えたのに人妻になってたって好きなんだ。諦められねぇ。
 俺が夫にならなくたって、手に入らなくたって、死ぬまで一緒にいたい。

 だからこんな形で結ばれるなんて、ゴメンなんだよ!


 ポケットから取り出した長針を太ももに突き立てる。
 深く沈めて、その痛みで理性を引き戻す。
 俺の武器を自分に使う時が来るとはな。
 先端がカエシになってるからな。突き立てては引き抜き、痛みを増やす。



「ぐぅ…っ」
「そ、宗介?!何して…」
「ウルセェ。もっと腰振れ!気持ちいいんだろ!旦那の前で…うぐっ…盛りやがって!!」

「うう…っ、酷いよ…ぐすっ…何でそんな事してるのぉ…っ」

 蒼はホントに泣き出した。止まるな。動け。音を出すんだ。
 腰を掴んで、蒼の動きをサポートする。
 いてーな。動くたびに太ももがズキズキしやがる。だが、おかげで正気が保てる。



 蒼が手のひらを広げて目の前にかざす。親指からそれを折り、カウントが始まる。
 隙間から見える蒼の目は真っ赤だ。
 今は、俺のために泣いてくれてんだよな?
 俺のための涙なんだ。
 すげー、嬉しいな…。

 太ももから長針を抜いて、カバーに戻す。筋肉に力を入れて止血。
 あーいてぇ。
 蒼に鞭を手渡して、泣いたままの蒼が深く頷く。

 慧が扉から離れ、椅子から二人で立ち上がる。
 俺が慧を持ち上げて俵のように抱える。
 蒼が怒りの形相で鞭をしならせて狙いを定めた。


 3.2.1……

 ━━━━━━



「バカ!バカバカ!どうして!何で自分で刺したの!何回も刺すなんて!」

 アサルトスーツの上着を羽織った蒼の声が車内に響き渡る。

 運転してる桃の顔が真っ赤だ。まぁ、そうだよな。ありゃ音だけなら致してる音だったはずだ。



「仕方ねーだろ、俺だって性欲があるんだ。好きな女が目の前で腰振って勃たねえ奴がいるか?」
「それにしたってでしょ!」

「蒼~俺の心配もしてよ…」

「はっ!慧…ごめんね、ごめん…浮気じゃないからね?」
「わかってる。薬は抜けた?お腹は?」

「大丈夫。呼吸を抑えてたから。もう抜けてる。慧は結構吸っちゃったね…」
「うん…ちょっと、離れてて。俺の方が危険だから」
「うぅ、でも…」

「宗介、頼んだ」
「へーへー。」

 蒼を羽交い締めにして抱きしめる。

「うぅ。うぅ!」
「今日は役得だなぁ…」
「ばかっ!」

 心の声が漏れちまった。ペチペチ叩かれて、蒼が胸元にことんと頭を落とす。



「ぐすっ…あいつら…絶対許さない…ライフルで脳幹撃ち抜いてやる…」
「おーこわ。でもあの様子じゃ直ぐはこねぇぞ」

「SATは、動けるでしょう?」
「お前東条ボコボコにしてきたんだぞ?そもそも火種を起こさないように苦労してたのに」
「ドアをこじ開けた時点で無駄。そもそもあのSATの人は何か勘づいてた。」

「準備はしておくべきだな。昴、頼むぜ」



『……あぁ……』
「うわ怖っ!」

 桃が言う通り、ひっくい声の応答が返ってくる。
 こりゃ一発もらうくらいで済むのか?ぼこぼこは勘弁してほしいんだが。


「昴、怒らないで。千尋も。私は無傷で、慧も奪還できたし、東条はボコボコにしてきたから」
『わかってる…帰ったら風呂入ってくれ。下着も用意しておく』
「何でわかったの…びっくり…」

 昴の声しかしねーが、銀と千尋の静かな怒りまで伝わってきやがる。
 帰りたくねぇ。


「はぁ…あのまま一発抜いときゃよかったかな」

『宗介…聞こえてんだよこの野郎。日課の夜練楽しみにしてるからな』



 千尋がキレてんじゃねーか。
 まあいいか。これで火種は投下されただろう。

 ようやく戦争の始まりだ…。




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