67 / 79
助けてなんて、言わない
しおりを挟む龍一side
「IPはいくつかのサーバーを経由して隠している…場所の特定は時間がかかるかもしれないねー」
「東雲先生…アンタマジで何者なんっスか?怖いんですけど」
「気にすんなし。……犯人が動いたぞ」
東雲先生と萩原がIP割り出しに勤しんでいるタイミングで、アングラサイトにアップされた動画が動きを見せた。
『おい、気絶してんのか?』
『してねーよ。優!お前なんなんだよ!声くらい出せや』
『…………』
『チッ。相変わらず役に立たねー女だな。』
口汚く罵る男は、顔を隠しているものの…明らかにアイツだ。優さんを捨て、ウチからの手切金を受け取ったにも関わらず、データを残して彼女の動画を金に変えようとアップロードし続けた…元彼氏。薄汚い人モドキが画面に近寄り、顔を隠していたマスクを取って口を開く。
『あー、これは…フェイクではありませーん。この動画を見てる、心当たりのある人。一億円を身代金として要求しまーす。連絡先、知ってる奴から聞いてね』
『てか見つかんのか?この動画。あんなサイトにアップして見る奴なんかいないだろ』
『知らねーよ。どこに繋いでもすぐアカウントが消されるんだ。ここにしかアップできねーの。
どっちにしても金がもらえなきゃ売り飛ばすんだし、それまでの時間稼ぎだ。投げ銭でもありゃ儲けもんだろ?イッツショウタイムってヤツ。』
『成程?頭いいなお前。やー、楽しませてもらおっ!マスク邪魔だな…外してもわかんねーよな、どうせ』
『ズームしても画像が荒いから無理だろ。俺は別に顔出ししてもいいしー。海外にトンズラするからな』
『お前ほんとやべー奴だな。仮にも彼女だった女を売るのかよ』
『別に女なんて腐るほどいるだろ』
『確かにな』
「あーあ…マスクとってるし。顔バレしてもいいっての?バカしかいないじゃん。投げ銭の振込先で足がつくし、普通にこれ犯罪だろ。」
「東雲先生、IPはわかりそうですか?」
「時間かかるよこれ。無駄に経由してるからすぐには無理。……ねー、これそのままアップロードしていい?うちのサイトで流せば、素人のフリしてる玄人が手伝ってくれるでしょ。そっちのが早い」
いいと言う前にダミーのサーバーをいくつか経由して、東雲先生が動画のリンクを生成する。
萩原先生のが横に持ってきたPCでそのリンクを打ち込み、優さんのプロジェクトで作ったアダルトグッズの通販、動画の販売ホームページのトップに貼り付けた。
「求・情報提供。弊社のアイドルを探しています。※警察とは連携済み、通報はお控えください、と。こんなモンっスか?」
「フェイク入れなくていいの?」
「このサイトもどうせ消しますから。一刻も早く情報が欲しいんだから、フェイクを入れても意味がないっス。
犯人の顔や景色は解像度を上げて…優さんの顔は絶対見せないよう処理しておくっス。都度調整するんで、俺が張り付きます。
ネットの奴らが動画をコピーするだろうし、ダウンロードするだろうし、再アップロードをするでしょうからデジタルタトゥーになるでしょう。
金をばら撒いても、電子の世界では通用しませんよ。どこまででも追い詰めてやる」
「私IP割りだし苦手なんですけどー。龍一氏、友達に頼んでいい?」
パソコンを叩き続ける2人は怒りのあまり眉毛が跳ね上がっている。萩原はわかるが、東雲先生は何なんだ…得体の知れないネットワークがありすぎる。
「お願いします。萩原、情報提供の精緻な物には賞金を出すと掲げろ」
「はい、おいくらでー?」
「一件につき1000万。特定に至ったら一億で行こう」
「了解ッス」
「東雲先生のお友達にも同じように伝えてください」
「わー、うわー…分かりました」
2人がパソコンに齧り付く中で、ドアのノックの音が聞こえた。
返事を返す間もなく、佐々木が慌てた様子で入ってくる。
「優さんが見つかったんですか!?」
「……あぁ、どこかの倉庫か、廃ビルか。お前のGPSは追えていないんだろう?」
「はい。草達を放ちましたが、未だ情報は入っていません。」
「……そうか」
佐々木は僕の隣に立ち並び、優さんの写った画面を熱心に見ているが、外の情報が何もない。
一体、どこにいるんだ。早く取り戻したいが、確たるものを得ずに動けばただの無駄足になる。
はやる足を押さえ、ぬい止めるだけの行為がここまでストレスのあるものだとは思わなかったな。
「アクセス数が上がってきましたねー。お、情報提供来まし…え…なっ」
「うあおおあお!?な、何これちょ、待って…多すぎ!多すぎるから!!!」
うちのホームページにアップロードされた、生中継の動画に次々と場所の情報やリンクが貼られて行く。
誰だ、いちいち投げ銭をしているのは。
リンクを拾って僕と、佐々木で確認を始めた。……情報提供者の中から『このURLはスパムだ』と言う人まで現れ出した。犯人側の動画には閲覧者が急激に増えたものの、コメントが一切入らない。
「あのコンビニから北方面に行ったはず……はっ!動画から救急車の音が!」
「…………」
「はーい、ここが今一番報告件数が多い場所だな。他にも有力候補が絞り切れるといいんだけど」
「先生、AIソフト使ってください。似たような景色抽出できるんで」
「はいよー!」
萩原と東雲先生のやりとりの最中も、犯人側の動画には閲覧者が増えている。しかし、相変わらずコメントがない。ホームページ側の動画に『救急車の目撃情報、出動のリンク』が貼られ出した。
『おい!なんか一言くらい言えって!』
『そーそー、助けてください、とか言ってみな?誰か助けてくれるかもしれないだろ?』
「…………」
画面の中では、優さんが小突かれて目隠しを外される。萩原が一瞬で何十にもモザイクをかけて……彼女の顔は完全に隠された。
『……ないでください』
『声が小さいだろ!ちゃんと言え!!』
後ろ手に縛られたまま、優さんが顔を上げて、口端をあげた。
モザイクで隠された向こうからでも見える、凛とした眼差し。
『誰も来ないでください。私は、大丈夫です』
一拍の間の後、優さんの頬に平手を打ち、彼女が倒れ込む。
コメント欄が暴走し出して、目で追える速さではなくなった。
コメントに貼られたリンクを追えなくなり、会社のメールに大量のメッセージが届き出す。
「東雲先生!そのメール!……この倉庫じゃありませんか!?」
「佐々木さん目がいいな。ビンゴ!!地図情報送るから、行って!!」
「追加情報も随時送るっス!!ちゃんとチェックしてくださいよ!!」
スマートフォンと、上着を持って部屋を飛び出した。ノートパソコンを抱えた佐々木が追いかけてきて、2人でエレベーターに飛び乗る。
「僕は、まだお前を殴り足りないんだが」
「優さんを取り戻してからにしてください。俺も黙って殴られませんからね」
「そう来なくちゃな。殴られてるだけよりもギタギタにやり返せる」
「…………そうでしょうとも」
地下一階に到着して、運転席に飛び乗りエンジンをかけた。ナビに住所を打ち込んだ佐々木が小さく呟く。
「本当は、わかってた。龍一があの人を迎えた部屋を見て、どうにもならない事は理解してたんだ。
お前が愛した人は、同じようにお前を愛してる。あの部屋の中で暮らすって言うのは……そういう事だ」
「……そうか」
「殺してくれてもいい。俺のせいでこうなったんだから。
俺が……ほとぼりが覚めてから、お前たちを引き合わせるつもりだったと言ったら……信じるか?」
「…………」
沈黙の中でパソコンのキーを叩く音、随時ナビの情報を修正して行く佐々木の動きを見て、堪えきれない思いが胸のうちから溢れてくる。
佐々木に対する憎しみや恨み、自分に対する怒り、優さんへんの愛おしさと…今彼女が受けているだろう苦痛がどんな物なのか、考えるだけでも息ができなくなる。
「お前は一生許さない。僕から優さんを奪ったのは母でもなく、父でもなく、お前だ」
「……一生……」
「そうだ。僕が優さんに出会って、会社を継ぐために働き出して……何もかもわからない、知らないままがむしゃらにやっていたら、身動きができなくなった。
そんな中で、ただのボンボンだった俺に……手を差し伸べてくれた貴重な奴がいた事を思い出した。父の差金だったとしても、僕はそれに救われた。
……お前は、俺の恩人でもあり、一生の恨みを抱える相手なんだよ。どこにも行かせないからな」
沈黙に支配された車内で、たつ、と涙の滴が落ちる音が聞こえた。
そうだ、僕は一生許さない。その命が終えるまで僕たちのそばにいて、幸せになるのを見守って……支えてもらうのはお前なんだから。
「……急いでください。奴らが手を出し始めました。東雲先生からもIPアドレスの解析結果が来ました!この場所で間違いありません!」
「あぁ、…事故らないよう神にでも祈っておけ」
「龍一さんは事故りませんよ。優さんを取り戻すまでは」
「……ふ」
佐々木がスマートフォンを手に取り、警察への連携を指示し始めた。草の者たちを集め、一箇所に集合をかける。
海沿いの空倉庫…そこに、優さんがいる。
アクセルを思い切り踏み締めて、武者震いで顔が勝手に笑顔を作り上げる。
――辛い時ほど笑って見せろ、支配者たるものの資格はそこにある。
そう、幼い僕に言い放ったのは…憎しみの中で縁を切った、哀れで愚かな父。その人の言葉は、皮肉な事に僕の中に確かに息づいていた。
10
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる