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発見
しおりを挟む東雲side
「GPSの反応がない。スマートフォンも家に残されているし…追える物が何もないんだ。」
「体の中に何か入れなかったんスか」
「……アクセサリーをつけてみたりしても、寝ている間に外されるし…内部に入れるとしても…あまりにも……」
「そうっスよね。あんだけ毎晩激しいんなら優さんが怪我する羽目になるからなぁ…今度はちゃんとつけてくださいっス。皮膚の下が無理なら指輪とか、ピアスとか。それなら外れないですから」
「……あぁ」
「運輸関連の奴らにも手を回して、小さな会社まで目撃情報をもらえるように手配しました。もうすぐドラレコの記録が届きます」
「ご苦労。……まさかお前までこちら側に来てくれるとは、思わなかったな。配送関連の担当をお願いしてはいたものの、ほとんど関わりがなかったのに」
「俺のような奴は、沢山いると思いますよ。新しいプロジェクトで異動してもらって、感謝してます。優さんは普通の女の子だと思ってましたし……今でも、そう思ってるんですが、何と言いますか」
「……優さんは、優さんだ。最初から普通ではなかったよ。
こうなるような気がしていたのに、身辺の引き締めが緩かった私が悪い。……すまないが、引き続き情報収集を頼む」
「は、はい!!」
話が途切れて、パソコンを叩く音がひたすら響く。GPSを埋め込むだのなんだの、だいぶ狂った会話内容だったな。プロジェクトで配送関連の仕事してた人もここを手伝ってるのか…。
私がここに連れてこられたのは10分前。到着してから与えられたデスクに座って、パソコン部品がどかどか山積みに置かれ、佐々木さんが今セッティングをしている。……ボッコボコに腫れた顔で。
「あのさ…一応事情、聞かせてくれます?どういう流れでこうなったんですか?スマホが通じないって、優さんどうなってます?佐々木さん」
「…………」
「私が説明しますよ。東雲先生」
颯爽と現れた笑顔満開の龍一氏。顔と、シャツに血飛沫を撒き散らせてする顔じゃないだろ……。大方の顛末の想像はつくけどさ。
龍一氏は完全にアルカイックスマイルだ。こんな怖い笑顔、流石の私も他で見たことはない。
「…俺は、警察からの聴取に行ってきます」
「GPS切るなよ」
「……はい」
佐々木さんと小さな声でやりとりして、龍一さんの怖い顔が私に近づいてくる。
圧……圧がすごい。めちゃくちゃキレ散らかしてんじゃん。佐々木さんのあの怪我、手加減されてんじゃないのか?怖い。
「では。まず一連の流れから。私の元許嫁が優さんとの断絶のために動いたのはご存知ですね。私に性被害を受けたとして報道にリークし、最後には警察まで動きました。が、予測していた通りの流れですぐにこちら側への被害は鎮圧。
商品購入や動画を見ていたファンの個人情報を辿り、協力を呼びかけてSNSの情報拡散。
三上物産内にいる元許嫁の性被害に遭った方々には、こちらで雇った弁護士から呼びかけ委任契約をして訴訟を起こしました。
警察にもセクハラ、暴行の証拠を提出。訴訟の一部は三上物産が交渉して示談になりましたが、そのまま刑事事件になるモノが出ましてね。彼女は先ほど逮捕されました。」
「ほう…金よりお嬢様を潰すことを選んだ人がいたんだ?」
「えぇ。同じ被害者ですから、懇意にしていた方が、偶然たくさんいましてね。驚きましたが、僕に賛同してくださって、罪を暴く方向へ舵を切ってくださってます」
わー、ゾクゾクするなぁ。この人やっぱ凄いわ。客の個人情報を辿るって言ったってさ、一つ一つの情報を精査した上で有効な手段になる人物にコンタクトしたんだよね。おもちゃの発注だけで何万人いるわけ?それを短時間でどうやって調べたんだろう。
動画の購入者なんて足がつかないようにしてる人が多いだろうに…それをどう調べて、あんなに情報が流れたの?一部に流してそこから勝手に広がったとしても、広げられる人をマークしてたのかな。
全部に直接コンタクトしたんじゃないとしたら…恐ろしいスピードの拡散力がある人を知ってるんだ。
懇意ってのは、上なのか下なのか立場はわかんないけどさぁ……三上財閥の令嬢から被害に遭った人に、直で弁護士を差し向けたなら、事前にそもそも性被害を受けたって情報を集めてたんだよ。
その人達と信頼関係を築くのに、どれだけ前から準備してたんだろう。
「次に、柳澤財閥の指名を受けて許嫁の後釜へと柳澤の一人娘が名乗り出ました。日本の財界を仕切る人からの名指しですからねぇ、どうやって取り付けた話かは分かりませんが。佐々木からの情報では私の実力を見るために騒ぎを静観していたそうです。……クソ忌々しい」
「わーお、本音が漏れ出てるぞー。
そんで?その逆指名?が来たことで優さんが誘拐されたのは、どういう関係?」
「私の母親が彼女に直接話したそうです。『もし僕が許嫁の指名を断れば、恐ろしいことが起こる』と。
僕の手が周囲の人間を囲える訳がない。萩原、佐々木、東雲先生…御本人以外の家族にまで、影響が及ぶと」
「はぁん。まぁ常套句だよねぇ……そんで?ああ、パソコンやっと電源ついたか。」
私用にセットされたパソコンの電源がようやく立ち上がって、セキュリティを確認する。おーおー、独自のウォールがこんなにインストールされてるんですか…恐ろしいパソコンですこと。
自分のスマホに記録されているアングラサイト…いかがわしいものや物騒なものが、平然とやり取りされるサイトをいくつか立ち上げてそこに検索をかける。
優さんが誘拐されたとしたら、行方をくらまして何かの金に変える奴に渡すのが目的だろう。最悪の場合中身を売られるか、そのまま海外に人身売買か。
それとも……。
「先ほど柳澤氏と提携を結んだ。僕は『結婚しなければ、柳澤氏の信頼を得られない価値の男なのか』と問いかけ、許嫁の話は白紙になりました。
もちろん、許嫁として名乗り出てきたご令嬢の恋人さんをお連れしてから…あとはとんとん拍子という訳だ。柳澤氏は愛娘を目に入れても痛くないですから」
「こっわ……もう手を打ってあったんだ…龍一さんどんだけなの?」
キーボードの横で握られた、彼の手は力を入れすぎて血の気が失せている。佐々木さんを殴っただろう手の甲には血がついて、擦りむいて…傷だらけになっていた。
「何もかも、手を尽くしていた。先読みして、先手を打って、少なくともこのプロジェクトに関わった人の身辺まで全て手を回していたのに。……自分の親、以外はな」
「難儀だね。あんたの事を見ちゃいない奴が、勝手に幸せを願って幸せそのものだった優さんを奪ってさ。……殺すの?」
「殺したら、優さんが戻った時に悲しむでしょう。彼女は、そういう人だ。」
「そうだねぇ……死ぬより辛いことなんて沢山あるよね。私も小説家なんてやってるけどさ、事実は小説よりも奇なりだよ。アンタたちの人生もそうだし、情報提供で聞く話とかはさぁ、想像もしないものを聞くこともある。
……面白い話した奴、ピックアップしておくよ。私が作った売れない処女作のファンを守りたいんだ」
「……はい」
そう、私は優さんが好きなの。
私が命をかけて描いた作品で…数十冊しか売れなかったあの本を覚えててさ。今でも好きで居てくれたあの子を取り戻したい。誰にも傷つけられたくない。
危ない18禁の話を書きはじめてからブレイクした私の事を、色眼鏡で見る奴らばかりだったよ。
好きで書いてるわけじゃないのに、書きたいものが売れなかったから苦しくても売れる物を書いただけだったのに…スキモノだとか、犯罪者予備軍だと言われてた。
……優さんが、私が命をかけて書いた処女作を読んだ奇跡の読者さんだって聞いて、好きにならないわけないよね。
「もしかしてこれも知ってた?」
「東雲先生の悪評は、少しだけ。胡散臭い奴らから小説の題材を聞いたとか、買い取ったとか…。優さんに関わりがあるとは知りませんでしたよ」
「そっか。私もそろそろ身を隠して隠居かな。自暴自棄だったツケが来たんだろう。……優さんが帰ったらみんなで無人島暮らしでもするかぁ……」
「…………それはいいですね」
「社長、俺も連れてってくださいよ。南の島がいいっス。プロジェクトの人数少ないままで良かったですね?」
「……萩原……」
萩原さんも、なかなか優秀な人だなぁ、とこういう時には思うよね。人を増やさない様に苦心してたのはこの人だったみたいだし。
さっきのGPSを埋めろって話はガチでこの人のヤバさを物語ってる。
なんでそんな具体的話してたんだろうね。怖いね。
「佐々木さんはどーすんの?」
「本人と話してから決めますよ。僕はまだ、あいつに聞きたいことが山ほどある。
母を優さんの元に連れて行く前に、父とも交渉した筈だ。僕を裏切るつもりなら佐々木自身の力で優さんを攫っても良かっただろうに……こんな風に中途半端にするから攫われたんだ」
「中途半端は何事も良くないよねー。おっ、ヒットしたぞー!」
龍一氏と萩原さんが私が表示したパソコンの画面を覗き込み、とあるライブ中継を画面いっぱいに拡大する。
間違いなく、優さんだ。ふわふわワンピースのままで目隠しされて、サスペンスのドラマでよく見るような倉庫の中を映した…動画がアップロードされていた。
全員でそれを注視して、ゴクリと生唾を飲み込む。……ここからが、本番だ。
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