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言葉にならない想い
しおりを挟む『優さんはさ、龍一さんのことが好きだから入ってくる情報を全体的に俯瞰することはできない。だから、耳からも目からも情報を断ち切ったほうがいいよ。
私みたいな外部の人間からすれば否定的な意見なんかほんの一部だけに見える。
その証拠に動画の売り上げは、今3倍にまで跳ね上がってるから。』
「……さ、サン??えっ??」
『そー、笑っちゃうだろ、コメントなんか応援のメッセージしか無いよ。アダルトグッズの販売部門は悲鳴をあげてる。
開発したおもちゃは支払い済みの発注だけで到着まで一年待ち。動画内で使用宣伝してる他社はサーバー落ちてるよwwお祭り騒ぎすぎて面白いww』
「さ、さぎりさん…なんか楽しそうですね……」
ケラケラ笑ったさぎりさんが、とびきり優しい声で『優さん』と私の名前を呼ぶ。
動悸の止まらなかった心臓が落ち着いて、冷や汗がようやく止まってくれた。
『優さんはさぁ、とんでもない人に捕まったね?お金も地位もあって、仕事もできるし一途に愛してくれるし……病的なまでに。』
「あは。…はい」
『ストーカー部屋見たんだって?どうだった?』
「えっ?何でそれを…金庫の中は見てませんが、すごかったです。私だらけでした」
『本人から聞いたの。金庫…うん、見ないほうがいいと思う。そいで龍一さんの事微塵でも怖くなかったの?』
「怖かったですよ。どれだけの時をかけて、どれだけの苦労をしながら私を好きでいてくれたのかと思うと。どうやってあの人に返せばいいのか、わかりません」
『はー、いやいや、そりゃもう…どう突っ込んでいいのかわかんないや。ストーキングまで愛として受け取れるなら、優さんが愛してやるしかないね。他の女には無理。絶対無理。』
「そんなに、ですか?」
『そりゃそうだよ。セックス動画もさぁ…確かに可愛がってるし丁寧だけど、しつこすぎるでしょ。フツー軟膏塗りながらイかせないからね!?ほんでそれで優さん喜んでたでしょ?イヤー、末恐ろしいねぇ』
「……なんだか、すみません」
『お似合いのカップルなんだからいいじゃん。次の題材に使わせて欲しいくらいですよ。……漫画にしていい?小説より奇なりどこの話じゃないでしょ?』
「そうかも…ふふ、面白いですね」
「面白いで済んでるのがヤバいんだけど。でもその反応って…いいなぁ。ラブラブなんだなぁって思いますよ」
さぎりさんの呼吸が、言葉が私を落ち着かせてくれる。私が動揺してる場合じゃないのに。
龍一さんに、コーヒー淹れて…くっついて、キスしたい。
「さぎりさん、ちょっと…落ち着きました。」
『それならよかった。あんま無理しちゃダメだよ。
色々言われてもさぁ、言われる側が受け取る必要はない。悪口は受け取らなければその人に返っていくんだよ。
誰に何を言われたって、正しいのは龍一さんと優さんでしょ?もし違っててもひっくり返せるくらいの力があるんだから、いつもみたいにイチャイチャしててくださいな』
「うん……ありがとう、さぎりさん。」
『はい。何かの力になれたなら嬉しいです。アンダーグラウンド系の掲示板は私も動いてるからさぁ、優さんはどーんと構えてて。何かあったら一人で抱えないで、私とか、龍一さんにちゃんと言ってね。』
「はい。さぎりさん、本当にありがとうございました」
もう一度お礼を言って、通話を切る。
よし、と気合を入れて立ち上がり、わたしはコーヒーに再び挑もうと決めた。
━━━━━━
「龍一さん…」
『先方にはもう伝えてある。了承を得たから端からデータを出せ』
龍一さんはスマートフォンにイヤホンを繋ぎ、パソコンのディスプレイと睨めっこしてる。
私がそっとドアを開くと、厳しい顔に笑顔が浮かんだ。
ポンポン、と膝をたたき、私に伸ばされた手を握って彼の膝の上に乗る。
やっとうまく入れられたコーヒーをデスクに置いて、龍一さんに抱きついた。
「あぁ、そのように。そろそろ昼休憩にしよう。どちらにしろ連絡待ちだ。切るぞ」
イヤホンを外した彼の体にすっぽり包まれる。胸の中に湧き上がる感情が抑えきれずに、ポロポロ涙が溢れた。
私の背中に回った腕に力が込められる。
「優さん、すみません。一人にしてしまいましたね」
「龍一さん」
「ん?どうしました?」
「……コーヒー入れるのたくさん失敗しました」
ふ、と笑った彼が頭にキスが落とす。
胸元から彼を見上げると、頬を赤らめて微笑む彼がいて……首に両手を回してしがみつく。
「怖かったんですね。すみません…一人にして」
「龍一さんが、悪いんじゃないです。」
「この場合は僕のせいだと少々嬉しい気がしますが。
……コーヒーは捨てちゃいましたか?優さんの失敗なんて珍しいので、コレクションに欲しいのですが」
「だ、ダメです。…成功したコーヒーを飲んでください」
「ありがとうございます。…でも、僕は優さんのキスが欲しいです」
体を僅かにずらして、無理やり唇をくっつける。何だかちょっと余裕綽々の彼が憎らしくて、唇を食む。舌が差し込まれて首の後ろを固定された。
「ん…んふ…龍一さ…」
優しいキスで宥められて、体の力が抜けた。コーヒーを入れただけなのに、私の体は疲労感でいっぱいになっていた。
好きって、言いたいのに。口から出てこない。身体中に溢れた思いは何一つとして伝えられていないのに、龍一さんは全部わかってくれるような気がしている。
「…あ、あの…しばらく忙しいですか?」
「いいえ、あなたとの時間が最優先です。少し落ち着きましたから、お昼を作りましょうか」
「お腹空いてません。もうちょっと、ぎゅーっとしててください」
「はい。……ご褒美をいただけるとは嬉しいですね」
腕の中に閉じ込められて、幸せな気持ちに満たされて目を瞑る。
龍一さんが言っていたのと同じ気持ちになった。彼は私のものだ。誰にもあげたくない。
「……龍一さんは、私のです」
「ゆ…優さん」
「浮気しないでください。……浮気したら、女の子に触ったら、監禁します」
「浮気なんかしませんけど!監禁してください!!」
二人でぎゅうぎゅう抱きしめあって、おかしくなって笑ってしまう。
思い切り抱きしめられて、何もかもが言葉にならずに幸せな気持ちへと溶けていくのを感じた。
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