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ヤンデレの種明かし
しおりを挟む「…龍一さん、そろそろ離してください」
「いやです。やっと両思いになれたのに…1秒でも離れたくない」
「おトイレに行きたいんです」
「いいですよ。連れてってあげます。」
「そういうご趣味もあるんですか?」
「……わかりません。やってみますか?」
「絶対嫌です…流石に無理です」
「優さんがそう言うならしませんよ…ふふ、可愛いほっぺですね」
布団の上でいつまでもイチャイチャし続けて、時計の針はすでに真夜中を超えた。
二人とも何日かまともな食事をしていなかったから、食慣らしのスープしか食べてないけど…龍一さんがそのスープを作る時も手放してくれなかったし、いい加減おトイレに行きたくて限界を迎えている。
「と言うか、お仕事は大丈夫なんですか?」
「クレープ事件の前に一ヶ月分終わらせて来ました」
「……うそぉ…でも、佐々木さんは…」
「やめてください。ようやく手に入れた安息の一時にその名前は禁句です。
……あいつとは、後で話しますよ。」
「クビにしたりしませんよね?」
「しませんよ。殴り合いはするかも知れませんが」
「ええぇ…」
「ふん。ところでおトイレは大丈夫です?」
「……行きたいです」
くぅ…誤魔化せなかった…。ニコニコ笑顔の彼に抱き抱えられておトイレに連れて行かれてしまう。
便座に座らされて、じーっとしゃがみ込んで見つめられている…。
「龍一さん。それをするなら私は接触禁止令を出します」
「……それは大変困ります」
「あんなにしたのに…まだ足りないんですか?」
「はい」
うん、ちょっと頭が痛いです。ズキズキするこめかみを抑えて、龍一さんを追い払う。
しょんぼりした彼はドアを閉めてトイレの中から出て行った。
「龍一さん。音を聞かれたら私、憤死しますよ」
「……くっ」
足音が遠ざかり、ようやくほっと息をつく。はぁ…困った人だ……。
━━━━━━
「そろそろお洋服を着たいのですが」
「ダメです」
「だって、もうずっと何日も裸ですよ?あのお部屋にどの位居たんです?」
「延べ四日間ですかね…長い時間でした。監視カメラを見ていたので僕は完徹です」
「そんな無茶して…もうだめですよ。どこで見てたんですか?あ!秘密のお部屋?」
「そうです。……優さんは僕のヤンデレを受け止めてますけど、本当にいいんですか?割と真面目に四肢切断の準備をしていましたが」
「…そうですね、それは困りますけど。触られないのが寂しかったですし、気持ちいいけど怖かったです…。でも、龍一さんのことが恋しくて仕方なかったのが一番でした」
「…うぅ……公式供給が凄い。僕は心臓が持ちません……」
おトイレから戻ってきて、お布団の上でゴロゴロしつつ、真っ赤になった龍一さんの頭を抱えて抱きしめる。
この世の幸せを集めて、煮詰めたようなイチャイチャを味わっている。ふやけてしまいそうだ。
普通はこんなこと言われたら怖いって思うんだろうけれど、龍一さんはそこまでしない。……とは思う。
私を放置プレイしただけで、あんなふうに自分を追い詰めてしまう人が出来ることではないとは思う。
ストーカーは確かにそうだと思うけど、ヤンデレではないような…うーん?
「龍一さんのはヤンデレと言うんでしょうかねぇ…溺愛依存系…?でも監禁しちゃうし、ちょっとの事で四日も放置プレイしちゃうからヤンデレなのかな…うーん…」
「あの部屋を見たらヤンデレだと思うでしょうね」
「そんなにすごいんですか?」
「……ハイ」
すごく気になる…みたい。本当にヤンデレなのか確信が欲しい。
「龍一さん、ヤンデレ部屋を見たら嫌われるかも、とか思ってます?」
「ハイ」
「不安って事ですね?」
「それは、そうですが」
「じゃあ解消しましょうよ。私、見てみたいです」
「……………………」
「理不尽なヤキモチに耐え抜いた私にご褒美をください」
「ぐ……うぅ…わかりました…」
まだ足腰のしっかりしないわたしを抱えて、ようやくガウンを着せてもらい、リビングの隣の部屋…入ってはいけない、と言われた部屋の鍵を開ける。
ガチッ、と重たい音がして、扉がぎいぃと大きな音を立てて開く。
ドア、どうしたんですかこれ。めちゃくちゃ分厚いのですが。
お部屋の中は真っ暗で、パソコンの電源がついて作動音がしている。中に入ってドアを閉めると、異常なほどの密閉感。パソコンの画面には十個以上の画面が開きっぱなしになっている。
「わー…監視カメラお家にこんなについてたんですね。」
「ハイ」
「他にもあるんですか?ん?地図?」
「……ハイ」
パソコンの前にある、しっかりしたゲーミングチェアに卸してもらって龍一さんが開きっぱなしになっている窓をクリックする。わー、本当にすごぉい…。
以前通っていた会社に、駐輪場、前の自宅…わたしの移動範囲だったところが全部マーキングされていて、そこに監視カメラがあるみたい。
「わたしにもGPSついてたりしますか?」
「………………」
「ついてるんですねぇ」
「ハイ」
「電気つけてください。お部屋の中が見たいです」
「……本当に、嫌いになりませんか」
「なりません」
「……本当に本当ですか?」
「はい」
ワクワクしながら彼の瞳を見つめる。わずかに目の色が揺らぎ、眉を顰めて部屋の電気がついた。
真っ黒な壁が現れた…いや、違う。
六畳一間の小さなお部屋、そこには壁一面、天井にもびっしりとわたしの写真が折り重なって貼り付けてある。
「す、すごぉい…えっ、こんな写真どこで…あっ、こっちは飲み屋さん…出張先の写真もある!?」
「…………」
居所が悪そうに立ったままの龍一さんをよそに、わたしは椅子のキャスターで自在に動き回って写真を眺める。
わたしだけ撮影された写真が本当に隙間なく貼ってある。
このお部屋の重力が増したようになっているのはこのせいなのね…。
「あ…このコンビニ…肉まんの包み紙?」
「…………」
「もしかして、初めて出会った時のですか?」
「ハイ」
お部屋の真ん中に貼ってある、コンビニの写真とシワシワの肉まんについているあの紙が一緒にピンに刺さっている。
そっとそこに触れると、乾燥してカサカサになった紙の感触が伝わってくる。
わざわざ取っておいたの?何年も…。
……すごい。言葉にならない。
こんなにわたしのことを見てたの?すごい。
「龍一さん、そこにも何かあるんですね?」
部屋の隅に立って、ぴくりとも動かない彼は顔色が明らかに悪くなる。
後ろにはガラスのケースがあるようだ。
「わたしのパンツとかあるんですか?」
「…………」
「わたしが出したゴミとかだったりして」
「…………」
「龍一さん」
わたしは両手をワキワキしながらそこに近寄る。彼の足の脇に大きな斧と、謎の液体たちがあるのが見えたけど…なるほど、四本行くのは半ば本気だったんですね。
「や、やめてください。これは流石に」
「いやです。見たいです。さっき見せてくれるって言ったでしょ」
「…………」
「龍一さん、わたしに嘘つくんですか」
「う、嘘じゃ…」
「そうですか、じゃあわたしには見せてくれないんですね。わたしはもう隠してることなんか何にもないのに。ずっと一緒にいるのに、それを一生隠すんですね」
「………………くっ、う…………」
ワキワキしながら彼ににじりより、お腹に抱きつく。顎をくっつけて、下から見上げてそっと囁いた。
「あなたの全部を見せてください。龍一さん」
「………………くっ!!!」
両手で顔を覆った龍一さんを避けて、わたしは後ろのガラスケースにたどり着いて息を呑んだ。
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