49 / 79
嫉妬
しおりを挟む「卵焼き美味しいです。ネギとハムと胡麻がいいアクセントになっていて、ほんのりの甘さが僕好みです」
「あ、は、はい……」
「豚肉とキャベツの味噌炒めも美味しいです。胡椒多めでスパイシーなのも良いですね。豚肉がカリカリしていて、キャベツのシャキシャキ具合は別々に炒めて下さって手間がかかっているのは愛を感じます」
「はい……」
「お味噌汁のなめことお豆腐は鉄板ですね、彩りとしてカブの葉っぱが入っているのも、お漬物にカブと塩昆布とごま油のお漬物を作って下さったのも具材を無駄にしないと言う気遣いを感じます。」
「…………」
「ご飯も僕が帰ると伝えてから炊いて下さって、炊き立てツヤツヤ…僕は優さんと同じく硬めのご飯が好きですから、銀シャリコースで炊いて下さってとても好みの硬さで美味しいです」
「龍一さん、あの…ごめんなさい!!」
私は今、龍一さんの膝の上に乗せられて…お夕飯を食べる彼の解説?を超至近距離で聞かされている。
佐々木さんと東雲先生とクレープを食べすぎて、お夕飯の時間になって彼が帰宅してもお腹が空かず……一人で食べさせてしまう事になり。
『お腹がいっぱいです』と正直に伝えたら龍一さんはぷくっと頬を膨らませて、私に引っ付き虫になり、ご飯の用意が終わったら膝の上に拘束されてしまった。
この状況は、もうお説教に近い気がする。
「謝らなくて良いんですよ、後で佐々木に文句を言いますから」
「ち、違います!佐々木さんのせいじゃなくて、私がどれにするか迷っていたらたくさん買って下さっただけです。…みんなで分け合う事になってですね」
「そうですか。僕は許嫁(迷惑)と対峙して神経をすり減らし、優さんの作るご飯と、一緒に過ごす時間だけを楽しみに這いつくばって帰ってきたのに『一人で食べろ』と言われて悲しみに暮れています」
「……ごめんなさい」
「いいんですよ、僕が監禁している分お外の食事が楽しかったんですよね」
「うぅ…うう…」
お味噌汁を飲み切って、食事を終えた龍一さんは手を合わせて『ごちそうさまでした』と呟く。
ようやく私に目を合わせ、またもや頬を膨らませる。
「佐々木に取られたのが悔しいです」
「と、取ってないですし取られてません」
「本当ですか?クレープを買ってもらって絆されてませんか?」
「絆されてませんよ。あの…お夕飯のことはごめんなさい、後先考えずに食べすぎてしまって…クレープを食べたのが初めてだったので、はしゃいでしまってですね」
必死になって弁解をしていると、大きなため息が落ちてぎゅっと抱きしめられる。
「……わかってます。すみません。あなたを傷つけるつもりではありませんでした。……許してください」
「傷付いては、ないですよ。夕飯用意しておくって言ったら、一緒に食べたいですよね。私こそ本当にごめんなさい……」
二人して謝り合って、ホッとしたのも束の間…夕方まで胸の中にあったモヤモヤした気持ちが掘り起こされる。
佐々木さんが…あの時言った『忘れられない人がいる』『今日やっとその人に思い出してもらえた…』という言葉がずっとぐるぐるしていた。
昔の記憶の中のそーくんは、今の佐々木さんをそのまま小さくしたような見た目だった。それなのに気づけなかった。
あんなに助けてもらったのに、毎日嫌なことを忘れるくらい遊んでくれたのに。
エレベーターで抱きしめられて、泣きそうな顔で帰っていった彼の顔が…目を閉じると浮かんでしまう。
言葉にしてはいけない、考えてはいけないと思うほど彼の切ない表情が鮮明に思い出されて、胸が痛い。
「……やはり佐々木とはやり合う必要があるようです」
「えっ!?」
「今佐々木のことを考えていたでしょう」
「な、なんでそれを…あっ。」
「やはりか…何があったんですか」
「……ええと、ええと……」
ああ、もう。どうしてこの口は簡単に滑ってしまうの?何か言い訳をしなければと思うけど、何にも浮かんでこない。
肩をガシッと掴まれて、目前に龍一さんの厳しい眼差しが降ってくる。
「何かあったと言うことですね、その反応は」
「………………」
龍一さん、今度こそ結構怒ってる…。真っ直ぐに見つめてくる瞳からは、チリッと焼け付くような怒りを感じる。間違いなく嫉妬であるその感情を受け止めて、私の未熟な嘘では誤魔化しきれない事を悟った。
「話してくれますよね?佐々木に聞いた方がよければそうします」
「は、話します。……佐々木さんは、私が里子に来たお家のお隣さんでした。幼馴染…と言って良いのかわかりませんが、義兄から匿ってくれていた人なんです」
「……幼馴染…そんな事あいつは一言も言っていなかったのに」
呆然と呟いた龍一さんは、結構なショックを受けているみたいだ。口が半開きになって、眉間には皺が刻まれている。
抱きしめられたなんて言えるはずもない。
「それを、明かされたと?あなたは覚えていなかったんですか?」
「覚えていなかったと言いますか、言われて思い出したと言いますか…」
「なるほど、そこまでの執着は優さん側にはなかったと言う事ですね」
「……そうかも、しれません」
沈黙が降りて、龍一さんはじっと見つめてくる。彼の強い視線に耐えきれずに目を逸らした。
「察しました。お風呂に入りましょう」
「え?…な、なんでお風呂に?何を察したんですか?」
「いろいろと察しました。あなたの体に教え込まなければならない必要が出てきましたので」
「教え…な、何をですか?」
顎を掴まれて、強制的に龍一さんと目を合わせられる。じっと見つめてくる目の中は、いろんな感情が渦を巻いて私を飲み込み込もうとしてくる。
「あなたが誰のものかを。ここの奥の…」
「んっ…」
彼の人差し指がつぷり、と左胸に沈んでくる。
「一欠片にも…俺以外を残さない」
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる