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嫉妬
しおりを挟む「卵焼き美味しいです。ネギとハムと胡麻がいいアクセントになっていて、ほんのりの甘さが僕好みです」
「あ、は、はい……」
「豚肉とキャベツの味噌炒めも美味しいです。胡椒多めでスパイシーなのも良いですね。豚肉がカリカリしていて、キャベツのシャキシャキ具合は別々に炒めて下さって手間がかかっているのは愛を感じます」
「はい……」
「お味噌汁のなめことお豆腐は鉄板ですね、彩りとしてカブの葉っぱが入っているのも、お漬物にカブと塩昆布とごま油のお漬物を作って下さったのも具材を無駄にしないと言う気遣いを感じます。」
「…………」
「ご飯も僕が帰ると伝えてから炊いて下さって、炊き立てツヤツヤ…僕は優さんと同じく硬めのご飯が好きですから、銀シャリコースで炊いて下さってとても好みの硬さで美味しいです」
「龍一さん、あの…ごめんなさい!!」
私は今、龍一さんの膝の上に乗せられて…お夕飯を食べる彼の解説?を超至近距離で聞かされている。
佐々木さんと東雲先生とクレープを食べすぎて、お夕飯の時間になって彼が帰宅してもお腹が空かず……一人で食べさせてしまう事になり。
『お腹がいっぱいです』と正直に伝えたら龍一さんはぷくっと頬を膨らませて、私に引っ付き虫になり、ご飯の用意が終わったら膝の上に拘束されてしまった。
この状況は、もうお説教に近い気がする。
「謝らなくて良いんですよ、後で佐々木に文句を言いますから」
「ち、違います!佐々木さんのせいじゃなくて、私がどれにするか迷っていたらたくさん買って下さっただけです。…みんなで分け合う事になってですね」
「そうですか。僕は許嫁(迷惑)と対峙して神経をすり減らし、優さんの作るご飯と、一緒に過ごす時間だけを楽しみに這いつくばって帰ってきたのに『一人で食べろ』と言われて悲しみに暮れています」
「……ごめんなさい」
「いいんですよ、僕が監禁している分お外の食事が楽しかったんですよね」
「うぅ…うう…」
お味噌汁を飲み切って、食事を終えた龍一さんは手を合わせて『ごちそうさまでした』と呟く。
ようやく私に目を合わせ、またもや頬を膨らませる。
「佐々木に取られたのが悔しいです」
「と、取ってないですし取られてません」
「本当ですか?クレープを買ってもらって絆されてませんか?」
「絆されてませんよ。あの…お夕飯のことはごめんなさい、後先考えずに食べすぎてしまって…クレープを食べたのが初めてだったので、はしゃいでしまってですね」
必死になって弁解をしていると、大きなため息が落ちてぎゅっと抱きしめられる。
「……わかってます。すみません。あなたを傷つけるつもりではありませんでした。……許してください」
「傷付いては、ないですよ。夕飯用意しておくって言ったら、一緒に食べたいですよね。私こそ本当にごめんなさい……」
二人して謝り合って、ホッとしたのも束の間…夕方まで胸の中にあったモヤモヤした気持ちが掘り起こされる。
佐々木さんが…あの時言った『忘れられない人がいる』『今日やっとその人に思い出してもらえた…』という言葉がずっとぐるぐるしていた。
昔の記憶の中のそーくんは、今の佐々木さんをそのまま小さくしたような見た目だった。それなのに気づけなかった。
あんなに助けてもらったのに、毎日嫌なことを忘れるくらい遊んでくれたのに。
エレベーターで抱きしめられて、泣きそうな顔で帰っていった彼の顔が…目を閉じると浮かんでしまう。
言葉にしてはいけない、考えてはいけないと思うほど彼の切ない表情が鮮明に思い出されて、胸が痛い。
「……やはり佐々木とはやり合う必要があるようです」
「えっ!?」
「今佐々木のことを考えていたでしょう」
「な、なんでそれを…あっ。」
「やはりか…何があったんですか」
「……ええと、ええと……」
ああ、もう。どうしてこの口は簡単に滑ってしまうの?何か言い訳をしなければと思うけど、何にも浮かんでこない。
肩をガシッと掴まれて、目前に龍一さんの厳しい眼差しが降ってくる。
「何かあったと言うことですね、その反応は」
「………………」
龍一さん、今度こそ結構怒ってる…。真っ直ぐに見つめてくる瞳からは、チリッと焼け付くような怒りを感じる。間違いなく嫉妬であるその感情を受け止めて、私の未熟な嘘では誤魔化しきれない事を悟った。
「話してくれますよね?佐々木に聞いた方がよければそうします」
「は、話します。……佐々木さんは、私が里子に来たお家のお隣さんでした。幼馴染…と言って良いのかわかりませんが、義兄から匿ってくれていた人なんです」
「……幼馴染…そんな事あいつは一言も言っていなかったのに」
呆然と呟いた龍一さんは、結構なショックを受けているみたいだ。口が半開きになって、眉間には皺が刻まれている。
抱きしめられたなんて言えるはずもない。
「それを、明かされたと?あなたは覚えていなかったんですか?」
「覚えていなかったと言いますか、言われて思い出したと言いますか…」
「なるほど、そこまでの執着は優さん側にはなかったと言う事ですね」
「……そうかも、しれません」
沈黙が降りて、龍一さんはじっと見つめてくる。彼の強い視線に耐えきれずに目を逸らした。
「察しました。お風呂に入りましょう」
「え?…な、なんでお風呂に?何を察したんですか?」
「いろいろと察しました。あなたの体に教え込まなければならない必要が出てきましたので」
「教え…な、何をですか?」
顎を掴まれて、強制的に龍一さんと目を合わせられる。じっと見つめてくる目の中は、いろんな感情が渦を巻いて私を飲み込み込もうとしてくる。
「あなたが誰のものかを。ここの奥の…」
「んっ…」
彼の人差し指がつぷり、と左胸に沈んでくる。
「一欠片にも…俺以外を残さない」
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