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久しぶりの外出
しおりを挟む佐々木side
「では参ります。クレープ屋さんにはすぐ着きますので、何を食べたいか考えておいてください」
「お願いしまーす!クレープ屋さんの名前何ですか!」
「クレイジークレープという名前でしたね」
「おいっす!あったあった。イソスタにメニューありますよ!優さん、見ます?」
「わぁ、ありがとうございます!」
社用車に乗り込み、後部座席に優さんと東雲先生が仲良く座っている。
二人は年頃も近い女性同士、仲良くなれそうだった。
「東雲先生はどんなのが好きなんですか?カラフルなんですね、クレープって……」
「私はキャラメル系とかチョコ系の茶色いのが好きですよ!優さん、名前で呼んでほしいなー、なんて…」
「はわ……いいんですか?さぎりさん?」
「ヴッ゙…く…撃ち抜かれた…」
「えっ!?な、何を?大丈夫ですか!?」
「マイハートが撃ち抜かれました…優さんが可愛くて…はぁ。優さんはクレープ初ですよね?」
「は、はい!見たことはあります!……甘いものが普通だと思ったらしょっぱいのもあるんですね?」
「そうそう。サンドイッチみたいなイメージ?かなり軽い軽食見たいな。生地が薄いので二つ行ってもいいと思いますが…」
「そうなんですか?…この、ツナマヨコーンとハムが気になります…生地は甘いんでしょうか?」
「甘いのとしょっぱいのでここのお店は同じ生地だから『甘じょっぱい』感じで食べられますよ。病みつきになりそうですねぇ」
「美味しそう…あぁ、でもそのバターシュガーというのも気になります」
「全部の基本がバターシュガーですし確かにいいかも…でもせっかくだから生クリーム乗っかったやつも食べてほしいな…半分こします?」
「半分こ!お友達とするやつですよね!わぁ…わあぁ…憧れてました!」
赤信号待ちで車を止め、バックミラーで覗くと優さんは手を胸の前で組んで、東雲先生のスマホを覗き込んで飛び上がりそうなほどウキウキしている。
……可愛い。小さい時と何も変わっていない。自分の記憶そのままの姿に、思わず口の端が上がる。
「……いくつか買って、三人で分けましょうか」
「あっ、それいいですね。佐々木さん甘いのイケる口ですか!」
「えぇ、優さんはまたしばらく外に出られないでしょうから、せっかくですし楽しんでいただきましょう」
「三人で分けっこ!すごい!凄いですね!」
「可愛いことこの上ないんですが、あのー…優さんマジで監禁されてる?」
「え、えーと、監禁というか軟禁というか?でも、あの…不自由なく暮らしてますけど…」
「うーん…佐々木さん、ちと説明してほしいんですけど」
「……よろしいですか?優さん」
「あ、はい!私じゃうまく説明できないのでお願いします」
「かしこまりました」
しょんぼり眉を下げてしまった優さんから目線を外し、ハンドルを切りつつ優さんの現状を伝える。
元々モラハラを受けて、貧乏な生活を強いられていたこと。
その彼氏に捨てられて凍死しかけたこと。
うちの社長に絡め取られてはいたものの、それがきっかけで命を落とすことなく今の生活になり、社長の独占欲で軟禁状態であること。
ただし、生活自体は安定しており優さんも嫌がってはいないと言う話をした。
「もう一つ、新しい情報を加えておきます。優さんの過去動画は全て消去されたはずが、一部闇サイトを介して販売されています。……先生、お買い求めになられましたね」
「わー、こわーい…なんで知ってるんですかー。
すみません、優さんのことどこかで見たような気がして、個人的に気になって買いました」
「そのおかげでサイトを摘発できましたから問題ありませんよ。おそらく発信元は優さんの元彼です。……どこまでも浅ましい人のようですね」
「だいぶ癖ありですよね。刑事事件に発展しそうで怖いですわ。軟禁は仕方ないかも…こんな可愛いホワホワした優さんが外を歩いていたこと自体に恐怖を覚えます。それに、元カレ…多分諦めてないですよね」
「先生のおっしゃる通り、優さんの行方に懸賞金をかけているサイトを見つけています。すでにこちらも動いてはいますが…優さんは外に出ないほうが良さそうですね」
「……は、はい……」
「なるほど」
東雲先生は納得してくださったようだ。彼女は「怖い」と口にしながら怯えた様子を表すが、その実自分の気になることは解明されないと黙るタイプではないらしい。
優さんが好ましく、身のうちに入れてもいい、仲良くしたいと判断し、もし害がなされているなら何かしらの動きをしそうだった。
――なかなか、作家先生は手強そうですね。この存在が吉と出るか、凶と出るかは難しいところだ。
「そういう事情なら納得したんで、お仕事で応援します。社長がいなくて寂しい時は、私がお相手しますから。佐々木さん!私を介して色々優さんに協力してくださいよ!」
「えぇ、もちろんです。直は社長に殺されかねませんので…よろしくお願いします」
「社長やばいなー…でも、優さんのこと好きなら今のところ安全かな?
何かあったらなんでも言ってくださいね、優さん!」
「ありがとうございます…なんだか、嬉しいです。お友達が居てくれると、こんなに心が穏やかになるんですね」
「かわいい…うぅ…尊い…」
「さぎりさん…なんで泣くんですか…」
東雲先生は優さんに手を握られて仰け反り、額に手を当てて泣き出している。
慌てた様子でハンカチを持ち、それを拭う優さん……。
三上財閥の我儘お嬢様には感謝するしかないな……会長の手助けがあったとはいえ、社長から引き離すには一番わかりやすい口実だ。
優さんの風に揺れる長い髪を眺め、ため息をひとつ落としてクレープ屋の駐車場に乗り入れた。
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