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初めまして、神様
しおりを挟む優side
「先生…あのぉ」
「しっ。口を開かないでください」
「ええと、でもあの、いつまで目隠しをしてればいいんですか……?」
「会議室に着くまでです。下界の人間に声を聞かせないでください」
「下界って……でもあの、ざわざわしてますけど、大丈夫ですか?」
「気のせいです。」
「……社長…まさかその格好で……」
「うるさい。会議室は?」
「……はぁ、十番です」
カツカツカツ、と龍一さんの革靴の音が響く。さっきのは佐々木さんっぽい声だった様な。
私は昨日の夜遅くまで先生が手放してくれなかったおかげで歩けない…のと、なぜか久しぶりに外に出てきている。
耳から聞こえる人のざわめき、たくさんの足音…風が少し温かい気がするんだけど、もこもこのコートに包まれているから……若干暑い。
そして、目隠しをされたままなので何にも見えません。……なぜですか。
「10…ここだ」
バァン!とドアが開く音、若干遅れて女性の「ひいっ!?」という声が聞こえる。
「先生、ノックは必要だと思いますよ」
「しっ。口を開かないでと言ったでしょう」
「でもあの、怯えた声が聞こえた様な」
「気のせいです」
うーん、よく分からないけど…とりあえず私は抱えられたまま、先生が椅子?に腰掛けて…ぎゅうっと抱きしめられる。
「お望みのウチのアイドルを連れてきたが。君がコメントした人で間違いないか」
「は、はい…えっ、本当にユウさん?目隠ししてるし、もこもこに包まれててよく分からないのですが」
「チッ」
「ひいっ!?」
「社長…怯えてしまっているじゃないですか。」
「こんちわーっす!うぉ…過保護にされてるユウさん…こんちわっす…」
「佐々木さんと萩原さんですか?お疲れ様です」
「そうですよ、ユウさん。
……社長、流石にそれでは誰だか分かりませんよ。ただでさえ突然我々に連れてこられて…そんな様子では作家先生がますます怯えてしまいます。ユウさんが所属していると確信できたらご協力くださるとおっしゃってるんですから……」
「……チッ」
なるほど、事態が把握できました。昨日のライブはコメントをくださった方をあぶり出して捕まえるためにしたものだったと言う事ですね。人様を拉致監禁したんですね、また。
「先生ー。話が読めました。コメントで売り上げを伸ばしてくださった方を…拉致したんですね?」
「拉致ではありません。」
「いや、拉致でしたよね!?突然ウチに来て『ネタは上がってる』と高級車に詰め込まれて此処に連れて来られたんですがっ!?」
「先生……だめですよ、一般の方をそんな風に…」
「すみません」
「私ならまだしも、普通の人は怯えますよ?」
「すみません」
「全然反省してませんねぇ」
「いや、つっこみたいっす…やっぱユウちゃん、拉致られたんスか…」
「そうだろうと思ってはいました」
「なんなの!?拉致常習犯なの!??? ?私もエロ漫画みたいなことされるの!?」
「作家先生、落ち着いてください。あなたにはその様なことをしません」
「ユ、ユ、ユウタンにはしてるんじゃん!?け、警察!通報!」
「あ、あの!」
作家の先生なのかな…さっきから怯えながらも自己主張の激しいコメント師さんがワタワタしてる。
警察はちょっと、困るかな…。
「あの、私はその…雪の中で死にかけているところを先生に…あっ、作家先生じゃなくて!あの、この人…社長さんに拾われましたので、拉致とかではないです!……多分」
「多分ではないでしょう。あのままなら死んでましたよ」
「あ、はい、おっしゃる通りです」
「マインドコントロール…?ううん……」
「それも違いますよー。私はその、えと……自分の意思で先生のもとにいます。可愛がられてます。動画を見てくださっているなら、わかってくださるかなって思うのですが」
「確かにそれは否定できませんね!」
あなた達の動画は確かに愛を感じました…お互いが愛し合っているのがよーく分かりますから!!」
「あ、あの、えぇと……」
「作家先生、言い値で雇います。あなたの望むままに報酬を出しましょう」
「社長!なぜ逆に絆されているんですか!」
「予算枠でお願いしたいっすー。てかいい加減ユウさんの目隠し解いてあげて欲しいっす。可哀想っすよ」
「ぬ、う……」
「先生、私も解いて欲しいです。お仕事をお願いする方なのに、これは失礼だと思いませんか?」
「はい……」
「ね?解いて下さい。誰も私に惚れたりしませんし、取ったりしませんから」
「……はい」
渋々、と言った様子でようやく目隠しを取られて、お部屋の明かりの眩しさに目を細める。だんだんと慣れて見えてきたのは、六人がけくらいの大きさの会議室の中、佐々木さんと萩原さんが入り口付近で立ち尽くしている。……通せんぼですか?
私の真正面に座った女性…ずいぶん若い。髪の毛が癖っ毛でふわふわカーリーな髪の毛、まんまるの黒い目、頬にそばかすが浮かんでいる。
徹夜明けなのか、目の下にクマが…私をじっと見つめて、呆然としている。
「あの、初めまして。優です。徹夜明けですか…?突然お連れして申し訳ありません」
「ホ、ホンモノ!!」
「はい、あの…普通の人ですみません」
「きゃわいい…ユウたん!!」
手を組んで、キュルンとした瞳でじっと見つめてきた彼女はにっこり微笑む。
「普通が一番いいんですよ!それに、あなたの魅力はその性格ですから!とってもとっても可愛いです!わたし…作家の東雲さぎりと申します!」
えっ…!?しののめ…東雲さぎり先生!?私、知ってます!
「あ、あの!先生は児童文学を書いていらっしゃいませんでしたか!?」
「おっと!?私の処女作をご存知でしたか!」
「はい!はい…わぁ、わあぁ…私、ファンです!サインくださ…むぐ!」
身を乗り出した私の口を押さえて、先生がじろりと睨んでくる。
「これ以上の接触を禁じます」
「ふぁんへへふか!」
「まさか優さんの好きな作家さんとは…これは流石に知らなかったです。お家に帰ったら詳しくお聞きします。」
「……むー」
ニコニコした東雲先生と、口を塞がれてご不満な私、さらに不機嫌な先生と呆れ顔の佐々木さん、萩原さん。
新しいメンバーの面談にしてはやや怪しめのスタートだった。
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