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お夕飯

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優side

「優さん、美味しいスイーツを買って来ました…。許してください」
「……べ、別に許すとかそんな…」
「まだ怒ってますか?」
「怒ってないですよ」
 
「ホントですか?僕のこと、嫌いになってませんか?」
「なるわけないです。お夕飯できてますから、早く食べましょう?」


 
 夕方、定時ぴったりで会社を出て来たであろう龍一さんが大量の荷物と白いケーキの箱を持って帰って来た。
私としてはオイルマッサージのプレイがちょっと恥ずかしくて、拗ねただけだったのに。いつの間にか怒ったと思われていたらしい。『お仕事行ってきてもいいんですよ!』って言ったから?
 ……お弁当ちゃんと作って渡したし、わかってるのかと思ってた。
可哀想なことしちゃったかな……。


 
 もそもそと靴を脱いで、リビングにやって来た彼はテーブルの上に白い箱を置いて、大量の荷物と共にリビングを出ていく。
 ……あれ、なんだろう…なんかコソコソしてる…。

 私がリビングのドアからじっとその様子を伺っていると、荷物を廊下に置いて手洗いを済ませ、私と同じ格好でお風呂場のドアから顔だけ出した。
 なにそれ、かわいい。



「……んふっ」
「優さん……」
「怒ってないです、ほんとに。恥ずかしかっただけですよ。龍一さんと食べたくてお夕飯待ってたんですから、早くこっち来てください」
「!!」

 

 龍一さんがお風呂場のドアから姿を現して、トテトテ早足でやって来る。両手が差し伸べられて、くすぐったいような気持ちを抱えながら彼の腕の中におさまり、ぎゅうっと抱きしめた。

「ただいま、帰りました」
「おかえりなさい、龍一さん」
「………………」
 
「どうしたんですか?」
「あなたに迎えていただける幸せを…噛み締めてました。」
「ふふ…大袈裟ですよ。お腹空きましたし、ご飯食べましょ」
「はい」


 笑顔になって二人でキッチンに立つ。スープを温めるためにガスの火をつけ、上に散らすためのミツバを調理用鋏で切る。相変わらず包丁は龍一さんがいないと触らせてもらえない。

「今日は、和食ですか」
「はい。あんなに大ぶりの鰤がデーンと置かれてたら、それは和食になりますよ」
「鰤、好きでしょう?」
「大好きです!照り焼きにしましたよー」
「いいですね…大根おろし、作りますか?」
 
「あっ!お願いします!」
「はい」


 こうして二人でキッチンに立つ事は、この上なく幸せな気分にさせてくれる。手伝うとかそう言う事じゃなくて、生活を一緒にしてくれていると言う実感が湧く行為だった。
 元彼とも、他の誰ともしてこなかったこう言う時間が愛おしい。


 
 あらかじめ火を通しておいた鰤の照り焼きも温め、タレを少し増やすためにスープの出汁を少し足す。
 お味噌汁にしなかったのはこのためだ。お野菜の出汁と顆粒だし、少しの塩だけで味をつけた具沢山のお野菜スープはホワホワと白い湯気を立てている。

 大根おろしをあっという間に作って、龍一さんがお弁当箱を洗い始める。


「あ、私やりますよ」
「いいえ。作ってくださった方は後片付けをしてはいけません。今日の晩御飯の分もですよ。」
「そ、そうですか?」
「そうです。スープが温まりましたね。あとはお漬物と、ひじきの煮物、フルーツを出せばいいですか?」

「あ、は、はい。龍一さんが買ってきてくれたスイーツが入るか心配です」
「明日でもいいんですよ。僕は優さんの剥いたフルーツが食べたいです。」
「そう言ってくれるならよかったです。スイーツは明日ですね」
 
「えぇ。…優さんは本当にお料理が上手ですね…コンビニ弁当を買えなくなりました」
「そうですか?うーん…」

 

 
 正直なことを言おう。食べたいと思った食材が必ず冷蔵庫に入ってるから…そしてあまりある時間があるからかなり手の込んだお料理を作っている自覚はある。
 彼が渡してくる物は、お仕事といってもすぐに終わってしまうものばかりだし… エッチなことしかしてないし…体力は余っている。
手の込んだ料理ばかりの虜にしてしまうのは良くないと思いつつ、この生活が続くならできるだけ美味しいものを食べさせてあげたいとも思う。
 私がいなくなった後に…彼が一抹の寂しさを覚えてくれればいい、とさえ思っている。


「優さん…」
「はいっ!?」
「何かよからぬことを考えている気配がしました」
「か、考えてないです!」


 

 お玉を両手で抱え、後ろから抱きしめられた。龍一さんの手がお腹の前で結ばれる。
 襟ぐりが大きいTシャツは抱きつかれた衝撃で肩口が露出して、そこにキスされた。

「ん…」
「セクシーですね」
 
「す、スープ、冷めちゃいますよ」
「……はい」 

 ━━━━━━

 二人でいただきます、と手を合わせて艶々の鰤照りに箸を入れる。
ジュワッと染み出す油、甘辛いタレに絡めて大根おろしを乗せて…。

 
「んん!」
「これは…美味しいですね」
「鰤さんがとっても良い品質でしたからね…美味しいです…!!」
 
「優さんが作ったからですよ。ひじきの煮物も美味しいです。ひき肉の旨みを大豆が吸ってますね」
 
「和食好きですか?」
「優さんが作った物なら何でも好きです。お漬物に柚が入ってるのは良いですね…爽やかで…あなたの手で絞られただろうきゅうりが格別です!スープの玉ねぎもにんじんも美味しい…」 
「いちいち私を引き合いに出さなくても…。あ、包丁が使えればさらに良いんですけどねぇー…」

「僕があらかじめ切っておきますよ?」
「カット野菜は栄養価が下がるからダメです。どうしてそんなに頑ななんですか?私、自殺したりしませんけど」
 
「確かに…今ならそうかもしれません」
「やっぱり、心配してたんですか?」

 こくり、と頷いた彼はスープを啜ってほわほわ微笑んでいる。
こう言うところは頑固なんですよねぇ…。


 
「女性は思いもよらぬところで決断してしまう人が多い。あなたは特にそうです。勝手に判断してすっぱり諦めたりするでしょう。
 まだダメです。僕が安心するまで一人では使わせません」

「カミソリもですか?」
「お風呂の時に必要なら僕がします」
「そ、それはちょっとあの……」
「今日しましょうか?あまり生えてませんが。」
「……うー。」


「あぁ、そうだ…今日はライブをしますよ。一人、捕まえたい人がいまして」
「捕まえる?…他にもストーカーしてるんですか?」
「僕はストーキングしてません。萩原に任せました。あなたの動画にコメントしてきた人で、素晴らしい人材が現れたんです」


「コメント…?人材????」
「……ふふ、とりあえずご飯を食べてしまいましょう。ゆっくり食べてください。僕は優さんの手が触れた食べ物をしっかり咀嚼したいので」
「……うー…」


 素直に美味しい、とだけいって欲しいけど…さっきまでの心配そうな顔は無くなったからよしとしよう。
 ライブ配信は久しぶりかな?気合い入れてスタミナをつけましょうっ!

 私はご飯の茶碗をガシッと掴み、もりもりご飯を食べた。

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