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おもちゃ宅急便
しおりを挟む「……あの」
「よいしょ…よいしょ…」
「せ、先生?私手伝いますよ」
「ダメです。あなたには箸より重いものを持たせません。じっとしててください」
「で、でも…こんなにたくさん…」
社内会議が強制終了して、その日のお昼。ご飯を食べていたら宅急便が届きました。……ものすごい量の。
「これ…まさか全部おもちゃですか」
「いや、僕が注文したものもあります」
「おもちゃを追加したんですか?」
「いいえ。あなたのお洋服です」
「……お洋服!」
ダンボールを次々に置いて、リビングがすっかり段ボールまみれになった頃、ようやく先生が額の汗を拭った。
コップに水を注いで手渡すと、笑顔と共にキスが落ちてくる。
「ん、せん…むっ」
「優さんが僕にお水を下さるなんて…」
「む…んんっ!ちょ、ちょっと。まだダメです。…撮影、するでしょう?」
「…………ハイ」
Tシャツの脇から入ってきた手を避けて、無理やり体を引き剥がす。素直に離してくれた先生は水の入ったグラスを一気に煽って、ダンボールを開けはじめた。
「優さんのお洋服はこちらです。部屋着を増やしました」
「ありがとうございます!えっちな服しかなくて困ってました!」
「……お外に出ないでくださいね」
「わかってますよ…」
ダンボールを三つ開けた先生は不満げな顔をしてる。
でも、これで普通にお着替えできる!!
ダンボールの中を眺めていると「出していいですよ」と言われて中を探った。
ダボダボTシャツ…なんでこんなにたくさん?えっ、これだけ!?
白いTシャツと黒いTシャツ…全部先生のサイズなのですが。昨日着ていたものと全く同じ服が山のように入っている。
「それなら外に出られませんよね」
「あの、下は?」
「ワンピースみたいに着てください」
「ふぇ…」
い、いやきっと二つ目の箱にはまともなお洋服が!
二つ目のダンボールから出てきたのはえっちな衣装…。ボンテージ、水着、セーラー服……。
三つ目!三つ目です!!そこにきっと!!
「……手錠、拘束具、よくわかんない複雑な形のベルトが多いですけど…」
「優さんに似合いますよ!」
「似合いたくありません。…可愛いお洋服が欲しかったです」
「………………」
「ダボダボTシャツも良いけど、普通のお洋服が欲しかった」
「………………」
「お外に出てないのに。良い子にしてるのに。監禁されてても文句言わないのに。私の好きなお洋服知ってるって言ってたのに。嘘ですか」
「くっ…」
ぶつぶつ呟くと、むぅ、と答えた先生が渋々小さめな箱を取り出した。
テーブルの上でそれを開けて、手招きされる。
「……わ!わぁぁ!!」
「僕がいる時だけですよ」
「はい!はい!!かわいい!可愛いっ!きゃああ!」
ぷくっと頬を膨らませた先生がダンボールをたたみ始めた。一際大きいダンボールに山と積まれたおもちゃが…そんなに届いたんですか?
そ、それよりも!!
「可愛いワンピース!パーカーのやつ!あっ!ショートパンツも!ふわふわスカートにシンプルブラウス!はわわ…はわわわ!」
グレーやくすみピンクの可愛いお洋服たち。先生、私の好みを本当に知ってたんだ!
「あっ…これ…うそ…」
奥から現れた、カチューシャ。
パールがついていて、大人かわいい雰囲気のそれは…私が拾われた日につけていたものだ。
「……あの日の服も、ちゃんと取ってあります。目一杯可愛くなりたくて選んだ服を着たあなたを見て、褒めそやしたいので。
カチューシャは慌てて運んでしまったので途中でなくしたんです。同じものを探してようやく見つけました」
「せん…せ」
後ろから抱きしめてくる先生は、少し小さな声でそう告げる。
あの日一人ぼっちだった私の思い出のために…これを探してくれたの?
「あなたの悲しい記憶は僕が全部塗り替えます。……僕が出遅れてしまった贖罪になるかわかりませんが。」
「そんなの…いいのに。わたし…わたし、なんて言って良いかわかんないです」
胸の奥底からあの日の寂しい気持ちが、悲しい気持ちが湧き出して、抱きしめてくれる彼の言葉がそれを上書きしていく。
あたたかくて、優しくて、甘くて…私のお腹の前で組まれてぎゅうっと握り締められたその手は、力を込められすぎて白くなっている。
その手を撫でて、両手で自分の顔に引き寄せてわたしは頬をすり寄せる。
だいすき……私の事をちゃんとみて、ちゃんと大切にしてくれる。
あの日の事も、今までのトラウマたちも、先生が全部塗り替えてくれる。
私の事を女神だなんて言っていたけど、私にとってはあなたが神様だった。雪の中で死にたがっていた私は、先生が全部掬い上げてくれたから。
「ありがとうございます。嬉しいです」
「…かわいい声になってますよ。元々かわいいけれど…。」
揺れる心を察知した先生は、首筋に唇で触れる。
おへそのあたりから服の中に侵入してくる手を受け入れて、目を閉じて…わたしはあたたかい涙をこぼした。
「先生、今日はわたし…なんでもします。お洋服も、やりたい事も、全部」
「本当ですか?ハードなプレイだったらどうするんです?」
「いいですよ。…いまから、しますか?」
腕の中で向きを変えて、彼と向き合い首に手を回す。柔らかい唇が触れて、その熱が私にも感染した。
「楽しみですねぇ…」
先生の笑顔の中に潜んだギラギラした欲望。それは私の中の本能を呼び覚ます気がした。
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