【完結】ストーカーに拾われて、心も体も満たされる──『ラブトイ』動画配信で下剋上を果たします!

只深

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「いいですか?画角を変えないように。横から肌が見えますから」
「あの…別に会社の人なら見えてもいいのでは?」
「イヤです。ミリ単位で見せたくありません。あなたの可愛いお顔も肌も絶対見せません。……はじめますよ」
「ふぁい…」


 ノートパソコンの前に二人で並んで座り、これから社内の企画会議に出るらしい。
 昨晩の熱がまだお腹に残ったままの私を見て、マスクとサングラスをかけ、お洋服の上から先生のジャケットを被せている。
 先生はパリッとしたスーツ姿なのに、横に並ぶ私がこんなのでいいのかな…?


 
 インターネットブラウザを立ち上げ、Mメールにログインしてミーティングのボタンをポチッと押す。

 すぐに相手側の画面が映り、会議室っぽい感じの室内が見えた。
 そこに次々と着席して行くスーツ姿の人たち。私の姿を見てみんなギョッとしてるんですが…大丈夫なのかな。


『しゃ、社長…』
「彼女に対する質問には答えない」
『は、はい…』


 そんなに手をぎゅっとしなくても、相手は画面の向こうですよ?社員さんに威嚇しないで欲しい…。

 

『お疲れ様です。全員揃いましたので会議を始めます。初顔合わせですし、自己紹介をしますか?』
「あぁ」

 短く答えた先生に頷き、全員が立ち上がって一列に並ぶ。
先生よりも年上の人が多い気がする…。

『今回の企画リーダーを拝命いたしました、佐々木です。普段は社長補佐をしております』
『物流担当、小川です』
『各社との連携を担当します結城です』
『ね、ねねねねねネット関連担当の萩原です!!!!!!!!!!!』


 
 最後に喋った男性は…どうしたんだろう。顔が真っ赤で汗を大量に流しているけど…風邪かな?

 とりあえずみなさんが『よろしくお願いします』と頭を下げたので、私も倣ってぺこりと頭を下げた。
 皆さんが着席して、じっとこちらを見てる。

「萩原はあなたのファンでした。あまり優しくしないでください」
「あっ、そうなんですか?お礼をお伝えするべきでは?」
「ダメです。」

「えぇ…じゃあ自己紹介を…」
「ダメです。」
「ええぇ…」

 私と先生の様子を見て、企画リーダーの佐々木さんがため息をつく。
先生の右腕的な人なのかな?涼やかな所作で冊子をメンバー皆さんに渡して、ぺらりとめくった。

『では、まず方向性の確認から参ります。
 便宜上女性の前で不適切な発言があるかと思われますが、ご容赦下さいますか?』

 佐々木さんが画面を覗き込んでくる。視線がこっちを向いてるし、他に女性がいないから私だよね?

 
『あ、はい。大丈夫です』
「佐々木、質問するなら私にしろ」
『はぁー……わかりました』

「先生!ダメですよ、そんなの」
「優さんの声を聞かせるなんて我慢ならないんです。あまり喋らないでください」
「……ええぇ…」


 画面の向こうの皆さんに申し訳ないんですけど…。仕方なく手元にある書類を私も開いた。企画名は『ラブトイ─貴女に夢のひとときを─』と書いてある。
 ……随分ポエミーですね?


『今回の企画の始まりとして、まず…当社のアイドルであるユウさんが叩き出した数字から発表します。
 先日の動画が最大同接数26万人、投げ銭の総額が資料に記載されていますのでご確認ください』

 ほうほう。資料の数字を見つけて、私はポカンとしてしまう。
 ……ゼロが多くありませんか?
 いち、じゅう、ひゃく、せん…まん…じゅうまん、ひゃ……いやいやいや。いやいやいやいや。


 
「数字が間違っていませんか?」
「間違ってません。190万6700円です」
「……うそぉ…」

『嘘ではないですよ。ちなみに日本のVtuberランキングではその日一位です。アダルト業界のみではなく全般的な数字です。仲介業者の手数料がそこから引かれますが100万は固いですね』
「………………」

『現在切り抜き動画、ニュースサイト等でも取り上げられており、そちらからも収益が上がります。当社ではこの部門の立ち上げが初めてですので、データ集積の経験がなく予測ができません』
 
「いつから可能になる?」
『一週間いただきたいのですが…』
「ほう?」
『三日でソフトを作ります』
「そうしてくれ」


 先生…怖いですね。佐々木さんは一瞬でスケジュールを変更して答えているけど眉間に皺が寄っている。

 
 
『この数字を元に当社でホームページを作成いたしました。
 扱う商品は他社からの提供を精査中、アダルトグッズ作成の工場を手配済みですが…いくつかご使用され、動画をアップしてユウさん+観衆で作り上げるという形を考えています。
 また、その後各社に感想を提供。そちらでも報酬が発生し、当社の動画サイトへの専用リンクが配られます』
 
『各社からはすでに提供物資が届き、同じものを社長のお宅にも送付済みですが…』

「まだ来ていない。5.10日ごとうびだからな」
『も、申し訳ありません!物流担当でありながら…』
「いや。近々の日付で動いているんだ。今回は気にしなくていい」
『はい…』

 冷や汗をかきながら物流担当の小川さんが答えている。先生が手元のスマートフォンでホームページを見せてくれた。

「ホームページを見て、どう思われたかご意見をください」
「は、はい!」
 
 ファンシーかつ、キラキラした画面…見辛い。
ぽちぽち押してみると、ブランドコンセプトが出て来た。

 

─ラブトイは貴女自身を愛するアイテム―
―今まで叶えられなかった欲望を満たす魔法のひととき─
 ─あなたの心を、体をケアしませんか─
 
 ホワホワ系の文字がアニメーションで浮かんでくるけど……うーーーん。

 文字たちが消えた後に、妖精の影絵が現れてすうっと消えて行く。その後にメニューが表示され、movie、ラブトイ、⚪︎⚪︎者提供品と項目が表示された。


 
『ホームページをご覧になって、何かご感想をいただけますか』
「優さん?」

 ………………いいのかな。本音を言っても。すごくすごく胸が痛い。昨日の今日で作り上げてくださっただろう、ネットの担当者である萩原さんは、目の下にクマができてる。
 一生懸命作ってくれたんだと分かる。

「いいんですよ、素直に言ってください」
「はい…じゃあ……」

 私はサイトをぽちぽちしつつ、重たい口を開いた。
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