【完結】ストーカーに拾われて、心も体も満たされる──『ラブトイ』動画配信で下剋上を果たします!

只深

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昨日の夜のこと

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「今日はお休みを取りました。お話があります」
「は、はい…」


 
 昨日と同じく二人で朝ごはんを作ったけれど、その間も先生との会話は少なかった。
 怒っている感じは無くなったかな…今は何となく、落ち込んでいるように見える。

 私は何故か先生のTシャツとパンツを着せられてます。ブカブカの袖をたくし上げて、先生の体がどれだけ大きいのか実感している。
 彼の体を知った今は、何となく照れ臭い。隣にピッタリくっついて、手を握ったままの先生が私の眼前に顔を寄せてきた。

 

「僕は、あなたに謝らなければならないことが二つあります」
「謝る…?二つもですか?」
 
「はい。まずは、昨日の晩寂しい思いをさせてすみませんでした。
 それなのに…あなたが来てから毎晩、一緒に寝ていた成果が出たと思って…満足感を得ました。」

「……は、え?はい…はい?」
「…これは二つのうちの一つです。寂しい思いをさせたことが申し訳なく、嬉しかったです。もう一つあります」
「はぇ…はい」


 若干理解できないまま目の前にピッ、と、人差し指が掲げられる。ゆっくりと中指がそれに沿って立ち「二つ目です」と先生が告げた。

 

「昨日の夜、あなたが録画だと思っていた動画は…ネット上に公開されていました」
「……えっ!?」
 
「僕の部下が…あなたに渡したスマホのセッティングをした際、撮影アプリの中に動画を公開するための設定を組み込んでいたんです。
 偶然あなたがそれを押してしまって…PHONE HUBというサイトに、生ライブ中継されてしまいました」


「……へぁ…え、ええと…ど、どこからですか?」
「最初の方はまだ見ていませんが、撮影の時にピンク色のボタンを押しましたね?」
「まさかあそこから…?」
「はい。そして、僕が帰宅しておねだりされて…」


「っま、待って下さい……」
「はい」

 先生が示したピースの指を両手で掴み、握りしめる。
 
「わ、私のえっちな動画が、前みたいにネットに拡散されてしまっ……ち、ちょっと…手にキスしないでください!」
 
 先生が真顔で私の手にチュッチュッとキスしてくる。
もう!真面目な話してるのにっ!

 

「先生っ!」 
「可愛くてつい。すみません」
「うぅ…と言うか、あの…私昨日はこう、先生にいつもと違う感じのものをご提供したくて。あ、アレをしてたんです」
「二穴挿入プレイですね」
 
「うっ…はい。本当に拡散されてしまいましたか?」
「はい。…会社の部下が見ていたので間違いありません。車をぶっ飛ばして帰って来て、優さんの体を隠しましたが…」

「わあぁ…あぁ…やってしまった…」

 

 先生の指に自分の顔を押し付ける。私、やらかした。先生はそれに怒ってるのかもしれない。そして、がっかりしてるのかも…どうしたらいいんだろう。

 
「優さん、あなたのせいじゃありません。拡散するようなアプリを入れて手渡した、僕の責任です。…すみませんでした」
「ち、ちがいます!私がよくわからないままボタンを押したから…ごめんなさい。先生だけに見せるつもりでいたのに…」
 
「……僕の優さんが他人に見られたと思うと、正直腑が煮え繰り返りそうです。僕だけの可愛い姿を、僕だけに見せてもらうつもりでいたのに…油断しました。
 スマホの設定者は現在自宅謹慎中、追って沙汰を下します」

「先生!そ、その人のせいでもないような?ダメです!…ダメですよ、そんな簡単に処分とかは。」
 
「…………どうしてですか?」
「あの、あの…ええと…」



 頭の中がぐるぐるして、何を言っていいのかわからない。
 
 スマホを設定してくれた人が、もしかして責任を取らされてしまうの?それはマズイ。もしご家族がいる方なら本人だけじゃなくて、奥さんやお子さんにも被害が及ぶし…お家のローンがあったりとか、教育ローンがあったりとかするかも知れない。
 もし万が一、そんな人がクビにでもなってしまったら。私は申し訳なくて、罪悪感で立ち直れません!

 それだけは避けなければならない…どうしたら…なんて言えば先生は納得する?
 でも、待って…。これって、私が役に立つお仕事になり得るのでは?
そう、そうだ!その線で行きましょう!

 

「せ、先生!私の動画はお金になりましたか?」
「……」
「あの、生配信は確か、投げ銭という制度がありまして。もしかして食事代くらいにはなったのでは?」
「……」


「私は…先生に助けてもらいましたし、もし少しでもお金になるなら、却ってラッキー…んっ」

 先生が私の唇を唇で塞ぎ、何度か啄んで離れる。眉を下げて眉間に皺が寄った、昨日の夜と同じ顔の先生がそこにいる。

 

「お金なんてどうでもいいです」
「……でも」
「僕はあなたに不自由をさせません。…家からは出しませんけど」
 
「私は先生の役に立ちたいです。お仕事がしたいです。
 お家で帰りを待って、家政婦さんみたいなのもいいかな、って思ってました。ご飯を作ったり、お掃除したり、おもちゃのお仕事したり、レポートを書いたり…でも、先生…もし、私の動画が少しでも役に立つなら家賃の代わりとか、そう言うものになりませんか?」


 
 口を動かしながら、だんだん頭の中がスッキリしてくる。
 先生に囲われてばかりで何もできなくて、何もかもを与えられるままなんてイヤ。先生がそれでいいって言っても、先生のために何かしたい。
 


「家賃どころじゃありません。…昨晩の収益は恐ろしい額になってしまいました」
「恐ろしい…?私は先生に何かお返しできそうですか?」

「そんなに、僕に借りを作りたくないんですか」
「そうじゃないです。私は今のままではダメなんです。幸せに甘やかされているだけじゃなくて、先生の役に立つ自分が欲しいんです。そうじゃなければ目一杯甘えられる気がしません」

「むぅ……」

 沈黙した先生は眉をもにもに動かしている…。もう一押しっぽい?

「私がここにいてもいい理由が、先生の気持ち以外にも欲しいです。
 私が、私で居られるように…私が…いつか先生に言いたいことができたら、ちゃんと……伝えられるように」

 

 ぼかしにぼかして伝えては見たけれど、そんな日が来るのかはわからない。
 収益がどのくらいかも聞いていないのに、こんな事言うなんて烏滸がましいけど。

 私は先生の事を…多分、好きになりかけている。そしてそれを伝える資格がないとも思う。今のままでは、彼のお荷物でしかない。ニートなのも嫌だし…おもちゃのお仕事は、私が先生を好きになったら終わってしまうかもしれない。

 契約書の最後の一文を思い出し、目を瞑る。


『おもちゃの仕事を辞めたいと申告があった場合、または関係性が変わった場合は、上記の契約は解約とする』


 
 雇用主である彼に好きだと伝えれば、おもちゃとしての私の立場がなくなる。
先生が私を嫌いになってもそうだし、飽きても同じことが起きると思うけど。
 
 ……もしかしたら、最初からおもちゃとしてのお仕事を円滑にするために、色恋にしていた可能性がないとも言い切れない。
 そこまで考えて、私は私にガッカリしてしまう。

 自分の中の卑屈で臆病な考え方が染み付いていると気づいてしまった。あんなに優しくしてくれているのに、大切にしてくれているのに私は先生を信じられないの?
 ううん…そうじゃない。私は、私自身の価値が信じられない。だから、保険が欲しい。

 
 いつか離れることになったとしても、先生に好きって…心から思った時にちゃんと伝えたい。
 もし先生が私を嫌っても、私はきっと嫌いになんかなれない。たった三日間一緒にいて、ただただ愛されたこの日々が私にとっては本当に幸せだったから。

 本当に好きって、正面切って言えるような私になりたい。そのためにはお仕事でちゃんと稼ぎたい。
 少しでも、先生に返したいの。


 先生の言葉を待って、私は彼の瞳を見つめ続けた。

 
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