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県外遠征@沖縄

138 爪先に沁みる年月

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真幸side

 潔めの祝詞奏上を全て終えたところでそろーっと目を開く。なんか気配が増えてる気がする。

 あーやっぱり、いっぱいいる……。
 御嶽の前に所狭しと集まった神々や神社庁の人、伏見家の隠密達を眺めた。沖縄の神様や妖怪たち、魔物まで来てる。

 
「みんなわざわざ見にきたのか?観衆増えすぎじゃない?」
  
「巫女さま!沖縄での神事はお祭り騒ぎで賑やかにするのですよ!」
「そうそう!歌を歌うなら踊りもないといけません!」
 
「指笛も良い祓いになりますし!」

「そう言うことで、では不肖私キコエノオオカミが三線を務めます」
 
「「「わーわー!いいぞいいぞー!」」」

 

「颯人、大丈夫?コレ」
「琉球風だと言うならよかろう。南国の神は賑やかしいのが好きなのだ」
 
「そう?じゃあ良いか。キジムナー、罪人をここへ」
 
「あいよ!」


 
 赤い髪を靡かせて、小さなキジムナーが麻縄でぐるぐるに巻かれた術師を連れてくる。
 
 術師はカンフー映画で見るようなゆったりとした服装、白黒の太極図が刻まれた……これは道服だな。出自の国は明らかだ。
 その男がしょんぼりした顔で目の前に座った。
 
 罪人然とした姿は、伝説の事件通りに扱いを倣ったものだ。当時も狼藉者を縄で縛って引き回し、御嶽の前で神様に『こんな風に懲らしめましたよ!』と報告したんだって。わかりやすいし、合理的と言えばそうだけど。
 
 このやり方が正統な儀式方法なんだから仕方ないが、神事を前に微妙な心持ちになる。こんなの初めてなんだが。


 
「キコエノオオカミに申し上げます。首里森御嶽すいむいうたきに無礼を働いた無法者はひっ捕え、罰を与えます。怒りを解き、寛容な心でお許し下さい。私が歌を捧げ、あなたの魂をお鎮めいたします」
「喜んで受けよう!さぁ!始めるぞ!!歌い踊る宵の祭だ!!」


 ……うん、本神はめちゃくちゃ陽気だし怒ってないぞ。罪人さんがビビってる。
 沖縄の人たちも神様もみんなが陽気で明るい性格だからこうなるんだろうか。とりあえず狼藉者には釘は刺しておこう。

 
 胸元から扇を取り出して、口を隠して術師に語りかける。

(お前はこれから秤にかけられる。
国家転覆を目論む一味は、必ず根絶してやるからな。キコエノオオカミが許しても俺は許さない、絶対にだ)


 俺は今回の件も、迷い家の件も罪人に対して一切優しくする気はない。正しくこの国を壊そうとする罪人だからだ。
 目の前の男と黒幕が術で繋がっているのは視えている。今のはそいつに向けての呪言だからな。

 

 わかりやすく慄いた男は平伏してうずくまり、小さく丸まった。
 大元を辿るのは、この人からでは難しいだろう。これから先も事件が起こるとわかっていても、もう少し泳がせなければならない。歯痒いけど……仕方ない。


「準備完了ですぞっ!」
「はーい」



 胸元から毛玉姿の累を、そうっと取り出して颯人に預けた。祝詞が気持ちよかったのかスヤスヤ眠ってるから、俺の歌で起こしたくないんだ。
 颯人に手渡しながらチラリと清音さんの方をチェック……ピンピンしてるな。


「お前、祝詞に当てられねぇのか?」
「え?当たる?何が当たるんです?」
「いやはや、いやはやですよ」
「え?伏見さんどうしたんですか?」


 清音さんは俺の祝詞に一切当てられてない。予想通りと言えばそうだけど、白石の結界も効果がありそうだ。この辺りは要検証か……でも、幸先がいいのは間違いない。
 
「真幸!はよう歌を歌わんか!」
「えっ。オオヤマツミノカミも来たの?いつの間に……」
「そうだ。お前さんの歌を聞けると小耳に挟んでな?高天原からもまだやって来る」
「ホントにお祭りにするつもりなのかぁ……流石に恥ずかしい気がしてきたぞ」


 ニコニコ笑ってるのはオオヤマツミノカミ。彼は日本全国どこにでも祀られているからどこに行っても会う羽目にはなっている。別に良いけどさ。
 
 娘さんのコノハナサクヤビメは縁遠いけど、イワナガヒメは大変優秀な高天原のキャリアウーマンだ。物凄くお世話になってます。


 神々に向かってもう一度頭を下げ、キコエノオオカミに目線を送る。

 静まり返った広場に三線の音が響き渡り、前奏が始まった。こんなやり方での広域浄化は初めてだ。音の広がりがどこまでいけるかわからないから、祝詞で繋がった土地神たちにも神力を繋ぎ『頼むよ』と伝える。
 力強い『応』が返ってきて、俺は腹に力を入れて口を開いた。

 ――てぃんさぐぬ花や
爪先ちみさきに染すみてぃ
うやぬゆしぐとぅや
ちむみり──



 ゆっくり、ゆっくり……息の続く限り一句の音を伸ばして歌う。自分の体から金色の光が生まれて地面に染み込み、そこから波状に光の帯が広がって首里城がピカピカ光り輝きはじめた。
 今は修復中だけど、これで火事が起きてもおいそれと燃えなくなるだろう。

 城壁に達した金の波が眼下の街に向けて広がり、揺蕩いながらその光を染めて行く。
 起きてる人がいたらびっくりしちゃうかな……ごめんよ。


 
 『てぃんさぐぬ花』は、わらべうたとして一番有名な沖縄民謡だろう。
 沖縄伝統音楽の特徴である8.8.8.6の句切で紡がれる『琉歌』で作られている。音楽自体は『琉球旋法りゅうきゅうせんぽう、琉球音階』とも言われるハ調の音を使う。
 
 不思議な音階の重なり、シンプルな言葉の音調、それは祝詞にも近しい謳だと思う。だから俺もきちんと覚えられたんだ。


 
 てぃんさぐぬ花の内容自体は祖先を敬い、親を敬い人生の教訓として見習いなさいと言うのがメジャーだけど、この歌は6番まである。

 俺が好きなのは4番以降だ。親に対しては色んな意味で思うところがあるからさ。沖縄流に言えば亡くなった人は全部神様だから、拘る必要はないんだが。俺は頑固だからなー。

 

 ――宝玉たからだまやてぃん
みがかにばさびす 朝夕あさゆちむみが
浮世うちゆわた

まくとぅするひとぅや 後や何時いちまでぃ
思事うむくとぅかなてぃ 千代ちゆさか

なしば何事なんぐとぅん なゆるくとぅやしが
なさぬゆいからどぅ ならぬさだみ――


 どんなに美しい宝玉でも、日々磨かなければ錆びてしまう。朝に、晩に心に抱く宝玉を磨いて生きていこう。

 誠実に生きている人はいつまでも幸せに暮らしていける

 最後の歌詞は、そうだな……俺ならこう訳す。


 
『為せば成る。為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり』俺が大好きな上杉 鷹山うえすぎ ようざんの言葉だ。とっても有名だよな。
 
 何かを成すためには自分で自覚して行動を起こさなければ何も出来ない、達成しない。
 逆を言えば、成そうと思って行動した事は全部がちゃんと自分の身になる。

 
 全てを達成しなくても、何かが残る筈なんだ。
そして、武田信玄の残した言葉にもこれに関連するものがあった。

「為せば成る、為さねば成らぬ成るわざを、成らぬと捨つる人のはかなき」

 これは、「諦めてんじゃねーよ」って歌だ。できないからって、やるべきことを諦める人の儚さ……弱さを戒める言葉だ。


  
 誰に向けるでもなく、深く、深く心に刻み込む。永い時を生きて、いつからか俺の心に巣食いはじめた……仄昏い気持ちを抑え込むために。


 ━━━━━━

 
「おばあの作ったおにぎり食べなさいねぇ、ヤギ汁もあるよぉ」
 
「芦屋さんは汁物をこぼす人なので、僕が預かりますよ」 
「清音も座ってろよな。お前もこぼすだろ」

「妃菜も座ってなさいねー、あなたはこぼさないけど♪」
「せやな!二人とは違うしな!」
 
「「むぅ……」」
 


 現時刻 2:30 歌を歌っているうちに神様が山ほどやってきて、高天原から俺の眷属も、見知った神々もやって来てしまった。
 沖縄開闢神のアマミキヨ・シネリキヨもいつの間にか来ていた。なんか、イカの形をしてる神様とか、ずっとお金をばら撒いてる神……いや、どう見てもオランダ人みたいな偉人?もいる。

  
 ノロ・ユタのおばあちゃんたちも、隠世からの出口を作った途端に一人残らず現世に戻ってきて、大騒ぎになってしまったから移動してきた。
 現在地は真神陰陽寮専用旅館の目の前、プライベートビーチってやつだ。

 俺たちは良くわからん内に始まった炊き出しで沖縄のご馳走を頂き、焚き火を焚いて誰も彼もが踊って歌って……完全に宴会になってしまっている。お酒は誰が持ち込んだんだ?酔っ払いだらけなんだが。


 
 俺は颯人の膝の上、女の子なのにアロハシャツはおかしいと言われて清音さんと同じようなワンピースに着替えた。
 なお、元々の『芦屋真幸』だった人間の体はすでに朽ち果てている。歳が歳だしね。
 
 認識阻害の時にその幻影を写すのみになっているから、認識阻害術が効かなくなった清音さんからは穴が開くほど眺められています。なう。


 
「……それにしても、私は絶対似てないと思うんですが。芦屋さんのように色気がありませんし、肌艶も良くないですし」
「あ、あー、あのー、なんて言ったらいいのか……」
 
「顔の作りは似てるやろ。そもそものお育ちがちゃうねんから、雰囲気ってもんがあるんよ」
「な、なるほど。えも言われぬ醸し出す様な過去はありませんから、仕方ありませんね……」


 
「清音、お主はまだ始ったばかりなのだ。真幸も作りは悪くなかったが、我と出会うまでは蕾だった」
 
「あー、そうですねー俺はモサ男でしたからねー。身綺麗にはしてるけど、人たらし扱いされるのは、未だに意味がわからん」
 
「ふ……真幸は我が育てたのだ。花弁を広げて元の美しさが顕れただけの事。
 ちなみに小娘その一は、見た目も難儀な性格も飛鳥が育てた様なものだな」

 
「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!妃菜は元々可愛いし、ツンデレでしょ!」
「飛鳥?どう言う意味なん??」
 
「くっ……な、なんでもないわ!どっちにしても妃菜が世界一可愛いいって事に変わりないもの♡私のだーいすきな奥様だしぃ♡」
「なんやぁ、照れるやんかぁ♡」

  
「イヤイヤ、そこで惚気るのやめてもらっていいですか、腹立つので。
 て言うか私の成長しない見た目に対しても一言ください、清音さん。分かります?このまな板具合」
 
「あの、ええと、すみません……」
「清音さんをいじめないでくれよ、アリス」
 
「真幸さんこそ人聞きの悪いこと言わないでください!虐めてないですよ?!貴重なちっぱい仲間なんですから!!」
 
「ちっぱい……ぐすっ」

 

「俺は何も見てない、聞いてない」
「鬼一、そうでなくてもあの輪に入れないんだが。いや、入りたくねぇ」
 
「白石は入れるんじゃないですか?私もどうしていいやら、わかりませんねぇ」
 
「妙な事言うなよ伏見!フラグを立てるな」


  
 あぁ……こう言うわちゃわちゃしたの、久しぶりだな。なんだか楽しい。

 赤赤と燃える焚き火を囲み、山羊汁をもらい、それを啜る。
あったかくて生姜がたくさん入ってて、体がポカポカしてくる。ヤギの肉や内臓がメインの汁は癖があるが、なかなか地味深い食べ物だ。

 

 今ここにいるのは人よりも神様が多いから、みんなも依代を務める神々を顕現して好き好きに沖縄のご飯を食べてる。
 清音さんはどこまでどう受け止めているんだろう、この事態を。
 
 ちょっとずつ教えてちょっとずつ慣らすはずだったのに、誰のせいだ?……俺のせいかな。

 

「あ、もう一つ聞いていいですか。芦屋さんの声はどうしてあそこまで高くなるんです?
 普段は中低音位ですよね?祝詞の時と歌の時はびっくりするほど高くて透き通った声でした。」
 
「清音さんもちょっと低めの声だもんね。歌はまぁ……わからんけど。あんまりやらないしな、普通は。
 祝詞の場合は周波数の関係で高い音の方が響きも広がりもいいから、俺の場合は颯人のスパルタでこうなった」
 
「高い方が広がりがいいんですね!へぇ……」

 
「広がりもそうだが、音の響きで言霊の質が変わる。神職たちが日々の暮らし、所作振る舞いから習うのは清くあるためでもあるが、正しい言の葉を囁くための修練なのだ。
 日々の暮らしで鍛え、世迷言に惑わされず生き、精錬すればこのように熟す。真幸の場合は神々をも招き寄せてしまうほどに熟したのだ」

「なるほど……所作振る舞いからですか。神職さんと同じようにするとして、芦屋さんは具体的にどのような修練をされたのですか?」


 
 清音さんのまっすぐな瞳を受けて、チラッと伏見さんと白石に目線を送る。
 あー、微妙な顔してるな。

 鬼一さんも、星野さんも、妃菜もアリスもおんなじ顔だ。こう言うの、凄く懐かしい……。


「早起きして祝詞奏上をやってるけど。うーん、いきなりはどうだろう。厳しくないか?」
 
「そのような事はない。清音も其方も始まりは変わらぬ。毎朝のものを明日にでも見せてやればよい」
「そっか、颯人がそう言うなら、やってみようか」

 
「えっ!?芦屋さんは未だに修練されてるんですか?」
 
「うん、まぁね……俺の場合は霊力と呪力の均衡が崩れる時があって、体調に影響するんだ。それの対策に毎朝やってるよ」
「ほほう?白石さんもされたんですか?」

「……した。うん、あの洗礼は受けた方がいい気もする」
「えっ、洗礼?なんですかそれ?」
 
「少々、覚悟が必要になる。それだけの事だ。心配せずとも良い。試しに気を絶するまでやってみよう」
 
「…………」

 
 
 颯人の言葉に絶句した清音さんは事務所員のみんなに目線を送る。
 
「みんな経験した事だ」と言われて身震いしてるぞ。
首里城では問題なかったから、当てられて大の字になるだろうか?疑問が残るところだけど……一応、明日は怪我しない様に室内でやろうかな。
 


 みんなが食事を終えて片付けも終わり、まったりとした雰囲気で焚き火の周りに輪を描いて座り込む。ただただ火の粉がパチパチと舞い上がるのを眺めて、温かい火の光を瞳に宿している。
 
 言葉を交わさなくても気まずくなることはない。心を許し合った仲間達とのひとときは本当に良いものだな。

  
 昼間は暑かったけど、夜は結構冷えるみたいだ。颯人の羽織に包まれた俺はぬくぬくしてるけど、みんなちょっと鼻を啜って寒そうにしてる。
焚き火がなければ寒いかもしれない。
 
 砂浜に海辺、波の音、月が夜空に浮かんでまるで月の砂漠みたい。ロマンチックだな。

 

「暫し、お時間を宜しいですか」

 のんびりとした、しわがれたおばあちゃんの声がして複数人のシャーマンたちがやってくる。今回の事件の功労者たちだ。
 颯人の膝から降りようとすると、それを止められてシャーマンたちはタバコに火をつけた。
それを見て、鬼一さんと星野さんが結界を張ってくれる。何か話しに来たんだな。

 ひとしきりタバコを吸ったおばあちゃん達はきちんと携帯灰皿にクズをしまって、にこりと微笑んだ。

 

「恐れながら、礼をお受け取り頂きたいのですが」
「かまわぬ」
 
「うぇ、颯人ぉ」
「よかろう。止める理由がない」
「うーん……わかりました」
 
「ありがとうございます」

 

 シャーマンたちが長い袖で手を隠し、胸の前で合わせて平伏して礼を取る。
一番前に座った人は額を俺の足の上に乗せた。彼女は何度も立ち上がり、平伏を繰り返す。
 
 数回の平伏を経て、頭を下げたまま両手を差し出して来る。俺はそれを握って、しわしわの手をさすった。

 
 シワの一つ一つに刻まれた彼女の功績が浮かんでは消え、俺の中に染み込んでくる。『いつも、お疲れ様です』と心の中で呟き、手を離した。

 ヒトガミとして国を守る仕事をしているから、神様関連のお仕事をする人には祝福を分ける。それだけならこんな形を取る必要はないけれど、神が渡れば『降臨』となり、土地に住まう神職の方はこうして歓迎をしてくださる。
 
 俺の福を受け取ったおばあちゃんは、お礼としてまた平伏を繰り返して頭を足先に乗せ、お礼の神歌を歌い始めた。 

  
 ……最敬礼をとってくれるのは嬉しいけど、未だにこれを受けるのはちょっと気が引ける。人に頭を下げられるのはどんなに経験しても気持ちのいいものじゃないんだ。
 俺は、いつまでも神様になりきれない。チークキスとかでいいって事にならないかな……はぁ。相手の顔がちゃんとみられないのは、ちょっと寂しい。

 
  
 歌が終わっても頭を下げたままのおばあちゃんにびっくりして、清音さんがそわそわして立ち上がる。白石が手を引いて木陰に連れてってくれた。
 
 俺の背後に眷属たちが集まり、見守って正式な挨拶の礼の儀式になってしまった……。いきなり仰々しくなっちゃったな。



 
「此度は西の果てへお越しくださり、感謝申し上げます。お陰様で事件解決となりました。私は現代の神官長、綾子あやこと申します。」
 
「いえ……今回の早期解決は全てあなた達が成した事だよ。俺はただ浄化をしただけだ。こちらこそ、ありがとうございました」

 
 ようやく顔を上げてくれた綾子さんと若い娘さんが並んで座り直し、その後ろにさまざまな年齢の同じ服装の人たちが同じ様に姿勢を整えた。
 序列ってやつかな。綾子さんは神官長だとすると、隣の子はお孫さんで後継って事だろう。
 
 こう言った風習はいにしえの慣習だ。大切にされた歴史に思わずほっこりして微笑んでしまう。


 
「あなた様がこの島にいらした事に意味があるのです。騙すような真似をしてしまいました……お詫び申し上げます」
 
「騙されてなんかいないよ。綾子さん達が先祖からの様々をきちんと受け継いで下さって、琉球を守っている。
 今回も、その責を成してくださった。……綾乃あやのさんは、いつ頃?」

「綾乃はあなた様にお会いした二十年後、ニライカナイへ逝きました。」
「そっか。綾乃さんの作るーチャンプルーが忘れられないよ。また、食べたかったな……」
 
「ありがとうございます。明日の朝、私がお届けいたします。それもきちんと受け継いでおりますよ」

「嬉しいです。すごく楽しみにして待ってます」
「はい」


 
 お互いに微笑みを交わし、綾子さんの先祖……もう二百年以上前に出会った、トメさんのように快活なおばあちゃんを思い浮かべる。
 
 優しくて、厳しくて、ちょっとズルい感じの人だった。イタズラが大好きで、国護結界の話をしたのは彼女にだったな。
 最期を見送りたかったけど、ノロの風習で神に見送られるのはダメ、と言われて。いつのまにか絶えた手紙でおそらく亡くなったんだろうとは思ってた。

 寂しいな。みんな……みんな、いなくなっちゃうんだ。寂しくて仕方ないよ。



「芦屋様にお伝えしたいことがあります。それから、そこのお嬢さんにも」
 
「ん?清音さんにも?」

「はい。事務所の方々にもお聞きいただいた方がよろしいかと。」

  
「えっ、えっ?突然のオンステージに戸惑いを隠せません」
「大丈夫だよ、一緒にいてやるから。しっかりしろ。何かの意味があってここに居合わせてるんだから、どっしり構えてりゃいい」

「は、はい……」

 白石に手を握られて、清音さんが俺たちの元へ戻ってくる。みんなで流木の上に座り、綾子さんの目が並んで座った全員の目をじっくり、ゆっくりと眺めた。


  
 静かな波音の中、焚き火のはぜる音がそれに重なって……重たい静寂と共に広がって行く。

 焚き火の炎に薪が足され、海水を含んだそれは青い色を表しながら赤く燃え、囲んだみんなに熱を分けた。

 
 
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