マイホーム戦国

石崎楢

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第150話:五右衛門の謎

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向かい合う二人の男。
かつての室町幕府第十三代将軍足利義輝。
私の義弟となって、今は尼子家家臣武輝丸としてこの御所に立っているのだ。

「なあ、楓。気のせいかと思うのだがな。」
「いかがされましたか?」
「あの尼子の武輝丸なる男がどうしても義輝にしか見えぬのだ。」

足利義栄は武輝丸が足利義輝にしか見えなかった。

「まさか・・・先代将軍様は三好三人衆によって討たれたしまったとお聞きします。」
「そのはずだ。わかっておるのだが・・・」
「気のせいでございます。義父上がおっしゃられてましたわ。世の中には自分と同じ顔の人間がいると。」

楓はわざと周りに聞こえる声で義栄に言う。

正親町天皇も含め、ここにいる幕府要人や公家たちは武輝丸に対して義栄と同じ印象を抱いていた。

「まあ、まさか義輝公が生きておられるはずがない。あのとき二条御所で生き残っておる者は誰一人おらなかったのですぞ。」

ここで細川藤孝が楓に助け舟を出す。
朝廷、幕府内で真実を知っているのは楓と藤孝だけなのである。


「気付かぬものなのか・・・それもまたやるせないものだぜ・・・」
義輝はそうつぶやくと目の前に立つ五右衛門を見る。

「無礼講でやらせてもらう。」
既に殺気立っている五右衛門。

「複雑な気分だろ? 殿様も。」
そんな慶次の言葉に無言で私はうなずくだけ。
この二人の戦いはどうなるのか見当もつかなかった。

「山田家四番手石川五右衛門!!」

五右衛門はその声に合わせて木刀を構える。

「尼子家五番手武輝丸!!」

義輝は五右衛門を見据えながら木刀を振り上げた。

「始め!!」
審判の声と共に両者は同時に間合いを詰めての打ち合い。
二十合程打ち合うと両者は一旦間合いを取った。

その打ち合いだけで、両者の恐るべき実力が会場にいる者全てに伝わっていた。


ずっとアンタと戦いたかった・・・足利義輝。

五右衛門には技量を上げようなどという考えはない。
ただ強いと思う者と戦いたいという衝動だけが込み上げていた。


それに対して義輝の思いは違っていた。

そのギラついた眼光・・・いつかは戦うときがくると思っていたが・・・


「義輝様はご自分を除いて山田家では誰が強いと思われますか?」
元規が聞いてくる。義輝はかつての龍王山城城主だった頃のことを思い出していた。

「私も知りたいです。」
英圭も続いてくる。その様子を微笑みながら見つめている岳人。


単純に武人としては清興か・・・戦場ならば俺でも及ばぬところがある。
剣術の腕ならば豊五郎・・・
才というものならば六兵衛・・・

しかし、一人だけ底が知れぬ男がいる・・・
多聞山城での戦い・・・九兵衛を討ち取り、六兵衛を追い詰めたあの”緑装束の男”を圧倒していたと源次たちから聞いた。伊賀の歴史の陰となったが最強と云われていた武と才。

「石川五右衛門・・・。」
義輝の言葉に元規も英圭も驚きを隠せない。

わかるよ、義輝さん。僕もなんとなく感じるんだ。五右衛門さんは”人”なのかってね・・・

岳人も五右衛門に何かを感じていたのである。


「審判さんよォ。木刀をもう1本頼む。」
五右衛門はそう言って二刀流の構えを見せた。

「二刀流だと・・・」
義輝はつぶやきながら間合いを測りだす。

ヤツの踏み込み太刀筋・・・この間合いならば反撃も・・・

「ウルァァ!!」
五右衛門がすかさず斬り込んでくる。

速い・・・それでいて読めぬ・・・そして天衣無縫か・・・

義輝は致命的一撃を避けるべき素早い動きで五右衛門の攻撃をかわしていく。


「あれをかわすか・・・さすがだぜ・・・義輝様!!」
慶次が興奮している。
「だが、ギリギリだぞ。義輝様はかなり・・・」
清興が冷静な口調で語りだすも
「わかってるって。だが、あの状況でも打ち返す隙を伺っているところだよ・・・」

慶次の言葉の通りだった。
乱舞するような太刀筋をやがて見切りだした義輝の眼光が鋭く輝く。

「一の太刀!!」
義輝の鋭い一振りが乱舞する剣撃をすり抜けて五右衛門を捉えた。

「!?」
しかし、五右衛門はそれを二刀流で挟み込んで防いでしまう。
ただ、義輝の一の太刀の剣圧で五右衛門の着物が斬り裂かれ身体から血が流れて始めていた。

「初見で見切ったか・・・やるじゃねえか五右衛門♪」
「完全に見切れていたら血など流さんわ・・・てね♪」

五右衛門は力づくで義輝の一の太刀を弾き返した。

「次は俺のターンかな・・・殿様風に言ってみればな。」
五右衛門が二刀流で構えを取ると気流が流れはじめ義輝の身体を包み込んでいた。

風だと・・・あの緩やかな構えは・・・

義輝は思わずたじろいでしまう。
そこに飛びかかっていく五右衛門。

「日月三明斬!!」
その斬撃を喰らう瞬間に義輝の眼に入ったのは・・・

なんと・・・美しくも妖しき女よ・・・

五右衛門の背後に美しい女の姿が見えていた。

「!?」

そしてその女の顔が恐ろしい鬼の形相に変貌する。

「ガハァッッ!!」
義輝は全身を打ちのめされ吹っ飛ばされていく。

「義叔父様!!」
思わず美佳は立ち上がる。私も義輝が手も足も出ないことに戦慄を覚えていた。
清興も慶次も予想以上の展開に茫然としている。

義輝様・・・

一馬や義成、慎之介も信じられない程の一方的な展開に立ち尽くしていた。


「なんという・・・なんという強さだ・・・」
見ていた武田信玄や上杉輝虎も絶句していた。

「・・・もはや人とは思えぬ・・・義輝様がこうもやられるとは・・・」
山中鹿介幸盛も青ざめていた。


地面に叩きつけられた義輝。

「・・・終わったか・・・」
冷徹な表情の五右衛門は審判に目配せをして自身の勝利を促したときだった。

「ふう・・・死んだかと思ったぜ・・・」
義輝はむくっと起き上がる。
全身ズタズタになっているがその表情に陰りはなかった。

「・・・マジか・・・」
我に返ったような顔つきになる五右衛門。

「俺は死んでいねえよな・・・、義兄上もいるし、美佳も清興たちもおるからな。地獄ではないことは確かだ。」
義輝は木刀を投げ捨てると審判に槍を促した。

「急所だけは外されちまったか・・・さすがだな義輝様。」
「・・・辛うじてだがな・・・。まあ次は通用しねえぞ!!」

義輝は槍を薙刀のように振り回すと五右衛門を威嚇する。

やっぱ義輝様は薙刀・・・。この義輝様に勝ってこそってことかよ!!

五右衛門は更なる不可思議な二刀流の構えを見せた。

・・・おいおい・・・本当に五右衛門こいつは何者なのだ・・・

義輝の眼には五右衛門の背後に阿修羅王の姿が見えていた。
それは私の眼にもはっきりと確認できた。

「パパ・・・五右衛門ってこんなに強いんだ。」
美佳の言葉や周囲の様子から他の者には阿修羅王の姿が見えていないことがわかる。

そのときだった・・・
ガタガタガタ・・・と私は手元の黒漆剣が共鳴していることに気が付いた。

そして思い出す・・・

『かつて坂上田村麻呂は鈴鹿の山で鬼退治のかたわら鬼の姫と結ばれたのじゃ。』
鬼一法眼の言葉・・・

そして突然私の手元に一振りの大刀が現れた。

意味がわからぬ・・・・

とりあえずどうしていいかわからない私にどこからか声が聞こえてきた。

『この太刀は騒速そはや。見定めよ・・・鬼の子を』

意味がわかんないですけど・・・
私はただその太刀”騒速”を手にしたまま固まってしまうのだった。


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