マイホーム戦国

石崎楢

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第147話:強さの理由

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1562年、5月河内国教興寺。
三好と畠山による畿内の覇権をかけた合戦があった。
教興寺の戦いである。


「ウルァァァ!!」
清興は畠山家の傘下として奮闘していた。このとき数えで22歳。
次々と三好の兵を吹き飛ばすかのように薙ぎ倒し血路を開いていた。

畠山についた大和国人衆は敗色濃厚であった。
大和国人衆を指揮していたのは筒井順政。筒井順慶の叔父であり幼少期の順慶を支えていた。

なんという男じゃ・・・あれが椿井城城主島清興か・・・

そこに押し寄せてくる三好軍の騎馬隊。

「兄上!!何をしておる。くそォ!!」
槍を構えて単騎で突撃していく慈明寺順国。

くッ・・・数が多い・・・
奮闘むなしく次々と群がってくる三好の騎馬隊の前に討ち取られる寸前の順国。

「グァァッ!?」「ギャアッ!?」
その眼前で吹き飛ばされていく三好の騎馬隊の兵たち。
まるで花火のように首が飛んでいく様は地獄絵図のようだった。

「ご無事か、慈明寺順国殿。」
血まみれの清興の姿に絶句する順国であった。


その後、畠山から筒井家に主を変えた清興は大和国人内で頭角を現しつつあった。
しかし古くからの筒井家家臣団にはそれを快く思わぬ者も多かったのである。


1564年の松永久秀の大和国内での攻勢により追いやられた筒井順政は堺に逃れていた。
清興もその再起の時を共に歩むために堺に滞在していた。

4月29日、それは運命の日であった。
病の床に臥していた筒井順政の屋敷に襲いかかる刺客たち。

「くそがァァァ!!」
清興は押し寄せる刺客たちを一人で斬り伏せていた。
しかし他の護衛の者たちは全員討ち取られており、多勢に無勢の状況の中でいつの間にか刺客たちに囲まれていた。

「も・・・もう良いぞ・・・清興。」
屋敷の奥から順政が姿を現した。
そして刺客たちに向かって言い放つ。

「ワシの首が欲しいのか?」

そして屋敷に火を放つ。

「ワシは逃げも隠れもせん。だが三好にこの首は渡さん。」
再び奥へと消えていく順政を追いかける清興。

「生きろ。おぬしは筒井の中に収まる器ではない。生き延びて何かを成し遂げろ!!」

翌日、堺の町を背に歩いていく清興の姿があった。

「ワシもそう・・・興福寺門下の慈明寺に入った順国も・・・そして齢二つにして家を継がねばならなかった藤政(順慶)もそうじゃ。この乱世に自由に羽ばたいてみろ。必ずおぬしをであろう者が現れるはずだ。」

最期の順政の笑顔を思い出すと目には光るものがあった。


清興は審判を再び手で制する。
しかし、その身体から漂う何かに山中鹿介幸盛は踏み込めずにいた。


途切れがちな意識の中で清興は回想していた・・・

俺は一度は筒井家に戻るも順政の件で一部の家臣団と揉めたことが発端となり筒井家を出奔。
松永の配下であった高山友照に客将として請われた。

そしてあのとき・・・俺は山田大輔とのと出会った。
不思議な男だった。殺気など全く感じさせない佇まいが新鮮だった。
俺とは全く違う人間。先の時代からやって来たという境遇・・・普通なら信じられんだろうが、何故か信じられた。

そしてその日の夜に夢を見たのだ。

俺は天下分け目の戦で敗色濃厚の中で奮戦していた。
しかし、その俺の前に鉄砲隊の姿が・・・

死ぬ・・・覚悟をしたときに鉄砲隊の姿は消えていた。それどころか合戦さえ行われていない。

「なあ、清興。くだらない戦いなどやめてしまえ。私と共に行くぞ。どこまで往きつけるかはわからないがな!!」
その代わりに、そう言いながら手を差し伸べる山田大輔が立っていた。


ああ・・・俺はやはりどこかで腑抜けていたのかもしれねえな・・・
都で官位を得て、若狭国の守護代になった。
それで満足したのか、俺は?
まだ・・・まだ・・・成し遂げてはいないだろうが・・・

「戦のない世の中がいずれ来る、でも待っていても仕方ないだろう・・・じゃあ、いつするんだ?」
そんな殿の問いかけか・・・答えてやるよ・・・


「今だろうがァァァ!! ウおおォォォ!!」

清興は天を仰ぐと咆哮するかのように声を上げた。

「・・・なんだ・・・何が起こった・・・」
山中鹿介幸盛は木刀を構える。

「審判、木刀だ!!」
清興はタンボ槍を投げ捨てると木刀を手にした。

「さすが・・・清興だ。」
私はその姿に思わず拍手をした。そのまま会場が拍手喝采に包まれる。

「おお、帝も将軍も感動しているじゃねえか・・・島殿にやられたぜ・・・」
慶次は笑顔で五右衛門の肩をバシバシと叩く。

「さあ、島殿ォ!! ここからは本気で頼むぜ!!」
五右衛門のテンションも上がっていた。

馬鹿言え・・・全力でやられていたっつうの・・・

呆れ顔の清興だが、闘気が身体中から溢れ出ていた。
私は更にそんな清興の背中を押したかった。

「清興。勝って私と共にその先へ行くぞ!!」
「御意!! どこまでも殿についていくぜ!!」

私と清興のやり取りを見ていた山中鹿介幸盛は思わず笑みを浮かべていた。

ふッ・・・私が笑ってしまうか・・・いいものだな・・・

再び、両者は向かい合う。

「ゆくぞォ!!」
清興が刀を振りかざし飛びかかっていく。
その攻撃を早くも見切ったかのように受け流す幸盛。

強いが剣としては・・・

幸盛はその清興の攻撃の最中に必殺剣を振るう。

「もう一度喰らえ!! 月天衝覇斬!!」
「ウルァァァ!!」

なんだと・・・こんなことが・・・

幸盛は信じられなかった。目の前で必殺剣を防がれている。

「俺も防げなかったあれを・・・わずか二度目で見切るのか・・・」
義輝もため息交じり。尼子陣営は言葉を失っていた。

「お返しじゃァァ!!」
「むう!?」
「飛んじまいなァァァ!!」
そのまま恐ろしい力で幸盛の刀を押し返すと、清興はそのまま下段から刀を突き上げた。

「ぐはッ!!」

木刀を折られ着物を斬り裂かれた幸盛は吹っ飛ばされると地面に叩きつけられた。

身体がバラバラになったかのようだ・・・う・・・動けない・・・

「・・・」
しかし、清興もそのまま力尽きたかのように倒れ込む。


「勝負あり・・・この勝負引き分け!!」

審判が声を上げると再び拍手喝采が巻き起こった。


「鹿介殿が勝てぬ相手は初めてじゃ・・・信じられぬ。」
尼子家家臣秋上庵助は狼狽するばかり。

「だが、その戦いは帝や御所の方々に伝わったであろう。」
尼子勝久は満足げな顔で拍手をしていた。

「次はワシが行きますぞ!!」
立ち上がったのは霞丸。その正体は最上義光。



「ぐご・・・・」
清興は勝敗の結末も知らぬままに眠りについていた。

「さあ・・・私が行こうか・・・」
その戦いぶりに感銘を受けた私だったが、

「殿・・・ここは私が出ますぞ。」
遮るように義成が出てきた。そして五右衛門と慶次を睨みつける。

「義成。あの男、霞丸は強いぞ。本田平八郎殿と引き分けておる。」
傍らに控えていた焔の陣内が義成に声をかけた。
それを聞いた一馬と慎之介の顔色が変わる。

「それならばあの男を倒せば私は平八郎殿よりも上・・・賭けてみる、我が天命に!!」
義成はそう力強く言い放つと試合場へと向かって行った。


初戦の戦国史に残る強者同士、島左近清興と山中鹿介幸盛の激闘は引き分けに終わった。
次の戦いはどのような結末を迎えるのだろうか・・・
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