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第116話:阿古丹
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第四の関門、上多古川双竜の滝前。
「ば・・・馬鹿な・・・。」
そうつぶやきながら倒れ伏す一人の男。
「ハァハァ・・・。」
鉄棒を杖替わりに何とか立っているのは鉄心。
「まさか・・・魔支離がやられるとはな・・・」
その先の第五の関門から見つめていたのは男がつぶやく。
第四の関門の番人の魔支離は錫杖の達人であったが、凄まじい真っ向からの力勝負で鉄心に敗れ去ったのだ。
「無頼我・・・悠長なことはしてられぬな。」
そこに魔修羅がやってきた。
「魔修羅様・・・どういうことでございましょうか?」
「お前の第五の関門でケリをつけねばならぬということじゃ。」
「なんですと・・・。」
魔修羅の言葉に驚く無頼我。
「四対四の戦いということだ。」
「我らの出番が来るのは何十年ぶりであろうかな・・・。」
そこに現れた二人の男。
「驀進我に流離我・・・何故に出てくる。あやつらは私一人で十分だ!!」
第六の関門の驀進我と第七の関門の流離我の姿に憤りを隠せない無頼我であった。
双竜の滝を越えると上多古の主瀑ともいえる洞門の滝である。
「スゲー滝だな。」
五右衛門は思わず感嘆の声を上げる。
「最深部には阿古滝があるぞ。わかるな?」
「なるほどな・・・そこに辿り着けばいいってことだろ。」
天狗の言葉に慶次は笑顔を見せた。
そこに、突然声が聞こえてくる。
「待っていたぞ、阿古丹を求める者共よ。」
現れたのは魔修羅と三人の男たち。
「無頼我。」「驀進我。」「流離我。」
その名乗りを聞いた五右衛門たちは表情を曇らせる。
ネタ切れかよ・・・
「一気にこの第五の関門で決着をつけるぞ。」
魔修羅が言った。
「先鋒はワシが往くぞ。」
驀進我が剣を構えて洞門の滝前に作られた舞台の上に立った。
「ワシに任せろ。」
天狗が指をボキボキと鳴らしながら驀進我と向かい合う。
そして恐ろしい程の速さで一気に間合いを詰めると、驀進我の顔面に肘を入れた。
「ぐお!?」
吹っ飛ばされた驀進我だったが、舞台から落ちるぎりぎりで踏みとどまる。
「面白い・・・ワシも本気で参る!!」
「来い!!」
驀進我は口元の血をぬぐうと天狗に襲い掛かる。
天狗はその剣の一撃を白刃どりで防ごうとするも・・・
「ギャァアア!!」
天狗は斬り倒されてしまった。
転がりながら舞台から転げ落ちていく。
「なあ五右衛門?」
「なんだ。」
「驀進我だから天狗は勝てないのか?」
慶次の言葉に五右衛門は無言でうなずいた。
「仁王でも勝てぬということか・・・俺がやろう。」
慶次は笑みを浮かべながら舞台の上に立った。
なんだ・・・この男は・・・
慶次の身体から溢れ出る闘気に思わず後ずさりする驀進我。
「おのれ・・・烈風ここにあり!!」
そう言って飛びかかろうとした驀進我の目の前に慶次は現れていた。
「無念・・・ぶはッ!?」
慶次が瞬時に大刀で驀進我を舞台から滝壺に叩き落とした。
「次は私だ!!」
流離我が鉄砲を手に飛び出してくると慶次めがけて発射する。
狙いすました一撃を放ったが、慶次は紙一重で顔を反らしてかわした。
「かわすとはやるな・・・。」
つぶやく流離我に近づいていく慶次。
「待て。貴様、次の射撃まで時間がかかるのだ。」
慌てて銃身を冷やしはじめる流離我。
「・・・。」
慶次は流離我から鉄砲を取り上げると岩に叩きつけて破壊した。
そしてそのまま流離我の胸倉を掴むと滝壺に投げ込む。
「あばよ。くそったれども!!」
捨て台詞を吐いた流離我は激流に飲まれていった。
「よくもやりやがったな・・・許さんぞ!!」
その隙を突いて、無頼我が刀を抜いて慶次に襲い掛かる。
「俺の方が情け無用だぜ!!」
「ABAYOォ!?」
慶次は大刀の一振りで無頼我の刀を砕きつつ天高く吹っ飛ばしてしまった。
つ・・・強い・・・規格外じゃ。
鉄心はあまりの圧倒的な慶次の強さに驚嘆していた。
これではひよりさんに手を出せないでやんす・・・
ひよりの側で治療をしていた河童も恐れおののいている。
「相変わらず常識が通じない強さだな、慶次。」
「オマエに出番はねえさ・・・。」
五右衛門の言葉に慶次は含み笑いを浮かべると魔修羅を睨みつけた。
魔修羅もニヤリと笑うと慶次の前へと現れる。
「さあ、最後はアンタだな・・・魔修羅!!」
「参りました。無理です・・・勝てません。」
いきなり土下座をする魔修羅に慶次も五右衛門たちも言葉を失うだけであった。
断崖絶壁を登り切った五右衛門たちの目の前には大きな霧雨状の水飛沫。
「生き返るでやんす♪」
小躍りして喜ぶ河童を尻目に五右衛門たちは落差のある滝を見つめていた。
「これが阿古滝か・・・。」
つぶやく五右衛門の視線の先には洞窟があった。
そしてその奥に置かれていた壺。
「阿古滝の側の洞窟の奥にある壺の中に阿古丹があります。」
魔修羅の言葉を思い出した一同はそれぞれに笑顔を見せていた。
秘薬阿古丹を手に入れたのだった。
数日後、京都二条御所。
忍びたちの早足による輸送リレーで阿古丹は楓の手元に届いた。
そしてその手で寝そべっている義栄の背中一面の腫れ物に塗りまくる。
心なしか腫れが少しずつ引いているかのように楓には見えた。
「義栄公・・・ご気分はいかがですか?」
不安げな表情で義栄の顔を覗き込む。
「・・・。」
返事はなかったが、楓は笑顔になった。
穏やかに寝息を立てている義栄を見るのが初めてであったからである。
夜な夜な苦痛にさいなまされていた姿が嘘のようなのだった。
これで・・・まだ幕府は終わらない。
楓は義栄の頬に手をやると安堵の表情になるのだった。
山城国勝竜寺城。
義栄が容態を持ち直したことはすぐに私の下に伝わった。
「良かった・・・そうとしか言いようがないものだ。」
そんな私を見つめる重治。
お人好しというか何というか・・・義栄公が亡くなるということは殿が都の中枢を担う絶好の機会。それをみすみす逃すというところが・・・
「よし・・・義栄公がご存命の間にまずはやらねばならぬことがあるぞ、重治。」
「はッ・・・畠山ですな。」
私の言葉にうなずく重治であった。
河内国飯森山城。
「何故に攻め落とせぬ!!」
憤りを隠せない畠山高政。
時は1568年10月、戦況は攻め込んでからひと月余りが経過するも膠着していた。
「堪えれば良い・・・さすれば勝手に畠山は自滅する。」
飯森山城城内で楠木正虎はつぶやくのだった。
その言葉の真意は・・・?
「ば・・・馬鹿な・・・。」
そうつぶやきながら倒れ伏す一人の男。
「ハァハァ・・・。」
鉄棒を杖替わりに何とか立っているのは鉄心。
「まさか・・・魔支離がやられるとはな・・・」
その先の第五の関門から見つめていたのは男がつぶやく。
第四の関門の番人の魔支離は錫杖の達人であったが、凄まじい真っ向からの力勝負で鉄心に敗れ去ったのだ。
「無頼我・・・悠長なことはしてられぬな。」
そこに魔修羅がやってきた。
「魔修羅様・・・どういうことでございましょうか?」
「お前の第五の関門でケリをつけねばならぬということじゃ。」
「なんですと・・・。」
魔修羅の言葉に驚く無頼我。
「四対四の戦いということだ。」
「我らの出番が来るのは何十年ぶりであろうかな・・・。」
そこに現れた二人の男。
「驀進我に流離我・・・何故に出てくる。あやつらは私一人で十分だ!!」
第六の関門の驀進我と第七の関門の流離我の姿に憤りを隠せない無頼我であった。
双竜の滝を越えると上多古の主瀑ともいえる洞門の滝である。
「スゲー滝だな。」
五右衛門は思わず感嘆の声を上げる。
「最深部には阿古滝があるぞ。わかるな?」
「なるほどな・・・そこに辿り着けばいいってことだろ。」
天狗の言葉に慶次は笑顔を見せた。
そこに、突然声が聞こえてくる。
「待っていたぞ、阿古丹を求める者共よ。」
現れたのは魔修羅と三人の男たち。
「無頼我。」「驀進我。」「流離我。」
その名乗りを聞いた五右衛門たちは表情を曇らせる。
ネタ切れかよ・・・
「一気にこの第五の関門で決着をつけるぞ。」
魔修羅が言った。
「先鋒はワシが往くぞ。」
驀進我が剣を構えて洞門の滝前に作られた舞台の上に立った。
「ワシに任せろ。」
天狗が指をボキボキと鳴らしながら驀進我と向かい合う。
そして恐ろしい程の速さで一気に間合いを詰めると、驀進我の顔面に肘を入れた。
「ぐお!?」
吹っ飛ばされた驀進我だったが、舞台から落ちるぎりぎりで踏みとどまる。
「面白い・・・ワシも本気で参る!!」
「来い!!」
驀進我は口元の血をぬぐうと天狗に襲い掛かる。
天狗はその剣の一撃を白刃どりで防ごうとするも・・・
「ギャァアア!!」
天狗は斬り倒されてしまった。
転がりながら舞台から転げ落ちていく。
「なあ五右衛門?」
「なんだ。」
「驀進我だから天狗は勝てないのか?」
慶次の言葉に五右衛門は無言でうなずいた。
「仁王でも勝てぬということか・・・俺がやろう。」
慶次は笑みを浮かべながら舞台の上に立った。
なんだ・・・この男は・・・
慶次の身体から溢れ出る闘気に思わず後ずさりする驀進我。
「おのれ・・・烈風ここにあり!!」
そう言って飛びかかろうとした驀進我の目の前に慶次は現れていた。
「無念・・・ぶはッ!?」
慶次が瞬時に大刀で驀進我を舞台から滝壺に叩き落とした。
「次は私だ!!」
流離我が鉄砲を手に飛び出してくると慶次めがけて発射する。
狙いすました一撃を放ったが、慶次は紙一重で顔を反らしてかわした。
「かわすとはやるな・・・。」
つぶやく流離我に近づいていく慶次。
「待て。貴様、次の射撃まで時間がかかるのだ。」
慌てて銃身を冷やしはじめる流離我。
「・・・。」
慶次は流離我から鉄砲を取り上げると岩に叩きつけて破壊した。
そしてそのまま流離我の胸倉を掴むと滝壺に投げ込む。
「あばよ。くそったれども!!」
捨て台詞を吐いた流離我は激流に飲まれていった。
「よくもやりやがったな・・・許さんぞ!!」
その隙を突いて、無頼我が刀を抜いて慶次に襲い掛かる。
「俺の方が情け無用だぜ!!」
「ABAYOォ!?」
慶次は大刀の一振りで無頼我の刀を砕きつつ天高く吹っ飛ばしてしまった。
つ・・・強い・・・規格外じゃ。
鉄心はあまりの圧倒的な慶次の強さに驚嘆していた。
これではひよりさんに手を出せないでやんす・・・
ひよりの側で治療をしていた河童も恐れおののいている。
「相変わらず常識が通じない強さだな、慶次。」
「オマエに出番はねえさ・・・。」
五右衛門の言葉に慶次は含み笑いを浮かべると魔修羅を睨みつけた。
魔修羅もニヤリと笑うと慶次の前へと現れる。
「さあ、最後はアンタだな・・・魔修羅!!」
「参りました。無理です・・・勝てません。」
いきなり土下座をする魔修羅に慶次も五右衛門たちも言葉を失うだけであった。
断崖絶壁を登り切った五右衛門たちの目の前には大きな霧雨状の水飛沫。
「生き返るでやんす♪」
小躍りして喜ぶ河童を尻目に五右衛門たちは落差のある滝を見つめていた。
「これが阿古滝か・・・。」
つぶやく五右衛門の視線の先には洞窟があった。
そしてその奥に置かれていた壺。
「阿古滝の側の洞窟の奥にある壺の中に阿古丹があります。」
魔修羅の言葉を思い出した一同はそれぞれに笑顔を見せていた。
秘薬阿古丹を手に入れたのだった。
数日後、京都二条御所。
忍びたちの早足による輸送リレーで阿古丹は楓の手元に届いた。
そしてその手で寝そべっている義栄の背中一面の腫れ物に塗りまくる。
心なしか腫れが少しずつ引いているかのように楓には見えた。
「義栄公・・・ご気分はいかがですか?」
不安げな表情で義栄の顔を覗き込む。
「・・・。」
返事はなかったが、楓は笑顔になった。
穏やかに寝息を立てている義栄を見るのが初めてであったからである。
夜な夜な苦痛にさいなまされていた姿が嘘のようなのだった。
これで・・・まだ幕府は終わらない。
楓は義栄の頬に手をやると安堵の表情になるのだった。
山城国勝竜寺城。
義栄が容態を持ち直したことはすぐに私の下に伝わった。
「良かった・・・そうとしか言いようがないものだ。」
そんな私を見つめる重治。
お人好しというか何というか・・・義栄公が亡くなるということは殿が都の中枢を担う絶好の機会。それをみすみす逃すというところが・・・
「よし・・・義栄公がご存命の間にまずはやらねばならぬことがあるぞ、重治。」
「はッ・・・畠山ですな。」
私の言葉にうなずく重治であった。
河内国飯森山城。
「何故に攻め落とせぬ!!」
憤りを隠せない畠山高政。
時は1568年10月、戦況は攻め込んでからひと月余りが経過するも膠着していた。
「堪えれば良い・・・さすれば勝手に畠山は自滅する。」
飯森山城城内で楠木正虎はつぶやくのだった。
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