マイホーム戦国

石崎楢

文字の大きさ
上 下
59 / 238

第52話:多聞山城の戦い(4)

しおりを挟む
多聞山城城内に突入した山田軍は松永軍必死の反撃に苦戦を強いられていた。
「よく出来た城だな・・・。」
清興はつぶやく。
守りやすく攻めにくい。
一見、豪華な櫓や御殿もある派手な城ではあるが、中には守るための様々な工夫が施されていた。
攻城兵器がなければ落とすためにどのくらいの時間を費やすのだろうか。

「明智殿、火を使うのはやめておこうか?」
「島殿もそう思われますか・・・。」
清興の言葉に光秀はうなずくと天守閣を見つめた。


本丸御殿では久通の正室や子供たちが怯えた表情で固まっていた。
そこにやってくる一人の女中。
「奥方様、こちらよりお逃げくだされ。」
「そなたは誰じゃ?」
「この城はいずれは落ちまする。若君たちのためにも・・・」
その女中の真剣な眼差しに久通の正室はうなずく。
「こちらです・・・。」

慌ただしい城内をうまく通り抜けていく。
「奥方様と若様を逃がすのじゃ、道を開けよ!!」
その女中の凛とした態度に松永軍の兵たちは道を開けていく。

「まずはここに隠れましょう。」
城内の外れにある土蔵の中に久通の正室と子供たちは逃げ込んだ。
その女中は土蔵の戸を閉めると姿を変えた。

「忍びの者ですか・・・!?」
久通の正室は驚く。
「この戦いが終わるまでお守りいたします。」
その女中は真紅であった。

前日の晩、人払いをした本陣にて
「真紅。この戦で頼みがあるんだけど・・・。」
「なあに?」
「松永久通の奥さんと子供たちを確保して欲しい。」
私は真紅の耳元でささやくように言った。
「殿の側を離れたくない・・・。」
真紅は首を振ると私に甘えた顔と声色で迫ってくる。

うん・・・ヤバい・・・落ちそうだ・・・
ダメだ・・・我慢・・・堪えろ・・・私の男性本能!!

「頼む・・・。」
「はい・・・わかりましたァ!!」
真紅は不貞腐れた顔でアカンベーをすると本陣から出ていった。

「モテる男は辛いですね・・・。」
義成が本陣に戻ってきた。
「私は真紅とべ・・・別にそういう関係じゃないからな・・・」
「わかってますって・・・ったく小さい小さい・・・小っちぇえっての!!。」
取り乱す私に義成の厳しい言葉の数々・・・
「なんでこんな人に真紅さんは惚れているんですかねえ・・・」

義成くん・・・酷いです・・・

「ただ、松永久通の奥方やお子を助けるというのは賛成です。この時代・・・無駄な殺生が多すぎますから。」
そう言うと義成は笑顔を見せた。


搦手門では義輝と白虎の戦いが続いていた。
それぞれの武器は既に壊れかけている。

こんなに強いヤツは初めてだ。
まだこのような男が日ノ本にいるとは思わなかった・・・

義輝は薙刀を振るう。

強き者・・・しかしこの男の武は異質だ。
さすが義輝公・・・この武を私が・・・

白虎も大刀を振るう。

バキッ・・・
ぶつかり合った瞬間、互いの武器が音を立てて真っ二つに折れた。
すかさず義輝は刀を抜く。
しかし、白虎にはもう武器がなかった。

「!!」
義輝は一気に間合いを詰めて白虎を斬りつける。
しかし白虎は信じられないほどの跳躍を見せて義輝の背後に飛び退いた。
すかさず義輝は反転して刀を一閃。
白虎は連続で後方宙返りをして一気に距離をとると逃げていった。

「ふう・・・。」
義輝は大きなため息をつくと天を仰いだ。

このような者がいるとは・・・天下は広いものだ・・・


大手門下での五右衛門と緑霊の戦いも続いていた。
互いの振るう剛剣の凄まじさにいつの間にか周囲の兵たちは戦いを止めていた。
ただの傍観者たちとなり、二人の戦いを見守っている。

北畠の大御所や胤栄よりも強い・・・
この男・・・九兵衛を寄せ付けなかった理由もわかる

五右衛門は次第に冷静になっていた。
しかし緑霊は違った。

このような・・・押し付けるかのような武などあっていいものか・・・
あの御方に必要のある武ではない・・・

緑霊の攻撃が愚直になってきたことを五右衛門は見逃さなかった。
大きな一撃をうまくかわすと懐から鎖を取り出し投げつける。
その鎖は緑霊の刀に巻き付いた。

「今だ!!」
五右衛門の声を共に二人の男が現れて緑霊の両腕に縄を絡めた。
「こういうことなら任せておけ。」
「勝秀様の敵か・・・。」
鳥兜の源次と啄木鳥の権八だった。
大手門の上で気配を消して緑霊の隙を伺っていたのだ。

しかし緑霊はニヤリと笑うと口で何やらつぶやき始める。
「ハアァァァァァァァッ!!」
緑霊が叫ぶと源次と権八は吹っ飛ばされた。

「私の名は緑霊。石川五右衛門・・・次に会う時が貴様の命日だ。」
そう言い残して緑霊は姿を消した。

「なんじゃい・・・今のは。」「身体が痛い・・・。」
源次と権八は何とか立ち上がった。

「次に会う時ね・・・。」
五右衛門は既にボロボロになった刀を投げ棄てるとつぶやいた。

次に会う時はアンタの命日だよ・・・緑霊。


本陣では・・・
「ぐはッ・・・!?」「ぎゃッ!!」
義成の弓の前に青装束の一団は次々と倒れていく。

「くッ!!」
大雅は鈎鎌槍を自在に操り青彪と渡り合っていた。

天賦の才・・・私は初めて槍や刀に触れた時から言われ続けている。
宇陀黒岩の豪農の息子だったが、遊びで始めた武芸に心奪われた。
旅の武芸者を呼んでは様々な武術や技を伝授してもらい腕を磨き続けた。
そのうち旅の武芸者たちを呼んでも誰もが私に歯が立たないようになった。

そんなときに山賊を追い払った山田家の話を聞いた。
これが私にとって名を売る千載一遇の機会ではないか!?

そして・・・私はここにいるのだ!!

大雅の鈎鎌槍は更に手数が増えて青彪の槍を封じ込めていく。

「さすが・・・黒岩殿・・・・・・!?」
感嘆する義成であったが、青彪の表情を見て驚く。

全く表情を崩さない青彪。
そして懐に手を入れた。

「黒岩殿、避けて!!」
義成が叫ぶ。そして弓を構えたときだった。

青彪は大雅めがけて何かを投げつける。
更に義成にも投げつけてきた。

「当たるか!!」
大雅は身体をひねってかわす。
義成は刀を抜いて叩き落とした。

まさか・・・

青彪が投げたのは鉄扇だった。

「グアァァァ!!」
反転した鉄扇が大雅の背中に直撃する。
血を吐いて倒れ込む大雅。

「千之助・・・大雅を!!」
「しかし、殿を・・・」
「私は構わん。大雅を連れていけ!!」
私の命令で千之助は大雅を連れて逃げていった。

「殿・・・少しよろしいですか?」
義成が苦笑いを浮かべながら私に聞いてくる。
「どうした?」
「殿を守りきれたら美佳様を私にくださいね・・・」
そう言うと義成は刀を鞘に収め槍を手にした。

「高井義成か・・・オマエは強き者だ・・・その命を捧げてもらおう。」
青彪は鉄扇を懐にしまうと義成を見る。

「強き者・・・私の名を知っている? 光栄ですね。」
義成は槍を構えた。

多分、いや・・・絶対にこの男に勝てない・・・

義成は先程の青彪と大雅の戦いで悟っていた。
大雅との戦いにおいて青彪は全力を出していない。
そして今も同じ・・・弄ばれている。

そんな義成の姿に私は感じ取った・・・
まさか・・・死ぬ気では?
私を助けるために・・・だから美佳を自分にくれと言った。
もう嫌だ・・・照友殿、九兵衛・・・嫌だ・・・

「私が戦おう・・・義成下がれ!!」
私は黒漆剣を手にすると義成の前に立った。
「・・・なんと・・・」
青彪は予想外の出来事に驚愕の表情を浮かべている。
「殿・・・それは成りませぬ・・・」
「たわけがァ!!」
遂に私は戦国時代風の言葉で義成を一喝すると青彪を睨みつけた。
正直に言えば、ヤケクソであり恐怖を通り越している状態ですが・・・

「征夷大将軍坂上田村麻呂から受け継ぎしこの剣・・・括目せよ!!」
私は黒漆剣を抜いて天に掲げた。

突然、空に暗雲が立ち込める。
突風が吹き荒れて私の身体を包み込む。



遂にこの多聞山城攻めも佳境に差しかかってきた。
果たして私と青彪の戦いはどのような結末を迎えるのだろうか・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

王太子妃の仕事って何ですか?

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約を破棄するが、妾にしてやるから王太子妃としての仕事をしろと言われたのですが、王太子妃の仕事って?

ああ、もういらないのね

志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。 それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。 だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥ たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。

処理中です...