マイホーム戦国

石崎楢

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第51話:多聞山城の戦い(3)

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元規の流星鎚をかわす白虎。
そこに英圭の鉄棒が襲ってくる。
「!!」
槍で弾き返す白虎。

二人がかりでも表情一つ変えないとは・・・

英圭は白虎の実力に舌を巻いていた。
それに対し、元規の表情は活力に満ちていた。

さすが・・・我が師よ
腕が衰えるどころか以前よりも更に強くなられている。
ならば私もその腕を見せねばならない!!

その流星鎚は更に変幻自在に軌道を変えて白虎に襲い掛かる。
「くらえ!!」
元規の攻撃の前に白虎は防戦一方になった。

「やるな・・・。ならばッ!!」
白虎は双槍を投げ棄てると背中から大刀を抜いて構える。
そして流星鎚を一刀両断に斬り落とした。

「なッ・・・!?」
焦る元規に間合いを詰めて斬り込む白虎。
英圭が鉄棒を振るって前に立ちはだかるも
「くッ!?」
白虎の大刀の前に鉄棒が真っ二つに折れた。
英圭は落馬することで辛うじて攻撃をかわしたが
「元規・・・・」
白虎は元規めがけて大刀を振るう。

弟子にも容赦なしですか・・・

元規は目を閉じて諦めた・・・そのときだった。

「死なせはせん!!」
義輝が飛び込んできて薙刀で白虎の大刀を弾いた。

なんだ・・・この威圧感は・・・

白虎は体勢を立て直すと義輝を睨む。

「義輝様・・・。」
笑顔を見せる元規、安堵の表情を浮かべる英圭。

「俺も含めて死にたがりは困るようだしな・・・もう誰も死なせはせん!!」
義輝は薙刀で白虎を威嚇した。

この男・・・義輝公か・・・

白虎は大刀を振りかざし、義輝めがけて斬り込んでいく。

元規と英圭の二人で歯が立たぬ男・・・面白い!!

義輝は目を見開くと笑みを浮かべて受けて立った。



同じ頃、大手門内では・・・

「ハァァァッ!!」
六兵衛の大刀が唸りを上げる。
「ウオォォォッ!!」
緑霊の長刀も切れ味鋭く鮮やかな太刀筋を見せる。

既に五十合に及ぶ斬り合い・・・
見た目は全くの互角であった。

しかし当人たちにしかわからない差があったのである。

やはり・・・腕が・・・重い・・・

六兵衛の腕は疲労で動かなくなりつつあった。
表情にもわずかに疲労と戸惑いが浮かび始めていた。

我が剣はただ斬るだけではない・・・その者の心までも斬る剣!!

緑霊は更に力を強めて六兵衛に斬りかかる。
その一撃一撃を防ぐたびに険しい表情になっていく六兵衛。

周りでは緑霊配下の緑装束の兵たちが山田忍軍と激しく渡り合っている。

今か・・・

六兵衛は渾身の一撃を緑霊に叩きこむ。

どこにこのような力が・・・

一瞬怯んだ緑霊の隙を突き馬首を転じて逃げ出す六兵衛。
それに合わせて山田軍、忍軍も一斉に逃げていく。

「逃がさんぞ!!」
緑霊が追いかけていき大手門を通過しようとした瞬間だった・・・

なんだ・・・この殺気は!!

「ぐおッ!?」
緑霊は吹っ飛んでいき地面に倒れ込む。
すぐに起き上がると目の前で乗っていた馬が真っ二つになっていた。

「・・・強き者・・・ね・・・」
その血飛沫の中を歩いてくる一人の男。
「山田忍軍頭領石川五右衛門・・・参るぜ!!」

物凄い速さで一気に間合いを詰めてからの五右衛門の一撃。
緑霊は防ぐもその勢いにまたも吹っ飛ばされる。

押されている・・・この私が・・・そのようなはずがない!!

しかし緑霊はそのままこらえきると今度は逆に一気に間合いを詰めてきた。
「やるじゃねえか!!」
五右衛門はそれを真っ向から受け止める。
そして重い一撃を次々と返していく。

「石川殿は凄いな・・・。」
つぶやくと六兵衛はまた馬首を転じる。
「行くぞ!!」
大刀を振りかざし大声で檄を飛ばす。
山田軍は再び大手門へと突入していく。
光秀や清興、一馬たちも続いていく。

「よし・・・全軍攻撃開始!!」
私のいる本軍も前進を開始した。


その頃、多聞山城の東に陣を敷く景兼たちは少しずつ城へと近づいていた。
斜面の上に城壁があるが、その上では松永軍の兵たちが待ち受けているのがわかる。

「盾隊準備。」
大型の鉄の盾が横一面に並べられる。
「破裏数多準備!!」
景兼の命令で破裏数多が盾隊の裏で次々と準備される。

「発射!!」
その弾道はまっすぐに城壁に直撃すると衝撃で大爆発を起こす。
上から松永軍の兵たちが転がり落ちてくる中を山田軍は斜面を登っていく。

「鉄砲隊撃て!!」
城壁の瓦礫の隙間から松永軍の兵が姿を現すたびに鉄砲隊が撃ち続ける。


そして北畠からの援軍を指揮する鳥屋尾満秀は、軍を細かく分けて松永軍の周辺の支城や砦を攻略していた。
「上策だ・・・。」
景兼の立てた作戦に感嘆していた。

「どこからも援軍が来ぬ・・・。」
周囲の支城や砦からの援軍が来ないことで久通は憤ていた。
徐々に山田軍に浸食されていくかのような多聞山城。
「ん・・・!?」
気がつけば青彪と信綱の姿がなかった。

好き放題しやがって・・・

「ぐあッ!!」
久通は腹いせに近くにいた家臣を斬り倒した。
震えあがる家臣団を見回すと久通は言った。
「お前たち逃げるなよ♪」


景兼は次々と城内に突入していく山田軍の兵を見つめていた。
そこに現れた一人の男。

「豊五郎、元気そうじゃの。」
「叔父上・・・。」
その男は上泉信綱だった。その姿に驚きを隠せない景兼。

「お前に話がある。」
「なんでしょう?」
「山田を離れて我らと共に来い。新しき日ノ本を創るのじゃ。」
信綱の言葉に景兼は突然笑い出した。
「ハッハッハ・・・笑止。」
そして刀を抜くと信綱を眼光鋭く威圧する。
「ワシとやるというのか・・・。」
信綱も刀を抜いた。
そして二人はお互いに間合いを測りながら一撃を決める瞬間を探っていた。

この隙の無さはまさしく叔父上・・・
だがしかし・・・異質な何かを・・・歪な何かを感じるのだ

景兼はわざと隙を見せた。

「必剣・・・心・陰の太刀!!」
信綱の刀が唸りを上げて景兼を斬り裂く・・・
「真・陽の太刀!!」
景兼の刀が光り輝くかのように信綱を斬り裂く・・・

凄まじい衝撃波のようなものが辺り一面に起こった。
砂煙が渦巻く中で二人の影がひたすら斬り結ぶシルエットが浮かぶ。

「フハハハ・・・何という剣じゃ・・・。」
信綱は腹部から血を流していた。
「・・・貴様・・・何者だ?」
景兼は憤怒の表情で信綱を追い詰めていく。

「こういう者じゃ・・・豊五郎・・・俺だよ・・・。」
信綱の顔が違う男の顔に変わる。
「なっ・・・」
驚きの表情を浮かべる景兼。

宗治様・・・だと・・・

上泉信綱だった男は、景兼と同じ信綱の弟子であった神後伊豆守宗治に顔が変わっていたのだ。
それが景兼に出来た一瞬の隙だった。

「ぐふッ・・・。」
景兼の腹部を宗治の刀が貫いていた。
しかし、そのまま景兼は口から血を流しながら刀を一閃する。
「ガァッ!!」
宗治は肩口から斬り裂かれて倒れ込む。

「ふぅ~・・・ふぅ~・・・」
景兼は腹部に刀が刺さったままで宗治を睨む。

「つ・・・強いねえ・・・疋田景兼・・・」
宗治の顔が変わった。そしてその男はふらふらと立ち上がる。

誰だ・・・

途切れがちな意識の中で景兼はその男の顔を見た。

「疋田様!!」
兵たちが駆け寄ってくる。
弓矢の嵐をふらふらとかいくぐってその男は姿を消した。

「フンッ!!グアァ!!」
景兼は腹部に刺さった刀を抜くとひざまずいた。

なんとか・・・急所は免れたか・・・

そしてそのまま倒れ込んだ。


そして本陣。
攻め始めた私たち本軍の前に突然、青装束の一団が奇襲をかけてきた。
音もなく現れたその姿に兵たちは戸惑いを隠せない。

その青装束の一団の中から一人の男が現れた。

「我が名は青彪だ。強き者よ・・・その命を捧げよ。」
青彪は十文字槍を頭上で旋回させると構えを見せる。

「山田家家臣黒岩大雅。殿には指一本触れさせん。」
大雅は鈎鎌槍を構えてじりじりと青彪へと間合いを詰めていく。

「緑の次は青装束か・・・狙い撃たせてもらう。」
義成が青装束の一団に弓で狙いを定めていた。

「殿・・・私が及ばないときは黒漆剣で戦われてください。」
千之助が私を庇うように立ちながら声をかけてくる。

マジですか・・・覚悟を決めるときが・・・遂に!!

私は黒漆剣に手をかけて立ち上がった。



多聞山城攻めは二日目にして佳境を迎えつつある・・・
そして青装束の集団と青彪を前に私自身が戦うときが遂に訪れるのだった。
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