マイホーム戦国

石崎楢

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第18話:私が攻城戦を指揮している(3)

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高山軍と合流した私たちは芳野城を包囲していた。
芳野清兼は残存兵400で立て篭もっている。

私たち山田・高山連合軍の兵力は600。
包囲してから3日が過ぎていた。

バリスタなる攻城兵器の準備はできているのだが、
その指揮をするはずの岳人は沢城で寝込んでいた。

「岳人さん・・・まだ布団を被ったままだ。」
重友は岳人が寝ている部屋を覗くとため息をつく。
「ジュスト・・・祈りましょう。岳人殿の心に救済を・・・。」
重友の母マリアが祈りを捧げている。
少し考え込んだ重友が立ち上がった。
「僕が美佳様を呼んでくる。」

膠着状態が続く戦況に景兼は思案していた。

とりあえずあのなんちゃらという攻城兵器が使えないとなると・・・
殿の考えはなるべく犠牲を出さずにということ・・・
この芳野城は城自体は小さいが守りは固い。
一気呵成に攻め落とすことはできようが、こちらの犠牲も多く出るだろう。
兵の無駄使いは滅びを意味する。
国を作るのは人・・・人を大切にせねばという殿の御心に添わねばならない。

私は友照と芳野城を見つめていた。
「我慢されますな。大輔殿。」
「ええ・・・人でこの世界は成り立っているんです。無理に人を殺す必要はないと思うんですよ。」
「素晴らしいですぞ。」
「え~なんでしたっけ? 主の教えで・・・汝の敵をアニ●ハセヨということです。」
「汝の敵を愛せよですぞ・・・。」

ヤバい、冗談が通じなかった。
私と友照の間に非常に微妙な空気が流れるのだった。

その頃、井足城では
「勝ちどきを上げるぞォォ!!」
「ウオォォォー!!」
清興の声に兵たちが歓声をあげた。

芳野城が包囲されて敗色濃厚となり、井足城の芳野軍は降伏した。
井足の芳野軍残存兵はそのまま投降し、清興の配下として山田軍の兵力増強に貢献することになる。

その頃、芳野城内では家臣たちが清兼を囲んでの軍議が続いていた。

「ここはもう諦めるべきです。」
言うのは若き芳野家家臣の滝野一馬。
「若造が何を言うか!!」
「山田の軍門に下れということか!!」
他の家臣たちの怒号が響き渡る。
「ですから、このまま籠城してもどうにもならないということを・・・」

「一馬はこの城を棄てろということが言いたいのじゃな?」
「はい、秋山を頼るべきかと・・・」
「ならぬ・・・秋山に頭を下げるなどできぬわ!!」
清兼は一馬を一喝した。
「宇陀三将は並び立つ者じゃ。もう良いぞ、一馬。」
「何をされる・・・殿?」
清兼が目配せすると兵が数人現れて一馬を押さえつける。
「おぬしは剛の者じゃ、暴れられては困る・・・追って沙汰を言い渡す。」

何故・・・こんな無駄な戦い方しかできないのだ。

一馬は城内の牢獄に幽閉された。

何故、次に繋がる道があるのに・・・。

滝野家は吉野の出身であるが、代々芳野家に仕える家柄であった。
しかし教興寺の戦いにて父や一族郎党が戦死、残った一馬が家督を継いだ。
既に槍の達人として芳野家随一と謳われてはいたが、年も若いために他の家臣団からのぞんざいに扱われていた。

ただ・・・殿は目をかけてくだされた。
今回の戦いでも私を城の留守居役として重用してくださった。

「おぬしの武は最後の手段じゃ、このような戦場で死なれては困るしの。」

殿の笑顔が忘れられぬ・・・それがこのような仕打ち・・・。

そのとき、牢獄に清兼が姿を現した。
「殿・・・、なッ!?」
清兼が牢の鍵を開ける。
「済まぬな・・・このような仕打ち。」
「殿?」
「城を出るがいい、山田に下るのじゃ。」
「何を・・・おっしゃられているのか・・・」
一馬は涙を浮かべている。

清兼は話を続けた。
「誰もが存じでおるだろう・・・ワシには子がおらぬ。」
「・・・殿・・・。」
「おぬしのような子が欲しかったのじゃ・・・。」
清兼は優しい表情で一馬の肩に手を置く。
「この書状を山田に渡して欲しい。」
そして一通の書状を渡した。

「おぬしは滝野の名を捨て、芳野一馬として生きて欲しい。」
「・・・。」
「芳野の名を絶やさぬために・・・ワシに代わって生き恥をさらしてもらいたいのじゃ。」
「殿・・・。」
「行くのじゃ!!」

一馬は芳野城を出ていく。
振り返ると清兼や家臣団が笑顔で見つめていた。

生きる・・・生き抜きますぞ・・・。

「城から誰か出てきましたぞ・・・。」
その様子を見た九兵衛が私に報告する。
「私が行きます。」
六兵衛が陣を出て行った。

「私は芳野一馬と申す。山田殿に降ります・・・。」
一馬は平伏する。
「・・・な、なんと!?」
六兵衛は狼狽した。

山田・高山連合軍本陣にて
「なんと芳野清兼に子がおったとは知らなかったぞ。」
友照は言うと一馬をじっと見つめる。
「山田殿・・・これを。」
私は一馬から清兼の書状を受け取った。

「・・・なんでなんだ!!」
私は書状を読むと思わず大声を張り上げてしまった。

殿が激昂されるとは・・・

景兼がその書状を読むと一馬を見る。
一馬は涙を浮かべながらうなずく。

「・・・芳野は誇りを選ぶということか・・・誇りも何も死んだら終わりだろうが!!」
六兵衛、九兵衛も私のあまりの剣幕に固まっている。
「大輔殿・・・。」
友照が私をなだめようとするも我慢ができなかった。
「侍だか武士だか知らねえけど・・・生きるということが戦いだろう。それを放棄したらただの敗北者じゃねえか!!」

しばらく沈黙が続いた。

「私はあきらめません。何とか説得して見せる。」
私は言うと本陣を出て行った。
その後も幾度となく芳野城に降伏を呼びかけるも返答はない・・・返ってくるのは矢の嵐だった。

沢城にて
「岳人、起きろ!!」
やってきた美佳が布団をひっくり返す。
驚愕の表情を浮かべる重友。
「あ・・・アネキ・・・。」
泣き腫らした顔の岳人はすぐに布団を頭にかぶる。

「人がいっぱい死んだんだ。」
「そりゃ、戦争だから死ぬでしょ・・・。」
「何だよ、その言い方!!」
岳人は起き上がるが・・・
「アネキ・・・」
美佳は泣いていた。
「あたしもこの前の堺に行ったときに、沢山の人が死ぬのを見たわ・・・パパの命を狙う刺客たちだった・・・。でも人なの・・・同じ人間なの・・・。」

「戦っているときはわからなかったんだ・・・。でも戦いが終わって戦場に転がるたくさんの敵の死体・・・。どうすればいいのかわからなかったんだ。」
岳人は頭を抱える。
「そして僕をかばって茂三さんが死んだ・・・。僕をちゃんとわかってくれる人だったんだ。」
岳人は更に続けた。
「僕のせいで・・・茂三さんの奥さんや子供たちに・・・どうすればいいんだよ!!」

その時、美佳は岳人を抱きしめた。
「アネキ・・・」
「岳人・・・成長したね・・・。」
美佳は笑顔で岳人に言う。
「え・・・」
「岳人はいつも誰もわかってくれない、学校のヤツラはわかってくれないって言っていた。」
美佳は岳人の涙をぬぐう。
「でも岳人のことをわかってくれる人がいたじゃん・・・それはね。」
「・・・。」
「岳人が茂三さんのことをわかってあげたからなんだよ。」
「・・・。」
「自分のことをわかってもらうには相手のこともわからないと・・・」
「う・・・」
「やっと・・・できるようになったね♪」
「ぐ・・・」
「この戦いが終わったらさ、茂三さんの家族に会いに行こう・・・あたしも一緒に行くからさ。」

岳人は美佳の胸で小さい子供のように泣きじゃくった。
ひとしきり泣いた岳人が言う。

「アネキ?」
「なに?」
「おっぱい小さいな・・・ブゲッ!!」
岳人は美佳のパンチを貰い、吹っ飛んでいく。

「お、どれどれ・・・まだ成長期だな・・・大きくしてあげよう♪」
「!?」
「もみもみ♡ ギャフン!!」
重友は背後からひとしきり美佳の胸を触るも裏拳で吹っ飛ばされた。

「てめえら!!」

「逃げろ♪」「やった!!美佳様の胸揉めた♡」
鼻血を流しながら岳人と重友は逃げ回る。
美佳は憤怒の表情で追いかけ回す。

「あらあら・・・美佳様・・・大暴れね♪」
沢城の御殿が暴走する美佳の手により破壊されていく。
マリアは微笑みながらその様子を眺めているのだった。

その日の晩、沢城から岳人が戻って来た。
「みなさん、ご迷惑をおかけしました。」
本陣にて謝罪する岳人の姿・・・一回り成長したように見える。

「早速、バリスタで城を破壊します。」
岳人の指示でバリスタが城の前に並べられる。

三連の巨大な鉄の矢が次々と準備される。

「なんじゃ・・・あの巨大な弓のようなものは・・・。」
清兼や芳野家の家臣団は動揺を隠せない。

鉄の矢の先端に布を巻き、油を塗って火をつける。

「撃てぇッ!!」
岳人の号令と共に炎に包まれた鉄の矢が弧を描いて飛んでいく。
次々と城の柵や城壁を壊していく。

「・・・。」
岳人はうつむく。

すると着弾した鉄の矢が爆発した。
鉄の矢に火薬が仕込まれている・・・着弾すると火薬が出てくる仕組みだ。
次々と起こる爆発によって芳野城の城内は大混乱している。

まるでミサイルじゃないですか・・・

炎に包まれた芳野城・・・
「もはや・・・これまでか・・・」
清兼はつぶやくと燃えさかる炎の中に姿を消していった。

「なんでわかってくれなかったんだ・・・なんでそういう終わり方を選ぶんだ・・・。」
私は燃え上がる芳野城を見つめてつぶやく・・・そうつぶやくしかなかった。

こうして芳野城は陥落した。
投降兵たちは若い者ばかりで清兼たちから話を聞いており、一馬の配下として私たちの軍に加わった。

そしてこの勝利により、宇陀・吉野だけではなく大和の国全体に私の名が轟くこととなるのであった。
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