マイホーム戦国

石崎楢

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第17話:私が攻城戦を指揮している(2)

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僕は外ではずっと一人だった。

小学校の時、サッカーの大会でゴールを決めた。
僕の得点で勝ったのに監督に怒られた。
「なんでパスをしない?」

違う・・・パスをしないんじゃなくて僕のパスしたい場所に誰もいない。
だから僕が決めるしかなかった。
何でわかってくれない・・・。

歴史が大好きでそれを語っても理解してくれるヤツは学校にいなかった。
お父さんやお母さん、アネキは僕を理解してくれた。応援してくれた。
家族旅行で日本全国の色々な城郭を見に行くことができたのも、僕のことをわかってくれる家族がいるからなんだ。
でも、学校のヤツらはゲームやアニメばかり・・・僕には理解できなかった。
先生は教科書や宿題ばかり・・・僕はただ我慢するばかりだった。

でも・・・この時代ではみんな理解してくれる。
僕のずっと考えていたことがカタチになっていくんだ。
古代ローマの武具や兵器、昔の中国の武具は戦国時代で通用する。
アレンジすれば通用するんだということ・・・
僕は示したい。


岳人は空を見つめていた。

「若君、何をボーっとされてますのん?」
バリスタ隊の隊長である茂三が岳人に声をかけた。
「色々と思い出すことがあってね・・・。」
「ワシも思い出しますわ。カミさんやガキ共のことを。」
「そうだね。この戦に勝ったら喜ぶだろうね。」

茂三は初瀬の里に住む大工だったが、山田家の募兵に応じたのだ。
宇陀の地にてバリスタの組み立てにも尽力していた。


「六兵衛・・・ちょっとよろしいかい?」
「殿、何ですか?」
「股が痛い。」
「知るか、ボケ!!」
私はあまり馬に慣れてはいない。
股ずれでかなりヒリヒリしているのだが、六兵衛は最近私に対してキツイ言動が目立つ。

「もしかして六兵衛も股ずれか? この野郎。」
私は六兵衛をユサユサと揺らすと
「おおおっ、殿やめてくだされい。」
あの六兵衛が悶絶している。
「ヒリヒリしやがれ!!」

「兄上は馬に慣れておらぬからな、私は慣れているので大丈夫です。」
九兵衛が一人勝ち誇っていた。

景兼はそんな私たちを横目に思案していた。

この戦の勝機は全て我らの手順にある。
若君の考案された武器は個ではなく集団にて威力を発揮するものばかり。
全てが上手く立ち回ることができれば我らのみで・・・
我らのみで芳野の軍を撃退することもできよう。
1対1では機能しないが、10人で30人の敵をせん滅できる戦術か・・・

そのとき井足城の方角でのろしが上がった。

「始まったか!! 全軍歩みを速めよ。」
景兼が叫んだ。

井足城では・・・

「我は山田家家臣の島清興なり!!腕に覚えある者がおればかかってくるが良い!」
清興の挑発に対し
「射殺せ!!」
井足城から矢が嵐のように飛んでくる。
清興は当たらない場所まで下がる。

「島殿・・・勝手に単独で出陣されてよろしいので?」
信安が心配そうな顔で声をかける。
「大丈夫ですぞ。殿はアホかと思うぐらい度量が広い男だ。」

山田殿・・・アホ呼ばわりされてますぞ・・・

信安がとても悲しい顔になったその時だ。

井足城に突撃していく軍勢がある。

「高山だな。」
清興は槍から弓に持ち替えた。
「どちらへ?」
「援護に回る。あれは高山軍きっての猪武者の今井殿の兵じゃ。」
「あ・・・行ってしまわれた。」
信安は清興を止めることができなかった。

先行した高山家家臣今井の軍勢は城内からの反撃に遭っていた。
そこに高山友照の本軍が到着した。

「全軍、城を包囲しろ。」
友照の命で高山軍は井足城を包囲した。

高山、赤埴に井足城を攻められていることは、すぐに芳野城にも伝わることとなった。
「フハハハ・・・愚かよ。すぐに軍を集めい!! 沢城を奪い取る。」
清兼は高笑いすると号令をかけた。

私たちは平井の砦に到着した。
元々は沢城の支城であったが、幾多の戦火の中で廃城となっていたところを改築した砦だ。

私と六兵衛は薬を塗った。これで股ずれは治まるだろう。

「休めるのは今だけだぞ。すぐに戦になる。」
景兼は兵たちに言う。

「訓練と実戦は違うが、迷うな・・・生きるために戦え!!
景兼は言葉を強める。

「この戦は宇陀の地を大きな勢力から守るためのものです。みなさんの大切な人、大切なモノを思い浮かべてください。汚されたくなければ・・・勝ちましょう!!」
私の言葉で兵たちの目の色が変わった。

士気が高まったか・・・。
景兼は笑みを浮かべた。

芳野軍は進軍を始めていた。
その数は800。数々の戦いを経験している兵ばかりである。

「ん・・・なんじゃ!?」
清兼は何かを察知する。

「側面から敵ですぞ!!」
芳野家の家臣が言う。
「何?」
「山田の軍勢が平井の方角に現れました。」
清兼はその報を受けて平井の方角を見ると
「あのような数で攻めてくるとは愚かなり。」
「我らが半数程ですな。」
「ひねり潰してくれるわ!!」

「芳野が動き出しましたぞ。」
六兵衛が景兼を見る。

「盾隊、準備終わりました。」
山田軍の陣の前に鉄の大きな盾が並べられる。

「なんだ、あの盾は?」
「馬で蹴り飛ばしてくれよう。」
芳野軍騎馬隊50騎が突撃してくる。
その後には歩兵部隊が続いてくる。

「引きつけて・・・。」
岳人は鉄の盾の裏に隠れて指示する。

芳野の騎馬隊が近づいてくる。

「若君!!」
景兼が合図する。

「鉄砲隊撃て!!」
岳人の号令で鉄の盾の陰から鉄砲隊が芳野軍騎馬隊を狙い撃ちにする。

「ぐあッ!!」「うわッ!?」
15人15発の射撃で次々と芳野軍騎馬隊は倒れていく。

「鉄砲か・・・しかし次に時間がかかる・・・バカな!?」
その様子を見ていた清兼は狼狽する。

すぐに次の射撃がはじまり次々と騎馬隊が倒れていく。

「連射などできるワケなかろうがッ!!」

しかし、また次の射撃が始まる。

「山田にそのような大量の鉄砲隊がおるというのか・・・」
次々と続く射撃で騎馬隊は全滅した。

続いて突撃する歩兵隊も連射する鉄砲隊の前に次々と倒れていく。

三段撃ち・・・やらせて貰ったよ。
岳人は盾の陰から戦況を見つめていた。
盾の裏では隠れた兵たちが次々と鉄砲を冷やし、弾を充填していた。
全てが時間差・・・敵には連射に見えるだろう。

「次、弓隊!!」
景兼の号令で鉄砲隊の裏から弓隊が芳野軍に狙いを定める。
次々と芳野軍の兵を射抜いていく。

「くそ、反撃せい!!」
芳野軍も弓隊が出てきた。私たちの倍はいる。
一斉に矢を放ってきた。

「うわっ!!」「ぐッ!!」
矢の雨に我が軍の弓隊が逆にやられていく。

「盾に隠れろ!! 弓隊退けい!!」
景兼が指示する。弓隊は盾に隠れたあと、後退していった。

「怯んでおるわ!騎馬隊、とどめを刺してこい!!」
芳野軍の残りの騎馬50騎が突撃してきた。
芳野軍の歩兵隊も立て直して突撃してくる。

「歩兵、特別隊!!」
こちらも歩兵には歩兵で迎え撃つ。
そして騎馬隊には特別隊が立ちはだかる。

「死ね!!」
芳野軍の騎馬武者が槍をふるうも
団牌手が防ぐ。その裏から鈎鎌槍兵が出てきて騎馬武者の手綱に槍を引っ掛けた。
馬が暴れ、バランスを崩し落馬した騎馬武者にハルバ-ド兵がとどめを刺す。

「馬鹿な!?」
別の芳野軍の騎馬武者は馬の足を大槌兵のハンマーで折られて落馬した。
今度は団牌手が騎馬武者の首にクナイを突き刺した。

集団戦術に芳野軍の騎馬隊は遂に全滅した。
しかし、歩兵戦では芳野軍が押している。

「景兼、準備OKだ!!」
「歩兵、特別隊は退け!!」
岳人の合図で景兼が指示を出す。

我が軍の歩兵、特別隊が退いていく。

「追え!!鉄砲隊も行けい!!」
芳野軍の歩兵隊と弓隊、更に鉄砲隊も前進してきた。

「撃て!!」
ここでまた我が軍の鉄砲隊の三段撃ちが炸裂する。
「弓隊、撃て!!」
弓隊もその後ろから矢を放っていく。

「バ・・・馬鹿な・・・。」
清兼の目の前で芳野軍の精鋭が山田軍に蹂躙されている。
鉄砲隊も構える間もなく次々と倒れていく。

宇陀三将の芳野家が素性もわからぬ国人の軍に・・・
悪夢・・・悪夢にしか思えぬ・・・。

「退け!! 退けい!!」
芳野軍は残兵をまとめて逃げていった。

「勝ちましたか・・・。」
私はとりあえずホッとしたのだが、眼前の屍の山には胸が痛む。

敵とはいえ・・・同じ人間。
しかし、下手をすれば次は私たちがあの屍の山になっているかもしれない。

「殿、高山殿の援軍を待たずして芳野軍を撃退。これはとても意味があることですぞ。」
景兼は手応えを感じていた。

芳野軍を破ったことにより、殿の名は広まるだろう。
宇陀のみならず、吉野の国人たちもこれで動くだろう・・・我らの下で。

「負傷した者の治療を急げ!!」
六兵衛が大声で叫んでいる。

そんな中、九兵衛は岳人を探していた。
「若君・・・。」

岳人は草むらで嘔吐していた。
「若君、しっかりしてくだされ!!」
茂三が介抱するも
「僕は・・・僕は・・・こんな・・・」
岳人は涙が止まらない。

辺り一面に広がる芳野軍の死体。
こんな簡単に人が死ぬ・・・これが戦争・・・。

その時、岳人に何者かが襲い掛かる。
「若君!!」
咄嗟に岳人を庇う茂三。
「ああ・・・っ・・・」
岳人の目の前で茂三が斬られた。
生き残っていた芳野軍の兵だった。
刀を手にして岳人を睨んでいる。

「グエッ!!」
そこに九兵衛が飛び込んできてその兵を斬り捨てた。
「若君・・・ご無事で・・・」
九兵衛は岳人の顔を覗き込む。

岳人は倒れた茂三にすがりついていた。
「僕は・・・僕はァァァー!!」
岳人の悲痛な叫び声が戦場にこだまするのだった。




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