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堕ちるモノ

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ジベンスの魔法陣から5回目のイルジアンへの里帰り。

「インデス(毒)の魔法か・・・ドリアードには一番キツイよ・・・。」

シルフは不安げな表情で俺のローブの袖を掴んでいる。
特に毒系でもダーヴィスの魔法は威力が絶大だ。
ドリアードが毒に対する耐性がないことをわかっていて狙ったのだろう。
俺はシルフの手を握りしめて落ち着かせる。

「ありがと・・・。エリーゼ様も優輝クンに手を握って貰ったら落ちつくと思うけど・・・」

シルフは笑顔を見せつつも、ふさぎ込んだエリスの姿が気になっていた。
俺は敵襲に備えて既に左手に光の刃を発生させている。


ダーヴィス・イルクヘルムか・・・


かつて幾度となく大魔王ギルヴェル討伐軍がイルジアンの王都ミエルスで編成されていた。
その3度の討伐は全て失敗に終わったのだが、その最後の第3次ギルヴェル討伐軍。その中に俺とダーヴィス・イルクヘルムは参加していた。このとき俺は15歳、ダーヴィスは18歳。
数々の高名な戦士たちや魔法使いを総動員した激しい戦いだったが、大魔王の居城に辿り着くこともできずに討伐軍は次第に敗色濃厚になっていた。


「俺の前にひれ伏せよ・・・スマグマ・ノーヴェシャナ!!」
「グオオオ・・・貴様の魔法力は底無しかァァァ!?」

俺の唱えた重力系の呪文で身動きが取れなくなる一体の巨人。
ギルヴェル四天王の一人である巨人パレナス。

せめて・・・コイツだけでも仕留めなければ・・・

逃げ惑う討伐軍の兵士たちを逃がさねければならない。しかし、モンスターたちの追撃は止まらない。

「ダーヴィス・・・紫炎のダーヴィスは生きているのか?」
「ああ・・・何とかな・・・でも埒が明かねえぞ!!」

俺の背後でモンスターたちに奮戦する魔法使いの一団。王立魔法学院の精鋭たちを率いているのがダーヴィスだった。

「フンヌ!!」

気合で俺の魔法を吹き飛ばしたパレナスが巨大な戦斧を俺とダーヴィスたちに叩きつけた。
俺は瞬時にかわしたが・・・

「ぎゃあああ!!」「うべえええ!!」

肉片が飛び散る中で恐怖に立ち尽くすダーヴィス、更に追撃の一撃・・・

「反射せよ、光の鏡よ!! ガイスマス・スポグリス!!」
「ヌオォォォ!?」

俺は巨大な光の鏡を展開して攻撃を跳ね返した。
攻撃反射の呪文が通じるということはパレナスより俺の方が確実に強い。

「さすがはサリナスを葬ったユウキ・ナザン・・・しかし同じ轍は踏まぬぞォォォ!!」

自分で自身の攻撃を喰らい致命傷を負ったはずのパレナスが両腕を天に掲げる。
漆黒のオーラに包まれると跡形もなく傷が消えていくのだ。

「ギルヴェル様から強化していただいたこの身体ァ!! 無敵ィィィ!!」

サリナスと同等かそれ以下だったはずのパレナスが・・・厄介だな・・・その無駄なまでの生命力・・・

「さあァァァ!! 喰らいやがれ!!」

パレナスが巨大な戦斧を俺めがけて振り下ろす。

「仕方が無いか・・・ジベンス・ソーヴェント!!」

それを俺は剣で受け止めた。
そしてそのまま剣から放つ雷撃でパレナスを痛めつける。

「ぐおおおッ・・・馬鹿な・・・ここまで強いのか・・・ユウキ・ナザン。」

片膝をついたパレナス。
しかし、その眼光はまだ鋭いままだ。
まだ何か隠しているかもしれない。

「すげえ・・・何だよ・・・この戦い・・・」

その光景を目の当たりにしたダーヴィスの顔つきがおかしいことに俺は気付いた。

「ダーヴィスどうした? 戦うなら戦う、逃げるなら逃げる・・・ハッキリしろ・・・」
「ユウキ・・・オマエはスゲーよな。あんなヤツと互角以上に戦えるんだよな・・・本当に人間か?」
「何を言うかと思えば・・・馬鹿らしい・・・ただの人間だろ。」

俺はダーヴィスは気が動転しているだけだと軽く受け流した。
しかし、次の瞬間に信じられない一言を放ったのだ。

「巨人様よぉ。俺もアンタみたいになれんのか?大魔王に忠誠を誓えばその溢れ出るチカラと生命力・・・」
「ダーヴィス・・・何を・・・」

それを見たパレナスはニタニタと笑いながら声を上げた。

「面白い人間だな。全てはオマエ次第だ。どうしたいのだ?」
「こうしまーす♪」

ダーヴィスは手にした杖を槍に変化させると俺めがけて突いてきた。

「なッ・・・ぐッ・・・」

まさか・・・完全に殺すつもりの胸元への一撃・・・辛うじてかわすも左肩を槍で抉られて鮮血が飛び散る。

「ガハハハ!! 面白いぞ・・・よし、ギルヴェル様に合わせてやろう。」

パレナスはダーヴィスを連れて天空へと舞い上がっていく。

「く・・・ま・・・待て・・・ってマジか・・・」

追いかけようとした俺の周囲を取り囲むモンスターの大群・・・


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・く・・・クソが・・・」

力尽きて俺は倒れ込んだ。モンスターたちは全滅させたが、さすがに魔法力も限界だ。
遠のいていく意識の中、ダーヴィスへの復讐と打倒パレナスを誓ったのだった。


そして一年後、ダーヴィス・イルクヘルムは自らを「毒焔の魔導士」と称して再び姿を現す。
その恐るべきインデスの魔法でイルジアンを恐怖のどん底に陥れた。

巨人パレナスの住処であるフェンデス山。

「グオオオォ・・・」

轟音と共に倒れ伏し絶命する巨人パレナス。

「ぐがッ・・・・ガハッ・・・」

俺の光の刃に貫かれ立ち尽くすダーヴィス。

「俺は・・・俺は・・・いつでも・・・オマエを・・・ユウキ・・・」


そのまま絶命したダーヴィス。俺は確かにこの手でヤツを葬った。
葬ったはずだった・・・



「着いたわ・・・ジベンスの神殿よ。」

シルフの声で我に返る。
そんな回想をしている間に俺たちはジベンスの神殿に辿り着いていた。

「待ってたぜ・・・」

案の定、クラン・ヴァンゲリスとダーヴィス・イルクヘルムが待ち伏せしていた。

「どうしたギルヴェル様。そんな可愛い姿になってよぉ。何か落ち込んでる? もしかして俺に言いたいことでもあるのかい?」

ダーヴィスは伏し目がちなエリスを見定めると口撃を浴びせる。

「弱っている女の子を責めるなんてサイテー・・・久しぶりにマジ切れしそうだわ・・・」

シルフはエリスの前に立ってダーヴィスを睨んだ。
そしてチャクラムを両手に持ち構えると周囲に突風が吹き荒れる。

「優輝、シルフ。あたしがダーヴィスにインデスの魔法を授けたの・・・。」

エリスが声を振り絞る。その表情が痛々しい。

「ああ・・・見当はついている。ギルヴェルだった時のことだろ?」
「エリーゼ様、バレバレですわ。」
「まあ、俺から言わせればそれがどうした・・・エリス・ヴィエナ。」
「ギルヴェルはエリーゼ様ではありません。ヴィーザムに囚われてただけです!!」

俺とシルフの言葉に涙ぐむエリス。

「熱い熱い友情ごっこ・・・反吐が出るぜ!! どうしたユウキ・ナザン? 誰とも交わらぬ孤高の天才大魔法使いさんが三文芝居とは片腹痛いぜ!!」

ダーヴィスの挑発。その傍らでクランが腹を抱えて笑っている。

「ヒッヒッヒッ・・・道理で・・・以前より弱くなっているよな、ユウキ。」

そして奴らの目の前に魔法陣が現れるとそこからゴーレムと巨大な美しい花が浮かび上がってくる。
シルフはその巨大な美しい花を見ると思わずたじろぐ。

「・・・アルラウネ・・・だと・・・」

驚きを隠せない俺の前で巨大な美しい花は美少女へと姿を変えた。

「アルラウネを・・・操っているのね・・・」

エリスの表情が一変した。

「グゴオォォォ!!」

その美少女は顔から想像もできないほどの悍ましい声で咆哮した。
そしてその身体から触手のように蔓が伸びていき俺たちに絡みつく。

「させなないわ!!」

シルフがチャクラムを投擲して蔓を全て斬り落とした。

「シルフゥゥゥ・・・」

アルラウネは生気を失った顔でシルフへと近づいていく。
俺たちはその姿からわかったことがあった。

「毒に侵されている・・・?」
「まさか・・・!?」


地上のマラカイボ湖カタトゥンボ川河口。

「きゃああ・・・!?」
「うう・・・」

腰が抜けたようにへたり込む穂香の目の前で、ドリアードが舞花とサラマンダーを木の枝で締め上げていた。

どうしよう・・・どうしよう・・・

穂香は涙目でその光景を眺めるしかなかった。

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