五七五 関東大震災から百一年

野栗

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関東大震災 朝鮮人・中国人虐殺から、百一年

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 都庁まで 弾け 弾けよ 鳳仙花

 見た聞いた 胸の痛みが ほとばしる

 きっとある 「おれがやった」という証言はなし

 「井戸に毒」ことば一つで殺された。

 「無縁」ではない 埋められた 故郷くにも名も 

 国と都で数えよ無辜の犠牲者を

 虐殺の現場は隣の町でした

 荒川は職場の窓からよく見える

 百一年 忘れさせない 忘れない

 白むくげ ひとつ落ちては ひとつ咲く


 1923年9月1日、マグニチュード7.9の巨大地震が東京・神奈川およびその近郊を襲った。同日夕方ごろより、「朝鮮人が井戸に毒をいれた/暴動をたくらんでいる/爆弾を投げた」などの流言が罹災者の間で急速に広まり、多くの地域で在郷軍人・青年団・消防団を中心に「自警団」が結成された。鳶口や竹やり、猟銃などで武装した彼らによって、また、出動した軍隊によって、6000人を超える朝鮮人・中国人らが無残に殺されていった。
 荒川の旧四ツ木橋一帯は、自警団および軍隊による大規模な殺害が起きた現場のひとつだ。犠牲者の遺体はあるいは河川敷の穴に放り込まれ、あるいは川に投げ捨てられた。河川敷の遺骨は虐殺の事実が明るみに出ることを恐れた警察によって埋められた現場から掘り出されて持ち去られ、闇から闇に葬られた。
 1970年代後半より、地元の小学校教員らの地道な努力によって地域の高齢者からの証言が集められ、旧四ツ木橋をはじめ多くの地域で虐殺が行われた事実が浮き彫りになった。今も、彼らの活動を引き継ぐ市民らにより、虐殺の現場となった荒川河畔に鳳仙花やむくげが植えられ、毎年追悼式が行われている。
 虐殺された人々を追悼する碑や墓標は東京をはじめ関東一帯にあるが、公が設立したものはひとつもない。いずれも虐殺事件を起こした地域の住民や、虐殺の史実を知った市民たちの手によるものである。
 千葉県八千代市には「無縁供養塔」「無縁仏の墓」と刻まれた慰霊碑が残っている。犠牲者は、けっして最初から「無縁」であったのではない。
 
 ――9月1日に東京都墨田区の横網町公園で営まれる、関東大震災で虐殺された朝鮮人犠牲者を追悼する式典で、小池百合子都知事は今年も追悼文を送付しないことが、都への取材で分かった。小池知事が送らないのは、就任2年目の2017年から8年連続となる。(東京新聞Web 2024.8.17)

 この史実を誰が、何のために風化させたがっているのか。
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