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最終決戦
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町に戻ると、今までとは違う違和感が感じられた。
「なんか、雰囲気が違うな」とアインは呟くように言った。
確かに、何かおかしいな。人が一人もいない。町の中に生活感がなくなっていた。
まるで廃墟のような静けさが漂っていた。
「どうなってるんだ?」俺は不安になりながら辺りを見回した。
さっきまで、人が生活をしてた雰囲気はあるのだが人が見当たらない。
俺たちは町の広場に来た。
そこには、巨大な水晶があり、中に人がいるみたいだ。
近くまで来て、水晶をよく見ると、中に閉じ込められている人は見覚えのある人物だった。
「ノルン!!」俺は叫んだ。
すると、突然、頭の中に声が聞こえてきた。声の感じは男とも女とも区別しがたいものだった。
(我は大いなる神なり……我は汝らをここまで呼び出した)
「どういうことだ? なぜ、俺たちを呼んだ?」俺は疑問をぶつけた。
(……ここで、女神と能力者の最終決戦を行ってもらう……)
「なぜ、俺達がここで戦わなければならないんだ? しかも、ノルンと戦うなんて。」俺は戸惑う。
どうやら、アイン達もこの声は聞こえているようだ。
「ノルンを返せ!!!」と俺は怒鳴った。
(お前達のような上位者は、もういない。そして、上位体の女神で敵いそうなのがノルンだけになっていた。だから、ルールを変更した。 )声は淡々と話している。
「上位者が俺たち以外にいないだと?」とアインが言う。
「ノルンを返してくれ!」俺は叫ぶ。
(……これはゲームなのだ。汝らは、そのゲームの駒に過ぎないのだ……)
「ふざけんな!! そんな勝手なこと許されるわけないだろ!!!」俺は怒りに任せて叫んでいた。
「そうだ、こんな事、許されてたまるかよ!」アインも続く。
(お前達の、その能力を与えたのも我なり……女神を作ったのも我だ。我が思う道筋に進んでいけばいいのだ)
「何が目的なんだ? 何をしたいんだ?」俺は問い詰めるように聞いた。
しかし、返答はなかった。
「そうか! そういうことなのか!?」俺は理解した。
「なんだよ? 一人で納得すんじゃねーよ!」とアインは不満げだ。
「このゲームは、大いなる神が作ったものだ。その目的は女神と能力者の戦いを見物するためなんだ!」
俺は確信を持って言う。
「つまり、大いなる神の目的は女神と能力者を争わせて結果を見たいだけなんだよ」俺は説明を続ける。
「大いなる神が、俺たちを使って遊んでるってのか?」とアインは憤る。
俺は黙り込むと、また声が聞こえてきた。
(……カケル……お前とノルンは昔、別の世界で、このゲームの最終決戦に残っていた能力者と女神だった。ノルンにはその記憶が残っていたのだろう。だから、お前にはやけに優しく、協力的だっただろう。お前は転生した時点で記憶がなくなってしまったので覚えていないだろうが……)
「おい! 待て!今、なんていった?」アインは神の言葉に反応した。
「ノルンとは前の世界で出会ったことがあるらしい……」と俺は答える。
アインは驚愕していた。
他の二人も驚いている様子だ。
(……そろそろ時間切れだ……。戦いを始めるぞ……)
水晶の中のノルンは目を閉じていた。
次の瞬間、水晶が壊れ中からノルンが出て来た。
その姿は以前のノルンとは違い、鎧を着こみ剣を装備した出で立ちで神々しさを感じる姿だった。
まるで、北欧神話のワルキューレのような出で立ちであった。
俺はノルンの姿を見ると、なぜか懐かしく感じると同時に悲しくなってきた。
俺はノルンと会った事があるのか…? 俺はノルンを見て、気づいた。
ノルンの顔は目が赤く光り、口元からは牙が伸びていた。
その姿に、前戦った異形化した女神の姿を思い起こすものだった。
俺はノルンを見つめた。
ノルンがこちらを見る目は、どこか虚ろであり、感情がないように見えた。
もしかすると操られているのかもしれない。俺はノルンに対して、複雑な気持ちを抱いていた。
彼女は、いつも笑顔を絶やすことなく、俺を支えてくれた。
ノルンがいなかったら俺はここにはいなかったと思う。
ノルンのおかげで、俺は戦いで成長することができた。
ノルンがいなければ、俺はここまで来ることはできなかったはずだ。
ノルンとの思い出が頭の中で駆け巡る。
「お前だけは絶対に助け出す!」俺は決意を固めると、仲間たちの方を向く。
「みんな、行くぞ!!」
俺たちは一斉に動き出した。
俺たちの攻撃を難なくかわしていくノルン。
ノルンの動きは速く、俺たちの攻撃は全く当たらない。
逆にノルンの攻撃は一撃でも喰らえば致命傷になりかねない威力を持っていた。
俺たちは防戦一方になっていた。
アインも攻撃しているが、全く効いている様子がない。
「ちくしょう! 全然当たらねぇ!」と悔しがっている。
(……お前達の力を進化させて、超越者になりたいか?)突然、頭の中に声が響いた。
「なんだと!?」俺は驚きの声を上げる。もし、全員強くなってもノルンを斃すことになるかもしれない。
(もちろん、女神の能力も上がるがな……我に刺激的な戦いを見せてくれるか?)
「そんなことできるわけないだろ!」俺は叫ぶように言う。
「おい!カケル! どうするんだ?」アインは焦った様子で言う。
確かにこのままではジリ貧だ。
しかし、ノルンを殺さずに無力化させるなんてことができるのか?
俺はノルンの無表情な顔を見ると被っている兜が気になった。(もしかしたら、これで操られてるかもしれない……)
しかし、考えている暇もなくノルンの攻撃が飛んできた。
俺は避けきれずに、吹き飛ばされてしまった。
「ぐはっ!」と俺は声を上げてしまう。
「大丈夫か!?」とアインは心配そうに言う。
「ああ、なんとかな!……」と俺は立ち上がる。
「おい! ノルンをどうにかして止めないとまずいぜ!」アインは言う。
(……汝、超越者の力を使うか?……)
「何言ってんだ?」とアインは疑問を口にした時、また声が聞こえてきた。
(……受け入れればいいのだ。もっと強くなるだろう……)
俺は悩んだ。ここで超越者になれば、勝てるかもしれない。しかし、本当にそれでいいのか?ノルンを救うことはできないのではないか……。
「おい! カケル! 何を迷ってるんだよ?」アインは苛立った様子で言ってきた。
「お前達にはわからないだろうけど、ノルンを殺すことはしたくないんだ」と俺は答える。
「はぁーー! お前はバカなのか!?」アインは呆れたような声を出す。
「ここで、俺たちがやられれば何もかもお終いだ! あいつと戦える力を持ってから考えればいい!」アインは怒鳴る。
「そうだ!早くしないと、皆が危ないだろ?」とガーゴイルが同調してきた。
「……わかったよ。大いなる神よ俺達に力を与えてくれ……」神に向かって嘆願した。
(……了承した)
俺は自分の体が熱くなるのを感じた。
そして、体から力が溢れてくるのを感じる。
皆も自身の力が溢れ以前とは違う感覚を感じ取っていた。
「感覚が研ぎ澄まされる。何者にも負ける気がしない!」アインが吠える。
「私も強くなった。飛ぶスピードも以前と違う!」ガーゴイルも吠える。
「俺は……強い……」ゴーレムも賛同する。
俺はノルンを見つめた。大いなる神の言葉からは女神も大幅に能力が上がると言ってた。
見かけ上、ノルンには変化が見えなかった。どう能力が上がっているのか?
俺はノルンを見つめながら、ノルンと戦う覚悟を決めた。
私は今の状況に戸惑っている。
私の目の前にいる男達は、明らかに強くなっていた。
さっきまでとは比べ物にならないくらい、動きが良くなっている。
それにしても、この力は一体なんなのだ? 先ほどまでは、手加減をしていたということか? それとも、何かの能力を使ったのか……。
どちらにせよ、私が負けることなどあり得ない。私も今しがた、大いなる神により、さらなる力を与えられた。
「お前は絶対に助け出す!」男が叫んでいる。
男は弓を構えてこちらへ向かってくる。
他の者も一斉に向かってきていた。
しかし、今の私なら造作もないことだ。
私は向ってくる矢を全て叩き落とした。
再び矢が飛んできた。今度は複数で放たれている。
その攻撃を難なく避けると、背後に気配を感じた。
振り向こうとした瞬間、後ろにいた剣士が剣を振り下ろしてきた。
それを紙一重でかわす。
すると、横にいた大男が拳の重い一撃を繰り出してきた。
それも回避するが、空中を飛んでいる小男が銃を撃ってきた。
銃弾が頬の横を通り過ぎていく。
攻撃を避けられたと思ったら、またもや後ろから複数の矢が迫ってきていた。
しかも、全て誘導機能が付いているようだ。
私は全ての矢を叩き落とす。
しかし、すぐに次の攻撃を仕掛けられる。
四方八方からの絶え間ない連続攻撃を受け続けた。
それでも私は傷一つ負うことはなかった。
しかし、そろそろ終わらせようと思う。
私は地面に手をかざした。
地面が揺れ始め、周りの木々も激しく揺らめき始めた。
そして、地割れが起き始める。
「なんだ!?」と皆、驚きの声を上げる。
「おい! これヤバくないか!?」とアインが叫ぶ。
しかし、既に遅かった。
周りは激しい音を立てて崩れ始めていた。
足場が崩れていき、バランスを崩している者もいた。
その時、ゴーレムは割れ目に足を掬われ一時動けなくなった。
そこにノルンが急接近し、上段に剣を振り上げ一閃した。
ゴーレムはかろうじて腕で防御したが、腕ごと全身を切り裂かれてしまった。
ゴーレムは血飛沫をあげ倒れる。
「ゴーレム!!」とアインは叫び、駆け寄ろうとするが、ノルンの攻撃が襲い掛かる。
アインはそれを何とか避け、ノルンから距離を取る。
「止めるんだ!」俺はノルンに叫ぶ。
しかし、俺の言葉は届かない。
ノルンは無表情な顔で、淡々と攻撃を繰り返してくる。
俺はノルンの動きを観察した。
ノルンは無表情だが、動きには無駄がない。
まるで機械のように正確で隙のない動きだ。
「ゴーレムを一刀両断してしまうとは、奴の剣はとんでもなく切れ味がいいぞ……」アインが呟く。
「ああ……そうだな。あの剣で切られたら、お終いだろう」と俺は答える。
俺とガーゴイルは武器を構える。
そして、ガーゴイルとアイコンタクトをとる。
ノルンの猛攻が続く中、俺はタイミングを見計らう。
そして、俺は動き出した。
ガーゴイルも同時に飛び出す。
俺とガーゴイルの同時の攻撃が繰り出される。
しかし、それは簡単に避けられてしまう。
「やはりダメか……」とガーゴイルが言うと同時に、アインが飛び出した。
「俺たちも行くしかないだろ!」と叫んだ後、ノルンに向かって走り出す。
「そうだ! ここでやられれば何もかも終わりだ!」とアインに続いてガーゴイルも飛び立つ。
ノルンは二人を迎撃する為に、剣を構えた。
そして、ノルンが動いた瞬間、俺はノルンの後ろに回り込むように走る。
ノルンがそれに気づき、振り向き様に一太刀浴びせようとしてきた。
俺はノルンの攻撃をギリギリまで引きつける。
ノルンの一閃が迫る。
俺は体を捻りながら、紙一重で避ける。
その後、すぐに後ろに飛び退いた。ギリギリで避けた為、俺は冷や汗をかいていた。
「危なかったぜ!」と思わず声が出てしまった。
「今のを避けるか!」アインが驚いた顔をしていた。
「さすがに何度も無理だ、死ぬよ!」と俺も驚いていた。
「奴は強い。でも、負けるわけにはいかない!」とアインが叫ぶ。
すると、今度はガーゴイルがノルンに向かっていった。
アインとガーゴイルが連携して、ノルンを攻め立てる。
しかし、二人の攻撃を難なくかわしていく。
その後も、二人は果敢に攻め続けるが、一向に当たる気配はなかった。
ノルンが反撃しようと動くが、それを察知して、二人が素早く後ろに下がる。
この攻防が繰り返されていた。
しかし、このままではジリ貧になるのは明らかだった。ノルンの強さが想像以上なのだ。
アインとガーゴイルも疲れが見え始めていた。
ノルンがアインと相対していた。アインは剣を正眼に構え、ノルンは肩に担ぎ上げ大きく振りかぶった構えをしていた。
次の瞬間、ノルンがアイン目掛けて剣を振り下ろした。
アインはその一撃を受け止めた様に見えた。
しかし、次の瞬間、アインの首が飛んでいた。
「えっ!?」と俺は驚きの声を上げた。
アインは首を失ったまま立っていた。そして、そのまま崩れ落ちた。
ノルンの剣からは血が滴っていた。
「アイン!!」と俺は叫ぶ。
「アインもやられてしまった! 俺は命が惜しいから、ここから逃げるぞ!」ガーゴイルが叫び、飛んで逃げようとしていた。
しかし、ノルンがそれを許さない。後ろを向けて逃げているところを距離があるが、ノルンは剣を大きく振った。
剣から見えない斬撃の衝撃波がガーゴイルに向け飛んで行った。
「ギャー!!!」という悲鳴と共に地面に落ちるガーゴイル。ガーゴイルは頭頂から真二つになっていた。
「おい! 嘘だろ!?」と俺は驚くしかなかった。
ノルンが俺の方を向いてきた。
その目は無表情で赤く光っていた。
「次はお前か?」と俺に言ってきたような気がした。
俺はゾッとした。体が震え始める……。
俺は恐怖で動けなくなっていた。
(どうすればいいんだ? 俺は殺されるのか……嫌だ!)
俺の頭の中で色々な考えが巡っていく。
(俺は死にたくない! こんな所で死んでたまるか!!)
ノルンがゆっくりと近づいてくる。
「そうだ……俺は死ねないんだ……」と呟く。
俺は必死に考える。この状況を打開する方法はないか……。
「今、俺の使える技で勝負するしかない……」
俺は覚悟を決めた……。
俺に向かって歩いてきていたノルンが立ち止まった。
そして、無表情のまま、俺を見つめてきた。
「そんなに見つめられちゃうと照れるんだけど……」と冗談を言いながらも、緊張していた。
「さぁ、来いよ!」と叫んでみるが、足がガクブル状態だ……。
ノルンは剣を構え、上段の構えをした。そして、一気に踏み込んできた。
「ここだ!」と叫んだ後、俺は瞬間移動でノルンの後ろに飛んだ。
飛んだ先でノルンは振り向きもせず、剣が後ろに向け飛んできた。
俺は剣をギリギリのところで避けた。
「危ねぇ……」と俺は呟く。
俺はしゃがみ込んで地面を蹴り飛び上がる!そして、空中にいる状態で、ノルンに向かって上空に矢を放った。
そして、矢を分裂させ下方に落ちる様に誘導した。
ノルンの周りに分裂した矢が降り注ぐ。
ノルンは剣で弾こうとしたが、全ては防ぎきれず、体に何本もの矢が刺さる。
矢が刺さった状態で、痛みに膝立ちになった。そして、間髪を入れずノルンの兜を剥ぎ取った。
そこには、美しい女性の顔があった。
「……私は操られていたみたい」そこには目が赤く光っていない、本来のノルンの顔に戻っていた。
「良かった!……」と俺は安堵し、その場に座り込んだ。
ノルンの身体には俺が放った矢が何本か刺さっていたが血は出ていなかった。
「あれ?なんで、怪我してないんだ?」と不思議に思った。
「私は女神なので血は出ないわ」とノルンは返答した。
俺はノルンに手を貸して立たせた。
「ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」とノルンがお礼を言う。
そして、「自分の意思じゃないとはいえ、人を何人も殺してしまったのね」と言って、悲しい表情をした。
「気にしなくていいよ。それに、君は被害者なんだから、仕方がない事だよ」と慰める。
「そう言って貰えると、少しは救われるけど……。でも、やっぱり罪は償わないと……」とノルンが言う。
(……お前達はもう戦わないのか?)急に大いなる神の声がした。
「えっ!?」と驚いていると、ノルンが「声が聞こえた?」と聞いてきた。
「君にも聞こえるんだね……」と答えると、ノルンが「えぇ、私は女神だから……」と言った。
「俺たちはもう戦わない! あんたの茶番に付きあわせられるのはもう御免だ!」と俺は叫ぶ。
「私も、もう戦いません! 大いなる神の命令であっても」とノルンも叫ぶ。
(……ならば、お前達の負けだな……)とまた、神の声が響いてきた。
「えっ?」と俺は驚く。
「どういうことですか!?」とノルンが聞く。
すると、(……お前達が戦う意志を見せない限り、死ぬということだ)と大いなる神は答えた。
「そんな! 卑怯です!!」とノルンは抗議する。
「俺達を殺すつもりなのか!?」と俺は叫ぶ。
しかし、返事はなかった。
「……どうやら本当のようだな。俺達に拒否権はないらしい」
「……どうすれば?」とノルンが不安げに俺を見てくる。
「けど、相手は大いなる神。どのようにして戦えばいいんだ?……」と俺は返した。
「……分からないわ」とノルンは答えるしかなかった。
二人は途方に暮れていた。
(……どうだ……。我に殺されることを望むか? それとも、再び戦うか?……)と大いなる神が語りかけてきたが、二人共黙っていた。
沈黙の時間が流れる……。
「……分かりました。殺してください」とノルンは覚悟を決めたように言った。
「おい、待ってくれ! そんな簡単に決めなくても……」と俺は反論する。
「このままだと、二人とも殺されてしまうのよ……。それなら、私が犠牲になる方がマシだわ」とノルンは悲しげに微笑む。
「貴方は憶えていないでしょうが、前の最終決戦の時、私達は女神と能力者で戦ってたの。その時、貴方は超越者として私と互角に戦ってた」ノルンが以前の戦いの話をしだした。
「神の話では転生したから憶えてないんだ……」と俺は返す。
「戦いの中で私と貴方はお互いに惹かれあっていた」とノルンは話を続ける。
「そして、最終的に私が負傷して戦えなくなった。貴方は私を心配して気にかけてくれた」と言って、ノルンは自分の胸に手を当てた。
「そして、私には貴方に対して愛という感情が芽生えたの」とノルンは恥ずかしそうに話す。
「……それで?」と俺は続きを促した。
「……そして、私は貴方に告白したの。『私の命を捧げるから、この世界を救ってほしい』と」
「……そして、その願いを叶えるために、俺は世界を救う為に戦ったんだな?」と俺は確認するように聞いた。
「……えぇ、そうだわ……」とノルンは小さく呟く。
「でもね、私は死んでいないの。何故だと思う?……」とノルンは俺に問いかけてきた。
「それは、俺が助けたからだろ?」と当然のように答えたが、ノルンは大きく首を振った。
「違うわ!……私はね、貴方の事を想う気持ちが強くて、死ねなかったの。そして、神の命令により貴方を手に掛けてしまった」と言って、ノルンは俺の目を見た。
「つまり、俺が死んだんだな?」と俺は質問する。
「私はね、今でも後悔してるの」と言ってノルンが抱きついてきた。
そして、「だから、お願い。私を殺して!」と泣きながら懇願してきた。
「……君を殺したくない」と俺は言って、ノルンを抱き締める。
「……ありがとう。でも、もう時間がないわ」とノルンが言う。
「嫌だ! 絶対に君を守る!!」と強く抱きしめた。
「嬉しい……」とノルンは涙を流していた。
「……ねぇ、キスをして?」とノルンが言う。
俺はノルンに口づけをした……。
大いなる神はこの光景を見て困惑していたが目の前の現実を受け入れるしかなかった。
今までの戦いを見てきて女神と能力者の間で、このような状態になることは決してなかった。
誰もがお互いに殺し合いをしてきたのに両者に愛が芽生え、自己犠牲を厭わなく相手を庇うなんて。
そして、大いなる神は考えた。今回のゲームは決着が付かなくてもいいのではないか?
今回のゲームは無しにして、この二人が普通に生活している世界に戻してもいいのでは?
2人の唇が離れると、「もう、大丈夫よ」とノルンは涙を浮かべたまま微笑んでいた。
俺はノルンから離れると、ノルンが両手を広げていた。
「……さぁ、殺して」とノルンが言ってきたが、俺は首を横に振る。
「……どうして?」とノルンは不思議そうな顔をしていた。
「俺が君を殺すわけないだろう?……それに、俺は君の事が好きだから……」と言うとノルンは驚いた表情をしていた。
「……本当なの?……」とノルンは聞いてきた。
「嘘じゃないよ! 本当に好きなんだよ。」と必死に訴えかける。
「私だって!貴方の事が好き!……だけど、私は昔貴方の命を奪ってしまった」と言ってノルンはまた、泣き出した。
「泣かないでくれ。……俺は今こうして生きてるじゃないか」と俺は優しく言った。
すると、ノルンは顔を上げて「貴方は優しいのね……」と言った後、再び俺に抱きついた。
「ごめんなさい……。貴方を苦しめてばかりで……」とノルンは謝っていた。
「気にしないでくれ……。幸せだよ」と俺は答える。
「私も幸せよ。貴方と出会えて良かったわ……」と言い、ノルンは再び俺にキスをする。
(……人間と女神よ…今回は考えが変わった……汝達が普通の生活に戻れるよう世界を改変しよう……)神の声が聞こえた。
(……ゲームの勝者は無しだ……今から元に戻る……さらばだ…………)段々と神の声は聞こえなくなっていた。
そして、暫くして周りが光で覆い尽くしていた。眩しくて目を開けていられない。
俺達はそこで、意識が無くなっていた。
「なんか、雰囲気が違うな」とアインは呟くように言った。
確かに、何かおかしいな。人が一人もいない。町の中に生活感がなくなっていた。
まるで廃墟のような静けさが漂っていた。
「どうなってるんだ?」俺は不安になりながら辺りを見回した。
さっきまで、人が生活をしてた雰囲気はあるのだが人が見当たらない。
俺たちは町の広場に来た。
そこには、巨大な水晶があり、中に人がいるみたいだ。
近くまで来て、水晶をよく見ると、中に閉じ込められている人は見覚えのある人物だった。
「ノルン!!」俺は叫んだ。
すると、突然、頭の中に声が聞こえてきた。声の感じは男とも女とも区別しがたいものだった。
(我は大いなる神なり……我は汝らをここまで呼び出した)
「どういうことだ? なぜ、俺たちを呼んだ?」俺は疑問をぶつけた。
(……ここで、女神と能力者の最終決戦を行ってもらう……)
「なぜ、俺達がここで戦わなければならないんだ? しかも、ノルンと戦うなんて。」俺は戸惑う。
どうやら、アイン達もこの声は聞こえているようだ。
「ノルンを返せ!!!」と俺は怒鳴った。
(お前達のような上位者は、もういない。そして、上位体の女神で敵いそうなのがノルンだけになっていた。だから、ルールを変更した。 )声は淡々と話している。
「上位者が俺たち以外にいないだと?」とアインが言う。
「ノルンを返してくれ!」俺は叫ぶ。
(……これはゲームなのだ。汝らは、そのゲームの駒に過ぎないのだ……)
「ふざけんな!! そんな勝手なこと許されるわけないだろ!!!」俺は怒りに任せて叫んでいた。
「そうだ、こんな事、許されてたまるかよ!」アインも続く。
(お前達の、その能力を与えたのも我なり……女神を作ったのも我だ。我が思う道筋に進んでいけばいいのだ)
「何が目的なんだ? 何をしたいんだ?」俺は問い詰めるように聞いた。
しかし、返答はなかった。
「そうか! そういうことなのか!?」俺は理解した。
「なんだよ? 一人で納得すんじゃねーよ!」とアインは不満げだ。
「このゲームは、大いなる神が作ったものだ。その目的は女神と能力者の戦いを見物するためなんだ!」
俺は確信を持って言う。
「つまり、大いなる神の目的は女神と能力者を争わせて結果を見たいだけなんだよ」俺は説明を続ける。
「大いなる神が、俺たちを使って遊んでるってのか?」とアインは憤る。
俺は黙り込むと、また声が聞こえてきた。
(……カケル……お前とノルンは昔、別の世界で、このゲームの最終決戦に残っていた能力者と女神だった。ノルンにはその記憶が残っていたのだろう。だから、お前にはやけに優しく、協力的だっただろう。お前は転生した時点で記憶がなくなってしまったので覚えていないだろうが……)
「おい! 待て!今、なんていった?」アインは神の言葉に反応した。
「ノルンとは前の世界で出会ったことがあるらしい……」と俺は答える。
アインは驚愕していた。
他の二人も驚いている様子だ。
(……そろそろ時間切れだ……。戦いを始めるぞ……)
水晶の中のノルンは目を閉じていた。
次の瞬間、水晶が壊れ中からノルンが出て来た。
その姿は以前のノルンとは違い、鎧を着こみ剣を装備した出で立ちで神々しさを感じる姿だった。
まるで、北欧神話のワルキューレのような出で立ちであった。
俺はノルンの姿を見ると、なぜか懐かしく感じると同時に悲しくなってきた。
俺はノルンと会った事があるのか…? 俺はノルンを見て、気づいた。
ノルンの顔は目が赤く光り、口元からは牙が伸びていた。
その姿に、前戦った異形化した女神の姿を思い起こすものだった。
俺はノルンを見つめた。
ノルンがこちらを見る目は、どこか虚ろであり、感情がないように見えた。
もしかすると操られているのかもしれない。俺はノルンに対して、複雑な気持ちを抱いていた。
彼女は、いつも笑顔を絶やすことなく、俺を支えてくれた。
ノルンがいなかったら俺はここにはいなかったと思う。
ノルンのおかげで、俺は戦いで成長することができた。
ノルンがいなければ、俺はここまで来ることはできなかったはずだ。
ノルンとの思い出が頭の中で駆け巡る。
「お前だけは絶対に助け出す!」俺は決意を固めると、仲間たちの方を向く。
「みんな、行くぞ!!」
俺たちは一斉に動き出した。
俺たちの攻撃を難なくかわしていくノルン。
ノルンの動きは速く、俺たちの攻撃は全く当たらない。
逆にノルンの攻撃は一撃でも喰らえば致命傷になりかねない威力を持っていた。
俺たちは防戦一方になっていた。
アインも攻撃しているが、全く効いている様子がない。
「ちくしょう! 全然当たらねぇ!」と悔しがっている。
(……お前達の力を進化させて、超越者になりたいか?)突然、頭の中に声が響いた。
「なんだと!?」俺は驚きの声を上げる。もし、全員強くなってもノルンを斃すことになるかもしれない。
(もちろん、女神の能力も上がるがな……我に刺激的な戦いを見せてくれるか?)
「そんなことできるわけないだろ!」俺は叫ぶように言う。
「おい!カケル! どうするんだ?」アインは焦った様子で言う。
確かにこのままではジリ貧だ。
しかし、ノルンを殺さずに無力化させるなんてことができるのか?
俺はノルンの無表情な顔を見ると被っている兜が気になった。(もしかしたら、これで操られてるかもしれない……)
しかし、考えている暇もなくノルンの攻撃が飛んできた。
俺は避けきれずに、吹き飛ばされてしまった。
「ぐはっ!」と俺は声を上げてしまう。
「大丈夫か!?」とアインは心配そうに言う。
「ああ、なんとかな!……」と俺は立ち上がる。
「おい! ノルンをどうにかして止めないとまずいぜ!」アインは言う。
(……汝、超越者の力を使うか?……)
「何言ってんだ?」とアインは疑問を口にした時、また声が聞こえてきた。
(……受け入れればいいのだ。もっと強くなるだろう……)
俺は悩んだ。ここで超越者になれば、勝てるかもしれない。しかし、本当にそれでいいのか?ノルンを救うことはできないのではないか……。
「おい! カケル! 何を迷ってるんだよ?」アインは苛立った様子で言ってきた。
「お前達にはわからないだろうけど、ノルンを殺すことはしたくないんだ」と俺は答える。
「はぁーー! お前はバカなのか!?」アインは呆れたような声を出す。
「ここで、俺たちがやられれば何もかもお終いだ! あいつと戦える力を持ってから考えればいい!」アインは怒鳴る。
「そうだ!早くしないと、皆が危ないだろ?」とガーゴイルが同調してきた。
「……わかったよ。大いなる神よ俺達に力を与えてくれ……」神に向かって嘆願した。
(……了承した)
俺は自分の体が熱くなるのを感じた。
そして、体から力が溢れてくるのを感じる。
皆も自身の力が溢れ以前とは違う感覚を感じ取っていた。
「感覚が研ぎ澄まされる。何者にも負ける気がしない!」アインが吠える。
「私も強くなった。飛ぶスピードも以前と違う!」ガーゴイルも吠える。
「俺は……強い……」ゴーレムも賛同する。
俺はノルンを見つめた。大いなる神の言葉からは女神も大幅に能力が上がると言ってた。
見かけ上、ノルンには変化が見えなかった。どう能力が上がっているのか?
俺はノルンを見つめながら、ノルンと戦う覚悟を決めた。
私は今の状況に戸惑っている。
私の目の前にいる男達は、明らかに強くなっていた。
さっきまでとは比べ物にならないくらい、動きが良くなっている。
それにしても、この力は一体なんなのだ? 先ほどまでは、手加減をしていたということか? それとも、何かの能力を使ったのか……。
どちらにせよ、私が負けることなどあり得ない。私も今しがた、大いなる神により、さらなる力を与えられた。
「お前は絶対に助け出す!」男が叫んでいる。
男は弓を構えてこちらへ向かってくる。
他の者も一斉に向かってきていた。
しかし、今の私なら造作もないことだ。
私は向ってくる矢を全て叩き落とした。
再び矢が飛んできた。今度は複数で放たれている。
その攻撃を難なく避けると、背後に気配を感じた。
振り向こうとした瞬間、後ろにいた剣士が剣を振り下ろしてきた。
それを紙一重でかわす。
すると、横にいた大男が拳の重い一撃を繰り出してきた。
それも回避するが、空中を飛んでいる小男が銃を撃ってきた。
銃弾が頬の横を通り過ぎていく。
攻撃を避けられたと思ったら、またもや後ろから複数の矢が迫ってきていた。
しかも、全て誘導機能が付いているようだ。
私は全ての矢を叩き落とす。
しかし、すぐに次の攻撃を仕掛けられる。
四方八方からの絶え間ない連続攻撃を受け続けた。
それでも私は傷一つ負うことはなかった。
しかし、そろそろ終わらせようと思う。
私は地面に手をかざした。
地面が揺れ始め、周りの木々も激しく揺らめき始めた。
そして、地割れが起き始める。
「なんだ!?」と皆、驚きの声を上げる。
「おい! これヤバくないか!?」とアインが叫ぶ。
しかし、既に遅かった。
周りは激しい音を立てて崩れ始めていた。
足場が崩れていき、バランスを崩している者もいた。
その時、ゴーレムは割れ目に足を掬われ一時動けなくなった。
そこにノルンが急接近し、上段に剣を振り上げ一閃した。
ゴーレムはかろうじて腕で防御したが、腕ごと全身を切り裂かれてしまった。
ゴーレムは血飛沫をあげ倒れる。
「ゴーレム!!」とアインは叫び、駆け寄ろうとするが、ノルンの攻撃が襲い掛かる。
アインはそれを何とか避け、ノルンから距離を取る。
「止めるんだ!」俺はノルンに叫ぶ。
しかし、俺の言葉は届かない。
ノルンは無表情な顔で、淡々と攻撃を繰り返してくる。
俺はノルンの動きを観察した。
ノルンは無表情だが、動きには無駄がない。
まるで機械のように正確で隙のない動きだ。
「ゴーレムを一刀両断してしまうとは、奴の剣はとんでもなく切れ味がいいぞ……」アインが呟く。
「ああ……そうだな。あの剣で切られたら、お終いだろう」と俺は答える。
俺とガーゴイルは武器を構える。
そして、ガーゴイルとアイコンタクトをとる。
ノルンの猛攻が続く中、俺はタイミングを見計らう。
そして、俺は動き出した。
ガーゴイルも同時に飛び出す。
俺とガーゴイルの同時の攻撃が繰り出される。
しかし、それは簡単に避けられてしまう。
「やはりダメか……」とガーゴイルが言うと同時に、アインが飛び出した。
「俺たちも行くしかないだろ!」と叫んだ後、ノルンに向かって走り出す。
「そうだ! ここでやられれば何もかも終わりだ!」とアインに続いてガーゴイルも飛び立つ。
ノルンは二人を迎撃する為に、剣を構えた。
そして、ノルンが動いた瞬間、俺はノルンの後ろに回り込むように走る。
ノルンがそれに気づき、振り向き様に一太刀浴びせようとしてきた。
俺はノルンの攻撃をギリギリまで引きつける。
ノルンの一閃が迫る。
俺は体を捻りながら、紙一重で避ける。
その後、すぐに後ろに飛び退いた。ギリギリで避けた為、俺は冷や汗をかいていた。
「危なかったぜ!」と思わず声が出てしまった。
「今のを避けるか!」アインが驚いた顔をしていた。
「さすがに何度も無理だ、死ぬよ!」と俺も驚いていた。
「奴は強い。でも、負けるわけにはいかない!」とアインが叫ぶ。
すると、今度はガーゴイルがノルンに向かっていった。
アインとガーゴイルが連携して、ノルンを攻め立てる。
しかし、二人の攻撃を難なくかわしていく。
その後も、二人は果敢に攻め続けるが、一向に当たる気配はなかった。
ノルンが反撃しようと動くが、それを察知して、二人が素早く後ろに下がる。
この攻防が繰り返されていた。
しかし、このままではジリ貧になるのは明らかだった。ノルンの強さが想像以上なのだ。
アインとガーゴイルも疲れが見え始めていた。
ノルンがアインと相対していた。アインは剣を正眼に構え、ノルンは肩に担ぎ上げ大きく振りかぶった構えをしていた。
次の瞬間、ノルンがアイン目掛けて剣を振り下ろした。
アインはその一撃を受け止めた様に見えた。
しかし、次の瞬間、アインの首が飛んでいた。
「えっ!?」と俺は驚きの声を上げた。
アインは首を失ったまま立っていた。そして、そのまま崩れ落ちた。
ノルンの剣からは血が滴っていた。
「アイン!!」と俺は叫ぶ。
「アインもやられてしまった! 俺は命が惜しいから、ここから逃げるぞ!」ガーゴイルが叫び、飛んで逃げようとしていた。
しかし、ノルンがそれを許さない。後ろを向けて逃げているところを距離があるが、ノルンは剣を大きく振った。
剣から見えない斬撃の衝撃波がガーゴイルに向け飛んで行った。
「ギャー!!!」という悲鳴と共に地面に落ちるガーゴイル。ガーゴイルは頭頂から真二つになっていた。
「おい! 嘘だろ!?」と俺は驚くしかなかった。
ノルンが俺の方を向いてきた。
その目は無表情で赤く光っていた。
「次はお前か?」と俺に言ってきたような気がした。
俺はゾッとした。体が震え始める……。
俺は恐怖で動けなくなっていた。
(どうすればいいんだ? 俺は殺されるのか……嫌だ!)
俺の頭の中で色々な考えが巡っていく。
(俺は死にたくない! こんな所で死んでたまるか!!)
ノルンがゆっくりと近づいてくる。
「そうだ……俺は死ねないんだ……」と呟く。
俺は必死に考える。この状況を打開する方法はないか……。
「今、俺の使える技で勝負するしかない……」
俺は覚悟を決めた……。
俺に向かって歩いてきていたノルンが立ち止まった。
そして、無表情のまま、俺を見つめてきた。
「そんなに見つめられちゃうと照れるんだけど……」と冗談を言いながらも、緊張していた。
「さぁ、来いよ!」と叫んでみるが、足がガクブル状態だ……。
ノルンは剣を構え、上段の構えをした。そして、一気に踏み込んできた。
「ここだ!」と叫んだ後、俺は瞬間移動でノルンの後ろに飛んだ。
飛んだ先でノルンは振り向きもせず、剣が後ろに向け飛んできた。
俺は剣をギリギリのところで避けた。
「危ねぇ……」と俺は呟く。
俺はしゃがみ込んで地面を蹴り飛び上がる!そして、空中にいる状態で、ノルンに向かって上空に矢を放った。
そして、矢を分裂させ下方に落ちる様に誘導した。
ノルンの周りに分裂した矢が降り注ぐ。
ノルンは剣で弾こうとしたが、全ては防ぎきれず、体に何本もの矢が刺さる。
矢が刺さった状態で、痛みに膝立ちになった。そして、間髪を入れずノルンの兜を剥ぎ取った。
そこには、美しい女性の顔があった。
「……私は操られていたみたい」そこには目が赤く光っていない、本来のノルンの顔に戻っていた。
「良かった!……」と俺は安堵し、その場に座り込んだ。
ノルンの身体には俺が放った矢が何本か刺さっていたが血は出ていなかった。
「あれ?なんで、怪我してないんだ?」と不思議に思った。
「私は女神なので血は出ないわ」とノルンは返答した。
俺はノルンに手を貸して立たせた。
「ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」とノルンがお礼を言う。
そして、「自分の意思じゃないとはいえ、人を何人も殺してしまったのね」と言って、悲しい表情をした。
「気にしなくていいよ。それに、君は被害者なんだから、仕方がない事だよ」と慰める。
「そう言って貰えると、少しは救われるけど……。でも、やっぱり罪は償わないと……」とノルンが言う。
(……お前達はもう戦わないのか?)急に大いなる神の声がした。
「えっ!?」と驚いていると、ノルンが「声が聞こえた?」と聞いてきた。
「君にも聞こえるんだね……」と答えると、ノルンが「えぇ、私は女神だから……」と言った。
「俺たちはもう戦わない! あんたの茶番に付きあわせられるのはもう御免だ!」と俺は叫ぶ。
「私も、もう戦いません! 大いなる神の命令であっても」とノルンも叫ぶ。
(……ならば、お前達の負けだな……)とまた、神の声が響いてきた。
「えっ?」と俺は驚く。
「どういうことですか!?」とノルンが聞く。
すると、(……お前達が戦う意志を見せない限り、死ぬということだ)と大いなる神は答えた。
「そんな! 卑怯です!!」とノルンは抗議する。
「俺達を殺すつもりなのか!?」と俺は叫ぶ。
しかし、返事はなかった。
「……どうやら本当のようだな。俺達に拒否権はないらしい」
「……どうすれば?」とノルンが不安げに俺を見てくる。
「けど、相手は大いなる神。どのようにして戦えばいいんだ?……」と俺は返した。
「……分からないわ」とノルンは答えるしかなかった。
二人は途方に暮れていた。
(……どうだ……。我に殺されることを望むか? それとも、再び戦うか?……)と大いなる神が語りかけてきたが、二人共黙っていた。
沈黙の時間が流れる……。
「……分かりました。殺してください」とノルンは覚悟を決めたように言った。
「おい、待ってくれ! そんな簡単に決めなくても……」と俺は反論する。
「このままだと、二人とも殺されてしまうのよ……。それなら、私が犠牲になる方がマシだわ」とノルンは悲しげに微笑む。
「貴方は憶えていないでしょうが、前の最終決戦の時、私達は女神と能力者で戦ってたの。その時、貴方は超越者として私と互角に戦ってた」ノルンが以前の戦いの話をしだした。
「神の話では転生したから憶えてないんだ……」と俺は返す。
「戦いの中で私と貴方はお互いに惹かれあっていた」とノルンは話を続ける。
「そして、最終的に私が負傷して戦えなくなった。貴方は私を心配して気にかけてくれた」と言って、ノルンは自分の胸に手を当てた。
「そして、私には貴方に対して愛という感情が芽生えたの」とノルンは恥ずかしそうに話す。
「……それで?」と俺は続きを促した。
「……そして、私は貴方に告白したの。『私の命を捧げるから、この世界を救ってほしい』と」
「……そして、その願いを叶えるために、俺は世界を救う為に戦ったんだな?」と俺は確認するように聞いた。
「……えぇ、そうだわ……」とノルンは小さく呟く。
「でもね、私は死んでいないの。何故だと思う?……」とノルンは俺に問いかけてきた。
「それは、俺が助けたからだろ?」と当然のように答えたが、ノルンは大きく首を振った。
「違うわ!……私はね、貴方の事を想う気持ちが強くて、死ねなかったの。そして、神の命令により貴方を手に掛けてしまった」と言って、ノルンは俺の目を見た。
「つまり、俺が死んだんだな?」と俺は質問する。
「私はね、今でも後悔してるの」と言ってノルンが抱きついてきた。
そして、「だから、お願い。私を殺して!」と泣きながら懇願してきた。
「……君を殺したくない」と俺は言って、ノルンを抱き締める。
「……ありがとう。でも、もう時間がないわ」とノルンが言う。
「嫌だ! 絶対に君を守る!!」と強く抱きしめた。
「嬉しい……」とノルンは涙を流していた。
「……ねぇ、キスをして?」とノルンが言う。
俺はノルンに口づけをした……。
大いなる神はこの光景を見て困惑していたが目の前の現実を受け入れるしかなかった。
今までの戦いを見てきて女神と能力者の間で、このような状態になることは決してなかった。
誰もがお互いに殺し合いをしてきたのに両者に愛が芽生え、自己犠牲を厭わなく相手を庇うなんて。
そして、大いなる神は考えた。今回のゲームは決着が付かなくてもいいのではないか?
今回のゲームは無しにして、この二人が普通に生活している世界に戻してもいいのでは?
2人の唇が離れると、「もう、大丈夫よ」とノルンは涙を浮かべたまま微笑んでいた。
俺はノルンから離れると、ノルンが両手を広げていた。
「……さぁ、殺して」とノルンが言ってきたが、俺は首を横に振る。
「……どうして?」とノルンは不思議そうな顔をしていた。
「俺が君を殺すわけないだろう?……それに、俺は君の事が好きだから……」と言うとノルンは驚いた表情をしていた。
「……本当なの?……」とノルンは聞いてきた。
「嘘じゃないよ! 本当に好きなんだよ。」と必死に訴えかける。
「私だって!貴方の事が好き!……だけど、私は昔貴方の命を奪ってしまった」と言ってノルンはまた、泣き出した。
「泣かないでくれ。……俺は今こうして生きてるじゃないか」と俺は優しく言った。
すると、ノルンは顔を上げて「貴方は優しいのね……」と言った後、再び俺に抱きついた。
「ごめんなさい……。貴方を苦しめてばかりで……」とノルンは謝っていた。
「気にしないでくれ……。幸せだよ」と俺は答える。
「私も幸せよ。貴方と出会えて良かったわ……」と言い、ノルンは再び俺にキスをする。
(……人間と女神よ…今回は考えが変わった……汝達が普通の生活に戻れるよう世界を改変しよう……)神の声が聞こえた。
(……ゲームの勝者は無しだ……今から元に戻る……さらばだ…………)段々と神の声は聞こえなくなっていた。
そして、暫くして周りが光で覆い尽くしていた。眩しくて目を開けていられない。
俺達はそこで、意識が無くなっていた。
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