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ランシーヌ対エリノーラ

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「ユーザック……。ユーザック……。ああ……、私の愛しい人……。貴方が居ないと私の生きる意味が無くなってしまう……」


 エリノーラはそう言いながら涙を流している。


「ユーザック……。どうして……。どうして死んでしまったの? お願い……。目を開けて……」


 エリノーラは俯いてユーザックの頭部に囁いていた。


「エリノーラ……」


 俺達は、ゆっくりとエリノーラに近付いていった。


「お前達が……。お前達がユーザックを、こんな風にしてしまって!!」


 エリノーラは俺達の方を向き睨みつけながら叫ぶ。

 その言葉を聞き、俺は無言で剣を構えた。

 俺達は、エリノーラと対峙すると戦闘態勢を取り警戒していた。

 ランシーヌはその様子を見ながら、小声で話し掛けてきた。


「ねぇ……。あの女は魔女だから、私が相手をしても構わないかしら?」

「君、1人だけで大丈夫なのか?」

「任せて……」

「分かった……」


 俺はそう答えると、双子達に視線を向けた。


「ランシーヌに任せるぞ!」

「わかったわ……」


 双子達はそう返事をする。

 俺は、ランシーヌが魔女と戦うのを見届けることにした。

 ランシーヌは、エリノーラの方に歩き出していた。

 彼女は悲壮な表情を浮かべ、恨めしそうにランシーヌを見ている。


「お前達を惨たらしく殺してやる……」


 エリノーラはそう呟くと、右手を前に出して呪文を唱え始めた。


「我が敵を切り刻め! 闇の刃!」


 エリノーラの前に黒い球形の塊が出現し、その中から黒い無数の刃状の塊が飛んできて、それが高速回転しながらランシーヌに向かってきた。


「危ない!!」


 俺は咄嵯に叫んだ。

 しかし、ランシーヌは落ち着いた様子で両手を前にだし構えていた。


「魔力無効の膜よ我を守れ!!」


 ランシーヌがそう唱えると、彼女の前に大きな半透明の膜が現れ、闇の刃を全て吸収した。


「なぜ!?」


 エリノーラは自分の魔力が無効化され驚いている様子だった。


「今度はこっちの番よ……」


 ランシーヌはそう言うと、右手を上に上げると掌を広げて詠唱を始めた。


「我が敵に降り注げ!!  酸の雨よ!!」


 上空に灰色の霧が出現し、そこから無色の液体が地上に降り注いだ。


「ぎゃああっ!!!」


 エリノーラは絶叫を上げて身体中の皮膚が焼け爛れ煙を上げていた。


「何なのこの雨は!?」


 エリノーラはそう叫びながら悶え苦しんでいる。


「これは、酸の雨よ……。このままだと骨だけになるわよ……」


 ランシーヌは、冷たい口調でそう言った。


「うぅっ……」


 エリノーラは苦痛に顔を歪めて膝をつき、全身が爛れてうなだれていた。

 美しい顔も酸で爛れており、ランシーヌを恨めしそうに睨んでいる。


「もう終わりなの……」


 ランシーヌはエリノーラを見下ろすと、そう言って冷たく笑っていた。


「ま、まだだ……。私はこんな所で終われない……」


 エリノーラはそう言うと、よろめきながら立ち上がった。そして、エリノーラは両手を天に掲げて何か呪文を唱えている。

 すると、エリノーラの頭上の空間が歪み、漆黒の球体が現れた。

 そして、その球体は徐々に大きくなっていき、直径3m程の巨大な球になった。

 その光景を見て俺は息を呑んだ。

 エリノーラは召喚した巨大な黒い球体をじっと見つめていた。

 そして、その瞳からは狂気を感じる。

 その光景を見て俺は直感的に感じ取った。

 ―――あの黒い球体は危険であると。


「ランシーヌ! 気を付けろ! あれはヤバそうだ!!」


 俺はランシーヌに注意を促した。


「ええ……。そんな気がするわ……」


 ランシーヌは俺の言葉を聞いてそう答えた。

 エリノーラは、その巨大で禍々しい黒い球体を、ゆっくりと俺達がいる方向に向けると、


「これで最後よ……。私もろとも全員、爆発に飲み込まれなさい……」


 エリノーラは、そう言って狂気に彩られた表情で微笑むと、俺達に囁いた。

 ランシーヌは、そうはさせまいと、エリノーラに向けて再び呪文を唱えた。


「光の槍よ! 敵を貫け!」


 エリノーラの周囲に光輝く槍が何本も現れ、それらが一斉にエリノーラ目掛けて放たれた。

 光の槍がエリノーラの全身を貫き、彼女は口から血を吹き出した。

 しかし、エリノーラは怯まずに、両手を挙げて詠唱を続けていた。

 そして、俺達の方に視線を向けると、ニヤリと不気味な笑顔を浮かべて笑っている。

 次の瞬間、ランシーヌは、


「しまった!」


 と叫ぶと、慌てて俺の方に走ってきた。

 俺は状況が理解出来ずにいた。


「一体どうした?」


 俺は走り寄ってくるランシーヌに訊ねた。


「あいつ皆道連れにするつもりよ!」

「なんだって!?」


 俺は驚きの声を上げた。

 エリノーラの前方には、先程よりも大きくなった黒い球体が出現しており、それが今にも俺達の所に落ちてきそうな状態だった。

 エリノーラは、それを確認すると、口元から流れ出る大量の血を手で拭った。

 彼女も不死身であるはずだが、段々と傷の再生が遅くなってきているようだ。

 エリノーラは、ふらついた足取りでゆっくりと歩きながら、俺達に近付いてくる。


「ランシーヌ! どうすればいい?」


 俺は、ランシーヌに指示を求めた。


「エリノーラを止めるには、彼女を攻撃し続けるしかないわ……」

「分かった……。やってみるよ……」


 俺はそう言うと、剣を構えてエリノーラの方に向かって駆けていった。


「無駄よ……。お前達が何をしようと私の魔術が発動したらおしまいよ……」


 エリノーラはそう言いながら不敵に笑い、魔法の槍で貫かれた傷から血を流しながら俺達に近づいてきた。

 俺はエリノーラに近付くと、彼女の心臓に目掛けて剣を突き出した。

 エリノーラの心臓に俺の剣が突き刺さるが、苦悶の表情を浮かべてもなお、かまわずに彼女は歩いてくる。

 俺は、エリノーラの胸に突き立てた剣を抜くと後ろに飛び退き距離を取った。

 しかし、エリノーラは歩みを止めずに、そのままランシーヌの前に立った。


「これで終わりよ……」


 エリノーラはそう呟くが、ランシーヌも新たな呪文を唱えていた。


「破壊の球よ、敵を打ち砕け!!」


 ランシーヌの手の平の前に白い球が出現し、それがエリノーラに向かっていった。

 ドンッ!! と大きな爆発音がしてエリノーラの身体が後方に吹っ飛んだのである。
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