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展望台で絶望的な状況になったが途中で拾った女が怪異だった
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僕は今、友達の水谷冬弥の車に乗って山の頂上の展望台に向かっていたのである。深夜のドライブで冬弥の彼女である寺西希も助手席に乗っており、僕は後部座席に座って3人でドライブしていた。
僕の名前は山上諒、みんな大学生で二十歳である。夏休みの間の深夜のドライブであった。深夜にも関わらず外は蒸し暑かったのだ。
「展望台からの夜景が綺麗だという噂みたいね……」
希が前でそう言うのが聞こえた。彼女の呟きに冬弥が、「そうだね」と返していたのだ。
「この車、中古だがアルバイトして貯めて買ったんだぜ」
冬弥は運転しながら皆にウキウキしながら答えたのだ。彼の買った車は中古のコンパクトカーであった。
「そうなんだ」
彼女が運転席に振り向いてそう囁いていた。
「せっかく免許を取ったから車を買って遠出をしようって話になってな。車があれば移動の幅が広がるからな」
「そうだね……なんか深夜のドライブって楽しいよね」
希も笑顔でそう返したのだ。彼女は冬弥にはもったいないぐらいの美人であった。まあ冬弥もイケメンの部類に入るけど……。
「そろそろ山道に入るぜ」
冬弥がそう言って、少しして山道に入った。舗装されていない道で、ガタガタと車が揺れていたのだ。
「ちょっと……タイヤは大丈夫なの?」
希が心配そうにそう聞いたのだが僕は黙って外の景色を眺めていたのだ。
「大丈夫だって!この道なら近道になるんだよ!」
冬弥がそう答えたのである。確かに道はどんどん狭くなり、舗装されていない道になったのだ。
「でも、本当に近道なの? 何か不安なんだけど……」
希はそう言ったのだが、冬弥はただ「大丈夫だって」と言うだけだった。僕はその時に何か嫌な予感がしたのだった。
そして山道に入ってから10分後、道は更に細くなり、車のヘッドライト頼りで進んで行ったのだ。
「あれ……この道で合ってるの? 道路が細くなってるよ?」
希が不安そうに言ったのだが冬弥は何も答えず運転していたのである。そして少しして、道の左端のガードレールが途切れているのが見えてきたのだ。
「あれ、ガードレールが途中で無くなっているよ?」
彼女が不安そうに言ったのだが車はガードレールが無い道を通って行ったのである。
「大丈夫だ……」
「え……ちょっと! 大丈夫なの!?」
希がそう叫んだのだが、その時に車が急ブレーキをかけて停車したのだ。
「うわっ!」
僕は思わず声を上げたのだ。車が止まった衝撃で体が前に持って行かれそうになったからだ。
「ちょっと!?」
希がそう叫んでいたのだが、冬弥はハンドルを握りしめて前方を凝視していたのである。
「えっ? どうしたの?」
「おい……大丈夫か?」
2人で声をかけたのだが、冬弥は前を見て呟いていたのだ。
「前に……人が……」
「あっ! 人がいる……」
希がそう言った時に僕はフロントガラスから前を見たのだ。そして道の端っこに人が立っていたのだった。
ヘッドライトで照らされた人は女性であった。彼女の服装は、白い半袖のブラウスと黒いロングスカートを着ていたのである。
「何故……こんな所に……?」
僕がそう呟くと、冬弥はシートベルトを外してドアを開けて外に出ようとしたのだ。
「ちょっと……どうしたのよ?」
彼女が慌てて聞くと冬弥がこう答えたのだった。
「いいから、希は車の中で待っててくれ! 諒は一緒に外に来てくれ!」
彼はそう叫んで外へ出て行き僕も遅れて外に出て行ったのだ……。
女性は俯いていて前髪が長く顔が良く見えなかったのである。僕達が近付いても無言であったのだ。
「こんな所でどうしたんだい?」
「……」
冬弥がそう聞いたのだが、女性は俯いたまま無言であったのだ。
「僕達……展望台に行こうとしてるんだけど」
僕がそう言うと彼女はボソッと呟いたのである。
「……彼氏と……喧嘩して……置き去りに……されたの……」
「え? 置き去り……?」
僕がそう言った時に彼女が顔を上げ、前髪の間から少し顔が見えたのだ。その女性の目を見て僕は冷や汗を掻いていたのだ。
何故なら……その女性は目を見開いており瞬きしていなかったのである……。
「ねえ……ちょっと……」
僕はオドオドしながら話しかけていたのだが、その時に助手席に乗っていた希が外へ出てきて冬弥に叫んだのである。
「ねえ! この人に何があったの!?」
彼女は不安でそう叫んでいたのだ。冬弥は彼女を落ち着かせるように答えたのだ。
「ちょっと待ってくれ……今、この人から事情を聞いているんだ……」
冬弥はそう言った時に、彼女の肩を揺すって更に声をかけたのだ。
「なあ……俺達が展望台に行った後、帰りに送ってやろうか?」
「……お願い……します……」
彼の問いに彼女は間を置きながらそう答えたのだった。
「諒……彼女を後部座席に乗せてやってくれ……」
冬弥はそう言うと運転席に戻って行ったのだ……。僕は彼に言われるままに、彼女を後部座席に座らせたのだ。
「あの……名前は何て言うの?」
希が彼女にそう聞いていたので僕も内心、気になっていたのだ。すると彼女はこう答えたのだった。
「……美羽です……」
「美羽さんか……じゃあ後ろの座席に座ってね」
僕はそう言った後で後部座席に座ったのである。そして冬弥は車を動かし始めた。
「……ねえ、本当に大丈夫なの?」
「仕方ない。ほったらかしにする訳にいかないだろ……」
彼女が小声で不安そうに聞いてきたのだが、冬弥は前を向きながら答えていた。
「彼氏から置き去りにされたと言ってたけど……大丈夫なのか?」
「……」
彼がそう聞いたが彼女は無言でいたのだ。
「大丈夫よ……きっと後で迎えに来てくれるわ」
希はそう言って彼女を励ましていたのである。
「いや、彼氏に期待するより俺達が車で送って行った方が安心だろ……」
冬弥はそう返したのだが、暫く車内で僕を含め無言が続く中を運転していたのだ。
その間、僕は隣に座っている彼女が人間なのか幽霊なのかを考えると心中穏やかではいられなくなり身を縮めていたのである……。
そうこうしている内に道路が開けた場所に出ていて頂上付近まで来たのである。
「よし、展望台までもうすぐだぞ……夜景を見た後、彼女を送って行こう……」
山の頂上付近にある展望台の駐車場に到着したのだ。しかし夏だというのに駐車場付近は霧がかかっていたのである。
「霧が出てるな……夜景は見れるかな?」
彼はそう言いながら車を駐車場に止めたのだ。深夜だというのに駐車場には1台の黒いバンが停まっていたのである……。
「おい……なんか、変な車が停まっているな……」
冬弥はそう呟いていたのだ。確かに駐車場には1台だけ黒いバンが止まっていたのである。ヘッドライトは消してあるがエンジンは掛けているようであった。
「……なあ、あの車に乗っている人も夜景を見に来たのかな?」
僕は何か嫌な予感がしてそう冬弥に問いかけていた。そして彼はこう答えていたのだ。
「さあ……展望台には人はいないみたいだが……」
僕等はそんなやり取りをしていたのだが女は後部座席で俯きながら無言で座っていたのだ。そして冬弥がこう言ったのである。
「ちょっと外の様子を見てくるわ……」
彼がそう言った時、黒いバンから人が降りて来たのであった……。
「ん? 何だ……?」
冬弥がそう言った後に、黒いバンから3人の男達が降りてきたのだ。その男達は全員ガタイの良い大柄な男であった……。
そして彼等が運転席側に近付いて窓をコンコンと叩いたのだ。
「何ですか?」
冬弥がそう言って窓を開けると男達は開いた隙間から話しかけてきたのだ。
「ちょっと悪いんだが、君達の車が停まったので、ここで何をしているのか気になってね……」
彼等はそう言ってきたのだ。冬弥と話している男は強面の厳つい男で40代ぐらいの年齢に見えていたのだ。どうも堅気の人間の顔ではないようだ……。
「展望台からの夜景を見に来たんですが……」
冬弥がそう言うと男達はニヤニヤしながらこう答えた。
「へぇ……そうか……。俺達も夜景を見に来た所なんだよ……じゃあな」
彼の答えに男達は安心したのか、車から離れようとしていたのである。
だが突如、僕の隣に座っている美羽が狂ったように笑い出したのだ……。
「キャハハハハ!!」
後部座席で俯いていた美羽が突然笑い出して車の外の男達を見て喋ったのである。
「……あんた達の車に死体があるよね……」
美羽は車内から気が触れたように笑いながら言ったのだ。彼女の突然の変化に、僕と冬弥と希が唖然としていると、男達が目を剥き顔を強張らせ彼女を見ていたのだ……。
「おい……何故、死体があると思うんだ?」
男の1人がそう言うと、美羽はうすら笑いを浮かべこう答えたのである。
「……あの車から死体の匂いがする……」
彼女はまたそう呟いたのだ……。そして男達が彼女の言葉に反応して狼狽えたのである。
「……おい! コイツ等を外に連れ出せ!」
40代の男がそう言って他の2人に指示をし、彼等が車のドアを開けようとしていたのであった。
「おい! 何をするんだ!?」
冬弥が声を上げロックしようとしたが男達がドアを開く方が早かったのであった……。
「止めろ!」
彼がそう言った瞬間に僕達はドアが開かれ力ずくで外に連れ出されていたのである。
「ちょっと! 何するの!」
希がそう叫んで抵抗したが男2人に車から強引に引きずり出されていた。僕も引っ張り出された時に、美羽がいない事に気付いたのだ……。
「おい! あの女がいないぞ!?」
男達はそう叫んだ時に、いつの間にか美羽が彼等のバンのバックドアを開いて眺めていたのだ……。
「……やっぱり……死体がある……」
彼女はバックドアから車内を覗きながらそう呟いたのだ。ドアが開いた中から人の大きさの黒い収納袋が見えたのである。
「おい! 何やってるんだ!」
男が声を荒げていたのだが、彼女は見終わると山に向かって忽然と闇に紛れて消えていったのだ……。
「あっ!」
40代の男が声を上げ、バンに戻ると彼女を捜していたが見失っていたのである。
僕と冬弥は2人の男達から後ろ手に手を極められ、身動きが取れない状態になっていたのだ。
「見られちまったからには仕方がない……。コイツ等をテープで拘束しろ!」
40代の男は、こちらに戻り他の2人に命令したのである……。
そう言うと彼は希の肩を掴んで逃げられないようにしていたのだ。すると彼女が男に抵抗しながら叫んでいたのである。
「ちょっと!! 痛いじゃない!!」
彼女がそう言ったが男達は無視し粘着テープを使い僕達の両手を前にしてテープでグルグル巻きにして自由を奪ったのである……。
「……彼女は何処に行ったんだろう?」
僕がそう聞くと冬弥は力なく首を横に振っていたのだ。
「……分からん」
「殺されるの……?」
希は涙目になりガタガタと震えだしていた……。それを見て冬弥は意を決したように男達に向かって体当たりしていったのだ。
「この野郎!」
しかし、筋肉質で顔が醜い男が冬弥の体当たりを躱すと彼は勢い余って前のめりになり倒れたのだ。
追い打ちをかけるように男は冬弥の腹や顔を蹴り上げたのだ。彼は苦悶の声を上げ鼻から血を吹き出していた。
「グウゥッッ!」
そんな彼を見て希は悲鳴を上げたのであった……。
「イヤ――ッ!!」
男は更に彼を蹴り上げていたのだ。僕はそれを見て怒りがこみ上げてきていたのである……。
「くそっ!」
僕はそう叫んで拘束している男に肩から体当たりをしたのだ。しかし彼はビクともしなかったのだ。
「テメー!」
背が高く顔が長い馬面の男がそう言って右腕と服を掴み僕を投げ飛ばしたのである。僕は後頭部と背中を打ち付け眩暈と呼吸困難を引き起こしていたのだ……。
「ううっ……」
地面に転がると、更に追い打ちをかけようと男が近づき僕の腹や顔に蹴りを浴びせていたのである……。
「 おい! リキ! ヤス! そこまでにしとけ!!」
「……分かりました、マサさん……」
リキ、ヤスと呼ばれた男達は僕等への暴力を止めると、マサと呼ばれた男が僕達に近付いて来たのだ。
「このガキ共はどうします?」
リキがそう聞くと、マサは僕等の方を見て答えたのである。
「そうだな……」
3人は何か相談し合っていたのだが、僕は朦朧とする意識の中で彼等の会話に聞き耳を立てていたのだ。
「……コイツ等も……バラすか……」
マサがそう言った後に男が僕達を無理やり立たせていたのだ。
冬弥の顔は左目の瞼が腫れ上がっており鼻や口から血を流していた。僕はというと、鼻血を流していたのであった。
「おい! コイツ等もバンに乗せろ!」
マサがそう指示すると、2人の男が僕達を無理やり引っ張て来てバンの後まで歩かされたのだ。
そして車の荷台に乗せられると、ラゲッジルームには先程見た黒い収納袋が1つあったのである……。
「あの……何処に連れて行くんですか?」
希は震える体でそう聞いたのだが、マサはこう答えたのだ。
「山の中だよ……。本当は、この死体を埋めるだけだったんだが、お前等がコレを見ちまったんでな……余計な手間を掛けさせやがって……」
僕達はそれを聞いて愕然としていた……。どうやら、彼等は死体を山に遺棄しに来たようだ。
「待って下さい! この事は誰にも喋りませんから! 命だけは助けて下さい!」
冬弥が必死に釈明するがマサが鼻で笑いながら答えたのである。
「ああん……そんな事、信用できるわけがないだろ……」
「そんな……私達は死体があるとは知らなかったんです!」
希は泣きながら訴えていた……。
「黙れ! お前等は目撃したんだ! 見られたからには殺すしかないんだよ!!」
マサが凄みを効かせて怒鳴ると、僕と冬弥は竦み上がり希は泣き出したのだ。
「嫌っ……死にたくない!」
「うるさいっ!!」
彼女は泣き喚いたが、マサに一喝されるとビクッとして涙が止まったのである。そして彼はこう言ったのだ。
「おい! コイツ等の口にテープを貼って黙らせろ!!」
そう言うと彼等は皆の口にガムテープを貼ったのだ。そしてそれを見届けると車は動き出したのだ……。
どうやら車は山頂に向かっているようであった。そして暫く進むと車が停車しエンジンが止まりヘッドライトが消えたのである。恐らく山頂に到着したのであろう……。
到着するとマサが僕達に話し掛けて来たのである。
「気の毒だが此処で死んで貰う……。あの逃げた気がおかしい女を恨むんだな……」
そう言って彼はバンの荷台を開けたのだ。車の中で横たわっている僕達には真っ暗闇の中に木々が見えていた。
車のライトが消えた事で辺りは真っ暗になったのである。2人の男がマサに耳打ちしていたのである。
「何だ? どうした?」
「マサさん……この女を殺す前にまわしてもいいですか?」
「俺達は前科がないのでDNA鑑定されても直ぐに特定されることはないですよ……」
リキとヤスがそう言っていたのだ。希が可愛くて綺麗なので欲情を催したみたいである……。
「仕方ないな……早く終わらせるんだぞ!」
マサの返答に2人は好色な顔をし喜んでいたのだ。そして暫くすると、彼女を外に連れ出し粘着テープをカッターで切ったのだ……。
希は怯えた顔をしていたがテープで口を塞がれていた為、言葉を発する事ができなかったのだ。
「ううっ……うっ!」
彼女は必死になって抵抗したが、リキに両手を掴み押さえ付けされたのである。そしてヤスが後ろから希の胸を揉みながら服をめくって脱がせていたのだった。
「なかなかいい形をしてるじゃないか……」
リキはそう言いながら彼女の両足を広げさせて股間に指を入れようとした時であった……。希の呻き声を聞いた冬弥が荷台から降り突然暴れだしたのだ。
「うううっ!」
彼は口を塞がれていたので声にならない声で叫んでリキに体当たりしたのだが両手を拘束されバランスを失い転んだのであった……。
不意を食らったリキは怒り狂い冬弥に馬乗りになって顔面に拳を何度も打ち込んでいたのである。
何度も顔面に拳を喰らい意識を失うと冬弥は力なく、ぐったりとしていた。
「リキさん! 落ち着いて! コイツ、気を失ってますよ!」
ヤスがそう言って止めた時、彼は我に返っていたのである。すると立ち上がり希に向かっていったのだ。
「お前の彼氏だな……ボコボコにしてやったぜ」
「うっ……ううっ……うう」
彼女は気を失った冬弥を見て痛々しい表情で嗚咽して泣いていたのだ。それを見ていたヤスがリキにこう言ったのである。
「早く楽しんで終わらせましょうよ……」
そう話すとリキは希のスカートを捲ってパンツを脱がせ始めたのであった。
だが彼女は抵抗して必死で脱がされないようにしたのだがリキに顔を叩かれて怯んだ時に右足首を持たれてしまい脱がされたのだった……。
「さてと、そろそろだな……」
そう言って彼は自分のズボンを脱ぎ下着も脱ぐと下半身を露わにしたのだ。
ニヤニヤしながら希に近付き無理やり足を広げて股の間に割って入っていったのだ。
僕はその一部始終をラゲッジルームから声と音を聞いていたのである……。
ラゲッジルームで抵抗せず黙って大人しくしていたのだが頭の近くに工具箱があるのに目が付いていたのだった。
2人の男達相手に希は諦めた表情をしており、もう余り抵抗する気力もないようであった。
「ううっ……」
彼女は涙を流して泣いていた……。そしてリキが彼女の陰部に指を入れようとしたのであった……。
その時、希がくぐもった声で悲鳴をあげたのだ……。彼女は痛みで顔を歪めリキの指を抜こうと懸命に抵抗していたのである。
「うっ! うう――っ!」
「濡れてきたな……そろそろ挿れるぞ……」
リキが興奮して息を荒げて希の膣に自分のイチモツを挿入しようと腰を落としていったのである。
彼女は挿入されたリキのイチモツに痛みで呻いていたのである……。
「うう! ううっ……」
「きついな……突っ込んで壊れないか?」
そう言って彼は腰を振り膣内の感触を愉しんでいたのだ。そして徐々に彼のイチモツが膣奥に挿入されていくと、希の悲痛な呻き声が山中に響き渡ったのである。
「うううっ! うう――!」
彼女は涙を流して痛みに耐えていた……。リキは段々と腰の動きを速めていき、やがて彼女の膣内に射精したのだった……。
「ううっ!」
希はリキが射精するのと同時に呻き声を上げていた。そして彼は自分のイチモツを抜くと希はぐったりとしていたのである。
「次は俺の番ですぜ……」
ヤスがそう急かして待っていたのだ……。するとリキがズボンを穿きながら言ったのだ。
「……わかったよ」
彼はそう言ってヤスと場所を交代した。すると希は虚ろな目で彼を見ていたがヤスはニヤッと笑いこう言ったのである。
「まだ終わりじゃないぞ……今度は俺の番だからな……」
そう言うと、彼はズボンを脱いで自分のイチモツを、まだリキの精液が垂れている膣に挿入したのだ。
「ううっ!」
2人目の挿入の痛みで彼女は呻き声を上げていた。そしてヤスは腰を振り始めピストン運動を始めたのだ……。
「ううっ!うう――!」
彼女は必死に抵抗して足をバタバタさせてもがいていたのだが、リキに両手を掴まれ、ヤスからは腰を押さえ付けられていた。
「ううっ!」
そしてヤスは段々と腰の動きを速めていったのだ……。希はもう抵抗もできず目を瞑って涙を流して泣いていただけであった。
「うう! うううっ……」
彼女が呻いているとヤスが限界に達して呻き射精をし彼女の膣奥に精液を放出したのだ。
「ふう……スッキリしたぜ」
そう言って彼はイチモツを彼女の膣から抜くと、彼女は遠い目をしてグッタリとしていたのだ……。
ヤスはズボンを穿いて、事が終わったことをマサに報告していた。
「マサさん、終わりました……」
彼がそう言うとマサはこう返答したのであった。
「終わったか! じゃあ、コイツ等を今からバラすぜ……準備しろ!」
2人はその返事に頷くが、希は聞こえてないのか虚ろな目をしていたのである。
冬弥は気を失っており、僕は拘束されたままバンのラゲッジルームで殺されるのを待つしかなかったのだ。
すると突然、周りから霧が生じ背筋が寒くなっていく感覚の変化に僕は何事かと思っていると夏なのに山の中で虫の鳴き声がピタリと止んでいたのだ……。
何か変だな……と思った瞬間、男達が急に声を上げ始めたのである。
「何だ? 霧が発生している?」
「何だか寒くなってきましたね……」
男達が動揺しているのが分かる。どうやら、この霧と気温の変化に何か違和感を感じたようだ……。
その時、ヤスがバンに近付いてきて荷台で横たわっている僕に近付いてきたのだ……。そして彼はラゲッジルームからシャベルとLEDランタンを取り出し冷たい表情で僕の方を見たのである。
「おい! お前も外に出ろ!」
そう命令され僕は荷台から這い出ると、霧で辺りが見えにくくなっていたのだ……。ヤスはバンの近くにLEDランタンを置いて明かりをつけたのだった。
「虫の声がしなくなった……?」
「不気味なほど静かですね……」
マサとリキが動揺して辺りをキョロキョロと見ていた。そこへヤスが僕を引っ張て来たのである……。
「連れてきましたぜ」
僕はヤスに引っ張られると、そこには虚ろな表情で横たわっている希と地面にぐったりしている冬弥がいた。
すると突然、霧の中からこちらに向かって歩いて来る人影が見えていたのだ……。
「誰だ?」
マサがそう聞くと、霧の中から女が歩いて出てくると彼等の前に現れた……。
その女は細身の体形で長い前髪をして白の半袖のブラウスに黒色のロングスカートを穿いていたのだ。
彼女は美羽であった。相変わらず前髪が長く表情を窺えなかったのだ。彼女は黙って男達を見ていたのである……。
「丁度いい……お前も殺してやる!」
マサが大声で怒鳴ったが美羽は止まらず、どんどん男達に近付いて来たのだ。彼等が警戒して身構えていると、彼女は不気味に笑ったのである。
「キャハハハッ! 私が……怖い?」
彼女は更に近付きながらそう言った。そして彼等は、その異様さに只ならぬ恐怖を感じ冷や汗を掻いていたのだ……。
ドンドン近付いて来る彼女にリキが勇気を振り絞って飛び掛かり首を絞めたのだ。飛び掛かられて首を絞められた美羽は地面に倒れたのである。
「ギャハハハハハ!」
地面に倒れても笑い声を上げる彼女にリキは馬乗りの体勢になって首を絞め始めたのだ。
彼は彼女の首を締めながらこう言ったのである。
「死ね! イカレ女!」
首を絞められていても特に抵抗しないで、されるがままであったのだが地面にダラーンとした腕がニュルニュルと伸びて彼の顔に近付いてきた。
「何だ!?」
美羽の手がリキの顔まで伸びて彼の眼にズブッと指を入れたのであった。すると即座に彼は目を押さえながら悲鳴を上げたのだ……。
「うぎゃあああぁっ!!」
彼女の指が眼球を抉ると、それと一緒に視神経や血管、眼筋も引き抜かれ途中でブチッという音がして千切れたのだ。
両手に引き抜かれた眼球を握り潰すとブシュっと弾けたのだ。彼女の手からは粘りのある液体が滴っていたのである。
「眼がぁ――! 眼がぁ――!!」
美羽は苦しみ悶える彼をジッと見ていたのだった。この光景を見た僕は彼女が人間でない事を薄々感じていたのである……。
マサはその様子を見て驚き呆然としていたのだが彼を気遣うように言った。
「リキさん……大丈夫?」
「ううっ……ううっ……」
彼は血が流れ空洞になった眼窩を押さえながら悶え苦しんでいたのである……。そして美羽はゆっくりと立ち上がった。
ヤスは怖気ついていたが、持っていたシャベルを彼女の頭に振り下ろしたのであった。
「死ねぇ――っ!」
そう言ってシャベルを振り下ろし彼女の脳天に叩きつけたのだ。だが、彼女はビクともしないどころか傷一つつかなかったのである……。
「えっ!?」
驚いて唖然とするヤスに美羽の両腕が伸びて彼のシャベルを奪ったのであった……。
そして彼女はシャベルを無表情で見つめると、次第にヤスを憎悪に満ちた視線で睨んだのである……。
「よくも……これで殴ったわね……お返しよ……」
そう言ってシャベルをヤスの首に振り払った。シャベルが彼の首に突き刺さった瞬間、グサッと音がして彼は悲鳴を上げたのだ。
「うぎゃあぁ――っ!」
首からブシュ――ッと血を吹き出し口から血の泡を吹いてヒュ――ヒュ――と息をしていた。そして彼は地面にゆっくりと倒れ動かなくなったのだ……。
「ヤス!」
マサが叫ぶと美羽は彼を見た。すると彼女の眼光を見て戦慄が走り動けなくなったのである。
彼女は無表情でゆっくりと彼に近付いてきた。しかし、彼は腰からダガーナイフを取り出して美羽に突きつけたのだ……。
「う……動くな!」
そう怒鳴るが彼女は表情を変えずナイフを持つ彼に近付いたのだ。意を決して彼は美羽の心臓を狙って突き刺したのだった。
「!?」
彼は刺した感触の手応えの無さに驚き、目を剥いて彼女を見ていたのであった……。
これまでに彼は実際、人を刺してきており、その感触は手に染みついていたのだ。だが今回の美羽を刺した手応えの無さは只事ではないと感じていたのである……。
「何っ……!?」
彼は驚き呆然としていたのである。そして刺された箇所を見ると出血していなかったのだ……。
「う……嘘だろう……?」
彼は動揺して後ずさりすると、彼女は無表情で彼に近付いてきた。この時には冬弥は意識を取り戻しており、希も凄惨な場面の一部始終を見ていたのである……。
2人とも恐怖で顔が引き攣っていたのであった。僕はバンの荷台にあった工具箱からカッターを見つけ出し靴下の中に隠していたのだ。
粘着テープでグルグル巻きにされた両手でカッターの刃を出し何とかしてテープを切ろうと頑張っていたのであった。2人もそれに気付き、こちらを見て僕の行動にコクリと頷いていた……。
「ちくしょう! こっちに来んな!」
マサはどんどん近付いて来る美羽に恐怖し、少しづつ後退していくと何かに躓いて後ろに倒れたしまったのである……。
それは倒れた彼の腕に抱き着いてきたのであった。抱き着いて来た者はリキであった。
彼はマサの声に反応して、こう言ったのだ……。
「た……助けて、マサさん……」
彼は自分の腕に抱き着いてきたリキを見て驚愕していた。眼がある場所が空洞だったのである……。
「だ……抱き着くな! 離れろ!」
マサは恐怖で顔を引きつらせていた。そして彼の腕を離そうとジタバタしていると美羽の伸ばしてきた左手が彼の片足を掴んだのである。
「は……離せぇ!!」
マサは悲鳴を上げて掴んだ手を振り切ろうとしたが、その手の力が凄まじくビクともしなかったのだ。そして右手で心臓に刺さっているダガーナイフを引き抜いたのである。
凄まじい力で彼を引き寄せると右手のナイフを股間に突き刺したのであった……。
「ぐげええぇぇ――!!」
マサは股間から出血し苦しみ悶えていた……。そして美羽はゆっくり彼に覆い被さっていったのだ。
その光景を見て僕はカッターの刃で必死にテープを切ろうとしたのである。冬弥と希は恐怖でガタガタと震えていたのだ……。
「あわわ……」
死に物狂いでカッターの刃を出し入れしているとテープが切れて手が自由になり、口を塞いでいたテープを剥したのであった。
「冬弥! 今、自由にしてやるからな!」
僕は先ず冬弥を拘束しているテープをカッターで切り、希も自分で口のテープを剥したのである。
自由になった2人はお互いを見て安堵の表情を浮かべていた。そして僕も安心し切っていのだ……。
だがこの時、美羽がマサに馬乗りになり彼の喉仏にナイフを突き立てたのである……。
「うげえっっっ!」
彼は一言、悲鳴を上げると傷口から血を吹き出させ、口から血の泡を吹いて動かなくなってしまったのだ……。
彼の死体に馬乗りのままゴキゴキッと音を鳴らし首が180度回転すると僕達の方を見てこう言ったのだ……。
「今度は……あなた達の番……?」
LEDランタンの明かりで、はっきりと彼女の表情が見えたのだ。彼女の顔は血で染まり、瞳孔が開ききって僕達を見ていたのである……。
だが僕は、その表情を見て恐怖だけでなく畏怖の念を抱き彼女を人外の神々しい存在として映っていたのだ。
「ひいいっ!」
僕と冬弥と希は悲鳴を上げた。そして逃げようと展望台の駐車場目指して走り出したのであった……。
「はあ……はあ……ううっ」
しかし、冬弥は左の脇腹を押さえて顔をしかめていた。僕は心配になり冬弥に尋ねたのである……。
「痛むのか?」
彼は苦しそうに答えていた…。
「肋骨が……多分、折れてる……」
彼がそう答えると希は心配そうに見ていたのであった……。そして僕は彼に肩を貸しながら必死に山道を下って行ったのである。
その頃、美羽はマサの死体から離れすぐ傍で蹲っているリキに近寄り彼の後頭部に足を押し付け力を入れて踏みつけていたのだ。
「ううっ……や……止めてくれ……」
リキは恐怖と痛みで掠れた声を出していたが段々と踏みつける力が強くなり頭蓋がめりめりと音を立てていた……。
「ぎゃっ!」
そして、とうとうバキッという音と共に頭蓋骨が潰れて彼の脳漿と血が飛び散り割れた頭蓋から脳みそを覗かせ彼は即死したのである。
美羽は無表情で立ち上がると今度は諒達が逃げていった方に向かって歩いて行ったのだ……。
僕達はやっとの思いで駐車場に着き冬弥の車に乗り込んでいたのである。
そして、冬弥が運転席に座り希を助手席に座らせ僕は後ろに座ったのだ。
「大丈夫? 運転できるか?」
僕は心配して彼の表情を見た。まだ顔色が悪く体調が悪そうだったのである……。
「大丈夫だ……とにかくここを離れよう……」
そう言ってスタートボタンを押しエンジンをかけたのだ。すると、何かが後ろから近付いて来る気配を感じ僕はリアガラスを見たのである。
すると美羽が、もの凄いスピードで車に近付いてきていた。
「ち……近付いて来るぅ! 早く出して!」
「わかってるって!!」
冬弥は荒っぽい口調で叫ぶとサイドブレーキを戻し慌ててアクセルを踏んだのだ……。
「うおおおぉぉっ!」
ギュルルルと エンジン音が唸りを上げ車は勢いよく加速したのだ。しかし僕は後ろを向くと美羽の首がニュ――ッと伸びはじめ車に追い付こうとしていたのである。
「ひいいっ!」
「きゃああっ!」
僕と希は恐怖で悲鳴を上げたのであった……。そしてその間にも美羽の首は、どんどん車に近付いて来るのである。
すると冬弥が更にアクセルを踏み込み速度を上げたのだ。すると美羽の首を振り切ったのである……。
「よし! このまま逃げ切るぞ!」
冬弥がそう言ってスピードを上げると、今度はリアガラスに美羽の生首が映ったのであった。彼女は生首だけで飛んで追い付いて来たのだ……。
「うっ……うわあっ!」
彼女はニィ――ッと不気味な笑みを浮かべ、それを見てゾッとしたのだ……。
「ひいいいぃぃっ!!」
「うわあああっ!!」
希と冬弥も悲鳴を上げていたのだ。そして更に美羽の首が車を追い抜いて前に出始めたのである。
「冬弥、もっとスピード出してよ!」
「これ以上、スピードを出すと事故ってしまうぞ!」
彼女が焦りながら叫ぶと彼はクネクネした山道でのハンドル捌きを必死にしていた……。しかし、それでも美羽の生首が追い付いて来るのだ……。
すると突然、希が叫んだのだ……!
「あっ!! 前を見て!!」
彼女が指差した方向を見ると前方に大きなカーブが見えたのだ。このスピードでは曲がり切れそうもなかったのである……。
「やべえ! ぶつかるぞ!」
冬弥は焦りハンドルを右に切ったがカーブしている道路のガードレールを擦ろうとしていたのだ……。
そして車はガガガガと音を鳴らしながらガードレールを擦りながらもカーブを曲がっていたのである。
「うわあああっ!!」
僕と希は悲鳴を上げていた。しかし、まだ美羽の生首が車を追いかけていたのだ……。
「うおおぉっ!!」
そして車がガードレールを擦りながらカーブを曲がると、それと同時に美羽の生首が運転席側の窓から見え並走していたのである。
「うわあっ! 追い付いて来たあ!」
僕は恐怖で大声を上げると後部座席の窓から彼女と目が合ったのだ……。
「うふふ……」
美羽は、僕と目が合うと嬉しそうな笑顔になったのである。彼女は純粋に人殺しを楽しんでいたのだ……。
しかも、彼女は人間でなく化け物としか形容できない存在であるにも関わらず、その目は純粋に楽しんでいるかのようだった。
そして僕は彼女の目を見詰めていると、恐怖心が薄れ不思議な感情になっていったのである。
「ああ……素晴らしい……」
僕は美羽を美しいとさえ感じていたのだ。彼女の超自然的な容貌に魅了されつつあったのであった。
その感情が死への恐怖よりも勝っていたのである……。彼女もそれに気付き僕の目をじっと見つめていたのだ……。
時間にして数秒の事かもしれなかったが、僕にとっては永遠とも思える時間であった。
「……私の事が気になる……?」
実際には窓越しであったので聞こえていないが美羽が僕にそう言ったと理解し無意識にコクリと頷いて呟いていたのだ。
「……好きだ……」
しかし冬弥と希は呟きを聞き逃さなかったのである……。
「諒! 何を言ってるんだ!」
「山上君…… 大丈夫!?」
彼等は僕の反応を見て驚いていたのだ……。そして2人の声でハッと我に返り、自分が何を言ったのかをやっと理解したのである。
「あっ……ああっ!?」
僕は自身の発した言葉の意味に恐怖し頭を抱えて蹲ったのである。
希は僕の不可解な行動に困惑してオロオロとしていたのだった。だが冬弥はハンドルをしっかり握り前を向いて運転していたのだ。
その時、対向車線から車のライトが見え、次第に対向車がドンドン近付いて来たのである……。
「対向車だ!」
まっすぐの道であった為、冬弥はアクセルを踏んでスピードを出し、並走していた美羽の生首は対向車と衝突しドンッと音がしたのだ……。
「きゃああっ!」
「わああっ!」
車が美羽の生首を撥ねると同時に、希は悲鳴を上げると同時に冬弥も叫び声を上げていたのだ……。
そして後方を振り返ると生首は見えず車は山道を下って行ったのである。
「振り切ったな……」
冬弥がそう言うと希は胸を撫で下ろし安堵の表情を浮かべていた。しかし僕はリアガラスを見たままであった……。
「山上君、どうしたの?」
彼女は心配し僕の様子を聞いてきたが、僕は彼女の顔を見る事なく小声でボソッと呟いたのである……。
「また会えるよね……?」
「えっ! 何を言ってるの!?」
「諒! 気は確かか?」
冬弥と希が僕の精神状態を心配し、何度も声を掛けてきていた。だが僕はそれを無視し考え事に没頭していたのである……。
そして山道を降りて一般道を通り近くのコンビニの駐車場に停まったのであった。
「諒、大丈夫か? 顔色が悪いぞ……」
彼は心配し僕の顔を覗き込んできたのだ。僕は彼に顔を向けて出来る限り笑顔で答えたのである……。
「ああ、もう大丈夫だよ。パニックになっていたんだ……」
「そうか……それなら良いけど」
彼はそう言うと今後の事について話してきたのであった。
「今日、あの山でヤクザ風の男達があの女に殺されたんだ……。俺達はどうすればいい?」
「私はアイツ等に犯されたのよ……。けど警察に話しても美羽って女の事は信用して貰えないと思う……」
「下手に警察に話すと自分達が殺人の容疑者になってしまうかもな……」
冬弥と希は動揺しながら話していたが僕は黙って話を聞いていたのだった。
「そう言えば、諒。お前は何か良い案はないのか?」
冬弥が僕に聞いてきたので僕は少し考え込んでいたのだ……。
そして考えが纏まったので2人の方に顔を向けて提案をしたのである。
「確かに警察に話せば自分達が疑われると思う……。だから、このまま黙っていた方がいいと思うよ。明日になったら冬弥は病院に行った方がいいぞ、怪我の理由は自分で考えるしかないけど……」
僕がそう言うと冬弥は納得して頷いていた。
「確かにそうだな……。お前の言う通りかもしれないな」
そして希にも僕は恥じらいながら提案を伝えたのである。
「寺西さんは……その……強姦されたから、ネットでアフターピルを注文した方がいいと思う……警察には言えないから……。だから、妊娠の心配は大丈夫だと思う……」
「諒は何ともないのか?」
彼は心配そうに聞いてきたが僕は笑顔で答えたのである。
「僕は大丈夫だよ! 心配してくれて有難う……」
僕はそう言うと皆、それぞれの心配事に整理がついたのか精神的に安堵していたのだ。
「さて……今日はもう遅いし早く帰ろうぜ」
冬弥がそう言うと希も賛成して頷いていた。そして冬弥は車を発進させたのだった。
帰り道、僕達は一言も喋らずにいたのである。冬弥は先に希をアパートに送って行ったのである。
「また後で連絡するから……」
「冬弥……ありがとう……」
2人はそう言って見つめ合って別れたのだ。そして僕もアパートに送ってもらったのである。
「諒……今日は有難うな。お前がカッターを見つけたお陰で俺達は助かったよ……」
「いいよ、気にしないでくれ」
軽く会話を交わして彼と別れ僕はアパートの階段を上がって行き部屋に戻ったのであった。
「ああ……彼女に、また会えないかな……」
僕は部屋に入りシャワーを浴びるとベッドの上で寝転がりながら考えていた。だが今夜はとても疲れていた為、すぐに寝てしまったのである。
翌日の夕方、僕はスマホで冬弥とやり取りをしていた。
「冬弥、怪我の具合どうだった?」
『ああ……鼻と左の肋骨が折れてた』
「そうか……それは大変だね……顔を何度も殴られていたから……」
『それで数日、検査入院をすることになったよ……。希は昨日の内にアフターピルを注文していたから今日、薬が届いたと思う。退院したら半分立て替えてやるよ』
「そうか……それは良かった」
そして少しの沈黙の後、彼は話しを切り出してきたのである。
『なあ、諒……。今後は、あの山には近付かない方がいいと思うんだが……』
「そうだね……。また、あの女と出会ったらただじゃすまないと思うよ……」
『わかった……。今後のドライブでも近付かないように気を付けるよ……じゃあな』
彼はそう言うと通話を切ったのだ。そして僕はベッドに仰向けになり天井を見ていた。
「美羽と……また会いたいな……」
そう言った時、彼女の姿が思い起こされていたのである。端から見れば化け物であるが、不気味で悍ましい一面でなく神秘的で畏敬の念を抱かざる得ない姿に心を奪われていたのである。
それに、あの男達も彼女に危害を加えたから殺されたのであって、自分達も追いかけられていたが対向車とぶつかったので途中で断念したのだろう。
暫く、そんな事を考えていると睡魔に襲われ眠ってしまったのだ……。
気が付くと外は暗くなっていたのであった。何時間程、寝ていただろうか……?
「寝ちゃったな……」
僕はベッドから起き上がると、ふとスマホの画面を見たのだ。時刻は21時頃であった。
夏なのでエアコンを掛けているが、部屋の中が寒くなってきたのだ……。
「急に寒くなったな……」
そう呟いて外を見ると窓の外には霧がかかっていたのである。
「 夏に霧……?」
僕は気になり外を見たのだ……。霧の中から女が姿を現したのであった。
「うわあっ!!」
僕は驚いてベッドから転げ落ちてしまった。しかし、直ぐに窓の方を振り向いたのである……。すると目の前には美羽が立っているではないか!
「うわああああ!!」
ここは3階なので人間が窓に立つことが出来ない事を理解し更に叫び声を上げていた……。だが僕も彼女に会いたいと願っていたので直ぐに普段の僕に戻っていたのだ……。
「美羽……」
「ねえ……中に入れて……」
僕は彼女の言うがままに窓を開けて部屋に入れたのだ。相変わらず前髪が長く表情が見えにくかった。すると彼女は僕の耳元で囁いたのである……。
「私に……会いたかったんでしょ……」
僕はビクッと体を震わせたのだった。美羽は薄っすらと笑みを浮かべて僕の顔を見詰めていたのであった……。
暫く、彼女を見ていたが僕には恐怖心は無くなっていた……。寧ろ、胸が締め付けられるような不思議な感情が支配していたのだ。
その感情の前では恐怖心など存在せず、愛おしいとさえ思っていたのである。
「嬉しい……?」
「ああ……」
僕が素直に答えると彼女は僕の首に手を回してきたのである。そして、そのまま僕を抱き寄せ唇を重ねてきたのであった……。
すると彼女の生暖かい舌が口内に入って来たのだ。彼女の舌は人間では考えられない程長かったがお構いなしに彼女とのキスに酔いしれていたのである……。
しかし、それは美羽も同じだったようで彼女も僕とのキスに酔いしれていたのだった。
彼女を愛してしまった僕は、もう人間社会での生活は無理なのかもしれない……。
僕にとって彼女の存在は、既にかけがえのないものとなっていた。
そう考えていると美羽は一旦、唇を離し見詰めていたのだ……。彼女の瞳は深淵のように漆黒で、どこまでも見透かされるような不思議な感覚であった。
「ねえ……」
「何?」
「私と一緒に……来てくれる……?」
「うん……」
すると彼女は妖艶な笑みを浮かべ僕の手を取って窓の外に出て行こうとしていたのだ。
僕は身も心も彼女に全てを捧げようと決意していたのだった……。そう、彼女となら永遠に一緒にいられるだろうと確信していたのである……。
この日から山上諒は行方不明となって、誰も彼の行方を知る者はいないのであった……。
僕の名前は山上諒、みんな大学生で二十歳である。夏休みの間の深夜のドライブであった。深夜にも関わらず外は蒸し暑かったのだ。
「展望台からの夜景が綺麗だという噂みたいね……」
希が前でそう言うのが聞こえた。彼女の呟きに冬弥が、「そうだね」と返していたのだ。
「この車、中古だがアルバイトして貯めて買ったんだぜ」
冬弥は運転しながら皆にウキウキしながら答えたのだ。彼の買った車は中古のコンパクトカーであった。
「そうなんだ」
彼女が運転席に振り向いてそう囁いていた。
「せっかく免許を取ったから車を買って遠出をしようって話になってな。車があれば移動の幅が広がるからな」
「そうだね……なんか深夜のドライブって楽しいよね」
希も笑顔でそう返したのだ。彼女は冬弥にはもったいないぐらいの美人であった。まあ冬弥もイケメンの部類に入るけど……。
「そろそろ山道に入るぜ」
冬弥がそう言って、少しして山道に入った。舗装されていない道で、ガタガタと車が揺れていたのだ。
「ちょっと……タイヤは大丈夫なの?」
希が心配そうにそう聞いたのだが僕は黙って外の景色を眺めていたのだ。
「大丈夫だって!この道なら近道になるんだよ!」
冬弥がそう答えたのである。確かに道はどんどん狭くなり、舗装されていない道になったのだ。
「でも、本当に近道なの? 何か不安なんだけど……」
希はそう言ったのだが、冬弥はただ「大丈夫だって」と言うだけだった。僕はその時に何か嫌な予感がしたのだった。
そして山道に入ってから10分後、道は更に細くなり、車のヘッドライト頼りで進んで行ったのだ。
「あれ……この道で合ってるの? 道路が細くなってるよ?」
希が不安そうに言ったのだが冬弥は何も答えず運転していたのである。そして少しして、道の左端のガードレールが途切れているのが見えてきたのだ。
「あれ、ガードレールが途中で無くなっているよ?」
彼女が不安そうに言ったのだが車はガードレールが無い道を通って行ったのである。
「大丈夫だ……」
「え……ちょっと! 大丈夫なの!?」
希がそう叫んだのだが、その時に車が急ブレーキをかけて停車したのだ。
「うわっ!」
僕は思わず声を上げたのだ。車が止まった衝撃で体が前に持って行かれそうになったからだ。
「ちょっと!?」
希がそう叫んでいたのだが、冬弥はハンドルを握りしめて前方を凝視していたのである。
「えっ? どうしたの?」
「おい……大丈夫か?」
2人で声をかけたのだが、冬弥は前を見て呟いていたのだ。
「前に……人が……」
「あっ! 人がいる……」
希がそう言った時に僕はフロントガラスから前を見たのだ。そして道の端っこに人が立っていたのだった。
ヘッドライトで照らされた人は女性であった。彼女の服装は、白い半袖のブラウスと黒いロングスカートを着ていたのである。
「何故……こんな所に……?」
僕がそう呟くと、冬弥はシートベルトを外してドアを開けて外に出ようとしたのだ。
「ちょっと……どうしたのよ?」
彼女が慌てて聞くと冬弥がこう答えたのだった。
「いいから、希は車の中で待っててくれ! 諒は一緒に外に来てくれ!」
彼はそう叫んで外へ出て行き僕も遅れて外に出て行ったのだ……。
女性は俯いていて前髪が長く顔が良く見えなかったのである。僕達が近付いても無言であったのだ。
「こんな所でどうしたんだい?」
「……」
冬弥がそう聞いたのだが、女性は俯いたまま無言であったのだ。
「僕達……展望台に行こうとしてるんだけど」
僕がそう言うと彼女はボソッと呟いたのである。
「……彼氏と……喧嘩して……置き去りに……されたの……」
「え? 置き去り……?」
僕がそう言った時に彼女が顔を上げ、前髪の間から少し顔が見えたのだ。その女性の目を見て僕は冷や汗を掻いていたのだ。
何故なら……その女性は目を見開いており瞬きしていなかったのである……。
「ねえ……ちょっと……」
僕はオドオドしながら話しかけていたのだが、その時に助手席に乗っていた希が外へ出てきて冬弥に叫んだのである。
「ねえ! この人に何があったの!?」
彼女は不安でそう叫んでいたのだ。冬弥は彼女を落ち着かせるように答えたのだ。
「ちょっと待ってくれ……今、この人から事情を聞いているんだ……」
冬弥はそう言った時に、彼女の肩を揺すって更に声をかけたのだ。
「なあ……俺達が展望台に行った後、帰りに送ってやろうか?」
「……お願い……します……」
彼の問いに彼女は間を置きながらそう答えたのだった。
「諒……彼女を後部座席に乗せてやってくれ……」
冬弥はそう言うと運転席に戻って行ったのだ……。僕は彼に言われるままに、彼女を後部座席に座らせたのだ。
「あの……名前は何て言うの?」
希が彼女にそう聞いていたので僕も内心、気になっていたのだ。すると彼女はこう答えたのだった。
「……美羽です……」
「美羽さんか……じゃあ後ろの座席に座ってね」
僕はそう言った後で後部座席に座ったのである。そして冬弥は車を動かし始めた。
「……ねえ、本当に大丈夫なの?」
「仕方ない。ほったらかしにする訳にいかないだろ……」
彼女が小声で不安そうに聞いてきたのだが、冬弥は前を向きながら答えていた。
「彼氏から置き去りにされたと言ってたけど……大丈夫なのか?」
「……」
彼がそう聞いたが彼女は無言でいたのだ。
「大丈夫よ……きっと後で迎えに来てくれるわ」
希はそう言って彼女を励ましていたのである。
「いや、彼氏に期待するより俺達が車で送って行った方が安心だろ……」
冬弥はそう返したのだが、暫く車内で僕を含め無言が続く中を運転していたのだ。
その間、僕は隣に座っている彼女が人間なのか幽霊なのかを考えると心中穏やかではいられなくなり身を縮めていたのである……。
そうこうしている内に道路が開けた場所に出ていて頂上付近まで来たのである。
「よし、展望台までもうすぐだぞ……夜景を見た後、彼女を送って行こう……」
山の頂上付近にある展望台の駐車場に到着したのだ。しかし夏だというのに駐車場付近は霧がかかっていたのである。
「霧が出てるな……夜景は見れるかな?」
彼はそう言いながら車を駐車場に止めたのだ。深夜だというのに駐車場には1台の黒いバンが停まっていたのである……。
「おい……なんか、変な車が停まっているな……」
冬弥はそう呟いていたのだ。確かに駐車場には1台だけ黒いバンが止まっていたのである。ヘッドライトは消してあるがエンジンは掛けているようであった。
「……なあ、あの車に乗っている人も夜景を見に来たのかな?」
僕は何か嫌な予感がしてそう冬弥に問いかけていた。そして彼はこう答えていたのだ。
「さあ……展望台には人はいないみたいだが……」
僕等はそんなやり取りをしていたのだが女は後部座席で俯きながら無言で座っていたのだ。そして冬弥がこう言ったのである。
「ちょっと外の様子を見てくるわ……」
彼がそう言った時、黒いバンから人が降りて来たのであった……。
「ん? 何だ……?」
冬弥がそう言った後に、黒いバンから3人の男達が降りてきたのだ。その男達は全員ガタイの良い大柄な男であった……。
そして彼等が運転席側に近付いて窓をコンコンと叩いたのだ。
「何ですか?」
冬弥がそう言って窓を開けると男達は開いた隙間から話しかけてきたのだ。
「ちょっと悪いんだが、君達の車が停まったので、ここで何をしているのか気になってね……」
彼等はそう言ってきたのだ。冬弥と話している男は強面の厳つい男で40代ぐらいの年齢に見えていたのだ。どうも堅気の人間の顔ではないようだ……。
「展望台からの夜景を見に来たんですが……」
冬弥がそう言うと男達はニヤニヤしながらこう答えた。
「へぇ……そうか……。俺達も夜景を見に来た所なんだよ……じゃあな」
彼の答えに男達は安心したのか、車から離れようとしていたのである。
だが突如、僕の隣に座っている美羽が狂ったように笑い出したのだ……。
「キャハハハハ!!」
後部座席で俯いていた美羽が突然笑い出して車の外の男達を見て喋ったのである。
「……あんた達の車に死体があるよね……」
美羽は車内から気が触れたように笑いながら言ったのだ。彼女の突然の変化に、僕と冬弥と希が唖然としていると、男達が目を剥き顔を強張らせ彼女を見ていたのだ……。
「おい……何故、死体があると思うんだ?」
男の1人がそう言うと、美羽はうすら笑いを浮かべこう答えたのである。
「……あの車から死体の匂いがする……」
彼女はまたそう呟いたのだ……。そして男達が彼女の言葉に反応して狼狽えたのである。
「……おい! コイツ等を外に連れ出せ!」
40代の男がそう言って他の2人に指示をし、彼等が車のドアを開けようとしていたのであった。
「おい! 何をするんだ!?」
冬弥が声を上げロックしようとしたが男達がドアを開く方が早かったのであった……。
「止めろ!」
彼がそう言った瞬間に僕達はドアが開かれ力ずくで外に連れ出されていたのである。
「ちょっと! 何するの!」
希がそう叫んで抵抗したが男2人に車から強引に引きずり出されていた。僕も引っ張り出された時に、美羽がいない事に気付いたのだ……。
「おい! あの女がいないぞ!?」
男達はそう叫んだ時に、いつの間にか美羽が彼等のバンのバックドアを開いて眺めていたのだ……。
「……やっぱり……死体がある……」
彼女はバックドアから車内を覗きながらそう呟いたのだ。ドアが開いた中から人の大きさの黒い収納袋が見えたのである。
「おい! 何やってるんだ!」
男が声を荒げていたのだが、彼女は見終わると山に向かって忽然と闇に紛れて消えていったのだ……。
「あっ!」
40代の男が声を上げ、バンに戻ると彼女を捜していたが見失っていたのである。
僕と冬弥は2人の男達から後ろ手に手を極められ、身動きが取れない状態になっていたのだ。
「見られちまったからには仕方がない……。コイツ等をテープで拘束しろ!」
40代の男は、こちらに戻り他の2人に命令したのである……。
そう言うと彼は希の肩を掴んで逃げられないようにしていたのだ。すると彼女が男に抵抗しながら叫んでいたのである。
「ちょっと!! 痛いじゃない!!」
彼女がそう言ったが男達は無視し粘着テープを使い僕達の両手を前にしてテープでグルグル巻きにして自由を奪ったのである……。
「……彼女は何処に行ったんだろう?」
僕がそう聞くと冬弥は力なく首を横に振っていたのだ。
「……分からん」
「殺されるの……?」
希は涙目になりガタガタと震えだしていた……。それを見て冬弥は意を決したように男達に向かって体当たりしていったのだ。
「この野郎!」
しかし、筋肉質で顔が醜い男が冬弥の体当たりを躱すと彼は勢い余って前のめりになり倒れたのだ。
追い打ちをかけるように男は冬弥の腹や顔を蹴り上げたのだ。彼は苦悶の声を上げ鼻から血を吹き出していた。
「グウゥッッ!」
そんな彼を見て希は悲鳴を上げたのであった……。
「イヤ――ッ!!」
男は更に彼を蹴り上げていたのだ。僕はそれを見て怒りがこみ上げてきていたのである……。
「くそっ!」
僕はそう叫んで拘束している男に肩から体当たりをしたのだ。しかし彼はビクともしなかったのだ。
「テメー!」
背が高く顔が長い馬面の男がそう言って右腕と服を掴み僕を投げ飛ばしたのである。僕は後頭部と背中を打ち付け眩暈と呼吸困難を引き起こしていたのだ……。
「ううっ……」
地面に転がると、更に追い打ちをかけようと男が近づき僕の腹や顔に蹴りを浴びせていたのである……。
「 おい! リキ! ヤス! そこまでにしとけ!!」
「……分かりました、マサさん……」
リキ、ヤスと呼ばれた男達は僕等への暴力を止めると、マサと呼ばれた男が僕達に近付いて来たのだ。
「このガキ共はどうします?」
リキがそう聞くと、マサは僕等の方を見て答えたのである。
「そうだな……」
3人は何か相談し合っていたのだが、僕は朦朧とする意識の中で彼等の会話に聞き耳を立てていたのだ。
「……コイツ等も……バラすか……」
マサがそう言った後に男が僕達を無理やり立たせていたのだ。
冬弥の顔は左目の瞼が腫れ上がっており鼻や口から血を流していた。僕はというと、鼻血を流していたのであった。
「おい! コイツ等もバンに乗せろ!」
マサがそう指示すると、2人の男が僕達を無理やり引っ張て来てバンの後まで歩かされたのだ。
そして車の荷台に乗せられると、ラゲッジルームには先程見た黒い収納袋が1つあったのである……。
「あの……何処に連れて行くんですか?」
希は震える体でそう聞いたのだが、マサはこう答えたのだ。
「山の中だよ……。本当は、この死体を埋めるだけだったんだが、お前等がコレを見ちまったんでな……余計な手間を掛けさせやがって……」
僕達はそれを聞いて愕然としていた……。どうやら、彼等は死体を山に遺棄しに来たようだ。
「待って下さい! この事は誰にも喋りませんから! 命だけは助けて下さい!」
冬弥が必死に釈明するがマサが鼻で笑いながら答えたのである。
「ああん……そんな事、信用できるわけがないだろ……」
「そんな……私達は死体があるとは知らなかったんです!」
希は泣きながら訴えていた……。
「黙れ! お前等は目撃したんだ! 見られたからには殺すしかないんだよ!!」
マサが凄みを効かせて怒鳴ると、僕と冬弥は竦み上がり希は泣き出したのだ。
「嫌っ……死にたくない!」
「うるさいっ!!」
彼女は泣き喚いたが、マサに一喝されるとビクッとして涙が止まったのである。そして彼はこう言ったのだ。
「おい! コイツ等の口にテープを貼って黙らせろ!!」
そう言うと彼等は皆の口にガムテープを貼ったのだ。そしてそれを見届けると車は動き出したのだ……。
どうやら車は山頂に向かっているようであった。そして暫く進むと車が停車しエンジンが止まりヘッドライトが消えたのである。恐らく山頂に到着したのであろう……。
到着するとマサが僕達に話し掛けて来たのである。
「気の毒だが此処で死んで貰う……。あの逃げた気がおかしい女を恨むんだな……」
そう言って彼はバンの荷台を開けたのだ。車の中で横たわっている僕達には真っ暗闇の中に木々が見えていた。
車のライトが消えた事で辺りは真っ暗になったのである。2人の男がマサに耳打ちしていたのである。
「何だ? どうした?」
「マサさん……この女を殺す前にまわしてもいいですか?」
「俺達は前科がないのでDNA鑑定されても直ぐに特定されることはないですよ……」
リキとヤスがそう言っていたのだ。希が可愛くて綺麗なので欲情を催したみたいである……。
「仕方ないな……早く終わらせるんだぞ!」
マサの返答に2人は好色な顔をし喜んでいたのだ。そして暫くすると、彼女を外に連れ出し粘着テープをカッターで切ったのだ……。
希は怯えた顔をしていたがテープで口を塞がれていた為、言葉を発する事ができなかったのだ。
「ううっ……うっ!」
彼女は必死になって抵抗したが、リキに両手を掴み押さえ付けされたのである。そしてヤスが後ろから希の胸を揉みながら服をめくって脱がせていたのだった。
「なかなかいい形をしてるじゃないか……」
リキはそう言いながら彼女の両足を広げさせて股間に指を入れようとした時であった……。希の呻き声を聞いた冬弥が荷台から降り突然暴れだしたのだ。
「うううっ!」
彼は口を塞がれていたので声にならない声で叫んでリキに体当たりしたのだが両手を拘束されバランスを失い転んだのであった……。
不意を食らったリキは怒り狂い冬弥に馬乗りになって顔面に拳を何度も打ち込んでいたのである。
何度も顔面に拳を喰らい意識を失うと冬弥は力なく、ぐったりとしていた。
「リキさん! 落ち着いて! コイツ、気を失ってますよ!」
ヤスがそう言って止めた時、彼は我に返っていたのである。すると立ち上がり希に向かっていったのだ。
「お前の彼氏だな……ボコボコにしてやったぜ」
「うっ……ううっ……うう」
彼女は気を失った冬弥を見て痛々しい表情で嗚咽して泣いていたのだ。それを見ていたヤスがリキにこう言ったのである。
「早く楽しんで終わらせましょうよ……」
そう話すとリキは希のスカートを捲ってパンツを脱がせ始めたのであった。
だが彼女は抵抗して必死で脱がされないようにしたのだがリキに顔を叩かれて怯んだ時に右足首を持たれてしまい脱がされたのだった……。
「さてと、そろそろだな……」
そう言って彼は自分のズボンを脱ぎ下着も脱ぐと下半身を露わにしたのだ。
ニヤニヤしながら希に近付き無理やり足を広げて股の間に割って入っていったのだ。
僕はその一部始終をラゲッジルームから声と音を聞いていたのである……。
ラゲッジルームで抵抗せず黙って大人しくしていたのだが頭の近くに工具箱があるのに目が付いていたのだった。
2人の男達相手に希は諦めた表情をしており、もう余り抵抗する気力もないようであった。
「ううっ……」
彼女は涙を流して泣いていた……。そしてリキが彼女の陰部に指を入れようとしたのであった……。
その時、希がくぐもった声で悲鳴をあげたのだ……。彼女は痛みで顔を歪めリキの指を抜こうと懸命に抵抗していたのである。
「うっ! うう――っ!」
「濡れてきたな……そろそろ挿れるぞ……」
リキが興奮して息を荒げて希の膣に自分のイチモツを挿入しようと腰を落としていったのである。
彼女は挿入されたリキのイチモツに痛みで呻いていたのである……。
「うう! ううっ……」
「きついな……突っ込んで壊れないか?」
そう言って彼は腰を振り膣内の感触を愉しんでいたのだ。そして徐々に彼のイチモツが膣奥に挿入されていくと、希の悲痛な呻き声が山中に響き渡ったのである。
「うううっ! うう――!」
彼女は涙を流して痛みに耐えていた……。リキは段々と腰の動きを速めていき、やがて彼女の膣内に射精したのだった……。
「ううっ!」
希はリキが射精するのと同時に呻き声を上げていた。そして彼は自分のイチモツを抜くと希はぐったりとしていたのである。
「次は俺の番ですぜ……」
ヤスがそう急かして待っていたのだ……。するとリキがズボンを穿きながら言ったのだ。
「……わかったよ」
彼はそう言ってヤスと場所を交代した。すると希は虚ろな目で彼を見ていたがヤスはニヤッと笑いこう言ったのである。
「まだ終わりじゃないぞ……今度は俺の番だからな……」
そう言うと、彼はズボンを脱いで自分のイチモツを、まだリキの精液が垂れている膣に挿入したのだ。
「ううっ!」
2人目の挿入の痛みで彼女は呻き声を上げていた。そしてヤスは腰を振り始めピストン運動を始めたのだ……。
「ううっ!うう――!」
彼女は必死に抵抗して足をバタバタさせてもがいていたのだが、リキに両手を掴まれ、ヤスからは腰を押さえ付けられていた。
「ううっ!」
そしてヤスは段々と腰の動きを速めていったのだ……。希はもう抵抗もできず目を瞑って涙を流して泣いていただけであった。
「うう! うううっ……」
彼女が呻いているとヤスが限界に達して呻き射精をし彼女の膣奥に精液を放出したのだ。
「ふう……スッキリしたぜ」
そう言って彼はイチモツを彼女の膣から抜くと、彼女は遠い目をしてグッタリとしていたのだ……。
ヤスはズボンを穿いて、事が終わったことをマサに報告していた。
「マサさん、終わりました……」
彼がそう言うとマサはこう返答したのであった。
「終わったか! じゃあ、コイツ等を今からバラすぜ……準備しろ!」
2人はその返事に頷くが、希は聞こえてないのか虚ろな目をしていたのである。
冬弥は気を失っており、僕は拘束されたままバンのラゲッジルームで殺されるのを待つしかなかったのだ。
すると突然、周りから霧が生じ背筋が寒くなっていく感覚の変化に僕は何事かと思っていると夏なのに山の中で虫の鳴き声がピタリと止んでいたのだ……。
何か変だな……と思った瞬間、男達が急に声を上げ始めたのである。
「何だ? 霧が発生している?」
「何だか寒くなってきましたね……」
男達が動揺しているのが分かる。どうやら、この霧と気温の変化に何か違和感を感じたようだ……。
その時、ヤスがバンに近付いてきて荷台で横たわっている僕に近付いてきたのだ……。そして彼はラゲッジルームからシャベルとLEDランタンを取り出し冷たい表情で僕の方を見たのである。
「おい! お前も外に出ろ!」
そう命令され僕は荷台から這い出ると、霧で辺りが見えにくくなっていたのだ……。ヤスはバンの近くにLEDランタンを置いて明かりをつけたのだった。
「虫の声がしなくなった……?」
「不気味なほど静かですね……」
マサとリキが動揺して辺りをキョロキョロと見ていた。そこへヤスが僕を引っ張て来たのである……。
「連れてきましたぜ」
僕はヤスに引っ張られると、そこには虚ろな表情で横たわっている希と地面にぐったりしている冬弥がいた。
すると突然、霧の中からこちらに向かって歩いて来る人影が見えていたのだ……。
「誰だ?」
マサがそう聞くと、霧の中から女が歩いて出てくると彼等の前に現れた……。
その女は細身の体形で長い前髪をして白の半袖のブラウスに黒色のロングスカートを穿いていたのだ。
彼女は美羽であった。相変わらず前髪が長く表情を窺えなかったのだ。彼女は黙って男達を見ていたのである……。
「丁度いい……お前も殺してやる!」
マサが大声で怒鳴ったが美羽は止まらず、どんどん男達に近付いて来たのだ。彼等が警戒して身構えていると、彼女は不気味に笑ったのである。
「キャハハハッ! 私が……怖い?」
彼女は更に近付きながらそう言った。そして彼等は、その異様さに只ならぬ恐怖を感じ冷や汗を掻いていたのだ……。
ドンドン近付いて来る彼女にリキが勇気を振り絞って飛び掛かり首を絞めたのだ。飛び掛かられて首を絞められた美羽は地面に倒れたのである。
「ギャハハハハハ!」
地面に倒れても笑い声を上げる彼女にリキは馬乗りの体勢になって首を絞め始めたのだ。
彼は彼女の首を締めながらこう言ったのである。
「死ね! イカレ女!」
首を絞められていても特に抵抗しないで、されるがままであったのだが地面にダラーンとした腕がニュルニュルと伸びて彼の顔に近付いてきた。
「何だ!?」
美羽の手がリキの顔まで伸びて彼の眼にズブッと指を入れたのであった。すると即座に彼は目を押さえながら悲鳴を上げたのだ……。
「うぎゃあああぁっ!!」
彼女の指が眼球を抉ると、それと一緒に視神経や血管、眼筋も引き抜かれ途中でブチッという音がして千切れたのだ。
両手に引き抜かれた眼球を握り潰すとブシュっと弾けたのだ。彼女の手からは粘りのある液体が滴っていたのである。
「眼がぁ――! 眼がぁ――!!」
美羽は苦しみ悶える彼をジッと見ていたのだった。この光景を見た僕は彼女が人間でない事を薄々感じていたのである……。
マサはその様子を見て驚き呆然としていたのだが彼を気遣うように言った。
「リキさん……大丈夫?」
「ううっ……ううっ……」
彼は血が流れ空洞になった眼窩を押さえながら悶え苦しんでいたのである……。そして美羽はゆっくりと立ち上がった。
ヤスは怖気ついていたが、持っていたシャベルを彼女の頭に振り下ろしたのであった。
「死ねぇ――っ!」
そう言ってシャベルを振り下ろし彼女の脳天に叩きつけたのだ。だが、彼女はビクともしないどころか傷一つつかなかったのである……。
「えっ!?」
驚いて唖然とするヤスに美羽の両腕が伸びて彼のシャベルを奪ったのであった……。
そして彼女はシャベルを無表情で見つめると、次第にヤスを憎悪に満ちた視線で睨んだのである……。
「よくも……これで殴ったわね……お返しよ……」
そう言ってシャベルをヤスの首に振り払った。シャベルが彼の首に突き刺さった瞬間、グサッと音がして彼は悲鳴を上げたのだ。
「うぎゃあぁ――っ!」
首からブシュ――ッと血を吹き出し口から血の泡を吹いてヒュ――ヒュ――と息をしていた。そして彼は地面にゆっくりと倒れ動かなくなったのだ……。
「ヤス!」
マサが叫ぶと美羽は彼を見た。すると彼女の眼光を見て戦慄が走り動けなくなったのである。
彼女は無表情でゆっくりと彼に近付いてきた。しかし、彼は腰からダガーナイフを取り出して美羽に突きつけたのだ……。
「う……動くな!」
そう怒鳴るが彼女は表情を変えずナイフを持つ彼に近付いたのだ。意を決して彼は美羽の心臓を狙って突き刺したのだった。
「!?」
彼は刺した感触の手応えの無さに驚き、目を剥いて彼女を見ていたのであった……。
これまでに彼は実際、人を刺してきており、その感触は手に染みついていたのだ。だが今回の美羽を刺した手応えの無さは只事ではないと感じていたのである……。
「何っ……!?」
彼は驚き呆然としていたのである。そして刺された箇所を見ると出血していなかったのだ……。
「う……嘘だろう……?」
彼は動揺して後ずさりすると、彼女は無表情で彼に近付いてきた。この時には冬弥は意識を取り戻しており、希も凄惨な場面の一部始終を見ていたのである……。
2人とも恐怖で顔が引き攣っていたのであった。僕はバンの荷台にあった工具箱からカッターを見つけ出し靴下の中に隠していたのだ。
粘着テープでグルグル巻きにされた両手でカッターの刃を出し何とかしてテープを切ろうと頑張っていたのであった。2人もそれに気付き、こちらを見て僕の行動にコクリと頷いていた……。
「ちくしょう! こっちに来んな!」
マサはどんどん近付いて来る美羽に恐怖し、少しづつ後退していくと何かに躓いて後ろに倒れたしまったのである……。
それは倒れた彼の腕に抱き着いてきたのであった。抱き着いて来た者はリキであった。
彼はマサの声に反応して、こう言ったのだ……。
「た……助けて、マサさん……」
彼は自分の腕に抱き着いてきたリキを見て驚愕していた。眼がある場所が空洞だったのである……。
「だ……抱き着くな! 離れろ!」
マサは恐怖で顔を引きつらせていた。そして彼の腕を離そうとジタバタしていると美羽の伸ばしてきた左手が彼の片足を掴んだのである。
「は……離せぇ!!」
マサは悲鳴を上げて掴んだ手を振り切ろうとしたが、その手の力が凄まじくビクともしなかったのだ。そして右手で心臓に刺さっているダガーナイフを引き抜いたのである。
凄まじい力で彼を引き寄せると右手のナイフを股間に突き刺したのであった……。
「ぐげええぇぇ――!!」
マサは股間から出血し苦しみ悶えていた……。そして美羽はゆっくり彼に覆い被さっていったのだ。
その光景を見て僕はカッターの刃で必死にテープを切ろうとしたのである。冬弥と希は恐怖でガタガタと震えていたのだ……。
「あわわ……」
死に物狂いでカッターの刃を出し入れしているとテープが切れて手が自由になり、口を塞いでいたテープを剥したのであった。
「冬弥! 今、自由にしてやるからな!」
僕は先ず冬弥を拘束しているテープをカッターで切り、希も自分で口のテープを剥したのである。
自由になった2人はお互いを見て安堵の表情を浮かべていた。そして僕も安心し切っていのだ……。
だがこの時、美羽がマサに馬乗りになり彼の喉仏にナイフを突き立てたのである……。
「うげえっっっ!」
彼は一言、悲鳴を上げると傷口から血を吹き出させ、口から血の泡を吹いて動かなくなってしまったのだ……。
彼の死体に馬乗りのままゴキゴキッと音を鳴らし首が180度回転すると僕達の方を見てこう言ったのだ……。
「今度は……あなた達の番……?」
LEDランタンの明かりで、はっきりと彼女の表情が見えたのだ。彼女の顔は血で染まり、瞳孔が開ききって僕達を見ていたのである……。
だが僕は、その表情を見て恐怖だけでなく畏怖の念を抱き彼女を人外の神々しい存在として映っていたのだ。
「ひいいっ!」
僕と冬弥と希は悲鳴を上げた。そして逃げようと展望台の駐車場目指して走り出したのであった……。
「はあ……はあ……ううっ」
しかし、冬弥は左の脇腹を押さえて顔をしかめていた。僕は心配になり冬弥に尋ねたのである……。
「痛むのか?」
彼は苦しそうに答えていた…。
「肋骨が……多分、折れてる……」
彼がそう答えると希は心配そうに見ていたのであった……。そして僕は彼に肩を貸しながら必死に山道を下って行ったのである。
その頃、美羽はマサの死体から離れすぐ傍で蹲っているリキに近寄り彼の後頭部に足を押し付け力を入れて踏みつけていたのだ。
「ううっ……や……止めてくれ……」
リキは恐怖と痛みで掠れた声を出していたが段々と踏みつける力が強くなり頭蓋がめりめりと音を立てていた……。
「ぎゃっ!」
そして、とうとうバキッという音と共に頭蓋骨が潰れて彼の脳漿と血が飛び散り割れた頭蓋から脳みそを覗かせ彼は即死したのである。
美羽は無表情で立ち上がると今度は諒達が逃げていった方に向かって歩いて行ったのだ……。
僕達はやっとの思いで駐車場に着き冬弥の車に乗り込んでいたのである。
そして、冬弥が運転席に座り希を助手席に座らせ僕は後ろに座ったのだ。
「大丈夫? 運転できるか?」
僕は心配して彼の表情を見た。まだ顔色が悪く体調が悪そうだったのである……。
「大丈夫だ……とにかくここを離れよう……」
そう言ってスタートボタンを押しエンジンをかけたのだ。すると、何かが後ろから近付いて来る気配を感じ僕はリアガラスを見たのである。
すると美羽が、もの凄いスピードで車に近付いてきていた。
「ち……近付いて来るぅ! 早く出して!」
「わかってるって!!」
冬弥は荒っぽい口調で叫ぶとサイドブレーキを戻し慌ててアクセルを踏んだのだ……。
「うおおおぉぉっ!」
ギュルルルと エンジン音が唸りを上げ車は勢いよく加速したのだ。しかし僕は後ろを向くと美羽の首がニュ――ッと伸びはじめ車に追い付こうとしていたのである。
「ひいいっ!」
「きゃああっ!」
僕と希は恐怖で悲鳴を上げたのであった……。そしてその間にも美羽の首は、どんどん車に近付いて来るのである。
すると冬弥が更にアクセルを踏み込み速度を上げたのだ。すると美羽の首を振り切ったのである……。
「よし! このまま逃げ切るぞ!」
冬弥がそう言ってスピードを上げると、今度はリアガラスに美羽の生首が映ったのであった。彼女は生首だけで飛んで追い付いて来たのだ……。
「うっ……うわあっ!」
彼女はニィ――ッと不気味な笑みを浮かべ、それを見てゾッとしたのだ……。
「ひいいいぃぃっ!!」
「うわあああっ!!」
希と冬弥も悲鳴を上げていたのだ。そして更に美羽の首が車を追い抜いて前に出始めたのである。
「冬弥、もっとスピード出してよ!」
「これ以上、スピードを出すと事故ってしまうぞ!」
彼女が焦りながら叫ぶと彼はクネクネした山道でのハンドル捌きを必死にしていた……。しかし、それでも美羽の生首が追い付いて来るのだ……。
すると突然、希が叫んだのだ……!
「あっ!! 前を見て!!」
彼女が指差した方向を見ると前方に大きなカーブが見えたのだ。このスピードでは曲がり切れそうもなかったのである……。
「やべえ! ぶつかるぞ!」
冬弥は焦りハンドルを右に切ったがカーブしている道路のガードレールを擦ろうとしていたのだ……。
そして車はガガガガと音を鳴らしながらガードレールを擦りながらもカーブを曲がっていたのである。
「うわあああっ!!」
僕と希は悲鳴を上げていた。しかし、まだ美羽の生首が車を追いかけていたのだ……。
「うおおぉっ!!」
そして車がガードレールを擦りながらカーブを曲がると、それと同時に美羽の生首が運転席側の窓から見え並走していたのである。
「うわあっ! 追い付いて来たあ!」
僕は恐怖で大声を上げると後部座席の窓から彼女と目が合ったのだ……。
「うふふ……」
美羽は、僕と目が合うと嬉しそうな笑顔になったのである。彼女は純粋に人殺しを楽しんでいたのだ……。
しかも、彼女は人間でなく化け物としか形容できない存在であるにも関わらず、その目は純粋に楽しんでいるかのようだった。
そして僕は彼女の目を見詰めていると、恐怖心が薄れ不思議な感情になっていったのである。
「ああ……素晴らしい……」
僕は美羽を美しいとさえ感じていたのだ。彼女の超自然的な容貌に魅了されつつあったのであった。
その感情が死への恐怖よりも勝っていたのである……。彼女もそれに気付き僕の目をじっと見つめていたのだ……。
時間にして数秒の事かもしれなかったが、僕にとっては永遠とも思える時間であった。
「……私の事が気になる……?」
実際には窓越しであったので聞こえていないが美羽が僕にそう言ったと理解し無意識にコクリと頷いて呟いていたのだ。
「……好きだ……」
しかし冬弥と希は呟きを聞き逃さなかったのである……。
「諒! 何を言ってるんだ!」
「山上君…… 大丈夫!?」
彼等は僕の反応を見て驚いていたのだ……。そして2人の声でハッと我に返り、自分が何を言ったのかをやっと理解したのである。
「あっ……ああっ!?」
僕は自身の発した言葉の意味に恐怖し頭を抱えて蹲ったのである。
希は僕の不可解な行動に困惑してオロオロとしていたのだった。だが冬弥はハンドルをしっかり握り前を向いて運転していたのだ。
その時、対向車線から車のライトが見え、次第に対向車がドンドン近付いて来たのである……。
「対向車だ!」
まっすぐの道であった為、冬弥はアクセルを踏んでスピードを出し、並走していた美羽の生首は対向車と衝突しドンッと音がしたのだ……。
「きゃああっ!」
「わああっ!」
車が美羽の生首を撥ねると同時に、希は悲鳴を上げると同時に冬弥も叫び声を上げていたのだ……。
そして後方を振り返ると生首は見えず車は山道を下って行ったのである。
「振り切ったな……」
冬弥がそう言うと希は胸を撫で下ろし安堵の表情を浮かべていた。しかし僕はリアガラスを見たままであった……。
「山上君、どうしたの?」
彼女は心配し僕の様子を聞いてきたが、僕は彼女の顔を見る事なく小声でボソッと呟いたのである……。
「また会えるよね……?」
「えっ! 何を言ってるの!?」
「諒! 気は確かか?」
冬弥と希が僕の精神状態を心配し、何度も声を掛けてきていた。だが僕はそれを無視し考え事に没頭していたのである……。
そして山道を降りて一般道を通り近くのコンビニの駐車場に停まったのであった。
「諒、大丈夫か? 顔色が悪いぞ……」
彼は心配し僕の顔を覗き込んできたのだ。僕は彼に顔を向けて出来る限り笑顔で答えたのである……。
「ああ、もう大丈夫だよ。パニックになっていたんだ……」
「そうか……それなら良いけど」
彼はそう言うと今後の事について話してきたのであった。
「今日、あの山でヤクザ風の男達があの女に殺されたんだ……。俺達はどうすればいい?」
「私はアイツ等に犯されたのよ……。けど警察に話しても美羽って女の事は信用して貰えないと思う……」
「下手に警察に話すと自分達が殺人の容疑者になってしまうかもな……」
冬弥と希は動揺しながら話していたが僕は黙って話を聞いていたのだった。
「そう言えば、諒。お前は何か良い案はないのか?」
冬弥が僕に聞いてきたので僕は少し考え込んでいたのだ……。
そして考えが纏まったので2人の方に顔を向けて提案をしたのである。
「確かに警察に話せば自分達が疑われると思う……。だから、このまま黙っていた方がいいと思うよ。明日になったら冬弥は病院に行った方がいいぞ、怪我の理由は自分で考えるしかないけど……」
僕がそう言うと冬弥は納得して頷いていた。
「確かにそうだな……。お前の言う通りかもしれないな」
そして希にも僕は恥じらいながら提案を伝えたのである。
「寺西さんは……その……強姦されたから、ネットでアフターピルを注文した方がいいと思う……警察には言えないから……。だから、妊娠の心配は大丈夫だと思う……」
「諒は何ともないのか?」
彼は心配そうに聞いてきたが僕は笑顔で答えたのである。
「僕は大丈夫だよ! 心配してくれて有難う……」
僕はそう言うと皆、それぞれの心配事に整理がついたのか精神的に安堵していたのだ。
「さて……今日はもう遅いし早く帰ろうぜ」
冬弥がそう言うと希も賛成して頷いていた。そして冬弥は車を発進させたのだった。
帰り道、僕達は一言も喋らずにいたのである。冬弥は先に希をアパートに送って行ったのである。
「また後で連絡するから……」
「冬弥……ありがとう……」
2人はそう言って見つめ合って別れたのだ。そして僕もアパートに送ってもらったのである。
「諒……今日は有難うな。お前がカッターを見つけたお陰で俺達は助かったよ……」
「いいよ、気にしないでくれ」
軽く会話を交わして彼と別れ僕はアパートの階段を上がって行き部屋に戻ったのであった。
「ああ……彼女に、また会えないかな……」
僕は部屋に入りシャワーを浴びるとベッドの上で寝転がりながら考えていた。だが今夜はとても疲れていた為、すぐに寝てしまったのである。
翌日の夕方、僕はスマホで冬弥とやり取りをしていた。
「冬弥、怪我の具合どうだった?」
『ああ……鼻と左の肋骨が折れてた』
「そうか……それは大変だね……顔を何度も殴られていたから……」
『それで数日、検査入院をすることになったよ……。希は昨日の内にアフターピルを注文していたから今日、薬が届いたと思う。退院したら半分立て替えてやるよ』
「そうか……それは良かった」
そして少しの沈黙の後、彼は話しを切り出してきたのである。
『なあ、諒……。今後は、あの山には近付かない方がいいと思うんだが……』
「そうだね……。また、あの女と出会ったらただじゃすまないと思うよ……」
『わかった……。今後のドライブでも近付かないように気を付けるよ……じゃあな』
彼はそう言うと通話を切ったのだ。そして僕はベッドに仰向けになり天井を見ていた。
「美羽と……また会いたいな……」
そう言った時、彼女の姿が思い起こされていたのである。端から見れば化け物であるが、不気味で悍ましい一面でなく神秘的で畏敬の念を抱かざる得ない姿に心を奪われていたのである。
それに、あの男達も彼女に危害を加えたから殺されたのであって、自分達も追いかけられていたが対向車とぶつかったので途中で断念したのだろう。
暫く、そんな事を考えていると睡魔に襲われ眠ってしまったのだ……。
気が付くと外は暗くなっていたのであった。何時間程、寝ていただろうか……?
「寝ちゃったな……」
僕はベッドから起き上がると、ふとスマホの画面を見たのだ。時刻は21時頃であった。
夏なのでエアコンを掛けているが、部屋の中が寒くなってきたのだ……。
「急に寒くなったな……」
そう呟いて外を見ると窓の外には霧がかかっていたのである。
「 夏に霧……?」
僕は気になり外を見たのだ……。霧の中から女が姿を現したのであった。
「うわあっ!!」
僕は驚いてベッドから転げ落ちてしまった。しかし、直ぐに窓の方を振り向いたのである……。すると目の前には美羽が立っているではないか!
「うわああああ!!」
ここは3階なので人間が窓に立つことが出来ない事を理解し更に叫び声を上げていた……。だが僕も彼女に会いたいと願っていたので直ぐに普段の僕に戻っていたのだ……。
「美羽……」
「ねえ……中に入れて……」
僕は彼女の言うがままに窓を開けて部屋に入れたのだ。相変わらず前髪が長く表情が見えにくかった。すると彼女は僕の耳元で囁いたのである……。
「私に……会いたかったんでしょ……」
僕はビクッと体を震わせたのだった。美羽は薄っすらと笑みを浮かべて僕の顔を見詰めていたのであった……。
暫く、彼女を見ていたが僕には恐怖心は無くなっていた……。寧ろ、胸が締め付けられるような不思議な感情が支配していたのだ。
その感情の前では恐怖心など存在せず、愛おしいとさえ思っていたのである。
「嬉しい……?」
「ああ……」
僕が素直に答えると彼女は僕の首に手を回してきたのである。そして、そのまま僕を抱き寄せ唇を重ねてきたのであった……。
すると彼女の生暖かい舌が口内に入って来たのだ。彼女の舌は人間では考えられない程長かったがお構いなしに彼女とのキスに酔いしれていたのである……。
しかし、それは美羽も同じだったようで彼女も僕とのキスに酔いしれていたのだった。
彼女を愛してしまった僕は、もう人間社会での生活は無理なのかもしれない……。
僕にとって彼女の存在は、既にかけがえのないものとなっていた。
そう考えていると美羽は一旦、唇を離し見詰めていたのだ……。彼女の瞳は深淵のように漆黒で、どこまでも見透かされるような不思議な感覚であった。
「ねえ……」
「何?」
「私と一緒に……来てくれる……?」
「うん……」
すると彼女は妖艶な笑みを浮かべ僕の手を取って窓の外に出て行こうとしていたのだ。
僕は身も心も彼女に全てを捧げようと決意していたのだった……。そう、彼女となら永遠に一緒にいられるだろうと確信していたのである……。
この日から山上諒は行方不明となって、誰も彼の行方を知る者はいないのであった……。
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