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その後 王配の条件③
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オリヴェルが尋ねた人物はラント伯爵という人物だった。
亡くなったエヴァリーナの親友の令嬢の父でありアウグスト暗殺の共犯である。
誰にも言えない復讐の気持ちで結ばれた二人の絆は強固であった。
オリヴェルとエヴァリーナの関係を知っているこの時点で唯一の外部の人間でもある。
「成程、悩ましい問題ですな……」
「ええ、このまま世論を無視するわけにもいきません。
エヴァリーナはまだ若いのでその話題を避け続けるのは不可能でしょう」
ラント伯爵は考え込んだ。
相談を持ち掛けたオリヴェルも実はそれほど期待はしていない。
ラント伯爵の能力にではなく王配に求められる条件の高さ故だ。
正直、自分がラント伯爵の身でもいい案や人材が見つかるとは思えない。
だが少しでも何か打開策が見つからないかという藁にも縋る思いだった。
「心当たりが無くはありません」
「え!?」
「しかし、かなり難しいかもしれません。あまりにも意外な人材ですから。
秘密を共有出来るかどうかまで確信が持てませんから」
「一体、誰なのです?」
「聖教会大司教の息子ですよ」
「それは……」
オリヴェルは絶句した。無理もない。
この国の宗教の象徴たる聖教会は権力と結びつく事を禁じているからである。
よりにもよって権力の象徴ともいえる女王の王配になどそれこそ論外に思えた。
「あそこも宗教とは言え王族の様に世襲制です。
代々神に最も近い僕の末裔という触れ込みですからね」
「……」
「しかしね、そんな大司教の一族にも泣き所があるのですよ。噂ですが」
熱心な信徒だった亡きラント伯爵夫人から聞いた事だ。
大司教の息子に同性愛の噂があるという事は。
聖教会司教は男しかなれないので司教候補も皆男である。
絶えず聖教会にはその手の噂が立っていた。
下らないゴシップと思っていたが本当だとすると案外使えるかもしれない。
聖教会の大司教の子息という身分の高さ、おそらく教養も高いだろう。
同性にしか興味を抱かないのならエヴァリーナの貞操も守られる。
考えれば考えるほどこれしかないように思える。
「いや、盲点でした」
「妻が小耳にはさんだ噂では大司教も困っているらしいですよ。
女性に興味が無ければ跡を継ぐ者が出来ない」
「あちらは跡継ぎ、こちらは形だけの王配というわけですね」
「妻は熱心な信者でしたからな。もし宜しければご紹介致しますが」
「ぜひお願いします!」
ラント伯爵の紹介を受けたオリヴェルは大司教と極秘に面会を持った。
その後接触を重ねる内にお互いの弱点を打ち消す話だという認識を共有した。
そして大司教とその息子から協力する確約を取り付けた。
「同姓を愛し子を為さぬ王配と秘密の愛人を抱えた女王。似合いの夫婦ですな」
「お互いうまくやっていける事でしょう」
三人は固い握手を交わした。
大司教やその息子からしてもこの話はありがたい。
お互いの立場を隠れ蓑として使える。大司教は後継者を得られる。
教会と王室はこれ以上なく後ろめたく、それ故に固い絆で結ばれた。
同時に王国の繁栄が約束された瞬間であった。
その後すぐに縁談がまとまった。
エヴァリーナは聖教会に形ばかりの入信をして一年後に大司教の息子を王配として迎えた。
そしてエヴァリーナは今、久々に休暇を取って侯爵家に帰っていた。
王配を連れての久々の里帰りという名目である。
無論、屋敷内ではそれぞれ別行動ではあるが。
王配は司教時代の同性の恋人を伴ってここに来ていた。
オリヴェルとエヴァリーナは寝室のバルコニーから夕焼けに染まる庭を見渡していた。
「さすがですわ、お義父様。この様な日が迎えられるなんて思いませんでした」
「ラント伯爵のおかげだよ。彼のおかげで私達は救われた」
「フローラも喜んでくれていればいいのですが」
そう言ってエヴァリーナは亡き親友の伯爵令嬢を思いやった。
彼女の仇は既にとってはいたもののその気持ちは知る由もない。
「きっとお前に感謝していると思うよ」
「そうだと思いたいです」
エヴァリーナは背中をオリヴェルの胸に預けた。
「お母様にも生きていて欲しかった……でも、私は身勝手な女です」
「何でだ?」
「こうしてお義父様を独占したい自分がいたからです。子供の頃からずっと……」
「エヴァ、私は確かにセラフィーナを愛していた。だが彼女はもういない。
私は今お前自身を愛している。身代わりなんかじゃない」
振り返ったエヴァリーナはオリヴェルの口を自分の口で塞いだ。
そして甘い顔で囁いた。
「なら、この休暇中にその事を私に証明して欲しいです。
いっぱい私を愛して下さいね。」
「そうしよう」
オリヴェルとエヴァリーナは屋敷にいる間、時間を惜しんで愛し合った。
そして、エヴァリーナは無事懐妊した。
最終的に女王エヴァリーナは合計3人の子をもうけた。
第一王子は王位を継いだ。
第二王子はかねての予定通り神職につき大司祭の後継者となった。
第一王女は帝国の皇太子に嫁いで両国は長く繁栄の歴史を築いた。
亡くなったエヴァリーナの親友の令嬢の父でありアウグスト暗殺の共犯である。
誰にも言えない復讐の気持ちで結ばれた二人の絆は強固であった。
オリヴェルとエヴァリーナの関係を知っているこの時点で唯一の外部の人間でもある。
「成程、悩ましい問題ですな……」
「ええ、このまま世論を無視するわけにもいきません。
エヴァリーナはまだ若いのでその話題を避け続けるのは不可能でしょう」
ラント伯爵は考え込んだ。
相談を持ち掛けたオリヴェルも実はそれほど期待はしていない。
ラント伯爵の能力にではなく王配に求められる条件の高さ故だ。
正直、自分がラント伯爵の身でもいい案や人材が見つかるとは思えない。
だが少しでも何か打開策が見つからないかという藁にも縋る思いだった。
「心当たりが無くはありません」
「え!?」
「しかし、かなり難しいかもしれません。あまりにも意外な人材ですから。
秘密を共有出来るかどうかまで確信が持てませんから」
「一体、誰なのです?」
「聖教会大司教の息子ですよ」
「それは……」
オリヴェルは絶句した。無理もない。
この国の宗教の象徴たる聖教会は権力と結びつく事を禁じているからである。
よりにもよって権力の象徴ともいえる女王の王配になどそれこそ論外に思えた。
「あそこも宗教とは言え王族の様に世襲制です。
代々神に最も近い僕の末裔という触れ込みですからね」
「……」
「しかしね、そんな大司教の一族にも泣き所があるのですよ。噂ですが」
熱心な信徒だった亡きラント伯爵夫人から聞いた事だ。
大司教の息子に同性愛の噂があるという事は。
聖教会司教は男しかなれないので司教候補も皆男である。
絶えず聖教会にはその手の噂が立っていた。
下らないゴシップと思っていたが本当だとすると案外使えるかもしれない。
聖教会の大司教の子息という身分の高さ、おそらく教養も高いだろう。
同性にしか興味を抱かないのならエヴァリーナの貞操も守られる。
考えれば考えるほどこれしかないように思える。
「いや、盲点でした」
「妻が小耳にはさんだ噂では大司教も困っているらしいですよ。
女性に興味が無ければ跡を継ぐ者が出来ない」
「あちらは跡継ぎ、こちらは形だけの王配というわけですね」
「妻は熱心な信者でしたからな。もし宜しければご紹介致しますが」
「ぜひお願いします!」
ラント伯爵の紹介を受けたオリヴェルは大司教と極秘に面会を持った。
その後接触を重ねる内にお互いの弱点を打ち消す話だという認識を共有した。
そして大司教とその息子から協力する確約を取り付けた。
「同姓を愛し子を為さぬ王配と秘密の愛人を抱えた女王。似合いの夫婦ですな」
「お互いうまくやっていける事でしょう」
三人は固い握手を交わした。
大司教やその息子からしてもこの話はありがたい。
お互いの立場を隠れ蓑として使える。大司教は後継者を得られる。
教会と王室はこれ以上なく後ろめたく、それ故に固い絆で結ばれた。
同時に王国の繁栄が約束された瞬間であった。
その後すぐに縁談がまとまった。
エヴァリーナは聖教会に形ばかりの入信をして一年後に大司教の息子を王配として迎えた。
そしてエヴァリーナは今、久々に休暇を取って侯爵家に帰っていた。
王配を連れての久々の里帰りという名目である。
無論、屋敷内ではそれぞれ別行動ではあるが。
王配は司教時代の同性の恋人を伴ってここに来ていた。
オリヴェルとエヴァリーナは寝室のバルコニーから夕焼けに染まる庭を見渡していた。
「さすがですわ、お義父様。この様な日が迎えられるなんて思いませんでした」
「ラント伯爵のおかげだよ。彼のおかげで私達は救われた」
「フローラも喜んでくれていればいいのですが」
そう言ってエヴァリーナは亡き親友の伯爵令嬢を思いやった。
彼女の仇は既にとってはいたもののその気持ちは知る由もない。
「きっとお前に感謝していると思うよ」
「そうだと思いたいです」
エヴァリーナは背中をオリヴェルの胸に預けた。
「お母様にも生きていて欲しかった……でも、私は身勝手な女です」
「何でだ?」
「こうしてお義父様を独占したい自分がいたからです。子供の頃からずっと……」
「エヴァ、私は確かにセラフィーナを愛していた。だが彼女はもういない。
私は今お前自身を愛している。身代わりなんかじゃない」
振り返ったエヴァリーナはオリヴェルの口を自分の口で塞いだ。
そして甘い顔で囁いた。
「なら、この休暇中にその事を私に証明して欲しいです。
いっぱい私を愛して下さいね。」
「そうしよう」
オリヴェルとエヴァリーナは屋敷にいる間、時間を惜しんで愛し合った。
そして、エヴァリーナは無事懐妊した。
最終的に女王エヴァリーナは合計3人の子をもうけた。
第一王子は王位を継いだ。
第二王子はかねての予定通り神職につき大司祭の後継者となった。
第一王女は帝国の皇太子に嫁いで両国は長く繁栄の歴史を築いた。
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