貴方自身が招いた結果です

富士山のぼり

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国王ヴィルヘルム

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「父上、話があるのですが」

「なんだ、改まって」

「いえ、気になる女性が出来まして」


 国王ヴィルヘルムは息子の声に眉を若干しかめた。


(また、学園の女に手を付けたのか)


 そう思ってため息をつく。
あの件をもみ消すのに裏でどれだけの労力と金を使ったのか分かっている筈だ。
決して馬鹿ではないこの息子がその事をわからぬ訳はない。


「また、戯れに生徒に手を出したのか。
そう際限なく振舞えばお前自身の評判を傷つける事になるのだぞ」

「人聞きが悪い云い方をしないでください。
今度は遊びではありません。私は真剣にその女性と将来を考えているのです」


 そう云われたらヴィルヘルムも無下に出来ない。
詳しく話を聞く事にする。


「誰だ、相手は」

「ケストナー侯爵の娘、エヴァリーナです」

「何? ケストナー?」


 その言葉を聞いてヴィルヘルムはその人物を思い起こす。
表立って正式に結婚はしていなかったが確か年頃の一人娘が居たはずだ。
その娘の事か。

 ケストナー侯爵は家格は高いが特に目立つような国の要職に就いた事はない。
どちらかというと目立たない貴族である。
ただ、若い時分に留学していた事もあって外交関係に明るく、一時期外務副大臣を務めたことがある。
端正な容貌だがどこか生気に欠けた男だ。


「家格で行けば問題はなかろうが……その娘にこだわる必要はあるのか?」

「彼女は王太子妃として素晴らしい才媛なのです」


 アウグストはこの時とばかりにエヴァリーナの事を褒めたたえた。
容貌も能力も実際本当の事なのだから誇張する事も無い。
熱を入れて説明しているとヴィルヘルムも興味を持ってくれた様にアウグストは思った。
実際、その通りだった。


(年に似合わず女性をよく知っている息子の心を捉える令嬢とはどれほどの者なのか)


 興味を持ったヴィルヘルムは学園からエヴァリーナの情報を取り寄せた。
アウグストの云う通り調べれば調べる程非の打ち所の無い令嬢だった。
特にヴィルヘルムが驚いたのはかつて彼が最も愛した側妃に面影が似ていた事だった。
記録宝珠に映されたその容貌を見た時、ヴィルヘルムは思わず驚きの声を上げた。
若干幼さこそあるものの間違いなく男を引き付けて止まない美しさである。

 父王にエヴァリーナの事を報告したアウグストは重大な事を忘れていた。
父王がもう少し若い時分は自分以上に女性に対して節操がなかった事を。


(あれほどのいい女、息子にくれてやるのは惜しい)


 かつては臣下の嫁を略奪した事もある男である。
欲しい女は皆自分の物にするという考えに至るのに躊躇は無かった。
まだまだ自分は男として枯れてはいない。
そして、自分は国王なのだ。
ヴィルヘルムは息子の為ではなく自分の為にこれからの事を考えた。
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