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王宮からの手紙

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 ヴィルヘルム国王からの親書を受け取ったオリヴェル・ケストナー侯爵はその中身を読んで呆れた。
父王の時代からこの国の王族はとにかく女性問題が多すぎる。

 もっとも各国の王族からしたら血を継ぐ重要性から一人の王が複数の女性を娶るのは当然だと云うだろう。
しかし王と云っても所詮はただの一人の人間に過ぎない。
民の支持あっての国王だ。
臣下や民の忠誠を得て長く太平の世を築いた名君も居れば、不満を持った臣下や民衆達に愛想をつかれてその座を追われた者もまた沢山いる。
この国王はどうなのか。オリヴェルの判断は間違いなく後者であった。

 オリヴェルは執務机の前で腕絵を組み、暫し考える。
そしてエヴァリーナを呼んだ。
 

「エヴァ、お前を側妃に迎えたいとの事だ」

「私を? 側妃という事は……」

「そうだ。殿下ではなく国王陛下がお前を欲している」


 オリヴェルが国王からの親書の内容を伝えるとエヴァリーナの表情に驚きはなかった。
只、やはり若干の呆れはあったが。


「可能性は無きにしも非ずとは思っていたが、まさかな……」

「一体どういう事なのでしょうか……」

「今までのお前の話を聞いて察するところ、親子でお前を取り合っている様だな」

「アウグスト殿下の意志はこの手紙に介在しているのでしょうか?」

「いや、恐らく知らないだろうな。手紙にはアウグストのアの字もない。」


 ヴィルヘルム国王はエヴァリーナとの婚約を願った王太子に云われて初めて彼女の容貌や素性などを詳しく知ったのだろう。
ケストナー侯爵家に娘が居ることくらいは勿論ヴィルヘルムも知っている。
しかし、詳しく知らなかっただけだ。知る必要も機会も無かったから。

 そのオリヴェルの推測は正しかった。
度を過ぎた女好きの男の思考ほど読みやすいものはない。
オリヴェルは自分の考えをエヴァリーナに伝えた上で続ける。
 

「陛下は今独り身だから関係各国との外交儀礼の際に相手国のお相手を務める側妃が欲しいとの事だ。
取って付けた様な理由だ。よりにもよってお前を指名する所もわからん。
が、勿論我々は臣下である以上断りがたい。」

「……」


 ヴィルヘルムは正妻である王妃を病で失い、傲慢になる側妃達には嫌気を感じて解任した。
側仕えの侍女達を相手にした女遊びは絶やさないものの妃と呼べる存在は今は一人もいない。

 そして手紙の中には侯爵家に対して異を唱えない様にする為の事も書かれていた。
貴族間の力関係におけるケストナー侯爵領の立場の変化、侯爵領の外国との商取引関税での件など。
逆に同意すればその事に対して出来る限り配慮するとの事だ。
手紙にはオリヴェルからすれば小賢しい脅しと懐柔が入り混じっていた。


「エヴァ、お前はどうしたい?」

「……お父様のお気持ちは?」

「勿論反対だ。だが、まあこれはこれで予想の範囲内でもある。ぎりぎりだが」

「そうですわね」

「まあ、あの親子がお前の容貌に喰いつかないわけがない。
親子そろって重度の女性中毒だからな」


 オリヴェルの言葉にエヴァリーナは苦笑した。
学園の生徒の貴族子女が見たことが無いエヴァリーナの素の表情であった。
少しして表情を改めてエヴァリーナはオリヴェルに告げた。


「お父様、この話お受け致しますわ」

「……わかった。では話を進めよう」
 
 
 こうして二人は国王からの申し出を承諾する事に決めた。
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