貴方自身が招いた結果です

富士山のぼり

文字の大きさ
上 下
8 / 19

勝ち取った婚姻

しおりを挟む
 国王ヴィルヘルムが崩御して王国は混乱に陥った。
と、いってもあくまで政情に関しての話だ。
死因について疑われる事は無かった。
王太子アウグストが早々に父は自然死したものと受け止めている事が大きかった。

 臣下達にしてみれば仕える人物が変わっただけである。
猶予期間の無い王位継承には事務処理上も色々手間取るし苦労するがそれだけだ。
国王には成人した王太子が存在していたし国の重鎮たちも変わらず存在している。
国の全てを国王トップが回している訳では無いから問題はない。

 アウグストは学生の身ではあったが既に王立学園卒業に必要な単位は取り終えている。
国家の緊急措置として特例で早期に卒業してそのまま王位に就くことになった。
アウグスト国王の誕生である。

 国王アウグストは王位について以来目まぐるしい忙しさの渦中にいたが自分にとって最も重要な優先事項は忘れていなかった。
エヴァリーナとの婚姻だ。

 元々王室とケストナー侯爵の間でエヴァリーナの王室入りは決まっていたのだから問題はない。
云わばこれはヴィルヘルムのアウグストに対する置き土産となった様なものだ。
アウグストがしたのはエヴァリーナの立場を側妃から王妃に改めた所である。

 もちろんエヴァリーナが卒業するまでにはまだ間があった。
だからエヴァリーナは卒業までの期間を国王の婚約者として妃教育を受けつつ過ごす事になった。
そしてアウグストにも新国王としてやる事は沢山あった。
アウグストにとってエヴァリーナの卒業までという猶予期間は国王としての自らの立ち位置を確立するための重要な期間になっていた。

 アウグストは精力的に国王として活動した。
自分自身しか知らぬことではあるが自分が招いた事であるから覚悟は出来ている。
有能な家臣たちに支えられつつもなんとかここ最近は国王としての仕事が板についてきていた。
そして執務室には今日も高く積まれる書類の山があったが久々に王宮から動く必要が無い日だったので休憩時間にアウグストは婚約者を王宮に呼び出した。
久しぶりの対面である。


「久しぶりだな、エヴァリーナ」

「お久しぶりでございます、陛下」

「そんなに硬い態度を取らないで結構だよ。私達は婚約者なのだからね」


 そう言ってアウグストはエヴァリーナに近づいて肩に手を置いた。
そのまま腰を自分に引き寄せるがエヴァリーナは軽く抵抗をした。


「陛下……、どうか今はまだお控えください」

「そうか、そうだな。すまない」


 アウグストは内心舌打ちをしながらエヴァリーナを離す。
いつもこうだ。
決して嫌がっている風には見えないがエヴァリーナは必ず自分に一線引いている。

 まだ婚約者だからという建前はわかるが今この部屋には臣下は入れていない。
行動を起こせばいくらでもできる。
しかし、アウグストとしては無理強いは本意でない。
アウグストとエヴァリーナの間はもちろんまだ清いままだった。
一度強引にアウグストから求めて口づけを交わしたくらいだ。


(あと少しだ。エヴァリーナが卒業して式を挙げるまでの我慢だ)


 これも一種の高尚な遊びなのかもしれない。
ホレた女を目の前にして手を出さないで焦れている事も。
そう思い直してアウグストは笑顔で語りかける。


「早いもので君が卒業するまであと少しだな」

「はい」

「君が卒業したらすぐに結婚しよう。国民達もそれを望んでいる。何より私も……」

「仰せの通りに、陛下」


 先ほどの穏やかな拒絶を感じさせない様にエヴァリーナは柔らかく微笑んだ。
アウグストはエヴァリーナのその表情を見て下半身がうずくのを感じた。


(しかし、今は我慢だ)


 楽しみは後に取っておけば取っておくほど大きく、嬉しく、満たされるものだ。
欲望が解放されるまであと少しだけ待てばいいのだから。
そうアウグストは自分に言い聞かせた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

誰ですか、それ?

音爽(ネソウ)
恋愛
強欲でアホな従妹の話。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

[完結]アタンなんなのって私は私ですが?

シマ
恋愛
私は、ルルーシュ・アーデン男爵令嬢です。底辺の貴族の上、天災で主要産業である農業に大打撃を受けて貧乏な我が家。 我が家は建て直しに家族全員、奔走していたのですが、やっと領地が落ちついて半年振りに学園に登校すると、いきなり婚約破棄だと叫ばれました。 ……嫌がらせ?嫉妬?私が貴女に? さっきから叫ばれておりますが、そもそも貴女の隣の男性は、婚約者じゃありませんけど? 私の婚約者は…… 完結保証 本編7話+その後1話

モブ公爵令嬢は婚約破棄を抗えない

家紋武範
恋愛
公爵令嬢であるモブ・ギャラリーは、王太子クロード・フォーンより婚約破棄をされてしまった。 夜会の注目は一斉にモブ嬢へと向かうがモブ嬢には心当たりがない。 王太子の後ろに控えるのは美貌麗しいピンクブロンドの男爵令嬢。 モブ嬢は自分が陥れられたことに気づいた──。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

処理中です...