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勝ち取った婚姻
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国王ヴィルヘルムが崩御して王国は混乱に陥った。
と、いってもあくまで政情に関しての話だ。
死因について疑われる事は無かった。
王太子アウグストが早々に父は自然死したものと受け止めている事が大きかった。
臣下達にしてみれば仕える人物が変わっただけである。
猶予期間の無い王位継承には事務処理上も色々手間取るし苦労するがそれだけだ。
国王には成人した王太子が存在していたし国の重鎮たちも変わらず存在している。
国の全てを国王が回している訳では無いから問題はない。
アウグストは学生の身ではあったが既に王立学園卒業に必要な単位は取り終えている。
国家の緊急措置として特例で早期に卒業してそのまま王位に就くことになった。
アウグスト国王の誕生である。
国王アウグストは王位について以来目まぐるしい忙しさの渦中にいたが自分にとって最も重要な優先事項は忘れていなかった。
エヴァリーナとの婚姻だ。
元々王室とケストナー侯爵の間でエヴァリーナの王室入りは決まっていたのだから問題はない。
云わばこれはヴィルヘルムのアウグストに対する置き土産となった様なものだ。
アウグストがしたのはエヴァリーナの立場を側妃から王妃に改めた所である。
もちろんエヴァリーナが卒業するまでにはまだ間があった。
だからエヴァリーナは卒業までの期間を国王の婚約者として妃教育を受けつつ過ごす事になった。
そしてアウグストにも新国王としてやる事は沢山あった。
アウグストにとってエヴァリーナの卒業までという猶予期間は国王としての自らの立ち位置を確立するための重要な期間になっていた。
アウグストは精力的に国王として活動した。
自分自身しか知らぬことではあるが自分が招いた事であるから覚悟は出来ている。
有能な家臣たちに支えられつつもなんとかここ最近は国王としての仕事が板についてきていた。
そして執務室には今日も高く積まれる書類の山があったが久々に王宮から動く必要が無い日だったので休憩時間にアウグストは婚約者を王宮に呼び出した。
久しぶりの対面である。
「久しぶりだな、エヴァリーナ」
「お久しぶりでございます、陛下」
「そんなに硬い態度を取らないで結構だよ。私達は婚約者なのだからね」
そう言ってアウグストはエヴァリーナに近づいて肩に手を置いた。
そのまま腰を自分に引き寄せるがエヴァリーナは軽く抵抗をした。
「陛下……、どうか今はまだお控えください」
「そうか、そうだな。すまない」
アウグストは内心舌打ちをしながらエヴァリーナを離す。
いつもこうだ。
決して嫌がっている風には見えないがエヴァリーナは必ず自分に一線引いている。
まだ婚約者だからという建前はわかるが今この部屋には臣下は入れていない。
行動を起こせばいくらでもできる。
しかし、アウグストとしては無理強いは本意でない。
アウグストとエヴァリーナの間はもちろんまだ清いままだった。
一度強引にアウグストから求めて口づけを交わしたくらいだ。
(あと少しだ。エヴァリーナが卒業して式を挙げるまでの我慢だ)
これも一種の高尚な遊びなのかもしれない。
ホレた女を目の前にして手を出さないで焦れている事も。
そう思い直してアウグストは笑顔で語りかける。
「早いもので君が卒業するまであと少しだな」
「はい」
「君が卒業したらすぐに結婚しよう。国民達もそれを望んでいる。何より私も……」
「仰せの通りに、陛下」
先ほどの穏やかな拒絶を感じさせない様にエヴァリーナは柔らかく微笑んだ。
アウグストはエヴァリーナのその表情を見て下半身がうずくのを感じた。
(しかし、今は我慢だ)
楽しみは後に取っておけば取っておくほど大きく、嬉しく、満たされるものだ。
欲望が解放されるまであと少しだけ待てばいいのだから。
そうアウグストは自分に言い聞かせた。
と、いってもあくまで政情に関しての話だ。
死因について疑われる事は無かった。
王太子アウグストが早々に父は自然死したものと受け止めている事が大きかった。
臣下達にしてみれば仕える人物が変わっただけである。
猶予期間の無い王位継承には事務処理上も色々手間取るし苦労するがそれだけだ。
国王には成人した王太子が存在していたし国の重鎮たちも変わらず存在している。
国の全てを国王が回している訳では無いから問題はない。
アウグストは学生の身ではあったが既に王立学園卒業に必要な単位は取り終えている。
国家の緊急措置として特例で早期に卒業してそのまま王位に就くことになった。
アウグスト国王の誕生である。
国王アウグストは王位について以来目まぐるしい忙しさの渦中にいたが自分にとって最も重要な優先事項は忘れていなかった。
エヴァリーナとの婚姻だ。
元々王室とケストナー侯爵の間でエヴァリーナの王室入りは決まっていたのだから問題はない。
云わばこれはヴィルヘルムのアウグストに対する置き土産となった様なものだ。
アウグストがしたのはエヴァリーナの立場を側妃から王妃に改めた所である。
もちろんエヴァリーナが卒業するまでにはまだ間があった。
だからエヴァリーナは卒業までの期間を国王の婚約者として妃教育を受けつつ過ごす事になった。
そしてアウグストにも新国王としてやる事は沢山あった。
アウグストにとってエヴァリーナの卒業までという猶予期間は国王としての自らの立ち位置を確立するための重要な期間になっていた。
アウグストは精力的に国王として活動した。
自分自身しか知らぬことではあるが自分が招いた事であるから覚悟は出来ている。
有能な家臣たちに支えられつつもなんとかここ最近は国王としての仕事が板についてきていた。
そして執務室には今日も高く積まれる書類の山があったが久々に王宮から動く必要が無い日だったので休憩時間にアウグストは婚約者を王宮に呼び出した。
久しぶりの対面である。
「久しぶりだな、エヴァリーナ」
「お久しぶりでございます、陛下」
「そんなに硬い態度を取らないで結構だよ。私達は婚約者なのだからね」
そう言ってアウグストはエヴァリーナに近づいて肩に手を置いた。
そのまま腰を自分に引き寄せるがエヴァリーナは軽く抵抗をした。
「陛下……、どうか今はまだお控えください」
「そうか、そうだな。すまない」
アウグストは内心舌打ちをしながらエヴァリーナを離す。
いつもこうだ。
決して嫌がっている風には見えないがエヴァリーナは必ず自分に一線引いている。
まだ婚約者だからという建前はわかるが今この部屋には臣下は入れていない。
行動を起こせばいくらでもできる。
しかし、アウグストとしては無理強いは本意でない。
アウグストとエヴァリーナの間はもちろんまだ清いままだった。
一度強引にアウグストから求めて口づけを交わしたくらいだ。
(あと少しだ。エヴァリーナが卒業して式を挙げるまでの我慢だ)
これも一種の高尚な遊びなのかもしれない。
ホレた女を目の前にして手を出さないで焦れている事も。
そう思い直してアウグストは笑顔で語りかける。
「早いもので君が卒業するまであと少しだな」
「はい」
「君が卒業したらすぐに結婚しよう。国民達もそれを望んでいる。何より私も……」
「仰せの通りに、陛下」
先ほどの穏やかな拒絶を感じさせない様にエヴァリーナは柔らかく微笑んだ。
アウグストはエヴァリーナのその表情を見て下半身がうずくのを感じた。
(しかし、今は我慢だ)
楽しみは後に取っておけば取っておくほど大きく、嬉しく、満たされるものだ。
欲望が解放されるまであと少しだけ待てばいいのだから。
そうアウグストは自分に言い聞かせた。
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