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わからない事があるのですが

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「君には知る権利があるからね。詳細を話すよ。」

「は、はい。よろしくお願いします。」
 

 殿下は事情説明を始めた。
一体、どんな話が飛び出て来るのか。自然に身構えてしまう。

 
「知っての通り、我が国と帝国は国交を断絶している。
 そして私の父は帝国の覇権主義に対抗する周辺諸国の盟主となっている。
 この事は知っているだろうか?」

「もちろんです。」

「帝国はこちら側の結束の混乱を狙って父の暗殺を目論んでいる。」

「……。」

「無論、そんな暴挙を許す訳にはいかないし容易にそんな事もさせない。
 だからあちらとしては次善の策を取ったんだろうな。
 つまり、私の暗殺だ。
 国王と王太子とではその機会の多さがまるで違う。」

 
 自分の事なのに殿下は淡々と語った。
これがいずれ国を背負う者の気概なのだろうか。


「決して無駄な事ではない。私には兄弟が居ないからね。
 私が居なくなれば、高齢の父亡き後この国は跡目争いで乱れてしまうだろう。
 もちろん対帝国包囲網の維持にも支障が出るのは間違いない。」

「……。」

「そして狩猟祭に乗じて私を暗殺しようとした訳だ。
 上級魔獣の攻撃が続いていたとしたらあの警備ではさすがに足りなかった。
 かなり叱られたよ、父には。自分の安全を甘く見積もりおって、とね。」

「そんな事は……。」

「いや、その通りだ。実際王都の近くで毎年行う学内行事としか思っていなかった。
 油断があった。」


 でも寧ろ例年よりは護衛は多くしていた筈だ。
勿論、今回の事を予想していた訳ではなくて偶々だったけど。


「なにせ森の方では尋常でない数の魔獣が現れていたのでね。
 正直、かなり危なかった。
 しかしあの光に包まれた途端に負傷者も重傷者も瞬時に回復、いや
 そうなれば数が多かろうが最終的には勝てる。不死身の様なものなのだから。
 まさに奇跡さ。」

 
 森の方の出来事は詳しく知らなかったけど、そんな感じだったのね。
本当に危なかったんだ……。


「しかし、事前に地中に潜ませていた魔獣も位置に誤差があった様だな。
 機を見たイェレナの合図で全ての魔獣は私のいる森に出て来る筈だったのに
 数匹違う場所に出た。君が片付けたのだが。」

「……。」

「私の暗殺は失敗した。すると彼女とその背後に居る連中は目的を変えた。
 聖女になって次期国王の婚約者になる方が寧ろ好都合だ、とね。」

「だからイェレナ様は聖女を偽った?」

「そうだ。偶々それが出来る状況だったからね。
 髪を染めて聖女を騙った。」


 そこまで語ると殿下は紅茶を一口啜った。
私は腑に落ちない所があったので質問する事にした。


「一つわからない事があるのですが。」

「何かな?」

「なぜ、彼女が聖女ではないと思ったのですか?」


 殿下の話だと初めからイェレナ様は聖女でないと確信していたとしか思えない。


「当然だろう。本物きみが既に居るのだから他は偽物に決まっている。」

「!」

「聖女かはともかく奇跡を起こしたのが君だという事は状況的に予想されていた。
 マルセルも言っていただろう? 聖女候補に関しての証言を精査した、と。」

「……。」

「他にもその可能性がある人物は数人いたけどすぐに否定された。
 君が聖女だという事を確信させる調査だったよ。
 光が発生したと証言した者が複数いるんだ。」

「……。」

「イェレナに関して補足だが、聖女候補になりうる者は彼女以外皆貴族だった。
 平民は貴族と違って家族を貴族名簿に登録されていないから身分を偽りやすい。
 わかりやすい者が結果的に一番怪しかったという訳だ。」


 つまり、聖女に関しては初めからほぼ私だと結論が出ていたという事か。
偽の聖女候補が出たので色々と調べたら魔獣の件と関係があったという訳だった。


「……君には言っていなかったが、私は以前から聖女伝説に強い興味があった。
 だから確信したんだ。私の危機を救ってくれたのは聖女だとね。」

 
 そう言った後で殿下は私の顔を真剣なまなざしで見つめた。
優しい笑みを浮かべた普段の顔ではなかった。


「私は君に感情を持っている。」

「で、でもそれは……。」


 結果的にそうなっただけだ。
あの時はただ目の前のブリット様を救う事しか考えていなかった。
光のドームを自分が生み出したとも確信出来ない。証言があっても。


「君はどうだろうか? 
 この数か月、出会ってから共にした時間は短くともお互いの人柄を分かり合えた
 気はするのだが。」


 その顔で、そういう真剣な表情で私を見つめるのは卑怯です。
 
 胸がどうしようもなく高鳴ってきた。
落ち着け。私にとって現実的な話ではない。
ドキドキとうるさく撥ねる胸の鼓動を無視して何とか言葉を口から出す。


「……殿下。」

「ん?」

「私は、聖女では……ありません。」


 何とかそう言った私の言葉に、殿下は少し寂しそうな表情を見せた様な気がした。
私の思い上がりだろうか。


「……そうかい? 今日の所はこれ以上何も言わない様にするよ。
 別に話すべき事があるから。」
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