冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり

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どいつもこいつも

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 私は生徒会室を出ると足早に歩き始めた。
何となく一刻も早くあの場から遠ざかりたい気がしたのだ。

 不味い。非常に不味い気がする。
偶然だと思うが聖女の条件に自分が微妙に当てはまる気がしなくも無い。
このままいくと下手したら私の将来は決まってしまう。
万が一私が聖女とやらに認定される事を考えると背筋が寒くなる。
殿下には申し訳ないが私の未来予想図に王太子妃という選択肢は全く無かった。

 虐待令嬢からやがて王妃になりましたなんて話は他人事だから面白く聞けるのだ。
自分の身に置き換えたら楽しい毎日など全く想像が出来ない。
お花畑の幼女じゃないのだ。
地獄の詰め込み妃教育と万事がんじがらめで窮屈な毎日が待っているに違いない。 

 絶対そうだ。逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ、いや逆だ。
逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ逃げなきゃ駄目だ。
そんなことを考えつつ廊下の曲がり角に差し掛かると誰かと当たりそうになった。
何やら諍い中の二人の様だった。


「ちょっと待って! フーゴ様!」

「ええい離してくれ!」

「あっ!」


 何とか激突寸前で避ける。しかしそこで私達三人は固まっていた。
最も会いたくない人間リストで不動のツートップが私の目の前に居た。 


「「「……。」」」

 
 三人とも固まる。一番早く再起動したのはフーゴだった。


「フリーダ……?」

「……っ」

「……。」

「驚いた。偶然だな、フリーダ。」

「フーゴ様!」

「……。」

「調子はどうだ? 大分健康そうな見た目になったな。」

「フーゴ様ってば!」

「……。」


 フーゴはどうやらドロテアに絡まれていた所を振り払っていた様だった。
婚約者同士の痴話喧嘩だろうか。
いずれにしろ特に課外活動をしている訳ではないこの二人がこの時間まで学園に居る事は珍しい。
私にはどうでもいい事だったが。


「フリーダ?」

「フーゴ様!」

「黙っていてくれ! 君は!」


 ドロテアを怒鳴ってからフーゴが私に向き合った。
どうでもいいので無視して歩き出そうとすると手を摑まれる。
私は掴まれた自分の手を見た後でフーゴの顔をまじまじと見返した。


「久しぶり、フリーダ。」

「……。」

「見違えたよ。ずいぶん健康そうになったな。」

「……。」

「……なぜ黙っている?」

「……馴れ馴れしく話しかけるなと言われたので。」

「……。」
 

 今度はフーゴの方が黙った。
別に嫌味のつもりは無い。相手が望んだ対応をしているだけである。
フーゴは手を放して私を見つめた。


「すまなかった。あれは忘れてくれ。実は君に話があって待っていた。」

「……話?」

「ああ。この前の狩猟祭で奇跡が起きただろう?
 あの時森の中で負傷していた学生の中に私もいてね。」

「……。」

「いきなり出現した上級魔獣にやられてしまって私は死を覚悟した。
 その時、あの奇跡が起きたんだ。
 私の他にも傷ついた者がいたが気が付いたら皆負傷箇所が跡形も無くなって
 いた……。」

「……。」

「あの時は何が起こったのかは誰も理解出来ていなかった。
 しかしあの後分かったんだ。今話題になっているだろう?
 あの奇跡は聖女が起こした事なんじゃないかと。」

「……。」

「聞けば、あの時君はブリット嬢を救ったそうだな。
 そして今は聖女候補の中では最有力の一人と目されていると聞く。」


 やはり、そういう事になっているのか。
同級生に親しい友人が居なくて話題の輪に入っていない私には初めて聞く情報だ。


「私は気が付いたんだ。君に何て愚かな事をしたのかと。
 私の真に愛する女性は君だったんじゃないか、とね……。」

「!?」

「フーゴ様!?」


 私とドロテアが同時に驚愕した。
ちょっと待て。何を言っているんだこの馬鹿は。
目の前の恥知らずな顔面に魔獣を屠った正拳突きを放ちたい衝動を懸命に抑えつつ
何とか言葉を吐き出した。


「何を言われているのか意味不明なんですが……。」

「今、言った通りさ。もう一度婚約しよう、フリーダ!
 君こそが私の婚約者なんだ!」

「フーゴ様、そんな! 私はどうなるのですか!」


 どうやらフーゴは自分の婚約者をゾンビ令嬢から聖女候補に再変更する事に決めた
様だった。もちろん私がそんな一方的な決定に従う義務はない。
人生で最も人を殺してやりたい瞬間が多分今なんだろうな……。
聖女候補に全くふさわしくない考えを抱きつつ私は冷めた口調で言った。


「戯言に付き合う暇はないので婚約者と宜しくやって下さい。では失礼。」

「な、何? 待ってくれ、おい! フリーダ!」

「フーゴ様、行かないで!」


 フーゴに縋るドロテアにこの場は任せて私は立ち去った。
立ち去る瞬間にフーゴの哀れっぽい必死な表情とドロテアの私に対する殺人的な眼力を目撃してしまった。

 ええい、全く! どいつもこいつも!
私の周りに居る男達は高確率でどこか普通じゃない感性の持ち主ばかりの様だ。
聖女だか何だかの噂から一刻も早く抜け出して自立する道を見つけ、窮屈な生活からおさらばしないと。
そして普通の男性と恋愛結婚するんだ。
そういう考えを強くした一日だった。
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