9 / 27
利己的な医療行為
しおりを挟む
学園の休日に私は外出した。
無論お供などはいない。というより振り切って来た。
父達は最近通学にも私を馬車に乗せようとしていたが今更だと思う。
貴族の娘にとって決められた所以外を歩く機会など通常あまりない。
あったとしてもせいぜいお供付きで貴族街・繁華街・学園・王城くらいである。
だが、今のフリーダの中身は私で妖精のリオも一緒に居る。
リオ曰く多少の荒事なんて魔法で撃退するから問題ないと言っているから頼もしい。
食い意地から街に来て馬車に轢かれた事があるのが気になるけど。
『色々考えた結果だけど我ながら不純よね。』
『何が?』
『だって結局利己的な気持ちからくる行動だから。』
『別にいいだろ。それで救われる人もいるんだから。』
『まあ、それはそうなんだけど。』
そうこう会話をしているとやがて目的地が見えて来た。教会である。
ここへ出向く事にしたのは自分の医療能力の確認の為だ。
教会の活動にはお布施をもらって治療行為をする事も含まれる。
つまり病院の様な役割も担っていた。
たくさん患者も来るだろうから実践の機会も増えると思った訳だ。
「すみません。私はフリーダ・フォン・ディーツェと申します。
こちらの責任者の方はいらっしゃいますでしょうか。」
「ディーツェというと……侯爵家の方で?
私が司教のウッツです。一体どの様なご用件でしょうか?」
「はい。突然ですが私、多少回復魔法を使えまして。
この能力を伸ばしたいと思っているんです。
それで少しご相談に乗っていただけないかと思いまして。」
私の話を聞こうとウッツ司祭が礼拝堂の奥の応接室に通してくれた。
へー、こんな所あるんだ。
苦しい時にしか来ないんだから我ながら不信心にも程があるよね。
「……なるほど、ではお嬢様は将来治療術師として身を立てたいと。」
「ええ、まあ。少し訳がありまして。
知識と経験を手に入れたくとも、私には身分で使えるコネが無かったのです。」
司教はお供も連れないで一人でここに来た私に何か察した様子だった。
賃金はいらないのでしばらく手伝わせてもらえないかと頼んだ私を見て返事をする。
「わかりました。治療術師は何人いてもありがたいものです。
金銭的な報酬は出せない代わりに私で出来る範囲で回復魔法を指導しましょう。」
「ありがとうございます!」
「とりあえずフリーダ様の回復魔法の腕を見極めないといけませんね。
その力次第で私から教えられる事も変わってくるでしょう。」
その後、協会に併設されている医療院に連れてこられた。
診察室と簡易的なベッドがあってその間を治療術師達が回っていた。
司祭に治療術師の一人を紹介されて簡単な治療の実践に入ろうとすると緊急の患者が
教会にやって来た。
運び込まれた人は簡易的な治療というレベルの怪我ではなかった。
肘から先の腕が無い。そして内臓を酷く傷つけられたのか虫の息であった。
連れてきた人が言うには、この人物は交易商人との事だった。
元々剣が使えたので近くの街への護衛料を惜しんで魔獣に襲われたらしい。
王都からさほど遠くない場所だった事が幸いした様だ。
「これはいかん。早速手伝っていただけますか?」
「はい!」
内臓の傷を治すのが先なのでベテランの治療術師がそちらを。
私は腕の傷を塞ぐ方を担当する。
魔法があれば止血くらいならと思って患部と向き合った。
しかし、人体の断面という傷口を見ると思った以上にグロテスクだった。
私は武道はやっていたが医療はからきしである。
傷を塞ぐというイメージでやってみたが中々うまくいかない。
内心、焦っているとリオの声が脳内に響いた。
『何しているんだ。とっとと直してやれよ。』
『やってるわよっ!』
『じゃ、何で手間取ってんだ。』
『何でって、傷を塞いでから……』
『余計な事考えてねえか?
単純に俺の時みたいに治れって念じて魔力を注ぎゃいいだろ。』
『え?』
『大体お前、俺を治した時だって細かい事考えてなかったろ。』
『……確かに。』
頭を空っぽにしてぼんやりと回復する事だけを願い魔力を注ぐ。
すると傷口に変化が起きた。自分の時やリオの時みたいに逆再生が始まる。
流れた血が戻って消えたはずの肘から先の肉が上腕から生えてきた。
戻りようがない欠損部分は生えて来るんだ。
そんな事を漠然と考えながら傷口を見つめて魔力を注ぐ。
血管や筋肉が再生していく様がじっくりと見えてしまう。
間近で見ると気持ち悪い……。
そんな考えで申し訳ないが吐き気を感じ、しかめっ面のまま癒し続ける。
だが治療術師の人とウッツ司祭は目を飛び出さん限りに見開いて驚いていた。
「な、何という……。」
「す、凄い……こんな治り方初めて見た。」
後で知った事だが、こういうレベルの負傷の場合傷口を塞いで命を繋ぐというのが
この世界の標準治療だった様だ。
私の様に腕そのものをまるまる再生するのは司祭も見た事が無かったらしい。
しかしそんなことを知らない私は一生懸命に念じつつ魔力を送っていた。
無論お供などはいない。というより振り切って来た。
父達は最近通学にも私を馬車に乗せようとしていたが今更だと思う。
貴族の娘にとって決められた所以外を歩く機会など通常あまりない。
あったとしてもせいぜいお供付きで貴族街・繁華街・学園・王城くらいである。
だが、今のフリーダの中身は私で妖精のリオも一緒に居る。
リオ曰く多少の荒事なんて魔法で撃退するから問題ないと言っているから頼もしい。
食い意地から街に来て馬車に轢かれた事があるのが気になるけど。
『色々考えた結果だけど我ながら不純よね。』
『何が?』
『だって結局利己的な気持ちからくる行動だから。』
『別にいいだろ。それで救われる人もいるんだから。』
『まあ、それはそうなんだけど。』
そうこう会話をしているとやがて目的地が見えて来た。教会である。
ここへ出向く事にしたのは自分の医療能力の確認の為だ。
教会の活動にはお布施をもらって治療行為をする事も含まれる。
つまり病院の様な役割も担っていた。
たくさん患者も来るだろうから実践の機会も増えると思った訳だ。
「すみません。私はフリーダ・フォン・ディーツェと申します。
こちらの責任者の方はいらっしゃいますでしょうか。」
「ディーツェというと……侯爵家の方で?
私が司教のウッツです。一体どの様なご用件でしょうか?」
「はい。突然ですが私、多少回復魔法を使えまして。
この能力を伸ばしたいと思っているんです。
それで少しご相談に乗っていただけないかと思いまして。」
私の話を聞こうとウッツ司祭が礼拝堂の奥の応接室に通してくれた。
へー、こんな所あるんだ。
苦しい時にしか来ないんだから我ながら不信心にも程があるよね。
「……なるほど、ではお嬢様は将来治療術師として身を立てたいと。」
「ええ、まあ。少し訳がありまして。
知識と経験を手に入れたくとも、私には身分で使えるコネが無かったのです。」
司教はお供も連れないで一人でここに来た私に何か察した様子だった。
賃金はいらないのでしばらく手伝わせてもらえないかと頼んだ私を見て返事をする。
「わかりました。治療術師は何人いてもありがたいものです。
金銭的な報酬は出せない代わりに私で出来る範囲で回復魔法を指導しましょう。」
「ありがとうございます!」
「とりあえずフリーダ様の回復魔法の腕を見極めないといけませんね。
その力次第で私から教えられる事も変わってくるでしょう。」
その後、協会に併設されている医療院に連れてこられた。
診察室と簡易的なベッドがあってその間を治療術師達が回っていた。
司祭に治療術師の一人を紹介されて簡単な治療の実践に入ろうとすると緊急の患者が
教会にやって来た。
運び込まれた人は簡易的な治療というレベルの怪我ではなかった。
肘から先の腕が無い。そして内臓を酷く傷つけられたのか虫の息であった。
連れてきた人が言うには、この人物は交易商人との事だった。
元々剣が使えたので近くの街への護衛料を惜しんで魔獣に襲われたらしい。
王都からさほど遠くない場所だった事が幸いした様だ。
「これはいかん。早速手伝っていただけますか?」
「はい!」
内臓の傷を治すのが先なのでベテランの治療術師がそちらを。
私は腕の傷を塞ぐ方を担当する。
魔法があれば止血くらいならと思って患部と向き合った。
しかし、人体の断面という傷口を見ると思った以上にグロテスクだった。
私は武道はやっていたが医療はからきしである。
傷を塞ぐというイメージでやってみたが中々うまくいかない。
内心、焦っているとリオの声が脳内に響いた。
『何しているんだ。とっとと直してやれよ。』
『やってるわよっ!』
『じゃ、何で手間取ってんだ。』
『何でって、傷を塞いでから……』
『余計な事考えてねえか?
単純に俺の時みたいに治れって念じて魔力を注ぎゃいいだろ。』
『え?』
『大体お前、俺を治した時だって細かい事考えてなかったろ。』
『……確かに。』
頭を空っぽにしてぼんやりと回復する事だけを願い魔力を注ぐ。
すると傷口に変化が起きた。自分の時やリオの時みたいに逆再生が始まる。
流れた血が戻って消えたはずの肘から先の肉が上腕から生えてきた。
戻りようがない欠損部分は生えて来るんだ。
そんな事を漠然と考えながら傷口を見つめて魔力を注ぐ。
血管や筋肉が再生していく様がじっくりと見えてしまう。
間近で見ると気持ち悪い……。
そんな考えで申し訳ないが吐き気を感じ、しかめっ面のまま癒し続ける。
だが治療術師の人とウッツ司祭は目を飛び出さん限りに見開いて驚いていた。
「な、何という……。」
「す、凄い……こんな治り方初めて見た。」
後で知った事だが、こういうレベルの負傷の場合傷口を塞いで命を繋ぐというのが
この世界の標準治療だった様だ。
私の様に腕そのものをまるまる再生するのは司祭も見た事が無かったらしい。
しかしそんなことを知らない私は一生懸命に念じつつ魔力を送っていた。
72
お気に入りに追加
1,270
あなたにおすすめの小説
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!


異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)
深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。
そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。
この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。
聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。
ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。
このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる