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その手があったか

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 ケット・シーのリオを拾ってから私は独りぼっちではなくなった。
といっても、見かけ上はやはりぼっちだったけど。
リオとの会話は口に出さないでも出来るからありがたい。
声に出して会話していたら地に落ちた評判が地にところではある。
とにかく、リオとは毎日行動を共にする事になった。

 学園において私は妹を虐める酷い姉という事にされているがそれは妹の行動
だけによる物では無い。
侯爵家である妹の威光?に縋る下級貴族の取り巻きが協力者になっているのだ。

 彼女達は陰に日向に私に対しての陰湿ないじめを繰り返していた。
それは私に対するネガティブキャンペーンだけではない。
足を引っかけて転ばす。水を引っかけるなどの幼稚な事まで様々だ。
普通、そんな目にあう人間が妹に対して虐めっ子である訳ないと思われるだろう。
だがそんな印象は彼女達の流した噂次第でいくらでも変わる。
曰く、恥かきの姉は家に帰ったら妹に対して暴君になるといったイメージである。

 しかし、ここ最近は私への虐めも無くなってきていた。
リオのおかげで事前に危機察知が出来るからだ。
ぼっちな事を除けば最近の私の学園生活は以前と比べて穏やかなモノだ。

 私としてはこれでも満足だったがリオは別な面で不満足であるらしかった。
食生活が大して改善されていないからである。
家での朝食と夕食は決してまずい物ではなくなっていたが豪華な物でもない。
何より私が学園でとる昼食はパンとスープだけ。
大いに目算が外れたとでも思っているのだろう。
 
 今なら普通のメニューを取っても文句は言われないと思うがもう少し我慢する。
もちろんこちらから義母に対する嫌味である。
私の背後に殿下を意識して大いにプレッシャーを感じているだろう。

 リオはそんな私に今日の昼休みも文句を言って来た。


『なあ、せめて家での食事みたいな物は食えないのか?』

『だから言ったでしょう。今からでも遅くないから別の人の所に行ったら?』

『話せないから意味が無い。』

『あなた、私とこうして会話しているじゃない』

『お前の高い魔力が精神波長を合わせて俺の言葉を読み取っているんだ。
 そもそもお前以外の人間と会話した事が無い。』

『えー……どういう事?』

『お前以上に魔力が高い人間はそう居ないって事だ。』

『へえ。』


 転生につきものの魔力量ボーナスと異世界同時翻訳機能かな……?
まあ確かにそういう事ならリオが他の人間の元に行くメリットはないだろう。
何とか私にいい食事をとらせておこぼれにあずかる方がいいに決まっている。


『しかし、先立つものが無いのよ。お金がね。
 あれば自由に買い食いぐらいさせてあげるんだけど。』

『じゃあ、金を稼ごうぜ。』

『そんな簡単にいかないわ。大体何をどうして稼げばいいの。』


 一応これでも身分上は上級貴族の娘である。
そんな人間がアルバイトなんて聞いた事も無い。
異世界知識チートをやろうにもまず自由にふるまえる環境を整えるのが先だ。
自分に対する理解者も協力者も居なければ家の環境も依然悪い事には変わりない。
とにかく、何をやるにしても環境がまだ全然整っていない。


『あてはあるぞ。』

『何?』

『怪我人を治療して金を稼ぐってのはどうだ?』

『えぇ、治療? 私にはそんな知識は……。』


 無いわよ。そう言いかけて思い出した。
リオと出会った時の事を。
すっかり忘れていたが私はあの時確かに傷ついていたリオを癒したのだ。


『お前、俺の酷い怪我だってあっさり直しただろ?
 普通は人間が妖精の怪我なんて直せない筈なんだぜ?』

『そうなんだ。』

『ああ。だからお前なら医者の真似事くらい出来るんじゃねえの?』

『なるほど……その手があったか。』


 確かに魔法で何でもいい感じに治療できるなら知識はいらない。
私が貴族の娘としてとりあえず今の生活にしがみつかざるを得ないのは手に職が無いからだ。
こんな世界でいきなり貴族の小娘が何の後ろ盾も無く一人生きていけるはずもない。
しかしこの不思議な能力を利用できれば道が開けるかも……。
早速、調べてみよう。
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