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女侯爵の足掻き
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「記憶が無い?」
「ええ、全く。」
「しかし記憶が無い事を証明する事は出来ないんじゃないか?」
「私が嘘をついているとお思いですか?」
「そうではないと?」
「はい。それにあの時の奇跡を起こしたのも私ではないのです。」
「……本当に今更だね。なら誰がやったというのかな?」
「この子です。」
そう言って私は手すりに居る妖精を指さした。
「リオが?」
「はい。今軽めに証明して見せますわ。」
実は私はリオと前もって仕掛けを準備していた。
それを実行する時が来た。
『リオ、お願い!』
『分かった。約束のステーキ10人前、忘れるなよ。』
殿下の見ている前でリオを中心に光のドームが広がった。
実は何の効果も無い。
光学迷彩が得意なら光魔法も可能ではと思い、リオに以前からそれらしく見える魔法を準備してもらっていたのだ。
光は会場内にも広がっていき、そこに居る全員が声を上げて驚く。
「これは……。」
「ご覧頂けましたか? 全てこの子の起こした奇跡だったのですわ。」
「……聖獣だからという事では?」
ぐっ……そう来たか。
しかしここで挫ける訳にはいかない。
「いえ、単純に妖精の力で……。」
「妖精だから魔力が高い。あの時の奇跡はリオが起こしたものだ、と。」
「その通りですわ。」
「確かにリオだけでこれが出来るとは思わなかったよ。あの場に君と居たしね。」
加えて前世の記憶がないから聖女ではない、か。」
「私はただの人間です。……殿下の婚約者にもふさわしくありません。
大恩ある殿下にずっと黙っていてすみませんでした。」
しおらしく謝罪する私を見て殿下は少し目を伏せた。
よし、成功?
聖女でなければ殿下が私に執着する大きい要因が無くなる。
殿下は少し考える様に間を置いてから近くにいたボーイを呼んだ。
そしてグラスを受け取ると私にも一つ勧めた。
「……君はもう成人しているし、飲めるかな?」
「……ありがとうございます。」
転生以来、私はお酒を飲まない様にしていた。
変な言い方だが転生を機に健康を心がける様にしていたからだ。
しかし、今日くらいはいいだろう。
ささやかに乾杯をして口を付ける。美味しい!
「そうだろう? このワインは口当たりがいい。」
アルコールが体に流れ込んでくる感覚を久々に思い出した。
フリーダの体にとって新鮮だからだろうか。気のせいか酔いが早い。
「ところでディーツェ領はどんな感じかな。」
父達が追放されてから今まで、王家預かりだったのだから知らないはずがない。
しかし私が侯爵位を継ぐまで滞りなく領地運営を協力してくれていたのだ。
スポンサーには敬意を示さなければならない。
「とてもいい感じですわ。陛下や殿下の管理のおかげをもちまして。」
「それは良かった。」
「色々と領地に移ったらやりたい事は考えておりますの。」
「ほう。どんな?」
殿下が私に次のグラスを勧める。結婚の話から話題が次第に遠ざかる。
私は気が軽くなって領地に行った時の新たな起業についての構想を嬉々と語った。
殿下は私の話を丁寧に相槌を打って聞いてくれている。
将来の国王なら優れた女性だって選り取りみどりだろう。
それなのに私ごときに結婚を申し込んでくれた。
……でも、ごめんなさい。私には荷が重いんです。
私以外に殿下にふさわしい女性は沢山いる筈です。
私は女侯爵として自領に戻り領地経営をして生きていく。
ディーツェ領に行けば私はその中では王様だ。
本当のフリーダの供養をしつつ、堅実に仕事をして自由に生きてゆくと決めたのだ。
「領地経営は色々と大変だろうね。」
「大丈夫です。経営学部出身ですし。」
「なるほど。高等教育のたまものだね。」
「ええ、まあ大学では……。」
酒が入ると口が軽くなるから注意。
やらかした後でそんな教訓は全く意味が無い。
殿下はやさしく微笑んでいる。
しかし目が笑っていない。怖い。
「大学、か。」
「……。」
急激に私の体内から酔いが抜けた。
……アルコールってこんなに早く分解されるのかしら?
「経営学部、ね。……君はいつそんな所に行ったのかな?
大学っていう言葉は僕も聞いた事が無いなぁ。」
「……。」
「君は前も不思議な事を言ったよね。計算の速さに皆驚いていた。
あの時、君は「そろばん」という一言を漏らしたんだ。」
「……。」
「あれは異世界の知識の一つなんだろう?
とっさに変な言い訳をしてごまかしていたが。」
「いえ、あれはですね……。」
「王族を謀った者は死罪だよ。僕は君を死刑にしたくはない。」
嘘つけ! そんなヤバい国だったら誰も居なくなってるでしょうが!
そう言いたかったが、この件だけは例外の様だ。
死刑は無くても監禁される気がビンビンする。とても嘘をつきとおす自信が無い。
詰んだ。それも油断した自分の間抜けなミスで。
女侯爵の悪足掻きは見事に失敗に終わった。
「……何か申し開きはあるかな?」
何なんだ、この追い詰められた犯人感。
「ええ、全く。」
「しかし記憶が無い事を証明する事は出来ないんじゃないか?」
「私が嘘をついているとお思いですか?」
「そうではないと?」
「はい。それにあの時の奇跡を起こしたのも私ではないのです。」
「……本当に今更だね。なら誰がやったというのかな?」
「この子です。」
そう言って私は手すりに居る妖精を指さした。
「リオが?」
「はい。今軽めに証明して見せますわ。」
実は私はリオと前もって仕掛けを準備していた。
それを実行する時が来た。
『リオ、お願い!』
『分かった。約束のステーキ10人前、忘れるなよ。』
殿下の見ている前でリオを中心に光のドームが広がった。
実は何の効果も無い。
光学迷彩が得意なら光魔法も可能ではと思い、リオに以前からそれらしく見える魔法を準備してもらっていたのだ。
光は会場内にも広がっていき、そこに居る全員が声を上げて驚く。
「これは……。」
「ご覧頂けましたか? 全てこの子の起こした奇跡だったのですわ。」
「……聖獣だからという事では?」
ぐっ……そう来たか。
しかしここで挫ける訳にはいかない。
「いえ、単純に妖精の力で……。」
「妖精だから魔力が高い。あの時の奇跡はリオが起こしたものだ、と。」
「その通りですわ。」
「確かにリオだけでこれが出来るとは思わなかったよ。あの場に君と居たしね。」
加えて前世の記憶がないから聖女ではない、か。」
「私はただの人間です。……殿下の婚約者にもふさわしくありません。
大恩ある殿下にずっと黙っていてすみませんでした。」
しおらしく謝罪する私を見て殿下は少し目を伏せた。
よし、成功?
聖女でなければ殿下が私に執着する大きい要因が無くなる。
殿下は少し考える様に間を置いてから近くにいたボーイを呼んだ。
そしてグラスを受け取ると私にも一つ勧めた。
「……君はもう成人しているし、飲めるかな?」
「……ありがとうございます。」
転生以来、私はお酒を飲まない様にしていた。
変な言い方だが転生を機に健康を心がける様にしていたからだ。
しかし、今日くらいはいいだろう。
ささやかに乾杯をして口を付ける。美味しい!
「そうだろう? このワインは口当たりがいい。」
アルコールが体に流れ込んでくる感覚を久々に思い出した。
フリーダの体にとって新鮮だからだろうか。気のせいか酔いが早い。
「ところでディーツェ領はどんな感じかな。」
父達が追放されてから今まで、王家預かりだったのだから知らないはずがない。
しかし私が侯爵位を継ぐまで滞りなく領地運営を協力してくれていたのだ。
スポンサーには敬意を示さなければならない。
「とてもいい感じですわ。陛下や殿下の管理のおかげをもちまして。」
「それは良かった。」
「色々と領地に移ったらやりたい事は考えておりますの。」
「ほう。どんな?」
殿下が私に次のグラスを勧める。結婚の話から話題が次第に遠ざかる。
私は気が軽くなって領地に行った時の新たな起業についての構想を嬉々と語った。
殿下は私の話を丁寧に相槌を打って聞いてくれている。
将来の国王なら優れた女性だって選り取りみどりだろう。
それなのに私ごときに結婚を申し込んでくれた。
……でも、ごめんなさい。私には荷が重いんです。
私以外に殿下にふさわしい女性は沢山いる筈です。
私は女侯爵として自領に戻り領地経営をして生きていく。
ディーツェ領に行けば私はその中では王様だ。
本当のフリーダの供養をしつつ、堅実に仕事をして自由に生きてゆくと決めたのだ。
「領地経営は色々と大変だろうね。」
「大丈夫です。経営学部出身ですし。」
「なるほど。高等教育のたまものだね。」
「ええ、まあ大学では……。」
酒が入ると口が軽くなるから注意。
やらかした後でそんな教訓は全く意味が無い。
殿下はやさしく微笑んでいる。
しかし目が笑っていない。怖い。
「大学、か。」
「……。」
急激に私の体内から酔いが抜けた。
……アルコールってこんなに早く分解されるのかしら?
「経営学部、ね。……君はいつそんな所に行ったのかな?
大学っていう言葉は僕も聞いた事が無いなぁ。」
「……。」
「君は前も不思議な事を言ったよね。計算の速さに皆驚いていた。
あの時、君は「そろばん」という一言を漏らしたんだ。」
「……。」
「あれは異世界の知識の一つなんだろう?
とっさに変な言い訳をしてごまかしていたが。」
「いえ、あれはですね……。」
「王族を謀った者は死罪だよ。僕は君を死刑にしたくはない。」
嘘つけ! そんなヤバい国だったら誰も居なくなってるでしょうが!
そう言いたかったが、この件だけは例外の様だ。
死刑は無くても監禁される気がビンビンする。とても嘘をつきとおす自信が無い。
詰んだ。それも油断した自分の間抜けなミスで。
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