上 下
25 / 27

女侯爵の足掻き

しおりを挟む
「記憶が無い?」

「ええ、全く。」

「しかし記憶が無い事を証明する事は出来ないんじゃないか?」

「私が嘘をついているとお思いですか?」

「そうではないと?」

「はい。それにあの時の奇跡を起こしたのも私ではないのです。」

「……本当に今更だね。なら誰がやったというのかな?」

「この子です。」


 そう言って私は手すりに居る妖精を指さした。


「リオが?」

「はい。今証明して見せますわ。」


 実は私はリオと前もって仕掛けを準備していた。
それを実行する時が来た。


『リオ、お願い!』

『分かった。約束のステーキ10人前、忘れるなよ。』


 殿下の見ている前でリオを中心に光のドームが広がった。
実は何の効果も無い。
光学迷彩が得意なら光魔法も可能ではと思い、リオに以前からそれらしく見える魔法を準備してもらっていたのだ。
光は会場内にも広がっていき、そこに居る全員が声を上げて驚く。


「これは……。」

「ご覧頂けましたか? 全てこの子の起こした奇跡だったのですわ。」

「……だからという事では?」


 ぐっ……そう来たか。
しかしここで挫ける訳にはいかない。

「いえ、単純に妖精の力で……。」

「妖精だから魔力が高い。あの時の奇跡はリオが起こしたものだ、と。」

「その通りですわ。」

「確かにリオだけでこれが出来るとは思わなかったよ。あの場に君と居たしね。」
 加えて前世の記憶がないから聖女ではない、か。」

「私はただの人間です。……殿下の婚約者にもふさわしくありません。
 大恩ある殿下にずっと黙っていてすみませんでした。」


 しおらしく謝罪する私を見て殿下は少し目を伏せた。
よし、成功? 
聖女でなければ殿下が私に執着する大きい要因が無くなる。

 殿下は少し考える様に間を置いてから近くにいたボーイを呼んだ。
そしてグラスを受け取ると私にも一つ勧めた。


「……君はもう成人しているし、飲めるかな?」

「……ありがとうございます。」


 転生以来、私はお酒を飲まない様にしていた。
変な言い方だが転生を機に健康を心がける様にしていたからだ。
しかし、今日くらいはいいだろう。
ささやかに乾杯をして口を付ける。美味しい!
 

「そうだろう? このワインは口当たりがいい。」

 
 アルコールが体に流れ込んでくる感覚を久々に思い出した。
フリーダの体にとって新鮮だからだろうか。気のせいか酔いが早い。


「ところでディーツェ領はどんな感じかな。」


 父達が追放されてから今まで、王家預かりだったのだから知らないはずがない。
しかし私が侯爵位を継ぐまで滞りなく領地運営を協力してくれていたのだ。
スポンサーには敬意を示さなければならない。


「とてもいい感じですわ。陛下や殿下の管理のおかげをもちまして。」

「それは良かった。」

「色々と領地に移ったらやりたい事は考えておりますの。」

「ほう。どんな?」


 殿下が私に次のグラスを勧める。結婚の話から話題が次第に遠ざかる。
私は気が軽くなって領地に行った時の新たな起業についての構想を嬉々と語った。
殿下は私の話を丁寧に相槌を打って聞いてくれている。

 将来の国王なら優れた女性だって選り取りみどりだろう。
それなのに私ごときに結婚を申し込んでくれた。
……でも、ごめんなさい。私には荷が重いんです。
私以外に殿下にふさわしい女性は沢山いる筈です。
 
 私は女侯爵として自領に戻り領地経営をして生きていく。
ディーツェ領に行けば私はその中では王様だ。
本当のフリーダの供養をしつつ、堅実に仕事をして自由に生きてゆくと決めたのだ。


「領地経営は色々と大変だろうね。」

「大丈夫です。経営学部出身ですし。」

「なるほど。高等教育のたまものだね。」

「ええ、まあ大学では……。」


 酒が入ると口が軽くなるから注意。
やらかした後でそんな教訓は全く意味が無い。
殿下はやさしく微笑んでいる。
しかし目が笑っていない。怖い。


、か。」

「……。」


 急激に私の体内から酔いが抜けた。
……アルコールってこんなに早く分解されるのかしら?


、ね。……君はいつそんな所に行ったのかな?
 大学っていう言葉は僕も聞いた事が無いなぁ。」

「……。」

「君は前も不思議な事を言ったよね。計算の速さに皆驚いていた。
 あの時、君は「」という一言を漏らしたんだ。」

「……。」

「あれはの一つなんだろう?
 とっさに変な言い訳をしてごまかしていたが。」

「いえ、あれはですね……。」

「王族を謀った者は死罪だよ。僕は君を死刑にしたくはない。」


 嘘つけ! そんなヤバい国だったら誰も居なくなってるでしょうが!
そう言いたかったが、この件だけは例外の様だ。
死刑は無くても監禁される気がビンビンする。とても嘘をつきとおす自信が無い。

 詰んだ。それも油断した自分の間抜けなミスで。
女侯爵の悪足掻きは見事に失敗に終わった。


「……何か申し開きはあるかな?」


 何なんだ、この追い詰められた犯人感。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。 しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。 さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。 聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。 しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。 それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。 だがその後、王国は大きく傾くことになった。 フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。 さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。 これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。 しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。

無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました

天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。 伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。 無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。 そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。 無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

王太子に婚約破棄され奈落に落とされた伯爵令嬢は、実は聖女で聖獣に溺愛され奈落を開拓することになりました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】聖女様は聖くない

当麻リコ
恋愛
異世界から召喚された聖女に婚約者の心を奪われてしまったヨハンナ。 彼女は学園の卒業パーティーで王太子である婚約者から、婚約破棄を言い渡されてしまう。 彼の心はもう自分にはないと知ったヨハンナ。 何もかも諦め婚約破棄を受け入れることにしたヨハンナの代わりに、切れたのは何故か聖女であるカレンだった――。 ※短めのお話です。

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

処理中です...