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お散歩気分で登校

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 わが国では貴族の子女と優秀もしくは裕福な平民は王立学園に通う。
無論我が家も同様であるが私と妹が違う部分がある。
交通手段である。
妹は馬車、私は徒歩。勿論単なる嫌がらせだ。
ここまで徹底していると寧ろ感心する。

 だが転生した私にとっては弱った足腰の鍛錬になるから別に構わない。
記憶にある通学時間からして多分2キロも無いはずだ。
私はお散歩気分で登校した。

 久しぶりに王立学園へ登校すると私は注目を浴びた。悪い意味で。
妹に散々悪評をふりまかれている私は学園の中では鼻つまみ者である。
曰く、侯爵夫人に収まった後妻を恨んで私が義母と妹を虐めているという噂だ。
要するに真実とは全く逆である。

 まともに食事も与えられていないでガリガリにやせ細っている私の外見を見れば
どちらが真実か分かりそうなものだが、妹はそこをうまくすり替えている。
醜い外見の姉が美しい妹に嫉妬して虐めているという図式だ。
声が大きい恥知らずが正しい者としてまかり通るのはこの世界も変わらない様だった。


「おい、フリーダ!」

「フーゴ様……?」

「馴れ馴れしく呼ばないでもらおうか。
 先日言った通り、私と君の婚約は破棄されたのだからな。」


 なら、私に対しての呼び捨てはどうなっているのだろうか。
そう思っていると彼の陰からドロテアが出てきた。
いつもの通り姉にいびられておびえ気味な妹を演じているが、どうやら今日は若干
本気が混じっている。
昨日の脅しが効いている様だ。


「君は私に振られた腹いせにドロテアに襲い掛かって暴力を振るったそうだな!
 全く何という女だ。婚約破棄は正解だった。」

「あら、何を根拠にそんな事を云うのですか?」

「な、何?」

「あなたが言っている事には何の証拠もありませんでしょうに。
 そもそもこの弱々しい体でな妹を襲う事など出来ませんわ。」


 すました顔で私は答えた。
今まで嘘をつかれる立場ばかりだったから全く痛みを感じない。


「何をしらばっくれている!
 君は昨日ドロテアを蹴りつけたそうじゃないか! そうだろう、ドロテア!」

「え、ええ。私に向かって襲い掛かって来たのよ。」

「何度も言いますがそれはあなた方が一方的に言っている事。
 それが証拠なら妹の傷はどこにあるというのです?
 大体、根本的に間違っているのですよ。」

「間違いだと?」
 
「そうです。先程私が嫉妬して妹を襲ったと言いましたが婚約破棄は私の望む所。
 正式に婚約している関係にも拘らず妹に乗り換える様な恥知らずな男と婚約など
 寧ろこちらから願い下げです。」

「何だと……。」

「お互い不愉快な思いをしたくないでしょう?
 もう私に話しかけないで下さい。」


 私は今更自分の悪評を取り除くなど無駄な努力はしない。
今のフリーダである私は元々は自立した成人女性である。
そんな私にとって年下の無理解な子供達にいくら誤解されようと知った事ではない。
どうせ私はこの世界では文字通り異邦人だ。

 私が学園に来た目的は自分の生活の環境改善の為だ。
昨日考えた二つの内、まず一つは食事の事である。
ここの学園は基本、王国の税金と貴族の寄付で成り立っている。
食堂のメニューは豊富で、おいしく、しかも値段も手頃だ。
そしてパンとスープは基本お代わりし放題の無料なのである。

 亡くなってしまったこの体の本来の持ち主は誇り高き貴族令嬢だった。
たとえ家で満足に食事出来ないからと云ってここで恩恵をあさましく受けようとする
真似はしなかった。
彼女の無念さを思うと恥も外聞も捨てて逞しく生き延びて欲しかった。
尤も、彼女の精神が消滅しなければ私がここに居る事は無いので複雑ではあるが。

 誇り高き彼女に対して私はというと先祖代々単なる日本の農民である。多分。
腹の足しにもならない誇りよりも実利を選ぶ。
折角この世に生きているのなら意地汚くも生きてやる気が満々であった。

 そういう訳で連日学園に顔を出して遠慮なく無料のパンとスープを食いまくる。
所作こそ上品に食べてはいるもののやっている事は乞食と変わらない。
家で満足な食事が出来ない分をここで補給するという魂胆である。

 何か他のメニューも頼みたい所であるが、前のフリーダが部屋の中の売れる物は
極力売り尽くしていたので手持ちのお金は無いからしょうがない。
学園の食事代に関しては通常、貴族の場合天引きで家に請求が行く。
しかしフリーダの場合は義母が叱って止めさせたのだ。

 何食わぬ顔でそんな日々を過ごしているといつしか変化が訪れた。
食事中の私の周りには誰も居ないで遠巻きに見られている。
元のフリーダは自殺するくらい追い込まれていたがこんな事は何ともない。
開き直った今の私は落ちる所まで落ちて何も失うモノがない「無敵の人」だった。

 その日も他人の視線などどこ吹く風でパンとスープを食べていた。
すると食事をしている私の前に見慣れない影が差した。誰かが来たらしい。
どうやら、ようやく私のが来てくれた様だった。
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