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危ない奴ら
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枕元が濡れているのを感じて目を覚ました。
とにかく頭が重くて、眠い。
うっすら目を開けて枕が赤い液体でぐっしょり染まっている事に気が付いて何とか
上半身を起こした。
「な、何……!?」
首の右側が痛い。
手元を見ると近くに綺麗に装飾されたナイフが転がっている。
慌てて放り投げてから手を首に持って行くと、深い傷があるのを指先に感じた。
(こんなの即死でしょ!? 何があったの!?)
くらくらする頭で驚いている私の目に奇妙な光景が映った。
枕に広がっていた血のシミが綺麗に消えていくのだ。
流れ出ていたそれらの血が体を伝った跡を戻って傷跡に戻って行くのを感じる。
まるで動画の高速逆再生を見ている感じだった。
まもなくベッドの上に目に見える血は全て無くなっていた。
結果的には1分にも満たない時間だったと思う。
改めて首を撫でまわしてもそこには既に傷は無い。
ただつるつるした皮膚の感覚だけが指先に伝わって来た。
何だったんだろう、今のは。幻覚だったのだろうか?
……そもそも、この状況は何なの?
改めて周囲を見渡して、今自分がいるこの場所に全く見覚えがない事を確認した。
私は目をつぶって自分の記憶を呼び起こす。
まず自分自身はどこにでもいる日本の平凡なアラサーのOLである事は間違いない。
あの日は残業が続いて疲れていたので帰ってから夕食の用意をする事が面倒だった。
おでんとビールを購入してコンビニを出てから車のブレーキ音が聞こえて……。
いずれにせよ目に入るここの風景は私の住む東京都中野区の1LDKではなかった。
私はベッドの近くに置いてあった小さい鏡で自分の顔を覗いた。
そこには見覚え無い血色の悪いやせ細った外人少女の顔が映っている。
それが切っ掛けになったのか、本来の私とは別の記憶もなぜか思い出してきた。
私はフリーダ・フォン・ディーツェ侯爵令嬢。
この体の本来の持ち主である少女は自分の頸動脈を切って自殺した……。
自我と記憶はそのままに別人の記憶と体。
つまりここは異世界という訳だろうか。と、いう事はつまり。
再び首筋に手をやる。
改めてじっくり首を撫でまわしてもほっそりした首に傷は無かった。
これは、転生したからかな?
どういう理屈かは分からないが異世界のこの体の主導権は私の様だった。
かなりの空腹ではあるが、先程の目覚めの時の様な頭と手足のだるさはない。
問題なく動ける。血が戻ったからだろう。
腹が空いている事には思い当たる事があった。
このフリーダ・フォン・ディーツェ侯爵令嬢は家族から冷遇されているからだ。
家族と別の場所で寝起きして粗末な食事しか与えられていない。
まともな食事が出なければ健康を維持する事は出来ない。
ましてや美容など二の次である。
ベッドの上で上半身だけ起こした姿勢のまま私はしばらく考えた。
そして決心する。現実を受け入れる事を。
フリーダ。可哀そうなこの体の持ち主。
あなたに何もできないけど、ありがたく体を使わせてもらいます。
私は頭の中でそうつぶやいた。
彼女の無念を晴らす事が出来るかはともかく、こんな仕打ちをしている奴らには
いずれ何らかの形でお仕置きを与えられればいいとは思う。
とりあえずは図太く生きのびなければならない。
幸い私は強気なタイプだから。
『くぅ』
私のお腹が可愛く鳴った。
前世の私も今の私も空腹なのは共通している。
食べ損ねたおでんとビールとまではいかないが何か食べたかった。
私の視界にカビの生えたパンと残飯の様な物が載った皿が見える。
どうやらこれがフリーダの夕食であるらしかった。
どう考えても明らかに貴族の令嬢が口にする様なものでは無い。
絵にかいた様な冷遇ぶりである。
食事の当てが他にある訳でもない。フリーダの記憶でその事は良く分かっている。
そしてこの家の人間に私の味方は誰もいない事も分かっている。
空腹に耐えきれずカビの部分を捨ててパンを齧り変な味の残飯を食べた。
丁度食べ終わった頃ドアがノックされた。
すると私の返事も待たない内に侍女が部屋に入って来た。
「お嬢様、旦那様がお呼びです。」
「……分かりました。すぐに向かいます。」
口調こそ使用人のそれだが表情はとてもそうは言えない。
酷い食事が空になっているのを確認して一瞬あざ笑うかのような表情をしていた。
どうやらここの使用人は全員、私の今の家族の意を受けて行動しているらしい。
主人の一員であるはずなのに使用人からも見下されているとは冷遇も極まっている。
これから会う事になるその家族はもちろんフリーダにとっては味方ではない。
寧ろ、フリーダの事を粗末に扱う敵であった。
私はため息を一つついた。
しかしまあ、何という家族なんだろう。
領地経営は二の次の馬鹿で無能な入り婿の父親。
家の経済状態を考えずに宝飾品を買いあさる因業ババア。
その母親のミニチュア版の悪役令嬢的妹。
身内と考えたくない危ない奴らだ。
どうやら私の異世界転生は決して恵まれたものでは無いらしかった。
とにかく頭が重くて、眠い。
うっすら目を開けて枕が赤い液体でぐっしょり染まっている事に気が付いて何とか
上半身を起こした。
「な、何……!?」
首の右側が痛い。
手元を見ると近くに綺麗に装飾されたナイフが転がっている。
慌てて放り投げてから手を首に持って行くと、深い傷があるのを指先に感じた。
(こんなの即死でしょ!? 何があったの!?)
くらくらする頭で驚いている私の目に奇妙な光景が映った。
枕に広がっていた血のシミが綺麗に消えていくのだ。
流れ出ていたそれらの血が体を伝った跡を戻って傷跡に戻って行くのを感じる。
まるで動画の高速逆再生を見ている感じだった。
まもなくベッドの上に目に見える血は全て無くなっていた。
結果的には1分にも満たない時間だったと思う。
改めて首を撫でまわしてもそこには既に傷は無い。
ただつるつるした皮膚の感覚だけが指先に伝わって来た。
何だったんだろう、今のは。幻覚だったのだろうか?
……そもそも、この状況は何なの?
改めて周囲を見渡して、今自分がいるこの場所に全く見覚えがない事を確認した。
私は目をつぶって自分の記憶を呼び起こす。
まず自分自身はどこにでもいる日本の平凡なアラサーのOLである事は間違いない。
あの日は残業が続いて疲れていたので帰ってから夕食の用意をする事が面倒だった。
おでんとビールを購入してコンビニを出てから車のブレーキ音が聞こえて……。
いずれにせよ目に入るここの風景は私の住む東京都中野区の1LDKではなかった。
私はベッドの近くに置いてあった小さい鏡で自分の顔を覗いた。
そこには見覚え無い血色の悪いやせ細った外人少女の顔が映っている。
それが切っ掛けになったのか、本来の私とは別の記憶もなぜか思い出してきた。
私はフリーダ・フォン・ディーツェ侯爵令嬢。
この体の本来の持ち主である少女は自分の頸動脈を切って自殺した……。
自我と記憶はそのままに別人の記憶と体。
つまりここは異世界という訳だろうか。と、いう事はつまり。
再び首筋に手をやる。
改めてじっくり首を撫でまわしてもほっそりした首に傷は無かった。
これは、転生したからかな?
どういう理屈かは分からないが異世界のこの体の主導権は私の様だった。
かなりの空腹ではあるが、先程の目覚めの時の様な頭と手足のだるさはない。
問題なく動ける。血が戻ったからだろう。
腹が空いている事には思い当たる事があった。
このフリーダ・フォン・ディーツェ侯爵令嬢は家族から冷遇されているからだ。
家族と別の場所で寝起きして粗末な食事しか与えられていない。
まともな食事が出なければ健康を維持する事は出来ない。
ましてや美容など二の次である。
ベッドの上で上半身だけ起こした姿勢のまま私はしばらく考えた。
そして決心する。現実を受け入れる事を。
フリーダ。可哀そうなこの体の持ち主。
あなたに何もできないけど、ありがたく体を使わせてもらいます。
私は頭の中でそうつぶやいた。
彼女の無念を晴らす事が出来るかはともかく、こんな仕打ちをしている奴らには
いずれ何らかの形でお仕置きを与えられればいいとは思う。
とりあえずは図太く生きのびなければならない。
幸い私は強気なタイプだから。
『くぅ』
私のお腹が可愛く鳴った。
前世の私も今の私も空腹なのは共通している。
食べ損ねたおでんとビールとまではいかないが何か食べたかった。
私の視界にカビの生えたパンと残飯の様な物が載った皿が見える。
どうやらこれがフリーダの夕食であるらしかった。
どう考えても明らかに貴族の令嬢が口にする様なものでは無い。
絵にかいた様な冷遇ぶりである。
食事の当てが他にある訳でもない。フリーダの記憶でその事は良く分かっている。
そしてこの家の人間に私の味方は誰もいない事も分かっている。
空腹に耐えきれずカビの部分を捨ててパンを齧り変な味の残飯を食べた。
丁度食べ終わった頃ドアがノックされた。
すると私の返事も待たない内に侍女が部屋に入って来た。
「お嬢様、旦那様がお呼びです。」
「……分かりました。すぐに向かいます。」
口調こそ使用人のそれだが表情はとてもそうは言えない。
酷い食事が空になっているのを確認して一瞬あざ笑うかのような表情をしていた。
どうやらここの使用人は全員、私の今の家族の意を受けて行動しているらしい。
主人の一員であるはずなのに使用人からも見下されているとは冷遇も極まっている。
これから会う事になるその家族はもちろんフリーダにとっては味方ではない。
寧ろ、フリーダの事を粗末に扱う敵であった。
私はため息を一つついた。
しかしまあ、何という家族なんだろう。
領地経営は二の次の馬鹿で無能な入り婿の父親。
家の経済状態を考えずに宝飾品を買いあさる因業ババア。
その母親のミニチュア版の悪役令嬢的妹。
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