1 / 27
危ない奴ら
しおりを挟む
枕元が濡れているのを感じて目を覚ました。
とにかく頭が重くて、眠い。
うっすら目を開けて枕が赤い液体でぐっしょり染まっている事に気が付いて何とか
上半身を起こした。
「な、何……!?」
首の右側が痛い。
手元を見ると近くに綺麗に装飾されたナイフが転がっている。
慌てて放り投げてから手を首に持って行くと、深い傷があるのを指先に感じた。
(こんなの即死でしょ!? 何があったの!?)
くらくらする頭で驚いている私の目に奇妙な光景が映った。
枕に広がっていた血のシミが綺麗に消えていくのだ。
流れ出ていたそれらの血が体を伝った跡を戻って傷跡に戻って行くのを感じる。
まるで動画の高速逆再生を見ている感じだった。
まもなくベッドの上に目に見える血は全て無くなっていた。
結果的には1分にも満たない時間だったと思う。
改めて首を撫でまわしてもそこには既に傷は無い。
ただつるつるした皮膚の感覚だけが指先に伝わって来た。
何だったんだろう、今のは。幻覚だったのだろうか?
……そもそも、この状況は何なの?
改めて周囲を見渡して、今自分がいるこの場所に全く見覚えがない事を確認した。
私は目をつぶって自分の記憶を呼び起こす。
まず自分自身はどこにでもいる日本の平凡なアラサーのOLである事は間違いない。
あの日は残業が続いて疲れていたので帰ってから夕食の用意をする事が面倒だった。
おでんとビールを購入してコンビニを出てから車のブレーキ音が聞こえて……。
いずれにせよ目に入るここの風景は私の住む東京都中野区の1LDKではなかった。
私はベッドの近くに置いてあった小さい鏡で自分の顔を覗いた。
そこには見覚え無い血色の悪いやせ細った外人少女の顔が映っている。
それが切っ掛けになったのか、本来の私とは別の記憶もなぜか思い出してきた。
私はフリーダ・フォン・ディーツェ侯爵令嬢。
この体の本来の持ち主である少女は自分の頸動脈を切って自殺した……。
自我と記憶はそのままに別人の記憶と体。
つまりここは異世界という訳だろうか。と、いう事はつまり。
再び首筋に手をやる。
改めてじっくり首を撫でまわしてもほっそりした首に傷は無かった。
これは、転生したからかな?
どういう理屈かは分からないが異世界のこの体の主導権は私の様だった。
かなりの空腹ではあるが、先程の目覚めの時の様な頭と手足のだるさはない。
問題なく動ける。血が戻ったからだろう。
腹が空いている事には思い当たる事があった。
このフリーダ・フォン・ディーツェ侯爵令嬢は家族から冷遇されているからだ。
家族と別の場所で寝起きして粗末な食事しか与えられていない。
まともな食事が出なければ健康を維持する事は出来ない。
ましてや美容など二の次である。
ベッドの上で上半身だけ起こした姿勢のまま私はしばらく考えた。
そして決心する。現実を受け入れる事を。
フリーダ。可哀そうなこの体の持ち主。
あなたに何もできないけど、ありがたく体を使わせてもらいます。
私は頭の中でそうつぶやいた。
彼女の無念を晴らす事が出来るかはともかく、こんな仕打ちをしている奴らには
いずれ何らかの形でお仕置きを与えられればいいとは思う。
とりあえずは図太く生きのびなければならない。
幸い私は強気なタイプだから。
『くぅ』
私のお腹が可愛く鳴った。
前世の私も今の私も空腹なのは共通している。
食べ損ねたおでんとビールとまではいかないが何か食べたかった。
私の視界にカビの生えたパンと残飯の様な物が載った皿が見える。
どうやらこれがフリーダの夕食であるらしかった。
どう考えても明らかに貴族の令嬢が口にする様なものでは無い。
絵にかいた様な冷遇ぶりである。
食事の当てが他にある訳でもない。フリーダの記憶でその事は良く分かっている。
そしてこの家の人間に私の味方は誰もいない事も分かっている。
空腹に耐えきれずカビの部分を捨ててパンを齧り変な味の残飯を食べた。
丁度食べ終わった頃ドアがノックされた。
すると私の返事も待たない内に侍女が部屋に入って来た。
「お嬢様、旦那様がお呼びです。」
「……分かりました。すぐに向かいます。」
口調こそ使用人のそれだが表情はとてもそうは言えない。
酷い食事が空になっているのを確認して一瞬あざ笑うかのような表情をしていた。
どうやらここの使用人は全員、私の今の家族の意を受けて行動しているらしい。
主人の一員であるはずなのに使用人からも見下されているとは冷遇も極まっている。
これから会う事になるその家族はもちろんフリーダにとっては味方ではない。
寧ろ、フリーダの事を粗末に扱う敵であった。
私はため息を一つついた。
しかしまあ、何という家族なんだろう。
領地経営は二の次の馬鹿で無能な入り婿の父親。
家の経済状態を考えずに宝飾品を買いあさる因業ババア。
その母親のミニチュア版の悪役令嬢的妹。
身内と考えたくない危ない奴らだ。
どうやら私の異世界転生は決して恵まれたものでは無いらしかった。
とにかく頭が重くて、眠い。
うっすら目を開けて枕が赤い液体でぐっしょり染まっている事に気が付いて何とか
上半身を起こした。
「な、何……!?」
首の右側が痛い。
手元を見ると近くに綺麗に装飾されたナイフが転がっている。
慌てて放り投げてから手を首に持って行くと、深い傷があるのを指先に感じた。
(こんなの即死でしょ!? 何があったの!?)
くらくらする頭で驚いている私の目に奇妙な光景が映った。
枕に広がっていた血のシミが綺麗に消えていくのだ。
流れ出ていたそれらの血が体を伝った跡を戻って傷跡に戻って行くのを感じる。
まるで動画の高速逆再生を見ている感じだった。
まもなくベッドの上に目に見える血は全て無くなっていた。
結果的には1分にも満たない時間だったと思う。
改めて首を撫でまわしてもそこには既に傷は無い。
ただつるつるした皮膚の感覚だけが指先に伝わって来た。
何だったんだろう、今のは。幻覚だったのだろうか?
……そもそも、この状況は何なの?
改めて周囲を見渡して、今自分がいるこの場所に全く見覚えがない事を確認した。
私は目をつぶって自分の記憶を呼び起こす。
まず自分自身はどこにでもいる日本の平凡なアラサーのOLである事は間違いない。
あの日は残業が続いて疲れていたので帰ってから夕食の用意をする事が面倒だった。
おでんとビールを購入してコンビニを出てから車のブレーキ音が聞こえて……。
いずれにせよ目に入るここの風景は私の住む東京都中野区の1LDKではなかった。
私はベッドの近くに置いてあった小さい鏡で自分の顔を覗いた。
そこには見覚え無い血色の悪いやせ細った外人少女の顔が映っている。
それが切っ掛けになったのか、本来の私とは別の記憶もなぜか思い出してきた。
私はフリーダ・フォン・ディーツェ侯爵令嬢。
この体の本来の持ち主である少女は自分の頸動脈を切って自殺した……。
自我と記憶はそのままに別人の記憶と体。
つまりここは異世界という訳だろうか。と、いう事はつまり。
再び首筋に手をやる。
改めてじっくり首を撫でまわしてもほっそりした首に傷は無かった。
これは、転生したからかな?
どういう理屈かは分からないが異世界のこの体の主導権は私の様だった。
かなりの空腹ではあるが、先程の目覚めの時の様な頭と手足のだるさはない。
問題なく動ける。血が戻ったからだろう。
腹が空いている事には思い当たる事があった。
このフリーダ・フォン・ディーツェ侯爵令嬢は家族から冷遇されているからだ。
家族と別の場所で寝起きして粗末な食事しか与えられていない。
まともな食事が出なければ健康を維持する事は出来ない。
ましてや美容など二の次である。
ベッドの上で上半身だけ起こした姿勢のまま私はしばらく考えた。
そして決心する。現実を受け入れる事を。
フリーダ。可哀そうなこの体の持ち主。
あなたに何もできないけど、ありがたく体を使わせてもらいます。
私は頭の中でそうつぶやいた。
彼女の無念を晴らす事が出来るかはともかく、こんな仕打ちをしている奴らには
いずれ何らかの形でお仕置きを与えられればいいとは思う。
とりあえずは図太く生きのびなければならない。
幸い私は強気なタイプだから。
『くぅ』
私のお腹が可愛く鳴った。
前世の私も今の私も空腹なのは共通している。
食べ損ねたおでんとビールとまではいかないが何か食べたかった。
私の視界にカビの生えたパンと残飯の様な物が載った皿が見える。
どうやらこれがフリーダの夕食であるらしかった。
どう考えても明らかに貴族の令嬢が口にする様なものでは無い。
絵にかいた様な冷遇ぶりである。
食事の当てが他にある訳でもない。フリーダの記憶でその事は良く分かっている。
そしてこの家の人間に私の味方は誰もいない事も分かっている。
空腹に耐えきれずカビの部分を捨ててパンを齧り変な味の残飯を食べた。
丁度食べ終わった頃ドアがノックされた。
すると私の返事も待たない内に侍女が部屋に入って来た。
「お嬢様、旦那様がお呼びです。」
「……分かりました。すぐに向かいます。」
口調こそ使用人のそれだが表情はとてもそうは言えない。
酷い食事が空になっているのを確認して一瞬あざ笑うかのような表情をしていた。
どうやらここの使用人は全員、私の今の家族の意を受けて行動しているらしい。
主人の一員であるはずなのに使用人からも見下されているとは冷遇も極まっている。
これから会う事になるその家族はもちろんフリーダにとっては味方ではない。
寧ろ、フリーダの事を粗末に扱う敵であった。
私はため息を一つついた。
しかしまあ、何という家族なんだろう。
領地経営は二の次の馬鹿で無能な入り婿の父親。
家の経済状態を考えずに宝飾品を買いあさる因業ババア。
その母親のミニチュア版の悪役令嬢的妹。
身内と考えたくない危ない奴らだ。
どうやら私の異世界転生は決して恵まれたものでは無いらしかった。
35
お気に入りに追加
1,256
あなたにおすすめの小説
国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!
真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」
皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。
ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??
国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡
「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。
木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。
しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。
さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。
聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。
しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。
それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。
だがその後、王国は大きく傾くことになった。
フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。
さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。
これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。
しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。
無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました
天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。
伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。
無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。
そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。
無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。
妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~
サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
【完結】聖女様は聖くない
当麻リコ
恋愛
異世界から召喚された聖女に婚約者の心を奪われてしまったヨハンナ。
彼女は学園の卒業パーティーで王太子である婚約者から、婚約破棄を言い渡されてしまう。
彼の心はもう自分にはないと知ったヨハンナ。
何もかも諦め婚約破棄を受け入れることにしたヨハンナの代わりに、切れたのは何故か聖女であるカレンだった――。
※短めのお話です。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる