第三側妃の私の仕事は拗らせた王太子の世話をする事です

富士山のぼり

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番外編(完) 期待と思い

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 エルヴィン新国王の即位式は臣下と各国の来賓達に囲まれた中で滞りなく進んだ。
終了後、すぐに国民にお披露目をする為に王城のバルコニーに新国王は移動する。
民衆が王城だけでなく遠くの街道まで埋め尽くして歓声を上げる様子は王女達と王子に強い印象を残した。

 王冠を頭に載せた父を見てアベルは父が遠い存在になった事を子供心に感じた。
実際にその後から今まであった家族の団欒という時間は目に見えて減って行った。

 そんなある日の事、同じくどこか遠い存在になった母からアベルはあるものを渡された。
多忙な新王妃は子供達と過ごす時間をどんなに少なくとも作る様にしていた。

 アベルに渡されたものは何の変哲もない使い込まれた訓練用の剣である。
今使っている女性騎士の訓練用の剣より長くて重い。
何でこんなものをと思うアベルに王妃は剣の由来を話した。


「これはね、貴方の伯父様の形見なの」

「……伯父上?」

「そうよ。いつか前に言ったのだけど覚えているかしら?」

 
 会った事のない母の兄の話を思い出してアベルは頷いた。
いつだったか、剣で遊ぶ事が大好きなアベルを見た母が言ったのだ。

 伯父はとても剣技に優れていたと聞いた事がある。
渡された剣をじっくり見ると短い赤い糸の様な物が微かに鞘紐に絡んでいた。
赤い髪だった。


「兄は伯爵家の跡継ぎだったのに王国騎士団に入りたがっていたのよ。
伯爵家はお前が婿を貰って継げばいいって」

「そうだったのですか」

「ええ。兄は剣が得意だったから、剣でこの国のお役に立ちたいとも云っていたの。
国と王を守る剣になりたいとね」

「……」


 アニエスは懐かしそうに語り出した。
少し赤みがかった髪のアベルに兄を思い出しているのかもしれなかった。


「兄はもういないけど、同じ様な人達は多くいるはずよ。
貴方はそういう人達の期待と思いを背負っているの」

 
 アベルは父王が即位した後の民衆へのお披露目の時、歓声を上げる人々を思い出した。
そして幼いなりに何か得体のしれないモノに少し身構えた。
王家の責任と重圧というものだった。
アニエスはそれを察した様に付け加えた。
 

「貴方もいずれ王になる。その事を常に心に置いて精進して頂戴。
でも、貴方は一人じゃないわ。私達家族もあなたを支えるからね」

「……はい」


 母が剣の事だけを云っているのではないという事はなんとなくわかった。
何となく気が引き締まる。
黙って聞いていたアリーナとディアーナが口を開く。


「そうよ。私達が付いているから。ね、ディアーナ?」 

「そうね。アベル、私達もあなたを支えられる様に頑張るから」

「頼りにしてます」


 アベルは頷いて剣を握りしめた。
アニエス王妃はそんな子供達を見て安心した様に微笑んだ。



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 完全に蛇足でしたが二人のその後と子供達とラウラの事を拾ってみました。
これで終わりです。ありがとうございました。
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