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番外編 王室の子供達

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 王太子の子供で七歳になるアベル王子の好きな事は剣で遊ぶ事ある。
年相応に非常に男の子らしい遊びだが、彼の場合はいささか事情が違った。

 手に持つのはおもちゃの木剣ではなく短めで軽いとはいえ刃を潰した訓練用の剣である。
主に女性騎士が訓練のために使うものであったが、彼はその年齢にして普通に使いこなしていた。

 おまけに今現在対峙している相手も子供ではない。
王国騎士団に入隊したばかりの若手ではあるが厳しい選抜を受けて入団したれっきとした騎士ある。
そして彼は今、アベルに勝った。
当たり前の話なのではあるが時々ひやりとする場面があっての勝利だ。


「あああああっ、もう嫌だ! 何で勝てないんだよぉ!」

「勝たれたら私の立場がありませんよ、殿下……」


 
 若手騎士カールはげんなりとした表情でそう返した。


「嫌ならやめますか? そうしましょう。止めましょう」

「それもやだ。もう一回やるから構えてよ、カール」

「まだですか……」


 渋々構え直したカールに救世主が現れた。
銀色の長い髪を優雅になびかせた物静かな感じの美少女だ。
しかし、その口調と態度がイメージと違った。


「アベル、いい加減にしなさい。カールが嫌がっているでしょ」


 ストレートに心境を述べられてカールは慌てた。


「ディアーナ様。いや、別に嫌とかそういう訳では」

「叔母上か……口を出さないで下さい」


 ディアーナ王女はエレオノーラ第二側妃の次女である。
甥のアベルと二歳違いの活発に育った姫君であった。
ディアーナは張り手ではなくアベルの脳天に拳骨を振り下ろした。
腕を一回転させて。


「その言い方をするんじゃない。姉上よ」

「はい……」

「ごめんね、カール。ここはもういいから騎士団に戻って」

「はっ! では失礼致しますっ!」


 カールはそそくさと帰って行った。
恨みがましくアベルはディアーナを上目づかいで見た。
この年代はまだ女の子の方が背が高い。早く見下ろしたい。


「あんたがずっと拘束するから可哀そうにカールの休憩時間が無くなるばかりでしょ。
勉強の時間だから来なさい」

「わかりました……姉上」


 声をかけるのをためらっていた侍従と侍女達がほっとした様子で付き従う。
いつもとは言わないが見慣れた情景であった。


 勉強部屋とされている部屋に二人が向かうと、中から一人の少女が飛び出してきた。


「遅いわよ、アベル。お姉ちゃん待ちくたびれたわ」


 そう言ってアベルに抱き着いたのはディアーナと対照的な金髪の美少女だった。
ディアーナは母親違いの同い年の妹をアベルから引き離した。


「離れなさいアリーナ! アベルもデレデレしない!」

「してないよ」

「やーね。全くヒステリーなんだから」


 アリーナの言葉にディアーナは眉をしかめた。
見かけが正反対のお姫様達は性格も対照的であった。
共通しているのは二人ともアベルが大好きなところである。

 アリーナは第一側妃ヒルデガルドの次女であり、二歳下のアベルの事を溺愛している。
気持ちは分からなくはないが王室の人間たるものけじめはつけなければならない。
勉強時間はきちんと守るべきだ。

 三人が揃うのを待っていた王室の最高の講師陣の内の一人がホッとした様に授業の準備を始める。
年齢は多少違うが近い年齢なので三人で学んだ方が効率がいいという理由でアベルも二人に加わっている。


「いい加減にしなさいよ。ちゃんと学ぶことは学ばないと。
王立学園に入った途端に落ちこぼれたくないでしょ」
 
「わかってるよ」

「そうね。私の夫になるには強いだけじゃ駄目だからね、アベル?」


 アベルは渋々、アリーナは神経を逆なでする様に軽く返事を返す。


「またそういう事を云う。冗談でもやめてよね」


 どこ吹く風といった感じですまして流すアリーナをディアーナは睨んだ。

 尤も、そう云いつつもディアーナも時々考える。
アベルはだいぶ年齢の離れた兄の息子である。血縁上は甥にあたる。
でも兄とは半分血が繋がっているだけだし、もちろんお互いの母も違うから血も薄まっている。
アベルは一見細身で女の子と見まごうような繊細な容貌なのにおそらく同年代では誰よりも強く、凛々しい。


(決して不可能じゃないんじゃない?)


 そういう考えを抱く程度にはやはりアリーナと同じくアベルが大好きな彼女であった。
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