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最終話 こんな未来はありえない
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お互いの気持ちを確認した後、私達は陛下に報告に向かった。
陛下は頷いて私達を祝福してくれた後で一言おっしゃられた。
「孫を楽しみにしているぞ」
二人共色々聞きたい事はあったけれどそれは今ではないと思った。
何故ならその時丁度、陛下の秘書官が報告に来たからだった。
夜も遅くなったこの時間に宰相と閣僚達が王宮に到着したとの報告だった。
つまり私達の件に関して早速陛下は手配をされていた訳だった。
♢
翌日、早々にエルヴィンの婚約が王宮通知で一般発表された。
同時に王太子の側妃候補として王宮に召し上げていた私を正式に婚約者とするという一文も添えられていた。
要するに初めから私はエルヴィンの相手だったと開き直って発表した訳である。
私の王宮入りの時に陛下の側妃だと王宮通知で告知していなかった事が大きい。
後で知った事だが陛下は事前に口の堅い宰相だけには話していた。
エルヴィンの婚約者が確定するまでは私とは白い関係のままでいる、と。
宰相は陛下の盟友で、第二王子誕生の為に陛下へ第三側妃を娶る様求めた派閥と違う。
私達がこうなった場合に臣下達に説明する事を想定しての為だった。
事前に誰かに云ってある場合と云ってない場合では説得力が違うからだ。
陛下の差配していた事について私達は空中庭園の東屋で詳細を伝えられた。
エルヴィンはこの日学園を休んでいた。
「父上はいつアニエスを私の相手としてお考えになられたのですか?」
「婚約破棄を受けてアニエスが自由になった時点からだ」
そういう答えが返ってくる事も想像していたが、それでも私達は驚いた。
「王立学園の元生徒会長という事は個人の能力が既に証明されている事でもある。
王室入りや妃教育には問題ないと判断した。
縁戚である公爵家の次男との婚約破棄の件は無論、調査はしたがな。
だがアニエスに責は無いと結論が出た。それに……」
陛下は紅茶に口を付けてから続けた。
「調査以前に私は学園に来賓訪問した時にこの目で直にアニエスを見知っていた。
王太子と年齢が近い優秀な令嬢を考慮しない訳がない」
側妃指名を受けた日にそんな事想像もつかなかった。
陛下が私の事をそういう風に考えて下さっていたなんて。
「まあ、そうは云っても人の心はわからない。
其方達が出来ればそうなればいいと思っていたがあくまで消極的希望だった」
「全て父上の計算通りだった訳ですか」
エルヴィンがなぜか複雑そうな感じで陛下にそう答える。
「言っただろう。私は其方達を会わせただけで何もしていない。
其方達が自分でお互いを望んだという事だ」
「でも、そうならなかったら父上はそのままアニエスを側妃として扱うつもりだったのでしょう?」
「……なんだ、そこか。お前は仮定の事態の私に焼いているのか。
酒の力を借りてお膳立てもされないと女を口説けないのに嫉妬心だけは一人前だな」
「父上!」
「寧ろ感謝される事はあっても怒られる筋合いは無いぞ。
お前にとって最高の伴侶を用意した私に深く深く感謝して欲しいものだな」
ぐうの音も出ないエルヴィンが黙り込む。
陛下が私の方を見て苦笑した。
私も笑って隣に座るエルヴィンの手に自分の手を重ねた。
♢
その日の別の時間帯、側妃のお二方にも聞いた。
陛下のご意向をいつお知りになったかを。
「いつかのお茶会の時、エルヴィンの婚約者候補について聞いた事があったでしょう?」
「はい」
「あのすぐ後よ。つまり貴方の『受け持ち時間』が終わった頃ね」
「あの頃でしたか……」
「陛下に言われたの。貴方達をそういう形で考えている。協力して欲しいと」
「貴方達の関係の変化について陛下はよくご御存じだったわ」
「そうなのですか?」
「ええ。貴方達について報告を受けていたのでしょう。心当たりない?」
そう云われて思い当たる。
『受け持ち時間』の休憩時に給仕するのが何故か侍従長だった事を。
(なぜ侍従に任せず侍従長が直々にとは思ったけど、そういう事だったのね)
私は陛下の周到さに感心した。
(それにしても側妃になって結局王太子の婚約者になるなんて。こんな未来は誰も予測は出来ないわね)
婚約破棄の直後の私に今の私を夢の中ででも見せてあげたい。
『こんな未来はあり得ない』と空しい気持ちになるだろうけど。
でもこれは紛れもない現実だ。
私は幸せな気持ちでその事を実感していた。
♢
半年持たずに王太子の婚約者としての私の身分は終了した。
急遽正式に王太子妃とする理由が出来たからだ。
私が側妃として王室入りしたのは去年。
今年は第三側妃から王太子の婚約者。更に王太子妃へ立場が変更。
そして来年には王室にもう一人王家の一員が増える予定である。
王立学園の在学中に父親になった王太子は我が国の歴史上一人だけ。
私の愛しい年下の夫が初めてらしい。
~ 終 ~
※ その後を少し書きます。
陛下は頷いて私達を祝福してくれた後で一言おっしゃられた。
「孫を楽しみにしているぞ」
二人共色々聞きたい事はあったけれどそれは今ではないと思った。
何故ならその時丁度、陛下の秘書官が報告に来たからだった。
夜も遅くなったこの時間に宰相と閣僚達が王宮に到着したとの報告だった。
つまり私達の件に関して早速陛下は手配をされていた訳だった。
♢
翌日、早々にエルヴィンの婚約が王宮通知で一般発表された。
同時に王太子の側妃候補として王宮に召し上げていた私を正式に婚約者とするという一文も添えられていた。
要するに初めから私はエルヴィンの相手だったと開き直って発表した訳である。
私の王宮入りの時に陛下の側妃だと王宮通知で告知していなかった事が大きい。
後で知った事だが陛下は事前に口の堅い宰相だけには話していた。
エルヴィンの婚約者が確定するまでは私とは白い関係のままでいる、と。
宰相は陛下の盟友で、第二王子誕生の為に陛下へ第三側妃を娶る様求めた派閥と違う。
私達がこうなった場合に臣下達に説明する事を想定しての為だった。
事前に誰かに云ってある場合と云ってない場合では説得力が違うからだ。
陛下の差配していた事について私達は空中庭園の東屋で詳細を伝えられた。
エルヴィンはこの日学園を休んでいた。
「父上はいつアニエスを私の相手としてお考えになられたのですか?」
「婚約破棄を受けてアニエスが自由になった時点からだ」
そういう答えが返ってくる事も想像していたが、それでも私達は驚いた。
「王立学園の元生徒会長という事は個人の能力が既に証明されている事でもある。
王室入りや妃教育には問題ないと判断した。
縁戚である公爵家の次男との婚約破棄の件は無論、調査はしたがな。
だがアニエスに責は無いと結論が出た。それに……」
陛下は紅茶に口を付けてから続けた。
「調査以前に私は学園に来賓訪問した時にこの目で直にアニエスを見知っていた。
王太子と年齢が近い優秀な令嬢を考慮しない訳がない」
側妃指名を受けた日にそんな事想像もつかなかった。
陛下が私の事をそういう風に考えて下さっていたなんて。
「まあ、そうは云っても人の心はわからない。
其方達が出来ればそうなればいいと思っていたがあくまで消極的希望だった」
「全て父上の計算通りだった訳ですか」
エルヴィンがなぜか複雑そうな感じで陛下にそう答える。
「言っただろう。私は其方達を会わせただけで何もしていない。
其方達が自分でお互いを望んだという事だ」
「でも、そうならなかったら父上はそのままアニエスを側妃として扱うつもりだったのでしょう?」
「……なんだ、そこか。お前は仮定の事態の私に焼いているのか。
酒の力を借りてお膳立てもされないと女を口説けないのに嫉妬心だけは一人前だな」
「父上!」
「寧ろ感謝される事はあっても怒られる筋合いは無いぞ。
お前にとって最高の伴侶を用意した私に深く深く感謝して欲しいものだな」
ぐうの音も出ないエルヴィンが黙り込む。
陛下が私の方を見て苦笑した。
私も笑って隣に座るエルヴィンの手に自分の手を重ねた。
♢
その日の別の時間帯、側妃のお二方にも聞いた。
陛下のご意向をいつお知りになったかを。
「いつかのお茶会の時、エルヴィンの婚約者候補について聞いた事があったでしょう?」
「はい」
「あのすぐ後よ。つまり貴方の『受け持ち時間』が終わった頃ね」
「あの頃でしたか……」
「陛下に言われたの。貴方達をそういう形で考えている。協力して欲しいと」
「貴方達の関係の変化について陛下はよくご御存じだったわ」
「そうなのですか?」
「ええ。貴方達について報告を受けていたのでしょう。心当たりない?」
そう云われて思い当たる。
『受け持ち時間』の休憩時に給仕するのが何故か侍従長だった事を。
(なぜ侍従に任せず侍従長が直々にとは思ったけど、そういう事だったのね)
私は陛下の周到さに感心した。
(それにしても側妃になって結局王太子の婚約者になるなんて。こんな未来は誰も予測は出来ないわね)
婚約破棄の直後の私に今の私を夢の中ででも見せてあげたい。
『こんな未来はあり得ない』と空しい気持ちになるだろうけど。
でもこれは紛れもない現実だ。
私は幸せな気持ちでその事を実感していた。
♢
半年持たずに王太子の婚約者としての私の身分は終了した。
急遽正式に王太子妃とする理由が出来たからだ。
私が側妃として王室入りしたのは去年。
今年は第三側妃から王太子の婚約者。更に王太子妃へ立場が変更。
そして来年には王室にもう一人王家の一員が増える予定である。
王立学園の在学中に父親になった王太子は我が国の歴史上一人だけ。
私の愛しい年下の夫が初めてらしい。
~ 終 ~
※ その後を少し書きます。
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