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王太子の義務
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全ての政務も終わり後は寝るだけの時間にエルヴィンは父王の執務室に呼ばれた。
父と自分以外に誰もいない二人きりの親子の会話だ。
そしてエルヴィンはアニエスの次の『受け持ち時間』が来る前に終了の件を告げられた。
当初は自分に何も云わずアニエスだけに告げて始まっていた事だったのに終了する時は直接云われる。
これはどういう意味なのか。
その次の父王陛下の言葉でエルヴィンはその意味を察した。
「エルヴィン、お前の婚約者についての候補者を決めようと思う」
「……!」
(ついに来たか)
婚約者の事は内心、エルヴィンも常に心のどこかに引っかかっていた事である。
いつかくるだろうと思っていた事が今だった。
(いくら同じ王族の身内でも下卑た噂が立つ可能性は消すべきだという事か)
すぐにそう気付いた。エルヴィンと彼女の血は繋がっていないから当然だ。
自由恋愛など、王太子には有って無い様なものである。
多分その時になったら誰が自分の婚約者になっても感情の波などおきる事も無く機械的に受け止められるだろうと思っていた。
ましてやエルヴィン自身は自分から積極的に同年代の令嬢に興味を持つことが無かったから、父王の決めた相手を受け入れる事は当然と思っていた。
だが今は少々違う。
どうせ一緒になるなら気を許せる人と結ばれたい。
正直に言えば学園には特に思い浮かぶ令嬢は居なかった。
同年代かもしくは近い年代で思い浮かぶのは一人だけである。
しかし会う機会が少なくなるのが決定したその女性とは立場的にあり得ない。
父王の前では特に口に出すのもはばかられる。
だから黙ってエルヴィンは父王陛下の言葉を聞いていた。
「水面下で接触を受けている令嬢がいる事は知っているな」
「はい」
「レッシュ侯爵とヴェンデル伯爵から内々に打診を受けている。
後は決めるだけなのだが……」
エルヴィンは二人の令嬢を思い浮かべた。
どちらも特に悪印象の無い優秀で美しい貴族令嬢だ。
ただ、印象はそれだけであってそれ以上でも以下でもない。
両家とも特に無用な派閥関係とは無縁である。
そして貴族間の中での力関係もほぼ似たレベルだ。
すると若干家格の面からいって必然的に選ぶのはレッシュ侯爵令嬢という事なる。
「検討して決めるのは向こうではなく勿論こちらだが、お前自身の気持ちも参考に聞いておきたいと思ってな。
どうだ、個人的に心に留めている令嬢は居るか?」
「……いえ、特に」
「で、あろうな。」
父王は予想していた風にそう答えた。
相手が自分をよく知る父なのでゲルハルトと違って腹も立たない。
「ところで、彼女らは既に『問題は無し』と王室調査部の審査を通っている。
だから婚約者と決めるのにも問題ない。別の令嬢をお前が望まぬ限りな」
(……?)
一番最後の父王の言葉にエルヴィンは違和感を感じた。
与えられた選択肢はどのみち2つだけでそれ以外は無いではないか。
(つまりどちらかに決めろという事か?)
なら、どちらかに決めろとそう云えばいいのに。
そう思ってなぜかエルヴィンは父王にイラついてしまった。
尊敬すべき父なのになぜかこの時だけはそう思った。
二人きりと云う事もあってつい多少乱暴な物言いをしてしまう。
「彼女達には申し訳ありませんが正直誰でも構いません。父上のお望みの様に」
「……わかった。では臣下とも協議の上、後日決定を伝える。一般発表はその後だ。その事に気を使って過ごす様に」
エルヴィンは父王との話を終えて退出した。
そして、事実上婚約者も今の会話で決定した。
要するレッシュ侯爵令嬢が婚約者と正式に確定するだろうからこれからはその様に振舞えという事だ。
正式には世間に一般発表してから決定となるが早いか遅いかの違いだ。
(これも王太子の義務だ)
そう言い聞かせたものの何か後悔する様な事が決まってしまった様にエルヴィンには思えた。
早速、次の登校日からエルヴィンとラウラの接触時間は少しづつ増えて行った。
元々放課後の生徒会活動は共にするので特に不思議な事では無い。
ラウラはいかにも女性らしいお淑やかで控えめな令嬢だった。
高位貴族の子女に稀に居る様な傲慢な性格を感じる事は無かった。
エルヴィンは自然と人として好感を持った。
彼女とここ一年近く接していた事であれほどあった女性への忌避感も薄れているのを感じる。
少なくとも普通に会話して接しているだけなのにどこか構えていた以前とは違う。
アニエスと違ってどちらかというと控えめな性格。
アニエスと違ってどちらかと云えば低めの身長。
アニエスと違ってこの国では珍しくない髪色。
アニエスと違って……。
(こうして、いつの間にか自然と噂が立って婚約者の発表もされて落ち着くところに落ち着くんだろうな)
エルヴィンが醒めた心でそう思っている時に、ある出来事が起きたのだった。
父と自分以外に誰もいない二人きりの親子の会話だ。
そしてエルヴィンはアニエスの次の『受け持ち時間』が来る前に終了の件を告げられた。
当初は自分に何も云わずアニエスだけに告げて始まっていた事だったのに終了する時は直接云われる。
これはどういう意味なのか。
その次の父王陛下の言葉でエルヴィンはその意味を察した。
「エルヴィン、お前の婚約者についての候補者を決めようと思う」
「……!」
(ついに来たか)
婚約者の事は内心、エルヴィンも常に心のどこかに引っかかっていた事である。
いつかくるだろうと思っていた事が今だった。
(いくら同じ王族の身内でも下卑た噂が立つ可能性は消すべきだという事か)
すぐにそう気付いた。エルヴィンと彼女の血は繋がっていないから当然だ。
自由恋愛など、王太子には有って無い様なものである。
多分その時になったら誰が自分の婚約者になっても感情の波などおきる事も無く機械的に受け止められるだろうと思っていた。
ましてやエルヴィン自身は自分から積極的に同年代の令嬢に興味を持つことが無かったから、父王の決めた相手を受け入れる事は当然と思っていた。
だが今は少々違う。
どうせ一緒になるなら気を許せる人と結ばれたい。
正直に言えば学園には特に思い浮かぶ令嬢は居なかった。
同年代かもしくは近い年代で思い浮かぶのは一人だけである。
しかし会う機会が少なくなるのが決定したその女性とは立場的にあり得ない。
父王の前では特に口に出すのもはばかられる。
だから黙ってエルヴィンは父王陛下の言葉を聞いていた。
「水面下で接触を受けている令嬢がいる事は知っているな」
「はい」
「レッシュ侯爵とヴェンデル伯爵から内々に打診を受けている。
後は決めるだけなのだが……」
エルヴィンは二人の令嬢を思い浮かべた。
どちらも特に悪印象の無い優秀で美しい貴族令嬢だ。
ただ、印象はそれだけであってそれ以上でも以下でもない。
両家とも特に無用な派閥関係とは無縁である。
そして貴族間の中での力関係もほぼ似たレベルだ。
すると若干家格の面からいって必然的に選ぶのはレッシュ侯爵令嬢という事なる。
「検討して決めるのは向こうではなく勿論こちらだが、お前自身の気持ちも参考に聞いておきたいと思ってな。
どうだ、個人的に心に留めている令嬢は居るか?」
「……いえ、特に」
「で、あろうな。」
父王は予想していた風にそう答えた。
相手が自分をよく知る父なのでゲルハルトと違って腹も立たない。
「ところで、彼女らは既に『問題は無し』と王室調査部の審査を通っている。
だから婚約者と決めるのにも問題ない。別の令嬢をお前が望まぬ限りな」
(……?)
一番最後の父王の言葉にエルヴィンは違和感を感じた。
与えられた選択肢はどのみち2つだけでそれ以外は無いではないか。
(つまりどちらかに決めろという事か?)
なら、どちらかに決めろとそう云えばいいのに。
そう思ってなぜかエルヴィンは父王にイラついてしまった。
尊敬すべき父なのになぜかこの時だけはそう思った。
二人きりと云う事もあってつい多少乱暴な物言いをしてしまう。
「彼女達には申し訳ありませんが正直誰でも構いません。父上のお望みの様に」
「……わかった。では臣下とも協議の上、後日決定を伝える。一般発表はその後だ。その事に気を使って過ごす様に」
エルヴィンは父王との話を終えて退出した。
そして、事実上婚約者も今の会話で決定した。
要するレッシュ侯爵令嬢が婚約者と正式に確定するだろうからこれからはその様に振舞えという事だ。
正式には世間に一般発表してから決定となるが早いか遅いかの違いだ。
(これも王太子の義務だ)
そう言い聞かせたものの何か後悔する様な事が決まってしまった様にエルヴィンには思えた。
早速、次の登校日からエルヴィンとラウラの接触時間は少しづつ増えて行った。
元々放課後の生徒会活動は共にするので特に不思議な事では無い。
ラウラはいかにも女性らしいお淑やかで控えめな令嬢だった。
高位貴族の子女に稀に居る様な傲慢な性格を感じる事は無かった。
エルヴィンは自然と人として好感を持った。
彼女とここ一年近く接していた事であれほどあった女性への忌避感も薄れているのを感じる。
少なくとも普通に会話して接しているだけなのにどこか構えていた以前とは違う。
アニエスと違ってどちらかというと控えめな性格。
アニエスと違ってどちらかと云えば低めの身長。
アニエスと違ってこの国では珍しくない髪色。
アニエスと違って……。
(こうして、いつの間にか自然と噂が立って婚約者の発表もされて落ち着くところに落ち着くんだろうな)
エルヴィンが醒めた心でそう思っている時に、ある出来事が起きたのだった。
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