第三側妃の私の仕事は拗らせた王太子の世話をする事です

富士山のぼり

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そうあるべき状況に

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 王族として初めて過ごした年が明けたある日、私は陛下に聞かれた。
私が王宮に来てから早いものであと三カ月で一年になろうとしている。


「其方も王族としての生活に慣れた様だな。どうだ、何も(不自由は)ないか」

「勿論です陛下。お陰様を持ちまして」


 微笑みつつ私は陛下に感謝の言葉を述べた。
その返答に陛下は軽く頷く。


「エルヴィンの最近の様子はどうだ?」

「大分打ち解けてくれています」

「そうか」


 今日は陛下が私の所へ来られる日だ。
陛下御自身が三人の側妃のどちらへお越しになるかはもちろん陛下次第である。
そして陛下はほぼ一週間に一度の頻度で三人の側妃を平均的に訪れていた。

 つまり陛下は一週間の半分以上は執務室の隣の私室でお一人でお休みになっている。
国王は最高権力者であると同時に国政の全ての責任者でもある。
臣下に裁量を与えている部分も多いが国内国外の重要な問題に関しては常に最終決定を下す立場にもある。
つまり、決して楽な立場でも暇な立場でもない。

 その状況を身近で見ている私からすれば、陛下にとって後宮を訪れる事も仕事の一部なのかもしれないと思う時がある。
後宮に入りびたり国政を蔑ろにするという国王もいるとすれば陛下はその反対だ。
非常に尊敬できる方だと感じている。
そんな陛下に対して妃が出来る事は精神的に寄り添い安らぎを与える事だと思う。
白い婚姻の私にそれが出来ているかどうかでいうと全く自信がないけど。


「最近は其方も色々忙しい様だな」

「ヒルダ様とノーラ様に教えて頂いて少しずつですが」

「うむ。国民の王室への評判が良く維持されるのは其方達の役割も非常に大きい。
よくやってくれているな」

「……いえ、私はまだまだお二人ほどにはお役に立てておりませんから」


 側妃が分担して妃の仕事をしているからといって仕事量が1/3になるという訳では無い。
寧ろヒルダ様とノーラ様が作り上げてきたこの国の側妃としてのありようは逆だ。
お二人は頭数通りの仕事をして本来の王妃以上の働きをするよう心掛けている。
立場上暇を作れば作れるがやれる仕事は探せばあるという事である。

 その結果、妃としての目配りは痒い所に手が届くという感じで隙が無い。
私も側妃の一人としてそんなお二人や陛下のお役に立ちたいという使命感が以前よりも強くなっている。


「孤児院の仕事に関しては完全に其方が担当する様になった様だな。」

「はい、責任を感じますがやりがいもあって充実しております。
ご存じの通り最近はまた別の役割も与えて頂いておりますし」

「うむ。ではそろそろ潮時だな」

「潮時?」

「エルヴィンの事だ」

「……え」

「其方が王室入りして初めに言った事を覚えているな」

「勿論です」

「その任を解くという事だ」

「……」


 女性を疎ましく思って遠ざけている節のあるエルヴィンに、同じ王族で年齢も近い立場として力になってほしい。
それが私の仕事だと陛下はおっしゃった。

 エルヴィンとは今では自然に会話して打ち解けている間柄だ。
私の『受け持ち時間』は最近雑談の時間に近い時もあるくらいだ。
一応、王宮でのエルヴィンの勉強時間の一つの筈だからケジメが無いのは良くないと思ってはいるのだけど。

 ヒルダ様やノーラ様とのお茶会やロッテ達と戯れるのは楽しいが単純に年が近い彼と話すのも楽しい。


「エルヴィンが女性を忌避する事から抜け出す道筋は其方がつけてくれたと思う。
私が前に其方に課した『仕事』は終了した訳だ」

「……」

「今、エルヴィンはせっかく王宮の外に出て学園に通っている。
友人関係も含め広く出会いを得る場にいるのだ。
必要以上に其方に頼り切るのもエルヴィンの為にならんだろう」

「はい……」

「そうあるべき状況に戻るだけだ。其方もエルヴィンも望まぬ限り。
そうではないか?」


 陛下の云う事は全くその通りだと思う。
城に居る陛下の側妃の私ばかりが最も近い存在としてエルヴィンを相手をしている訳にはいかない。
ここから先はエルヴィン自身が日々の生活で変わっていくべきだ。
どこかで訳の分からない感情が生まれたのを感じたけど私は陛下の正論に同意するしかなかった。
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