12 / 33
女子会
しおりを挟む
「お言葉に甘えて参りました」
「ようこそ、アニエス様」
にっこり笑って出迎えてくれたヒルデガルド妃の後宮に足を踏み入れて、私は少し身構えた。
エレオノーラ妃もそこに同席していたからだ。
初顔合わせの時に彼女から私に対して若干構える様な雰囲気を感じた事を思い出す。
もちろん同席する事は予想していたので態度には出さず笑顔で挨拶を続けた。
侍女に持たせた手土産のお菓子は子供達の分も合わせて多めに用意させている。
「エレオノーラ様、ご無沙汰しておりました」
「お久しぶりね」
そう云って微笑むエレオノーラ様はまるで小説に出て来る聖女の様に見えた。
彫刻の様に美しい美貌に加えて黙っていると何とも神秘的な雰囲気がある。
対して、ここの主のヒルデガルド様は表面上から親しみやすい様な温かさを感じる。
無論、美貌では負けてはいないけど何というか健康的な溌溂とした雰囲気だ。
(以前にも思ったけど太陽と月の様に対照的なイメージの方達ね……)
当然の様に後宮の主次第で内装や飾り付けも変わる。
ここの主のヒルデガルド様の趣味なのか、内装は明るい暖色系だけど決してうるさい感じはなく品良くまとめられていた。
まだまだそっけない私のエリアの内装と違って興味深い。
無論、どう受け取るか分からないので本人達にそういう感想は言うつもりは無い。
それぞれの後宮には南側に面した大きいテラスが存在する。
そこに三人の席が設けられていた。
「側妃達だけでこうして会うのは初めてね」
「というよりアニエス様の後宮入り以来、会うのもまだ2回目よ」
「そうね。娘を通じて会っている気になっていたのかも」
「どう? 今の生活に慣れたかしら?」
「いえ、まだまだです。今日まであっという間でした、正直……」
私はお出しいただいた紅茶を一口頂いて正直な感想べた。
侍女達はその間サイドテーブルで紅茶やお菓子の準備を滞りなく進めていた。
ヒルデガルド様が用意した菓子などにエレオノーラ様と私の物が加わってまるで高級菓子の品評会だ。
甘味に目が無い乙女としてはどれを選ぶのか迷う。
「……そういえばお姫様達はどちらへ?」
「皆、別の場所で侍女達に見て貰っているわ。うふふ、今日は子供達も陛下も抜きの女子会ね」
「女子会って……ヒルダ、あなたもうそんな年齢じゃないでしょうに」
「いいのよ、ノーラ。私が年だと云うのならあなたもそういう事になるわよ。
それでいいの?」
「……良くないわ」
「でしょう?」
その後、お二人は私に配慮してくれながら話の輪を広げた。
私の緊張もいい感じで消えて事前の予想よりも楽しく会話も弾んだ。
会話の内容や雰囲気からお二人の仲がかなり良いという事も知った。
要するにこの美女達は子供の頃から仲の良い幼馴染らしい。
恋愛小説の影響で側妃同士の仲が悪いと決めつけていた印象も修正される。
「……それで、元々はこの娘一人が側妃に指名されたのよ? そうしたらこの娘が嫌がってね」
「嫌がっていないわ、別に。条件を付けただけでしょう」
「その条件とは何だったのですか?」
「私も側妃に指名しろという事よ」
「ええっ!?」
心底驚く私を見てヒルデガルド殿下がからから朗らかに笑った。
エレオノーラ様の話は続く。
「その当時私にはちょっと困った婚約者が居てね……」
「困っていたのを知っていたから私と一緒に後宮入りさせたの」
「……そ、そんな事があったのですか……」
何かとんでもない裏話を聞いた気がする。
まさかお二人の後宮入りにそんな事があったなんて。
「そ。まあ要するに陛下にノーラを略奪してもらったという訳よ」
「言い方が悪いわよ、ヒルダ」
「昔の事よ。それにあんな男は貴方に相応しくなかったから当然でしょう」
「もう」
呆れた様にエレオノーラ様がため息をつく。
とんでもない話だけどその様子を見て私は微笑ましい気持ちになった。
(本当にいい関係なのね。幼い頃からの親友と嫁ぎ先まで同じだなんて羨ましいわ)
しかも立場は国王の側妃だ。これ以上望むべくもない。
そう思っているとエレオノーラ様が少し居住まいを正して私に向き直る。
そして私に質問を投げかけた。
「……ところで、あなたの口から聞きたいのだけれど」
「はい?」
「貴方が陛下に見染められた経緯も聞かせてもらえるかしら」
その質問の意味は今なら理解できた。
今日のお茶会でお二人の仲の良さがよくわかったから。
(私は、同じ側妃で親友でもあるお二人と陛下だけの世界に突然割り込んできた異物なのだわ)
エレオノーラ様からすれば陛下の寵愛を若い側妃に取られるという心配より、単純に二人の心地いい空間を荒らされたくないという感じなのかもしれない。
でも心配されるまでもなく私自身がお二人と同格と思ってないし、全く思えない。
安心させる様な言葉を伝えたい気もするが、その為には陛下と寝室で交わした会話の内容を伝える必要がある。
そこまで伝えていいかどうか。
(……)
少し考えた上で私は口を開いた。
「ようこそ、アニエス様」
にっこり笑って出迎えてくれたヒルデガルド妃の後宮に足を踏み入れて、私は少し身構えた。
エレオノーラ妃もそこに同席していたからだ。
初顔合わせの時に彼女から私に対して若干構える様な雰囲気を感じた事を思い出す。
もちろん同席する事は予想していたので態度には出さず笑顔で挨拶を続けた。
侍女に持たせた手土産のお菓子は子供達の分も合わせて多めに用意させている。
「エレオノーラ様、ご無沙汰しておりました」
「お久しぶりね」
そう云って微笑むエレオノーラ様はまるで小説に出て来る聖女の様に見えた。
彫刻の様に美しい美貌に加えて黙っていると何とも神秘的な雰囲気がある。
対して、ここの主のヒルデガルド様は表面上から親しみやすい様な温かさを感じる。
無論、美貌では負けてはいないけど何というか健康的な溌溂とした雰囲気だ。
(以前にも思ったけど太陽と月の様に対照的なイメージの方達ね……)
当然の様に後宮の主次第で内装や飾り付けも変わる。
ここの主のヒルデガルド様の趣味なのか、内装は明るい暖色系だけど決してうるさい感じはなく品良くまとめられていた。
まだまだそっけない私のエリアの内装と違って興味深い。
無論、どう受け取るか分からないので本人達にそういう感想は言うつもりは無い。
それぞれの後宮には南側に面した大きいテラスが存在する。
そこに三人の席が設けられていた。
「側妃達だけでこうして会うのは初めてね」
「というよりアニエス様の後宮入り以来、会うのもまだ2回目よ」
「そうね。娘を通じて会っている気になっていたのかも」
「どう? 今の生活に慣れたかしら?」
「いえ、まだまだです。今日まであっという間でした、正直……」
私はお出しいただいた紅茶を一口頂いて正直な感想べた。
侍女達はその間サイドテーブルで紅茶やお菓子の準備を滞りなく進めていた。
ヒルデガルド様が用意した菓子などにエレオノーラ様と私の物が加わってまるで高級菓子の品評会だ。
甘味に目が無い乙女としてはどれを選ぶのか迷う。
「……そういえばお姫様達はどちらへ?」
「皆、別の場所で侍女達に見て貰っているわ。うふふ、今日は子供達も陛下も抜きの女子会ね」
「女子会って……ヒルダ、あなたもうそんな年齢じゃないでしょうに」
「いいのよ、ノーラ。私が年だと云うのならあなたもそういう事になるわよ。
それでいいの?」
「……良くないわ」
「でしょう?」
その後、お二人は私に配慮してくれながら話の輪を広げた。
私の緊張もいい感じで消えて事前の予想よりも楽しく会話も弾んだ。
会話の内容や雰囲気からお二人の仲がかなり良いという事も知った。
要するにこの美女達は子供の頃から仲の良い幼馴染らしい。
恋愛小説の影響で側妃同士の仲が悪いと決めつけていた印象も修正される。
「……それで、元々はこの娘一人が側妃に指名されたのよ? そうしたらこの娘が嫌がってね」
「嫌がっていないわ、別に。条件を付けただけでしょう」
「その条件とは何だったのですか?」
「私も側妃に指名しろという事よ」
「ええっ!?」
心底驚く私を見てヒルデガルド殿下がからから朗らかに笑った。
エレオノーラ様の話は続く。
「その当時私にはちょっと困った婚約者が居てね……」
「困っていたのを知っていたから私と一緒に後宮入りさせたの」
「……そ、そんな事があったのですか……」
何かとんでもない裏話を聞いた気がする。
まさかお二人の後宮入りにそんな事があったなんて。
「そ。まあ要するに陛下にノーラを略奪してもらったという訳よ」
「言い方が悪いわよ、ヒルダ」
「昔の事よ。それにあんな男は貴方に相応しくなかったから当然でしょう」
「もう」
呆れた様にエレオノーラ様がため息をつく。
とんでもない話だけどその様子を見て私は微笑ましい気持ちになった。
(本当にいい関係なのね。幼い頃からの親友と嫁ぎ先まで同じだなんて羨ましいわ)
しかも立場は国王の側妃だ。これ以上望むべくもない。
そう思っているとエレオノーラ様が少し居住まいを正して私に向き直る。
そして私に質問を投げかけた。
「……ところで、あなたの口から聞きたいのだけれど」
「はい?」
「貴方が陛下に見染められた経緯も聞かせてもらえるかしら」
その質問の意味は今なら理解できた。
今日のお茶会でお二人の仲の良さがよくわかったから。
(私は、同じ側妃で親友でもあるお二人と陛下だけの世界に突然割り込んできた異物なのだわ)
エレオノーラ様からすれば陛下の寵愛を若い側妃に取られるという心配より、単純に二人の心地いい空間を荒らされたくないという感じなのかもしれない。
でも心配されるまでもなく私自身がお二人と同格と思ってないし、全く思えない。
安心させる様な言葉を伝えたい気もするが、その為には陛下と寝室で交わした会話の内容を伝える必要がある。
そこまで伝えていいかどうか。
(……)
少し考えた上で私は口を開いた。
14
お気に入りに追加
1,984
あなたにおすすめの小説
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
「優秀すぎて鼻につく」と婚約破棄された公爵令嬢は弟殿下に独占される
杓子ねこ
恋愛
公爵令嬢ソフィア・ファビアスは完璧な淑女だった。
婚約者のギルバートよりはるかに優秀なことを隠し、いずれ夫となり国王となるギルバートを立て、常に控えめにふるまっていた。
にもかかわらず、ある日、婚約破棄を宣言される。
「お前が陰で俺を嘲笑っているのはわかっている! お前のような偏屈な女は、婚約破棄だ!」
どうやらギルバートは男爵令嬢エミリーから真実の愛を吹き込まれたらしい。
事を荒立てまいとするソフィアの態度にギルバートは「申し開きもしない」とさらに激昂するが、そこへ第二王子のルイスが現れる。
「では、ソフィア嬢を俺にください」
ルイスはソフィアを抱きしめ、「やっと手に入れた、愛しい人」と囁き始め……?
※ヒーローがだいぶ暗躍します。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…
まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。
お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。
なぜって?
お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。
どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。
でも…。
☆★
全16話です。
書き終わっておりますので、随時更新していきます。
読んで下さると嬉しいです。
必要ないと言われたので、元の日常に戻ります
黒木 楓
恋愛
私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。
前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。
その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。
森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。
数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。
そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた--
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は--
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる