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どちらがそうなのかしら
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私達は城内の騎士団エリアに移動していた。
剣を交えるならそれ用の明るく広い場所の方がいい。
(受け持ち時間が丁度学園の休日で良かったわ)
日中だからすぐに行動に移せる。
気まずいまま次回の機会まで時間を置くのは精神的に良くない。
黙ってついてくるエルヴィンも今は不味い失言だったと分かっているだろう。
でも年長者の余裕でその場をなあなあで済ませるより一度その鼻をへし折る方を選んだ。
(完全に勝てるという保証はないけど)
極端に言えば勝たなくてもいい。
女性でも侮れないという部分を少しでも見せられれば。
王立学園の席次は武芸の成績も含めた総合成績で決まる。
女性の生徒会長が極めて少ない理由の一つである。
エルヴィンも勿論、その事を知ってはいるだろう。
でも知識で知っている事と理解している事は別だ。
恐らく私はエルヴィンが想像する以上には剣を使えると思う。
ちなみに私の前に存在した数少ない女性生徒会長は魔法の腕が優れていたらしい。
つまり私と真逆だ。そんな私に不安があるとすれば一点だけである。
(言いだしたものの軽く3か月は剣を握ってないのよね……)
勉学の間になまらない程度に続けていた修練も卒業後は全くしていない。
手の平の剣だこも現金なもので綺麗に消えてしまっていた。
♢
アニエスとエルヴィンは城内の騎士団の屋外修練場に場所を確保した。
側妃殿下が普段近寄らない男臭い場所に来る事はもちろん異例である。
修練場は女人禁制ではないが足を踏み入れるのは数少ない女性騎士だけだ。
そして皆、比較的女性の中では大柄で鍛えた肉体をしている。
つまりここにアニエスの華奢な体に合う革鎧は無かった。
動きやすい身軽な服装に着替えていたアニエスだが鎧は流石に用意していない。
しょうがないのでそこに居た女性騎士に胸当てを借りて動きに支障が出ない程度にきつめに縛る。
これで固定部分の隙間はほぼ無くなった。
隙間の大部分は胸当ての中の空洞だけだ。アニエスは微妙に気分を害した。
次に刃を潰した剣を選ぶ。
アニエスは使い慣れた長さと重さと握りに近い剣がちょうどあったのでそれを選ぶ。
何回か型を繰り返してみると動作は体がしっかりと覚えている。
さほど違和感を感じなかった事に安堵しつつ修練場に出る。
エルヴィンは既に自分の訓練用の装備一式を身に着けてアニエスを待っていた。
「本当にいいのか?」
「あら、怖いの?」
「あざを作っても知らないぞ」
「結構よ」
「後で父上に睨まれたくないな」
「大丈夫よ。私が云った事だし侍女や侍従達も聞いているから。
それに貴方が勝てるとは限らないでしょ」
「本気で言っているのか?」
「勿論よ」
「……だとしたらそちらの方こそ男を舐めすぎているな」
「どちらがそうなのかしら。すぐに分かるわ」
アニエスの言葉に眉をしかめてエルヴィンは所定の位置に向かってアニエスと相対した。
丁度、騎士団の修練の休憩時間という事もあって二人の周囲には団員達が野次馬として輪を作っていた。
エルヴィンの立場からするとこれだけの人目の所で年上とはいえ騎士でもない女性に負けたら面目は丸つぶれだ。
嗜みとして日常的に武芸を磨いている王家の男子としては自信はあるが重圧もある。
しかし、やはり普通に自信が上回った。
騎士の一人が進み出て開始の合図を出した。
少しだけ探る様な様子から一転してアニエスは初撃を繰り出した。
エルヴィンも直ぐ反応して剣で受け流して攻撃に転じる。
お互いの実力を認識するのにさほど時間はかからなかった。
(言うだけの事はある! 女性騎士より二回りは小さいのに対峙する感覚が変わらない)
油断したつもりは無いのにエルヴィンにはアニエスの強さはやはり意外だった。
力では自分の方が上回っているが、間隙を突く様な鋭い剣に焦る。
一方アニエスの方もエルヴィンの技量が当初の予想よりも上だと認識していた。
年齢と経験の差はあまり優位に働いてない様だった。
(速いし、重い! 学生レベルなら間違いなく図抜けているわ)
しかし、自分から仕掛けた事なのにやすやすと負けるつもりはアニエスには無い。
しばらく一進一退の攻防をした後でアニエスは女性特有の柔軟な動きを駆使してエルヴィンが剣を振り切る瞬間に仕掛けた。
「くっ!」
体勢を崩しながらそれでも絶妙に剣を返したエルヴィンの一撃をアニエスはぎりぎり紙一重で交わす。
本来ならお互い次の動きに間髪入れず動いていた筈だが二人の動きはそこで緊急停止した。
エルヴィンの剣はアニエスの革の胸当ての端に微かに引っかかっていた。
本来なら一瞬端に引っかかったくらいならしっかり固定された胸当てが最終的に弾いていた筈である。
しかし、空洞に収まる胸が足りない為に革の胸当ては剣を弾くことなくズレた。
革の胸当てはその下の服と下着をそのまま道ずれに平行移動してアニエスの小ぶりだが形のいい右胸の外側をエルヴィンの眼前に強引に露出させていた。
剣を交えるならそれ用の明るく広い場所の方がいい。
(受け持ち時間が丁度学園の休日で良かったわ)
日中だからすぐに行動に移せる。
気まずいまま次回の機会まで時間を置くのは精神的に良くない。
黙ってついてくるエルヴィンも今は不味い失言だったと分かっているだろう。
でも年長者の余裕でその場をなあなあで済ませるより一度その鼻をへし折る方を選んだ。
(完全に勝てるという保証はないけど)
極端に言えば勝たなくてもいい。
女性でも侮れないという部分を少しでも見せられれば。
王立学園の席次は武芸の成績も含めた総合成績で決まる。
女性の生徒会長が極めて少ない理由の一つである。
エルヴィンも勿論、その事を知ってはいるだろう。
でも知識で知っている事と理解している事は別だ。
恐らく私はエルヴィンが想像する以上には剣を使えると思う。
ちなみに私の前に存在した数少ない女性生徒会長は魔法の腕が優れていたらしい。
つまり私と真逆だ。そんな私に不安があるとすれば一点だけである。
(言いだしたものの軽く3か月は剣を握ってないのよね……)
勉学の間になまらない程度に続けていた修練も卒業後は全くしていない。
手の平の剣だこも現金なもので綺麗に消えてしまっていた。
♢
アニエスとエルヴィンは城内の騎士団の屋外修練場に場所を確保した。
側妃殿下が普段近寄らない男臭い場所に来る事はもちろん異例である。
修練場は女人禁制ではないが足を踏み入れるのは数少ない女性騎士だけだ。
そして皆、比較的女性の中では大柄で鍛えた肉体をしている。
つまりここにアニエスの華奢な体に合う革鎧は無かった。
動きやすい身軽な服装に着替えていたアニエスだが鎧は流石に用意していない。
しょうがないのでそこに居た女性騎士に胸当てを借りて動きに支障が出ない程度にきつめに縛る。
これで固定部分の隙間はほぼ無くなった。
隙間の大部分は胸当ての中の空洞だけだ。アニエスは微妙に気分を害した。
次に刃を潰した剣を選ぶ。
アニエスは使い慣れた長さと重さと握りに近い剣がちょうどあったのでそれを選ぶ。
何回か型を繰り返してみると動作は体がしっかりと覚えている。
さほど違和感を感じなかった事に安堵しつつ修練場に出る。
エルヴィンは既に自分の訓練用の装備一式を身に着けてアニエスを待っていた。
「本当にいいのか?」
「あら、怖いの?」
「あざを作っても知らないぞ」
「結構よ」
「後で父上に睨まれたくないな」
「大丈夫よ。私が云った事だし侍女や侍従達も聞いているから。
それに貴方が勝てるとは限らないでしょ」
「本気で言っているのか?」
「勿論よ」
「……だとしたらそちらの方こそ男を舐めすぎているな」
「どちらがそうなのかしら。すぐに分かるわ」
アニエスの言葉に眉をしかめてエルヴィンは所定の位置に向かってアニエスと相対した。
丁度、騎士団の修練の休憩時間という事もあって二人の周囲には団員達が野次馬として輪を作っていた。
エルヴィンの立場からするとこれだけの人目の所で年上とはいえ騎士でもない女性に負けたら面目は丸つぶれだ。
嗜みとして日常的に武芸を磨いている王家の男子としては自信はあるが重圧もある。
しかし、やはり普通に自信が上回った。
騎士の一人が進み出て開始の合図を出した。
少しだけ探る様な様子から一転してアニエスは初撃を繰り出した。
エルヴィンも直ぐ反応して剣で受け流して攻撃に転じる。
お互いの実力を認識するのにさほど時間はかからなかった。
(言うだけの事はある! 女性騎士より二回りは小さいのに対峙する感覚が変わらない)
油断したつもりは無いのにエルヴィンにはアニエスの強さはやはり意外だった。
力では自分の方が上回っているが、間隙を突く様な鋭い剣に焦る。
一方アニエスの方もエルヴィンの技量が当初の予想よりも上だと認識していた。
年齢と経験の差はあまり優位に働いてない様だった。
(速いし、重い! 学生レベルなら間違いなく図抜けているわ)
しかし、自分から仕掛けた事なのにやすやすと負けるつもりはアニエスには無い。
しばらく一進一退の攻防をした後でアニエスは女性特有の柔軟な動きを駆使してエルヴィンが剣を振り切る瞬間に仕掛けた。
「くっ!」
体勢を崩しながらそれでも絶妙に剣を返したエルヴィンの一撃をアニエスはぎりぎり紙一重で交わす。
本来ならお互い次の動きに間髪入れず動いていた筈だが二人の動きはそこで緊急停止した。
エルヴィンの剣はアニエスの革の胸当ての端に微かに引っかかっていた。
本来なら一瞬端に引っかかったくらいならしっかり固定された胸当てが最終的に弾いていた筈である。
しかし、空洞に収まる胸が足りない為に革の胸当ては剣を弾くことなくズレた。
革の胸当てはその下の服と下着をそのまま道ずれに平行移動してアニエスの小ぶりだが形のいい右胸の外側をエルヴィンの眼前に強引に露出させていた。
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